Nulbarich×Vaundy対談 曲作りに秘められた頭脳戦

驚きのコラボレーションである。NulbarichとVaundy。独自の価値観とクリエイティビティーを駆使しながら、現在、日本のポップスシーンの最前線をひた走るこの2組が、1曲を通してまさかのクロスオーバーを果たした。その曲は、Nulbarichの新曲として発表された“ASH feat. Vaundy”。10月28日に配信シングルとしてリリースされた本楽曲は、Vaundyと今年、アメリカ・LAに生活の拠点を移したNulbarichのJQが、リモート体制の中でデータのやり取りを重ねながら生み出したという1曲。さらに、同曲のn-buna(ヨルシカ)によるリミックスも同時に配信がスタート。現在の日本のポップス界でも高い人気を誇りながら、それぞれが異なるバックグラウンドを持ち、同時に「謎」に満ちたベールを纏う3組。そんな彼らが急に交わり、肉弾戦をおっぱじめたような、唐突で新鮮なアクション……それが、“ASH”なのだ。

この衝撃のコラボの全貌を探るべく、JQとVaundyの対談を敢行した。片や、独自のバンド理論と共に、ブラックミュージック隆盛以降の日本のポップスの在り様を大きく刷新したNulbarichのJQ。片や、確信犯的なデザインセンスで、現在、お茶の間にまでそのロジカルなポップスを浸透させている新世代クリエイターのVaundy。共に自身のクリエイティブをコントロールするプロデューサー的な視点を持ちながらも、まったく異なるアウトプットをしているふたりの対談は、取材の始まりから終わりまで、まったく言葉の尽きない怒涛のトークセッションとなった。それぞれの音楽作りに対する根本的な価値観も垣間見えた充実の対談、楽しんでほしい。

気になる人の思考回路を探りたい。JQのコラボの目的

―NulbarichとVaundyがコラボすると知ったとき、かなり意外な組み合わせだなと思いました。どのような経緯で実現したのでしょうか?

JQ:そもそもの話として、Nulbarichはこれまでコラボレーションを視野に入れてこなかったんです。それはNulbarich自体をちゃんと確立させることが先決だったからなんですけど、今年から僕が居住の拠点をLAに移したこともあって、Nulbarichもセカンドフェイズに入っていくような感覚があって。

そうなったときに、自分たちだけでギュッと固まっているよりは、気になる人の脳みそを探りにいきたいなと思うようになったんですよね。じゃあ、誰かの脳みそを覗くにはどうするのがいいかというと、一緒に曲を作るのが一番いいんです。音楽家同士なら、それが一番、相手の脳みそが見える。そこで、今一番、誰の脳みそが見たいだろう? と考えたときに、Vaundyくんが思い浮かんだんですよね。これだけ若くて、ここまでバシバシに活躍しているやつの脳みそ見てやろうと(笑)。

Nulbarich(なるばりっち)
シンガーソングライターのJQがトータルプロデュースするバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。

Vaundy:(笑)。

JQ:それで、コンタクトをとったんです。Vaundyくんは自分で自分の曲をワンオペで作れる人間だけど、僕もそういうタイプなんですよね。世代も、育ってきた環境も違うけど、軸としてやっていることが基本的に一緒。そこが面白いなと思ったんです。

『This Is Nulbarich』を聴く(Spotifyを開く

―2組のコラボ曲である“ASH”は、どのようにして作られていったのでしょうか?

JQ:一応、「フィーチャリング」と銘打ってはいますけど、ほとんど「共作」と言っていい感じです。僕にとって、今回のコラボの目的はVaundyくんの頭の中を覗くことのわけだから、花を添えてもらうようなコラボではダメだったんですよね。お互いが侵食しにいくくらいの気持ちで、一緒に曲を作ってみたくて。

Vaundy:とりあえず殴り合う感じでしたよね(笑)。データのやり取りは、ほとんど無言の投げ合いで。

Vaundy(ゔぁうんでぃー)
作詞作曲からアレンジまでを自身で担当し、アートワークのデザインや映像もセルフプロデュースする20歳のマルチアーティスト。
『This Is Vaundy』を聴く(Spotifyを開く

JQ:僕らの場合、プロデューサー同士だからこその難しさもあったと思うんですよ。冷静に考えたら、頭の中に世界を創造できる人同士がひとつの建築物を作ろうとしたときに、お互いの欲を出し合って絶対に成立するわけがないんです。でも、今回のコラボはそれが奇跡的に上手くいったんですよね。

