2021年6月に4曲入りEP『Yellow』をリリースした4人組アイドルグループRAY。シューゲイザーやポストロック、ニューウェイヴなどを基軸とした本格的なバンドサウンドと、ポップなメロディー、ライブにおける4人の激しいパフォーマンスによって、アイドルファンはもちろん洋楽ファンにも注目されている。
メンバーの内山結愛は現在、週に1回のペースで国内外のアルバムのレビューをnoteにアップしており、その数が先日100枚を超えた。My Bloody ValentineやDEVO、Orange Juiceなど取り上げる作品もバラエティーに富み、直感的で飾り気のない彼女の文章はコアな音楽ファンをも唸らせる。
そもそもなぜ内山は、アルバムレビューの執筆を始めたのだろう。どんな基準でアルバムを選び、何を心がけながらレビューを書いているのか。インプットとアウトプットを繰り返しながら、「見えないもの」を言語化し続けてきた彼女に、見える景色の変化についてじっくりと話を聞いた。
掘れば掘るほど、まだまだ自分は知らないことばかりだなと思い知らされています
―内山さんはいま、Twitterとnoteにて音楽アルバムのレビューを定期的に更新しているんですよね。そもそもどんなきっかけで始めたのですか?
内山:もともとは、高円寺のライブハウスHIGHで開催されているシューゲイザー系のライブイベント『Total Feedback』に、DJとして出演させていただいたことがきっかけでした。
内山:当時はまだシューゲイザーというジャンルについて深く知らない状態だったのですが、呼ばれたからにはシューゲイザーにまつわる音楽をちゃんとセレクトしながらDJしたほうが、自分自身も楽しいんじゃないかなと思ったんです。そのために、まずは一度音楽としっかり向き合う必要があるなと思って週に1回noteにレビューを書き始め、しばらく後に「一日一枚アルバム」と題してTwitterにも毎日レビューを書くようになりました。
『Total Feedback』で初めてDJを行った直後の、内山のツイート
―音楽の知識を増やしていく一環として始めたものだったんですね。
内山:そのつもりで最初はMy Bloody ValentineやRideなど、シューゲイザーと呼ばれるバンドのアルバムをレビューしていたんですけど、あらためて当時のnoteを読み返してみると、5回目でいきなりThe Pop Groupの『Y』を取り上げているんです(笑)。その後もJoy Divisionの『Closer』やINUの『メシ喰うな!』など、全然シューゲイズじゃないどころか一般的に「変わってる」とされている作品を唐突にチョイスしている自分にびっくりします。
The Pop Group『Y』。当時の内山のnoteでは、「全編通して凶暴で刺激的。想像以上にThe Pop Groupはヤバかった」と評されている(Spotifyを開く)INU『メシ喰うな!』。内山いわく「切れ味抜群の言葉たちがグサグサに刺さってくるようなアルバム」(Spotifyを開く)
―(笑)。いつもどんな基準でアルバムを選んでいるんですか?
内山:始めたばかりの頃は、RAYのディレクターさんと一緒に新宿のディスクユニオンなどへ行って、相談しながら選んでいました。最近はLUNA SEAの全アルバムレビューを企画するなど、かなり自由にやっています(笑)。とにかく自分がいま、気になっているアルバムやジャンルをバーっと書き出して「じゃあ、次はこの辺りを攻めてみようか」みたいな感じ……でも掘れば掘るほど、まだまだ自分は知らないことばかりだなと思い知らされています。
あり得ないような非日常の世界や刺激を、私はつねに求めているんです
―レビューとは別に、LINE BLOGでも日記を書いているんですよね。しかも頻繁に更新されていますが、文章を書くのはお好きですか?
内山:やってみて気づきましたが、どうやらそうみたいです(笑)。振り返れば国語の授業とか小学生の頃から好きで、作文もペース早めに書けたし本を読むのも好きでしたね。ただ、人に読ませる文章となると、自分だけの世界で完結させるわけにはいかないから、レビューのときもいろいろ言葉を選んだり考えたりしながら書いています。
―ちなみに、どんなジャンルの本を読んでいたのですか?
