祝サブスク解禁、マイブラの魅力をアーティストが語り尽くす

祝サブスク解禁、マイブラの魅力をアーティストが語り尽くす

インタビュー・テキスト・編集
黒田隆憲
撮影:垂水佳菜

誤解を恐れずに言えば、本当の意味で「シューゲイザー」と呼べるアルバムは『loveless』だけじゃないのかなと思う(Natsuki)

―「自分がいままで好きだったものが、そこで全部つながったような感覚」って具体的にはどんなことだったんですか?

菅野:もともと私は絵画が好きで絵画教室に通ったり、読書が好きで学校の休み時間もずっと図書室にいたりしていたんです。その頃から周りのみんなと「なんか話が合わないな」という感覚と、自分が「好き」と思うものが、他の人には刺さってない感覚がずっとあって。それでも自分にとってはこれが絶対に美しくて、素敵なものなんだという「基準」みたいなものがあったんです。「これ、なんなんだろうな?」って。写実は描けないけど抽象画は描けるとか(笑)、そういう感覚がマイブラの音楽で全部わかった気がしたというか。

菅野結以
菅野結以

菅野:まずはサウンドに惹きつけられたんですけど、あとから彼らのアートワークを見て、まさに私が小学校低学年の頃に絵画教室で描いていた絵の雰囲気だ! と思って(笑)。自分の美意識や美学が本当にサウンドになっていたんだな、というのを実感しました。

―マイブラは「シューゲイザーの代表格」と呼ばれていますが、それについてはどんな見解を持っていますか?

Natsuki:誤解を恐れずに言えば、本当の意味で「シューゲイザー」と呼べるアルバムは『loveless』だけじゃないのかなと思うんですよね。いまでこそチルドレンはたくさんいるけど、どれも(『loveless』がリリースされた)1991年以降に登場したわけで、それ以前にはああいう作品はなかったわけですし。だからこそ「シューゲイザーの生みの親」ということになっているけど、本当にあのアルバムと同じジャンルみたいなものはないし、本人たちが「シューゲイザー」と呼ばれるのが嫌なのは、きっとそういう理由なのかなと思います。

ただ、あのアルバムに影響を受けたバンドや作品が、こんなにたくさん生まれていることはすごいことだなと思います。こうやって、イギリスから遥か遠くで暮らすぼくら日本人の耳にも届いて、自分が音楽をやるときにインスピレーション源として無意識に引用していたりするっていう。一種の刷り込みというか、宗教的な感覚すらするんですよね。本当に、マイブラそっくりに音をつくっちゃっているバンドもいるじゃないですか。

Natsuki(Luby Sparks)
Natsuki(Luby Sparks)

―そうですよね(笑)。

Natsuki:「影響されたアルバム」に『loveless』をあげるバンドが毎年デビューしてるってすごいことじゃないですか? Tamioのお父さんが「これを聴かなきゃダメだよ」と言っていた、いわゆるロックのスタンダードを一つアップグレードさせたということですからね。

菅野:マイブラって「欠けている」し、正しくもなければ健康的でもない。なのにこんなにも美しかったり、なにもかもぶち壊していくほどやかましい爆音なのに、なぜか安らぎを覚えたり。そういう相反するものが共存していると思うんですけど、それこそが私は「芸術」だと思う。私が立ちあげたブランド「Crayme,」のテーマも「ambivalent」で、一番遠いもの、真逆のものの「共存」が自分にとって一番大事にしていることでもあるし、マイブラの一番惹かれるところでもあるんですよね。

感受性オバケだった小学6年生の自分にとってマイブラとの出会いはこのうえない衝撃で、今後あれほどまでに影響を与えてくれるものには出会えないかもしれない。見事に人生を狂わせられました(笑)。学校では誰とも話が合わずに孤立したけど、そのおかげであらゆるカルチャーを掘る時間ができたし、マイブラに出会ったおかげでいろんな音楽を好きになって、ラジオの仕事もはじめて。だから、出会ってなかったらと思うと恐ろしいくらいです。

―PELICAN FANCLUBとLuby Sparksの音楽には、マイブラの影響ってどのくらいあります?

エンドウ:ぼくにとってマイブラは、思春期の頃に言えなかったこと、沸々と湧いてくる思いを代弁してくれた存在だったんです。しかも「言葉」ではなく「サウンド」で。さっき菅野さんが、「なにもかもぶち壊していくほどやかましい爆音」とおっしゃっていたけど、まさにそう。鬱屈した気持ちを爆音で打ち払ってくれたのがマイブラだったんですよね。だから、ぼくが音楽をやるときもそういう存在でありたいと思いました。ジャンルはどうであれ、思春期の人にとっての「代弁者」になりたいと。ぼくがマイブラから譲り受けた部分はそこなのかなと思います。

エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)
エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)

―精神的な部分が大きかったのですね。

エンドウ:もちろん、真似もしますけどね(笑)。ジャズマス(Fender Jazzmaster:ケヴィン・シールズのトレードマークともいえるギター)に、ケヴィンが使っているエフェクターをつなげて鳴らしたこともあるし、いまも時々やっています。ただ、曲として届けるときには「要素」として取り込むことはあっても、ちゃんと距離感は持っていたい。もちろん精神性というか、マイブラを聴いていなかったら、やはりこんなアレンジにはならなかったなと思いますが。

PELICAN FANCLUB“ディザイア”を聴く(Spotifyを開く

Natsuki:ぼくは歌詞からの影響はダイレクトに受けていますね。マイブラの歌詞、めちゃくちゃ参考にしているんですよ。

―へえ!