Vaundy:きっと、時代が時代だったら無理だったと思います。今の僕たちって、DTMを使って自分ですべてを作ることができるじゃないですか。お互いが、メロ作りとか、編曲とか、曲作りの全般的な部分を自分で担える者同士だった。だから、どちらかがなにかを投げ出しても、相手が絶対に完成させてくれるっていう安心感もあったと思うんですよね。なにを任せても、曲は絶対に完成するっていう。それがあったからこそ、今回のコラボは成功したのかなと思うんです。

棘のある部分が残っていく。プロデューサー同士の楽曲のやりとり

JQ:思い返せば、最初はこっちからかなり失礼な投げ方をしたもんね(笑)。僕が最初にVaundyくんに送ったのって、メロディーのガイドもない、本当に大まかなループのインストだったんですよ。

Vaundy:ビックリしましたよ(笑)。最初にJQさんからもらったトラックは、本当に「聴き専」というか、大まかなリズムとキーがループしているだけのトラックで。でも、それがよかったんですよね。もし、JQさんがゼロからイチを既に作ってしまっていたら、僕ができることはほとんどなかったと思うんですけど、お互いがゼロとゼロでぶつかり合うところから始められたのがよかった。

Vaundyのライブ写真 / 撮影:Takeshi Yao

JQ:そうだね、こっちとしては先入観なしでVaundyくんのメロディーを作ってほしかったから。そうしたら、Vaundyくんはなにも言わずに丸っきりトラックも作り直して、メロを入れてきたという(笑)。やっぱりクリエイトする人って、小さな種からでも想像力が沸くもので。僕らは、ひとつ音源のデータがあると、そこから「俺だったらこうする」とか「こっちのほうがいいんじゃない?」みたいな想像が膨らんでいくものなんですけど、Vaundyくんも膨らんだんでしょうね。完全に別曲が返ってきたんですよ。

―先輩から送られてくる音源をほとんど別曲に変えるというのは、勇気がいりそうな気もします。

Vaundy:正直、一発目は自分でも「やったなあ」と思いました(笑)。

一同:(笑)

Vaundy:自分でも「これ、失礼だよな、出しゃばりすぎだよな」と思うくらい、かなり踏み込みました。JQさんにもらったトラックにはサビがなかったんです。でも僕は聴いていたら、サビで盛り上げる曲が好きなサビ主義者だから、どうしてもサビが欲しくなってきて。せっかくのコラボだから爪痕を残したいなというのもあり(笑)、コード進行から丸っきり変えて、ちょっとエグいのを返しました。

JQ:でも、サビを入れて満足したんでしょうね。Vaundyくんから返ってきたトラックには、当初予定していた、彼が入れるべきヴァースが入っていなくて、肝心のサビのあとが全然入っていなかったんです(笑)。

Nulbarichのライブ写真 / 撮影:岸田哲平

一同:(笑)

Vaundy:僕もあとで気づきました、「ヤバい、やるべき仕事やってない!」って(笑)。

JQ:でも、そこでVaundyくんが入れてくれた、サビの<灰にして>という言葉が刺さってきたんですよね。これは僕からは生まれてこなかったものだなと思って。なので、Vaundyくんが作ったサビを残したうえで、僕がもう1回作り直して、完成させていきました。改めて、棘がある部分が残っていくんだなと思いましたね。ざるにかけたときに、角があって荒いものが、ざるから零れずに残っていく。Vaundyくんが作ってくれた<灰にして>という部分は、ちゃんと棘として残ったし、そこが結果として、この曲の一番のパンチラインになった。

―歌詞も、<灰にして>というフレーズを起点に広がっていったんですか?

JQ:そうですね。お互い特に相談せずに、<灰にして>というサビの歌詞をそれぞれ消化したうえで、自分のヴァースの歌詞を書きました。共有したのは、「シリアスにはなりたくないよね」っていう、ざっくりとした全体像くらい。だから、下手したらそれぞれの書いている部分に共通点もなくて。

Nulbarich“ASH feat. Vaundy”を聴く(Spotifyを開く

Vaundy:お互いの歌詞にはまったく言及していないですからね。僕が書いた部分は結構、ドロッドロの感じがしているんですけど(笑)。もし、一緒にちゃんとしたテーマを決めて書こうとしていたら、この曲はできていなかったかもしれないです。僕らはお互い、韻やメロディーを優先して歌詞を書くタイプだからよかったけど、どちらかが歌詞の意味をきっちり吟味するタイプだったら、この作り方は無理だった。この曲の歌詞は、お互いが書いた部分でつじつまは合っていないかもしれないけど、2人の視点から見た“ASH“があり、二面性のある曲だとも言える気がしますね。