内山:結構、悪趣味というか……映画でもB級とかC級などと言われるホラーがすごく好きで(笑)、怖がりのくせに好奇心に抗えず観ているんですけど、読む本も人が死ぬ小説ばっかりなんです。血がどくどく流れていたり、臓器の描写だったりして、読むと大抵「気持ちわる……」ってなるんだけど、それでもなぜか気になってしまうんです。
―それはなぜでしょう。
内山:あり得ないような非日常の世界や刺激のようなものを、私はつねに求めていて。RAYの活動では本当にいろんなことに挑戦させていただいているし、同級生の女の子よりは刺激的な日々を送っているはずなんですけど、それでもまだ足りないみたいです。
―レビューはいつも楽しく読んでいるのですが、内山さんは作品に対するファーストインプレッションをつねに大切にされていますよね。なのでレビューを読んでいると、仮にそれがいままで何十回、何百回と繰り返し聴いてきたアルバムだったとしても、初めて聴いたときのことを思い出させてくれる。
内山:嬉しいです。レビューを書くときは、おっしゃるようにまずはまっさらな状態でアルバムを聴きたいので、前情報などをなるべく入れないよう気をつけています。そして、聴いているときに思い浮かんだ景色や言葉など、音楽的知識とは関係ない主観的な印象を書き留めておく。すべて聴き終わってからそこで初めていろいろ調べてみて、「あ、ここはこういう楽器を使っていたのか」みたいな答え合わせをしつつ、それをレビューのなかに盛り込んでいます。
―単なる印象論でも、客観的な事実のみでもなく、段階を踏みつつそれらをバランスよく混ぜているから読みやすく濃密なレビューになっているのですね。
内山:でも、まだまだ全然知識が足りないです。読んでくださった方から「あれはワウギターの音じゃないよ?」みたいに指摘していただくこともあるし、「難しいなあ」と思うことばかりですね。
特に最初の頃は音楽用語などもまったく知らなかったから、「ディストーション」や「ノイズポップ」「ドリームポップ」など覚えたてのワードをレビューの最後に書き留めておくようにしていました。それは自分のための備忘録でもあるし、私と同じように音楽知識がまだそんなにない人が読んだときに、少しでも参考になればいいなという思いもありましたね。
とにかく自分は勉強している身なので、「これ、いいアルバムだから聴いてみれば?」みたいな上から目線の文章にはしたくなくて(笑)。私のことを応援してくださっている方も、音楽にめちゃくちゃ詳しい方ばかりではないし、同じくらいの知識の人たちと「一緒に勉強していきたいな」というスタンスで書いています。
理解できない音楽に出会ったときも、「そこが面白い!」と思う
―noteでは、アルバムの全収録曲をレビューしているんですよね。言葉にするのが難しい曲もなかにはあるのでは?
内山:ファンの方にもよく「あの曲、捉えどころがなさ過ぎない? よく(レビューを)書けるね」とか言われるんですけど、そこはもう根性で(笑)。ただ、映画音楽を取り上げたときは大変でした。映画を観てその内容にも触れつつ、音楽の印象を言葉にしていく塩梅をどうするかすごく悩みましたね。
内山:逆に、向井秀徳(ナンバーガール、ZAZEN BOYS)さんの作品を集中的に取り上げたときは、自伝『三栖一明』を読んだり全作品を聴き込んだりして挑んだのですが、もう書きたいことが多すぎてまとめるのにものすごく苦労しました(笑)。
―本当に勉強熱心なんですね。2021年9月28日にDOMMUNEのイベントで共演させていただいたとき(『ele-king Presents 実写版「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界」The World of My Bloody Valentine』)も、事前にものすごくリサーチしたとうかがいました。
内山:たくさんしました!(笑) ディレクターと一緒に読書会や作戦会議を何度も開いたり、関連書籍に付箋を貼りまくってページごとにレジュメをつくったり。「このアルバムは何年にリリースされて……」みたいな、トークのシミュレーションもしましたね。ここまで一つのバンドについて調べたことがなかったので、ものすごくいい経験になりました。しかもインプットだけじゃなくて、「イベントに出演する」というアウトプットもあったので、勉強のかたちとしても理想的でしたね。
―2021年9月、noteのレビューはついに100枚を突破しました。それによって、内山さん自身に何か変化はありましたか?
