スピッツデビュー30周年。草野マサムネの歌詞の魅力を3人が綴る

2021年3月、スピッツがデビュー30周年を迎えた。30年前といえば、携帯電話はおろかポケベルも全盛期を迎える前のこと。そんな時代からある集団がともに行動をし続け、音楽をつくり、さらに第一線で活躍し続けているというのは、ほとんど奇跡のようなことだ。

スピッツの音楽といえば<「愛してる」の響きだけで/強くなれる気がしたよ><君と出会った奇跡が/この胸にあふれてる/きっと今は自由に空も飛べるはず>といった、シンプルな言葉が美しいメロディーに溶け合う楽曲を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。確かにそれもスピッツの魅力だ。しかしよく耳をすましてみると、ごく自然に受け入れていたはずの楽曲のなかに、思いがけない情景が広がっていることもある。例えば人気曲“冷たい頬”の歌詞を、あなたならどう解釈するだろう?

<夢の粒もすぐに弾くような/逆上がりの世界を見ていた/壊れながら君を追いかけてく/近づいても遠くても知っていた/それが全てで/何もないこと/時のシャワーの中で>

Kompassではスピッツの歌詞の魅力をあらためて考察するため、作詞経験を持つ3人にコラム執筆を依頼した。1人目は、作詞家・作家・詩人として活動し、元チャットモンチーのドラムとしてスピッツとの共演歴を持つ高橋久美子。2人目は、今年5月にメジャーデビューしたバンド・Homecomingsのギターで、ラジオでもスピッツへの深い愛を語る福富優樹。3人目は、昨年発表したアルバムが『APPLE VINEGAR -Music Award- 2021』大賞を受賞するなど各所で話題を呼び、SNSやメディアを通して「スピッツ偏愛」を発信する「ピチピチロックギャル」のラブリーサマーちゃんだ。

今回3人には、コラムを綴るだけでなく、「歌詞に注目してほしい」と感じるスピッツの楽曲を持ち寄ってもらい、Kompassオリジナルプレイリストを作成した。ぜひ実際にスピッツの鳴らす音や言葉に耳をすませながら、その色鮮やかな、奥深き世界を覗き込んでほしい。

高橋久美子、福富優樹、ラブリーサマーちゃんが歌詞に注目してほしいスピッツの楽曲を持ち寄ったオリジナルプレイリストはこちら(Spotifyを開く

「隠しきれないトゲトゲ」(高橋久美子)

美しさや優しさと背中合わせで潜む狂気みたいなもの。私がスピッツに引き込まれた理由はそれなんだと思う。学生時代、カラオケに行けば必ず誰かがスピッツを歌った。<隠したナイフが>とか<ゴミできらめく世界>というフレーズを、まじめなあの子がまじめに歌った。なんだか胸が熱くなった。綺麗なカーテンからちらっと見える本音や真実に思春期の私は親近感をおぼえた。これは私のことだろうか。「スピッツ好き?」「好き好き!」と言い合えた人たちは、黒髪で膝丈スカートの普通な子が多かった。私たちの細やかなトゲを歌ってくれたバンドだった。

自分自身が歌詞を書き始めて、スピッツの歌詞の凄さを改めて実感する。サビはキャッチーだけどじつは……というのがスピッツの魅力だと思う。そこには必ず良い意味での違和感がある。単語自体はわかりやすい言葉を使っているのに、組み合わせによりぎょっとするフレーズになっている。前述した“空も飛べるはず”なんてその代表だ。

スピッツ“空も飛べるはず”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

「隠したナイフ」の後を大概の人は「握りしめる僕」とか書いてしまうと思うのだ。怖いけどある意味普通になる。草野さんは<隠したナイフが似合わない僕>とした。その真実味たるや。どこか俯瞰で自分を眺めている歌詞が、不良になれない私にはよくわかった。「神様の影を」に「恐れて」とくっつけるセンスも、神様にはお願いするものと思っていた私には衝撃的だった。