JQ:「ASH」という言葉自体、すごくアバウトなものだからね。相手の情報も知らないし、楽曲の向かう先も知らないし、超アバウトな情報しかなかったからこそ、お互いがフルスイングして創造力を働かせたことで、神がかったケミストリーになったんだろうなと思う。

音楽家は学者。研究を重ねて曲を生むVaundyの頭脳

―データの往復は、どのくらいの回数行われたんですか?

Vaundy:やり取りの回数自体は3回くらい。ただ、鈍器の投げ合いをしたようなエグい3往復でした(笑)。最終的にNulbarichの曲として仕上がったものを聴いて、「かっけえなあ」って思いましたね。「あの歪なものを、どうまとめるんだろう?」と思っていたんですけど、僕が手を入れる余地はないくらいに完成されていて。Nulbarichの「まとめ力」は、ほんとすごいなと思いました。どこまで行ってもNulbarichの色がちゃんと出てくる。僕、新曲の“LUCK”も大好きなんですけど、あの曲って、サウンドも歌い方も、これまでのNulbarichとは違うものだったと思うけど、「Nulbarich」がちゃんと聴こえてくる。そこが、Nulbarichのすごいところだなと思いました。

Nulbarich“LUCK”を聴く(Spotifyを開く

―JQさんは、共同制作を通してVaundyさんの頭の中を覗いてみて、どんなことを感じましたか?

JQ:Vaundyくんは、常にちゃんと物事を捉えてながら曲を作っているから、彼の曲には常に意図があるんです。前に、「“東京フラッシュ”みたいな曲を作ったら流行るだろうと思って作った」といっていたことがあったんですけど、「ほんとに流行っちゃってんじゃん」みたいな。その感じ、ヤベえなって思うんですよ。

Vaundy:僕は、脳みそがミーハーなんです。僕は、ミーハーであることは、アーティストにとって大事なことだと思っていて。流行るということは、いろんな人が共通して「ここがいい」と思える部分があるはずじゃないですか。音楽を作るのなら、その部分をキャッチして、自分の形に変換していけないとダメなのかなって思うんです。それで、“東京フラッシュ”(2019年)は作ったんですよね。

Vaundy“東京フラッシュ”を聴く(Spotifyを開く

Vaundy:「売れるため」の曲を作ろうと思って、日々、流れてくるレコメンドの雰囲気やリズムパターン、コード進行なんかを研究しました。そのときのリファレンスのなかに、Nulbarichもいたんです。Nulbarichの曲は、全体でスッと入ってきて、歌おうと思うといろんなフレーズが出てくるんですよね。しかも、すべてのフレーズが頭の中ですべてちゃんと再生される。そこがすごいなって思うんです。

―今のお話は、Vaundyさんの音楽家としての探求心やストイックさを非常に感じさせますよね。

Vaundy:そうは言っても、口だけなんですけどね(笑)。こうやって口にすると、「自分はこんなことを考えていたんだな」ってわかりますけど、普段からそんなに意識的ではないです。根本的に、「音楽家は学者である」と思っているんですけど、それでも、例えばn-bunaさんみたいな本当にヤバい人には適わない(笑)。

Vaundyのライブ写真 / 撮影:Takeshi Yao

―ヨルシカのn-bunaさんは、今回のシングルではリミキサーとして、カップリングに参加していますね。

JQ:n-bunaくんはすごいよね。Vaundyくんもボカロが好きらしいけど、ボカロ出身の人たちって、メロディーラインをプログラミングするように捉えているじゃん?