内山:まず、家のCDラックがパンパンになりました(笑)。いろんな音楽を知ったことで、さらに音楽が好きになったし知りたくなったし、どこまで行ってもゴールにたどり着くことがないから、ずっと好奇心を刺激され続けている感じです。
内山:そういう意味では初回からずっと変わらず楽しいんですけど、自分には「好き嫌い」がまったくないことにも気づきましたね。理解できない音楽に出会ったときも、「そこが面白い!」と思うし。
他の方のレビューを読むと、「俺は(このアルバムは)好きじゃない」みたいに書いている方もいて。感想は人それぞれだから、それはそれでいいんですけど、私自身は例えば捉えどころがなかったり、ピンとこなかったりする楽曲であっても、どうにかこうにかいいところを見つけて言葉にしたいんですよね。きっと、負けず嫌いな性格なのもあるとは思うんですけど。
―なるほど(笑)。
内山:好き嫌いがはっきり別れそうなノイズミュージックとかは、確かに耳がキンキンするし怖いし、1人で聴いていたら何かが襲いかかってきそうな恐怖感もあるけど(笑)、でもそのなかにも、例えば裸のラリーズだったら「甘さ」があるとか、そういう発見もある。それを噛み砕いてうまく言葉にできたときは、「攻略した!」「勝った!」みたいな、謎の達成感があるんです。
水谷孝を中心に、1967年に結成された裸のラリーズ。内山が5月に「TOKION」でスタートした連載の1回目で取り上げられ、「強烈なノイズの後ろで呑気に漂う甘美なメロディー、という構図が不気味で、危ないと思つつも、もっと深いところまで迫りたくなるこの感じ」と評された(Spotifyを開く)
内山:いま、自分は好き嫌いがないと言いましたけど、そんななかでも「特に好きなジャンル」みたいなものは、自分でもだんだんわかってきて(笑)。例えば「エモ」と呼ばれるジャンルのアルバムを聴くと、自分のなかの昂りと興奮が抑えられなくなりますね。特にThe Get Up Kidsは何回聴いても泣きそうになる。おそらく父がスマパン(The Smashing Pumpkins)とかNirvanaとかを車のなかで聴いていて、そういうサウンドに慣れていたというか、身近な音楽として存在していたことを思い出すのかもしれないです。そこに気づけたのは大きな収穫です。
「The Get Up kids の『Something to Write Home About』を聴いてみた編」を読む―ずっと文章を書き続けたことで、文章力やボキャブラリーも向上したと思います?
内山:ここ最近のレビューは、最初の頃と比べて文字数が圧倒的に多くなりましたね。今年11月にMy Bloody Valentineの『Loveless』がリリースから30周年を迎えたので、2019年8月に書いた自分のレビューを久しぶりに読み返してみたんですけど、1曲に対して2、3行しか書いてなくてびっくりしました(笑)。いまならもっと興奮して熱い文章を書き連ねそうです。
「My Bloody Valentineの『loveless』を聴いてみた編」を読む―ちなみに、内山さん自身が「これは最高傑作」と思うレビューは?
内山:えー、なんだろう……すごく評判が良かったのは、SlayerとかSunn O)))について書いたレビューですね。スラッシュメタルとか初めて聴いて、めちゃめちゃ速くてびっくりしたんですけど(笑)、そのときの自分の興奮をそのまま文章にしようと思って書いたら、それをファンの人たちも同じように興奮しながら読んでくれてすごく嬉しかったです。
noteの更新を告知する内山のツイート。毎回、アルバムの「持ち方」にも工夫がみられる
目に見えないものにかたちを与えることは、野暮だと批判されることもあるけど、言葉にして残すことには意味がある
―音楽という、言葉では表しきれないものをあえて言語化していくことの意義については、続けてみてどう感じますか?
内山:音楽って目には見えないものじゃないですか。人間って遅かれ早かれ、どんなことでも忘れてしまう生き物だからこそ、目に見えないものを「言葉」というかたちで残したくなるというか……つねに手に取れる状態にしておきたくなるし、そうすることでより大切に感じることもあるんじゃないのかなと思っていて。それに、目に見えるかたちで残しておくことによって、他の人にも伝えやすくなるのがレビューの醍醐味だと思うんですよね。
―とても興味深いです。
内山:目に見えないものにかたちを与えることは、捉え方によっては野暮で無粋な行為だと批判されることもあると思うけど、でも目に見えない心の動きも大事にしつつ、それを言葉にして残しておくことには意味があるのかなと思っています。
―ちなみに、内山さんが定期的に書き続けているモチベーションはどこから来るのですか?