菅野:サウンドではなく、歌詞に影響を受けたという話はあまり聞いたことがないかもしれない。

Natsuki:ファーストアルバム『Luby Sparks』をつくっているときも参考にしていました。マイブラの歌詞は、シンプルだけど響きのいい単語がすごく多いんですよ。しかも、言葉を選ぶセンスがメチャメチャいい。こういうジャンルで、のちに使われがちな単語、例えば「sleep」とか「honey」とかそういういい感じの、語呂のいい単語の宝庫なんです。いろんなバンドの歌詞を参考にしているんですけど、そのなかでもマイブラの歌詞はずば抜けて綺麗だなと思いますね。ストーリー性とかなくても、ただただ響きの綺麗な一節が歌詞のなかに入っているのがぼくにとっては理想で。それをうまくやっているのがマイブラだと思っています。

左から:Natsuki、菅野結以、Tamio、エンドウアンリ

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リリース情報

PELICAN FANCLUB
『ディザイア』

2020年10月3日(土)配信

(TVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』第2クールエンディング主題歌)

Luby Sparks『Birthday』
Luby Sparks
『Birthday』

2020年1月15日(水)配信

My Bloody Valentine『Isn’t Anything』
My Bloody Valentine
『Isn’t Anything』

1988年11月21日(月)発売

My Bloody Valentine『loveless』
My Bloody Valentine
『loveless』

1991年11月4日(月)発売

My Bloody Valentine『m b v』
My Bloody Valentine
『m b v』

2013年2月2日(土)発売

My Bloody Valentine『ep’s 1988-1991 and rare tracks』
My Bloody Valentine
『ep’s 1988-1991 and rare tracks』

2012年5月4日(金)発売

プロフィール

PELICAN FANCLUB
PELICAN FANCLUB(ペリカンファンクラブ)

エンドウアンリ(Vo, G)、カミヤマリョウタツ(B)、シミズヒロフミ(Dr)からなるロックバンド。エンドウアンリによる「透き通るほど〈純度の高い声〉」の存在感と、散文詩のように描かれる「音のように響く歌詞」の世界―――。シューゲイザー・ドリームポップ・ポストパンクといった海外の音楽シーンとリンクしながら、確実に日本語ロックの系譜にも繋がる、洋・邦ハイブリットな感性を持つスリーピースバンド。ライブでは独自のスタイルで唯一無二の空間を創り出す、ロックシーンにおける「異端」の存在。最新曲「ディザイア」(TVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』第2クールエンディング主題歌)が配信中。

Luby Sparks
Luby Sparks(ルビースパークス)

Natsuki(Vo, Ba)、Erika(Vo)、Sunao(Gt)、Tamio(Gt)、Shin(Dr)の5人組。2016年3月結成。2017年7月には『Indietracks Festival 2017』(英国ダービーシャー)に日本のバンドとして唯一出演。2018年1月、マックス・ブルーム(Yuck)と全編ロンドンで制作したデビューアルバム『Luby Sparks』を発売。2018年11月、4曲入りのEP『(I’m) Lost in Sadness』をリリースしている。2019年1月には、Say Sue Me(韓国)を招き、初の自主企画ライブ『Thursday I don’t care about you』を成功させ、10月15日にはjan and naomiをゲストに迎えたTAWINGSと共同企画『Dreamtopia』を渋谷WWWで、10月25日には、Yuckを来日させ、自主企画第二弾『Yuck X Luby Sparks 2019』をLOOPで開催。これまでにThe Vaccines、The Pains of Being Pure at Heart、TOPS、NOTHINGなど、海外アーティストの来日公演のフロントアクトも数多く務めている。

菅野結以
菅野結以(かんのゆい)

雑誌『LARME』『with』などで活躍するファッションモデル。10代の頃から『Popteen』『PopSister』の専属モデルを務め、カリスマモデルと称される。2010年8月に初の著書『(C)かんの』を出版し、その後最新スタイルブック『yuitopia』まで6冊の書籍を発売。アパレルブランド「Crayme,」、コスメブランド「baby+A」のプロデュースおよびディレクションを行っているほか、TOKYO FM『RADIO DRAGON -NEXT- 』、@FM『LiveFans』では豊富な音楽知識を生かしてパーソナリティを担当している。SNSの総フォロワー数は約100万人に及ぶ。

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