Vaundy:そうですよね、僕はボカロはやりたくても使いこなせなかったんですけど、あの人たちって、常に波形を見ていたりするから、メロディーを視覚的に捉えているんですよ。だから、自分の作るメロディーに対する理解がすごくある。米津(玄師)さんだってそうですよね。普通に生活していたら出てこないようなサウンドだと思う。

『This Is ヨルシカ』を聴く(Spotifyを開く

JQ:そういうところで、メロの分析力とかがすごく長けている。感覚じゃなくて、データをちゃんと持ったうえで音楽を作っていて。しかも、そのうえでn-bunaくんはリリシストであり、あれだけの歌詞が出てくるっていう。改めて、相当クレバーだなと思う。

Vaundy:クレバーであり、苦悩している人ですよね。

JQ:Vaundyくんもn-bunaくんも、今回コラボしたふたりに共通して言えるのは、物事の表も裏も見ているし、ちゃんと世の中と自分のことを捉えたうえで発信している人なんだっていうことで。たとえばn-bunaくんの書く歌詞って、すごくネガティブな言葉が、曲の中ではポジティブな意味を持って響くことがある。それは、ちゃんとその言葉の裏側にあるものまで考えて歌詞を書いているからだと思うし、Vaundyくんの『strobo』(2020年)も、あれだけの振り幅のある楽曲たちをああやってパッケージングするのって、やっぱり考えていないとできないことで。今回、そういう人たちの脳みそを覗くことができたのは、僕の人生にとってかなりの財産になったと思っているんです。僕は、ここまでちゃんと物事を捉えながら曲を作ったことがないんですよ。常に「いいじゃん、これ!」っていう感覚でしか曲を作ってこなかったから。

Nulbarichのライブ写真 / 撮影:岸田哲平

Vaundy:そっちのほうがいいですよ! ……でも、きっと作っている過程は一緒なんじゃないかとも思うんですけどね。作っているときは、きっとみんな動物的であり、感覚的なんじゃないかと思います。僕の説明も、結局は、後付けでしかないんです。僕は後付けで説明できない曲をボツにしちゃうんですけど、それはJQさんのように「いいんじゃん」で判断できるほど、その感性がまだまだ研ぎ澄まされていないということなんですよね。JQさんって、もはや感性が社会の需要とも一致したうえで研ぎ澄まされているんだと思うんですよ。やっぱり、音色やアレンジメントを研ぎ澄ませていくのって、時間が必要じゃないですか?

JQ:そうだね。

Vaundy:作り続けて、経験を踏むことで「これがいいんだ」「これじゃダメなんだ」ということが判断できるようになると思うんですけど、僕はちゃんと編曲をし始めてまだ1~2年なので、そういうところが、まだ全然足りていない。想像することは誰でもできるし、それを形にするには技術と経験が必要だけど、僕はまだまだなんです。なので、今回“ASH“を作りながら、めちゃくちゃ勉強になりました。次は、僕がちゃんと編曲ができるようになったときに、JQさんに歌ってもらいたいです。

二人が考える、「ヒット曲」と「名曲」の違い

―今日、おふたりに少し大きめの質問を持ってきたんですけど。おふたりにとって、「名曲」の定義ってどういうものですか?

JQ:Vaundyくんは「いまのヒット曲を分析している」と言いましたけど、僕は、名曲って「あとから」でいいと思っているんですよ。そのときに流行っているものというよりは、こすり倒されたあとで、「これ、やっぱりいい曲だよね」となればいいのかなと思う。「ヒット曲」と「名曲」って、僕は違うと思うんですよね。たくさんの人に聴かれることは「ヒット」だけど、名曲って別にたくさんの人に愛されることが定義じゃないと思うから。

Vaundy:そこは、僕もそう思っています。今この時点で「名曲か」を判断するのって難しいんですよね。僕たちが死ぬときに残っていたら、それが名曲というか。

JQ:そうだよね。長く「愛された」曲が名曲なんだと思う。長く「使われた」曲じゃなくてね。

Nulbarichのライブ写真 / 撮影:本田裕二

Vaundy:僕は、どちらかというと名曲を作りたいんです。今は、そのための準備をしている段階で、名曲を作るためにヒット曲を勉強しているんです。やっぱり、世に残るには数字が残ることも大事だし。

JQ:たしかにね。名前がないとその名曲も多くの人に伝わらないし、残らなくなってしまうから。

Vaundy:だから、名曲って難しいですよね。僕が今やっていることは、あくまでも「ヒット曲」を作るという趣向だけど、でも、その先に「名曲」を作らなければいけない。ヒット曲って理に適っているというか、今、世に出ているヒット曲たちも、研究すれば「ここのボイシングが気持ちいいんだな」とか、「ここがキーフレーズだな」とか、わかることはたくさんある。でも、名曲ってわからないんですよね。デヴィッド・ボウイの“Heroes”(1977年)や“Life on Mars?”(1971年)をどれだけ聴いて研究しようとしてみても、意味がわからないんです。勉強しようと思って聴いても得ることのできない「なにか」がある。Nulbarichもそうなんですよね。研究して聴きましたけど、やっぱりわからない部分があって。Nulbarichは、「名曲派閥」ですよね?