“日曜日”のポップサウンドな出頭、<晴れた空だ日曜日>に<戦車は二人をのせて>と組み合わせるシュールさ。“スピカ”の<幸せは途切れながらも続くのです>というあまりの名言。“スタ―ゲイザー”の<明日君がいなきゃ困る>のあと<困る>ともう一回念押しする胸キュンさ。<ゴミになりそうな夢ばかり>のように「ゴミ」「トゲ」「ナイフ」といった、あまり人が歌詞に書かなさそうな言葉もよく出てくる。

“ホタル”の、生まれて死ぬまでを<ノルマ>と言い切ってくれる清々しさ。<よれよれの幸せ>と、相反する言葉を合わせて、多分この世で初めてのフレーズを紡ぎ出す“桃”。 “初夏の日”の<ぬるま湯の外まで泳ぎつづける>という大人の逞しさ。書き出したらきりがないくらいにスピッツの歌詞は言葉の玉手箱だ。

最新曲の“紫の夜を越えて”を聴いてなんだか込み上げてくるものがあった。スピッツは30年、私たちを感動させ続けてくれた。たとえそれがバンドマンの日常だとしても、日常だからこそ生み出し続けるのは並大抵なことではない。膨大な曲のどれにも自分の思い出が浮かんで、それはつまり私が私の道を歩き続ける間、スピッツはスピッツであり続けたということだ。大人になった私たちは<袖をはばたかせ>それでも一緒に飛んでみたい。

スピッツ“紫の夜を越えて”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

私は大学時代にスピッツのコピーバンドをしていて、﨑山さんのドラムにも少なからず影響を受けている。言葉とメロディーを唯一無二にしているのは、ロックでパンクで変態なアレンジとバンドサウンドなのだと思い知る。歌詞と同じく一聴は優しそうに思えても、いざコピーしてみると簡単にはスピッツにならなかった。だからこそ面白く、それがバンドという生物なのだと知った。

やっぱり私にも<隠しきれないトゲトゲ>があって、それはやがて歌詞になった。スピッツを聴き親しんだ年月がスパイスとなって私にも作品にも練り込まれている。きっとこれからも。

高橋久美子が選んだ歌詞に注目してほしい曲
・空も飛べるはず
・スピカ
・桃
・初夏の日
・紫の夜を越えて

「あの日から手に入れた浮力」(福富優樹)

スピッツの歌詞はわかりきれない。難しいわけではないけどどこかが絶対に変で、掴めそうでいて、なかなか掴めずにいて、それでいて遠くにあるわけではなく、ずっと僕のそばにいてくれる。そして日常のふとした瞬間にこちらに話しかけてくれるような気もする。そんな歌詞を書くのは僕が知っている限りマサムネさんだけだ。

はじめてスピッツを聴いたのは小学4年生の時だった。風邪で学校を休んでベッドで横になっている僕が退屈しないようにと、お母さんが枕元にスピッツのアルバムをダビングしたカセットテープと小さなプレイヤーをもってきてくれた。それが僕とスピッツの出会いだった。

そのときに持ってきてくれたカセットは『Recycle』と『ハチミツ』、『インディゴ地平線』に『フェイクファー』の4本で、それまであまり音楽を聴いてこなかった僕はその1日ですぐにスピッツに夢中になった。どこかくせがあってどうしようもなく気持ちが良いメロディと、映像が浮かぶような、それでいてなんとなく曖昧で幻想的な歌詞。ちょうど『三日月ロック』がリリースされた年だったこともあって、テレビで演奏している姿を観てバンドって格好いいなと思うきっかけにもなった。

『三日月ロック』に収録されたスピッツ“さわって・変わって”MV。

それから他のアルバムを順番に聴いていくうちに、僕はスピッツに、そして音楽というものそのものにのめり込んでいった。特に初期のアルバムの歌詞は、当時僕がよく読んでいた星新一のSF短編のような雰囲気があって、静かに興奮したのを覚えている。思えばそれは、物心つく前から大好きだったウルトラマンのサイケデリックな怪獣や宇宙人にも通じるところがあったのだろうと思う。すこしふしぎで変テコな世界感。そしてどことなく感じる死の気配や正体のわからない性的な微熱。そんな幼い僕が好きだった空想の物語の世界と、スピッツの歌詞にはどこか似ているものがあったのだ。