内山:やっぱり、読んでくださった方からの反応が支えになっているのだと思います。何のリアクションもなかったら、書き続けていてもさすがに切ないし、ちょっと孤独を感じてしまうかもしれないんですけど(笑)。私のレビューを通じて音楽に詳しい人や、詳しくない人の間で話が弾んだり、私に対しても「あのレビュー、面白かったよ」とか声をかけてくださったり、おすすめの音楽を教えてもらったり。そういうコミュニケーションが楽しくて自分は続けているんだと思います。
内山:ファンのなかには、私が始めた「一日一アルバム」を一緒にやってくださっている人もいるんですよ。自分が好きで始めたことが、誰かのモチベーションにもなっていることが本当に嬉しくて。「こんな私でも誰かの役に立ったのかな」という気持ちになれましたね。言葉にすると自分の思考が整理されたりもするので、興味のある方は是非やってみてほしいです。
レビューを続けたことで「音楽に真剣に向き合っていきたい」と胸を張って口に出せるようになった
―レビューを続けてきたことで、ご自身の音楽活動にフィードバックされることもありそうですか?
内山:RAYのコンセプトのなかに、「『アイドル×????』による異分野融合」というのがあるんです。シューゲイザーだけでなくIDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)や、「叫ばない激情ハードコア」などを取り入れアイドルのライブとして披露しているのですが、レビューを通じていろんな音楽を聴いて、それなりに知識を蓄えられたことで、自分たちの楽曲をもっと好きになったし、気持ちよく踊れているのかなと思います。
私のレビューがきっかけでRAYのライブを見にきてくださる方も結構いらっしゃるんですよ。自分が好きで始めたことは、できる限りRAYの活動に還元したいと思っているので、それを聞いたときは本当に嬉しかったですね。
RAY『Yellow』を聴く(Spotifyを開く)
―11月6日に東京・下北沢シャングリラで開催された、内山さんの生誕祭『Anthology 20160904 - 20211106 -』では、初のソロ曲“Y”が発表されました。この曲の作詞作曲編曲は、諭吉佳作/menさんが手がけていますね。
内山:諭吉さんの曲は以前から聴いていたし、でんぱ組.incさんに提供された曲“形而上学的、魔法”も本当にすごくて……。自分の年下とは思えないような音楽性だし尊敬していたので、引き受けてもらえて嬉しかったですね。最初にデモをいただいたときは、歌うのがめちゃくちゃ難しくて「これ、諭吉さんにしか歌えないんじゃないか?」と思って一瞬怯みましたが、何とかかたちになって良かったです。
―この曲は、RAYが立ち上げたクラウドファンディングサイト「collections」で、資金を募って制作したんですよね。
内山:はい。RAYは「圧倒的ソロ性」というコンセプトも掲げていて。メンバー各々が自分のやりたいことを発表し、それをファンの方たちにクラウドファンディングを通じて応援してもらっているのですが、今回のソロ曲もその活動の一環としてスタートしました。以前は「collections」で「瓦割り」にチャレンジしたこともあるんですよ(笑)。集まったお金で瓦を購入して、それを割るっていう。
―なんですかそれは(笑)。
内山:あははは。しかもそれが、RAYとしての内山結愛をお披露目した直後くらいに提案した企画だったので、「ヤバイやつ」と思われていたかもしれないです(笑)。実際その頃は、自分がどうなりたいのか迷走していたところもあったんですけど、 レビューを通して「やっぱり私は音楽に真剣に向き合っていきたい!」と、ようやく胸を張って口に出せるような、進むべき道が見つかったと思っています。
― レビューを始めたことで、本当に見える景色が変わったのですね。
内山:人生が変わりました! 日記もそうですが、自分がそのときに思っていることを言葉に置き換えてきたからこそ本当に好きなものも、自分がこれからやりたいことも見つかったのだと思います。100枚レビューをしたところでまだまだですが、「継続する」ことが大切だと思うので、これからも書くことを続けながら音楽に関わり続けたいです。
それに、最初に言ったように私は刺激を求め続ける性格なので(笑)、周りの人たちもみんなワクワクできるようなことを考え、それを実行していきたい。やらないと何も変わらないから、恐れず挑戦していきたいですね。
- 作品情報
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- RAY
『Yellow』(CD) -
2021年6月23日(水)発売
価格:1,650円(税込)
LSME2
- RAY
- プロフィール
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- 内山結愛 (うちやま ゆうあ)
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大学生兼アイドルグループRAYのメンバー。RAYではシューゲイザーをはじめ、IDMから激情ハードコアまで、「マイナー音楽×アイドルソング」に挑戦している。ディスクレビューnoteを週に1度のペースで公開し、Twitterでは“#内山結愛一日一アルバム”で毎日なんらかのアルバムを紹介中。DJとして活動することも。古今東西の名盤を聞きあさりながら日々音楽を楽しむ。