デヴィッド・ボウイ“Heroes”を聴く(Spotifyを開く

デヴィッド・ボウイ“Life on Mars?”を聴く(Spotifyを開く

JQ:ははははは(笑)。

Vaundy:ヒット曲を作ろうとしているバンドもいれば、名曲を作ろうとしているバンドもいる。でも、Nulbarichはヒット曲も出したうえで、名曲も作っているからすごい。ヒット曲として必要な要素も持ったうえで、いかにそのアーティストが自分の色を出せるかによって、「使われる曲」になるか、「愛される曲」になるかの違いが生まれてくるような気もします。それは、曲単体で聴かれるか、アーティストとして聴かれるかの違いにもつながってくると思うし。

Vaundyのライブ写真 / 撮影:Takeshi Yao

Vaundy:Nulbarichは、ヒット曲を生み出しながらも、そこに自分の色をちゃんと織り交ぜることができている。僕もそうなれればいいなと思います。まだ、そこに行きつけていないので。曲ごとの統一感は求めていないんですけど、アイデンティティのあるサウンドを作れるようになりたいです。

足し算はみんなでできるけど、引き算は1人でしかできない。音のデザイン

―Vaundyさんの『strobo』と、去年、Nulbarichがリリースした『2ND GALAXY』は、フルアルバムとミニアルバムという名義の違いはあれど、作品としての構造がどこか似ているような気がして。様々な曲調の楽曲を、決して長くない時間内に並べながら、アルバム作品としてのトータリティも感じさせる。こう見ると、おふたりとも、ストリーミングが主流になった今の時代の音楽の聴かれ方に対して、非常にフレキシブルに対応しているように思えるんです。

Vaundy:今はもう、プレイリスト文化だと思うんですよ。今、みんながラッパーのような感じだと思うんです。

JQ:昔のDJのミックステープを聴くように、みんな音楽を聴いているよね。

Nulbarich『2ND GALAXY』を聴く(Spotifyを開く

Vaundy:そうですよね。プレイリストって、サンプリングのようなものだから。みんなが自分の好きな音楽を切り取って、張り付けて、自分の表現にしている。僕が『strobo』を作るうえで考えていたのは、これは「Vaundyのプレイリストになる」ということだったんです。だからシングル曲を並べていくようなつもりがあったんですけど、それを前提にしたうえで、やっぱり作品としての統一感も必要だと思ったので、“Audio 001”と“Audio 002”というインスト曲を入れて。僕にとっては、あの2曲のインストが『strobo』の曲であり、『strobo』の世界観なんです。

Vaundyのライブ写真 / 撮影:Takeshi Yao
Vaundy『strobo』を聴く(Spotifyを開く

―そこは、プレイリスト的な受領のされ方も受け入れつつ、アルバムとしての作品性も手放さない、バランスの取れた作品の生み出し方ですよね。

JQ:多様性って、どちらかに偏らないですからね。プレイリストの文化が盛んになったときには、それに対するアンチテーゼも出てきたし、その逆も然りだし。最近は、アルバムとしてしっかりパッケージングした作品もまた増えてきていると思うんですよ。もちろん、いろんなプレイリストに断片的に切り取られることも念頭においているけど、そこで「この曲に愛が生まれたら、ここに帰ってきてね」とちゃんと言えるような、帰るべき家としてアルバムが存在しているっていう矢印も、数年前よりも明確に見えてきていると思う。

―Nulbarichさんは2019年には『Early Noise Special』に出演されていましたよね。一方でVaundyさんは今年、Spotifyの「Early Noise」に選出されていました。

Vaundy:「俺でいいのか?」という感じでしたね(笑)。ありがたかったです。いま作っている曲たちは『strobo』の曲たちとはまったく違うタイプのものなので、期待してもらっているからには、面白いものを返せるように頑張ろうって思っています。

『Early Noise Japan』を聴く(Spotifyを開く

―Vaundyさんは11月26日の『Spotify presents TOKYO SUPER HITS LIVE 2020』への出演も決まっていますね。

JQ:僕らも、日本でSpotifyがローンチされた最初の頃に、1曲すぐに配信させてもらったりしましたから。Spotifyは、自由度が高いと思うんですよ。

Vaundy:開いたときに、音楽が出ているのがいいですよね。人によって画面が違うし。

JQ:どこか、SNSっぽい掴み方なんだよね。視覚的にも見やすいし、友達と情報共有しやすい。Spotifyはアメリカでめちゃくちゃユーザー数が多いけど、あの形式ばっていない感じが好まれてるんだと思う(笑)。

―Nulbarichとしては、この先、今回のようなコラボは続けていく予定なんですか?