その頃僕はよく<夢を渡る黄色い砂>ってなに? <クロールの午後>ってなに? といった具合にお母さんに歌詞の意味について質問していた。うーん、わからん、とお母さんも言っていたのを覚えている。そのわかりきれなさが僕にはとても魅力的だった。

<ひとりで行くクロールの午後/君の冷たい手を温めたあの日から手に入れた浮力>と歌われるスピッツの“コスモス”(Spotifyを開く

辞書で調べないといけないような難しいことばが使われている、というわけではなく日常で出てくるような言葉がその並びや使われ方でふしぎな、あまり聴いたことがないような歌詞になっていて、ぼうっと聴いていても、はっとするような、ひっかかりになるような箇所がいくつもある。そこを繰り返し読んだり口ずさんだりしながら、僕は頭のなかでぼんやりとその世界を描いてみては、その映画のワンシーンのような世界に入り込んでいた。そんなふうに空想をさせる余白の部分が、スピッツの歌詞のわかりきれなさの部分でもあるのだ。いまでもスピッツの曲には1曲ごとにそんな映像のようなイメージがあって、それはあの頃に空想していたものと変わらなかったりする。

スピッツは今年、デビュー30周年を迎える。スピッツがデビューした1991年はちょうど僕が生まれた年でもあって、そんなちょっとした偶然がとても嬉しかったりする。いままでもこれからも、僕にとってのイマジナリー・フレンドのようなたくさんの曲と一緒に、<ちゃちな夢>の世界は広がっていくのだ。

福富優樹が選んだ歌詞に注目してほしい曲
・野生のチューリップ
・魚
・アパート
・フェイクファー
・夜を駆ける
・死神の岬へ
・インディゴ地平線

「ありふれていてありえない」(ラブリーサマーちゃん)

日常のなかで、スピッツの歌詞が頭に浮かぶことは多い。スピッツの歌詞で使われる名詞や描かれるシーンが、生活にありふれているからだ。

「コンビニ行くけどなんかいる?」と聞かれたら「愛」と返す。駐車場で青い車を見つけて羨ましく思う。雑司ヶ谷霊園のそばにアパートを借りる。街道沿いにロイホを見つけ、24時間営業のロイホはもうどこにもないことを憂う。他にもいろいろ。

コンビニ、青い車、広すぎる霊園、街道沿いのロイホなど、登場する名詞やモチーフは、そこらじゅうにありふれているものである。スピッツは、レゾンデートルだとか難しいカタカナ言葉を使わない。そういう格好つけ方はしない。スピッツの歌はわれわれが生きている普通の世界にある。

と思いきや、ありふれた言葉を使って歌われていることが、普通ではない。

<バスの揺れ方で人生の意味が/解かった日曜日>そんなことあるのか?
<愛はコンビニでも買えるけれど>マジで?
<君のベロの上に寝そべって/世界で最後のテレビを見てた>あの……
<羊の夜をビールで洗う>???

比喩表現として解釈しようとすればそれも可能だが、やはりびっくりする言い回し。スピッツの歌詞は、極論めいたことを言い切る気持ちよさで溢れている。

<羊の夜をビールで洗う>と歌われるスピッツの“ルナルナ”(Spotifyを開く

上に挙げたようなセリフを居酒屋、喫茶店、もしくは教室で喋っていたなら確実に変な奴である。普通の会話として喋れば理解不能になってしまう言葉を「素敵~(うっとり)」と感じさせるのがポエジーであり、音楽の力である。

ありふれたモチーフや、心にスッと入るメロディと歌唱、演奏が、リスナーの関心をひっかけるための釘として作用する。そして数回聴いているうちに、または歌詞カードを読むときに「普通に歌っちゃってるし、聴いちゃってるけど、これってどういう意味?」と疑問に思う瞬間が訪れる。