JQ:今回の“ASH“は、あくまで奇跡的にできた曲なので、まったく参考にならないんです(笑)。世界的にもコライトは主流だし、そういう現場もたくさん見てきたけど、「いいね」のやり合いになってしまう危険性があるんですよ。テンションで「これどう?」「いいね!」っていうコミュニケーションをやっていくだけで、作業は速いんだけど、実は、自分で考える時間がないだけっていう側面もあって研ぎ澄まされているわけではない。

Nulbarichのライブ写真 / 撮影:岸田 哲平

Vaundy:「引き算」ができなくなりますよね。僕は絵を描いたりデザインをするんですけど、デザインって引き算をして最後に残ったもの、つまり最小形態が一番綺麗と言われるんですよね。僕の音楽の作り方ってそれなんです。「ここに音入れようぜ」って、足す作業は誰にでもできる。でも、引く作業ってひとりじゃないと難しい。ただ、今回はふたりで引き合ってできた曲だから、シンプルだし、それぞれのヴァースによさがあるし、すごく絶妙な形になったと思うんですよね。

JQ:そうだね。だから、この先、演奏者やシンガー、ラッパーの方を呼んでNulbarichの曲を一緒にやってもらう、みたいなことはあるかもしれないけど、今後、今回のようにプロデューサー視点を持つ者同士でできるかと言われると、難しい気がするんですよ。

Vaundy:僕は、こんなこと、もう二度とできないような気がします(笑)。

リリース情報
Nulbarich
『ASH feat. Vaundy』

2020年10月28日(水)配信

1. ASH feat. Vaundy
2. ASH feat. Vaundy(n-buna from ヨルシカ Remix)

イベント情報
『Nulbarich Live Streaming 2020 (null)』

2020年12月22日(火)
開場19:30 / 開演20:00

出演:
Nulbarich
Vaundy

料金:3,500円(税込)
視聴券販売期間:11月21日(土)12:00 〜 12月28日(月)19:00

サービス情報
Spotify

・無料プラン
6000万を超える楽曲と40億以上のプレイリストすべてにアクセス・フル尺再生できます

・プレミアムプラン(月額¥980 / 学割プランは最大50%オフ)
3ヶ月間無料キャンペーン中

イベント情報
『Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020』

2020年11月26日(木)20:00からStreaming+で生配信

出演:

Perfume
End of the World
[Alexandros]
ビッケブランカ
Vaundy
マカロニえんぴつ

料金:3,500円

プロフィール
Nulbarich
Nulbarich (なるばりっち)

シンガーソングライターのJQがトータルプロデュースするバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。2016年6月にタワーレコードおよびライブ会場限定の1stシングル「Hometown」、10月には1stフルアルバム「Guess Who?」をリリース。その後は積極的なライブ活動を行いながら、「H.O.T」「Blank Envelope」の2枚のアルバムを発表した。2019年11月にミニアルバム「2ND GALAXY」をリリース。12月にはバンド史上最大キャパとなる埼玉・さいたまスーパーアリーナでワンマンライブ「Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-」を開催する。2020年10月にはVaundyとのコラボ曲「ASH feat. Vaundy」を配信リリース。カップリングのリミックスは、ヨルシカのn-bunaが手がけた。

Vaundy (ばうんでぃー)

作詞作曲からアレンジまでを自身で担当し、アートワークのデザインや映像もセルフプロデュースする20歳のマルチアーティスト。2019年秋頃からYouTubeに楽曲を投稿し始め、「東京フラッシュ」「不可幸力」のYouTubeでの再生回数が1500万回を突破するなどSNSを中心に話題を集める。2020年5月に、Spotify Premium のテレビCMソング「不可幸力」やFODオリジナルドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌「灯火」などを収めた1stアルバム「strobo」を発表。10月には東京・Zepp Haneda(TOKYO)にて自身2度目となるワンマンライブを開催した。そのほかラウヴのグローバルリミックスアルバム「~how I'm feeling~(the extras)」に参加するなど、日本のみならず海外に向けての活動も積極的に行っている。11月3日には初のアナログ盤「strobo+」をリリース。



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「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。

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