直ぐに理解できないから心のどこかにずっと引っかかる。何度も聴く。考える。スピッツファンと議論する。何度噛んでも味がする歌詞だから面白い。そして何年も聴き続けたあと、歌詞の意味がわかった気になる日が来る。そのとき私はミクロの世界とマクロの世界を同時に見る。自分の住む部屋はでっかい宇宙の一部で、宇宙を理解していないこと。自分の皮膚の表面に、見えていないだけで確かに生き物がいること。ありふれた事柄が抱える膨大な情報量に圧倒されながら、そのすべてを知っている気にもなる。まったく成立していないけれど自分のなかでは辻褄が合っている不思議な夢を見るように。

スピッツ“醒めない”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

そこに至るまでの過程が好きだ。「え! 何この歌詞すごい」と驚いて、意味がわからないまま聴いて、歌って、ああでもないこうでもないと考える。「あ、わかった」と思って、またわからなくなる。そのすべてが楽しい。

これからもスピッツの歌詞と日常をリンクさせてはスピッツを口ずさんで生きていく。これ以上はコラムにできない。

ラブリーサマーちゃんが選んだ歌詞に注目してほしい曲
・運命の人
・テレビ
・孫悟空
・恋する凡人
・空も飛べるはず(Album Version)

高橋久美子、福富優樹、ラブリーサマーちゃんが歌詞に注目してほしいスピッツの楽曲を持ち寄ったプレイリストはこちら(Spotifyを開く

イベント情報
『SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE”』

2021年6月29日(火)、6月30日(水)
会場:愛知県 日本ガイシホール

2021年7月10日(土)、7月11日(日)
会場:広島県 広島グリーンアリーナ

2021年7月17日(土)、7月18日(日)
会場:北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ

2021年8月7日(土)、8月8日(日)
会場:宮城県 宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ (グランディ・21)

2021年9月14日(火)、9月15日(水)
会場:大阪府 大阪城ホール

リリース情報
スピッツ
『紫の夜を越えて』

2021年3月25日(木)配信

スピッツ
『紫の夜を越えて』-アートエディション-(CD+7インチアナログ)

2021年7月7日(水)発売
価格:5,500円(税込)
PDCJ-5107
※UNIVERSAL MUSIC STORE限定

スピッツ
『花鳥風月+』(CD)

2021年9月15日(水)発売
価格:3,300円(税込)
UPCH-2224

1. 流れ星
2. 愛のしるし
3. スピカ
4. 旅人
5. 俺のすべて
6. 猫になりたい
7. 心の底から
8. マーメイド
9. コスモス
10. 野生のチューリップ
11. 鳥になって
12. ヒバリのこころ
13. トゲトゲの木
14. 353号線のうた
15. 恋のうた
16. おっぱい
17. 死にもの狂いのカゲロウを見ていた

プロフィール
高橋久美子 (たかはし くみこ)

作家・詩人・作詞家。1982年愛媛県生まれ。詩、小説、エッセイ、絵本の執筆等の他、さまざまなアーティストへの歌詞提供も行う。主な著書に小説集『ぐるり』(筑摩書房)、エッセイ集『いっぴき』(ちくま文庫)、『旅を栖とす』(角川書店)、詩画集『今夜凶暴だからわたし』(ミシマ社)、絵本『あしたがきらいなうさぎ』等。翻訳を担当した絵本『おかあさんはね』(共にマイクロマガジン社)は第9回ようちえん絵本大賞を受賞。

福富優樹 (ふくとみ ゆうき)

Homecomingsのギターと作詞を担当。最新作はこの春リリースされたメジャー・デビューアルバム『Moving Days』。音楽活動と並行して京都新聞での連載やPintscope内での連載『シアタールームの窓から』等の執筆活動も行う。2019年にはイラストレーターでもあるサヌキナオヤ氏と共に漫画『CONFUSED!』を発表。

ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ。東京都在住の25歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundcloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。



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