アイルランドはダブリン出身のバンド、My Bloody Valentine(以下、マイブラ)がDomino Recordingとの電撃契約を発表し、3月よりストリーミング配信およびダウンロード販売が解禁。5月21日には新装盤CD / LPをリイシューすることが決定した。
1988年のファーストアルバム『Isn't Anything』でシューゲイザーと呼ばれるサウンドの雛形をつくりあげ、続く1991年のセカンド『loveless』でロックシーンの金字塔を打ち立てたマイブラ。それから22年の歳月を経てリリースした2013年のサード『m b v』でも、これまでと同様に革新的なサウンドスケープを展開し新たなファンを獲得するなど、ほかに類を見ない存在感を放ち続けている。
ギターミュージックの可能性を押し広げ、1990年代以降に登場したほぼすべてのギターバンドに計り知れない影響を与えたマイブラのすごさとは、いったいどういうものなのだろうか。
今回Kompassでは、PELICAN FANCLUBのエンドウアンリ、Luby SparksのNatsukiとTamio、そしてモデルでデザイナーの菅野結以という、マイブラの魅力に取り憑かれた4人による座談会を実施。その奥深い魅力について、存分に語り尽くしてもらった。
ノイズに包まれているのになぜか安心するという「胎内回帰」のような感覚を、小6にして覚えたんですよね(菅野)
―まずは、みなさんとマイブラとの出会いから教えてもらえますか?
エンドウ:ぼくが高校生の頃、ディスクユニオンが「1991年特集」みたいな小冊子をフリーで配布していたんですよ(「90年代ディスクガイド『R-90』」#001号のこと)。そこにはCurveの『Doppelgänger』や、Lushの『Spooky』などが紹介されていて。
―ぼくもそれ、持っていました。Nirvanaの『Nevermind』やDinosaur Jr.の『Green Mind』、マシュー・スウィートの『Girlfriend』なども掲載されてましたよね。
エンドウ:そうですそうです! マイブラの『loveless』も当然ながら掲載されていて。それで初めて彼らの存在を知ってYouTubeで検索したら、おそらく非公式だと思うのですが“cigarette in your bed”の動画がアップされていて。それを見たときにとにかく衝撃を受けました。後半、メロディーは変わらないままリズムが倍になる瞬間がたまらなく好きなんです。なんでこんなに気持ちいいんだろう、誰がどんな顔して歌っているんだろう、どういう演奏方法なんだろうとか、いろんなことが気になりすぎて、気がついたら沼にはまっている状態だったんですよね。
My Bloody Valentine“cigarette in your bed”を聴く(Spotifyを開く)
Tamio:ぼくがマイブラに出会ったのは中2の頃。同級生のお父さんがPaint in watercolourというバンドをやっていた人で、家にたくさんCDがあったんですよ。The Stone Rosesなど、当時のUKインディーをいろいろ聴かせてもらってたんですけど、あるときマイブラの『loveless』を渡されて。それまで聴いたことのないサウンドだったのでびっくりしたのを覚えています。
Tamio:それまで父親がオルタナ系の音楽とかあんまり聴かせてくれなくて、Led Zeppelinとか聴いていたんですよ。「ギターを練習したかったらこういう古典的なロックを聴いて、ちゃんと耳コピしろ」みたいな。なので、NirvanaやSonic Youth、マイブラはこっそり聴いていましたね。
一同:(笑)
Tamio:子どもの頃って、親に対する反抗心ってあるじゃないですか。だからマイブラを聴くことが「親への反抗」みたいな(笑)。そういう象徴として刷り込まれるかたちで好きになったところはあるかもしれない。
―マイブラは「不良のアイテム」だったんですね。
Tamio:サウンドのすごさに気づいたのは、大学生になってからじゃないですかね。ちゃんとバンドを組んで、音づくりしようと思ったらあの音になかなかならなくて。それでケヴィンの足下を写した写真を見て諦めたんですよね、あまりのエフェクターの数の多さに。でも、そこがマイブラのすごいところでもあるし、好きなところでもあります。
Natsuki:ぼくは高校生の頃は、とにかく洋楽に詳しくなりたい一心で。特にバンドとかもやっていなかったし、誰にマウントを取ろうとしているのかよくわからなかったんですけど(笑)、とにかく自分のためのインプットとしてひたすらインディーロックのCDをTSUTAYAで大量にレンタルして、容量のでかいiPodに音楽が溜まっていくのが楽しい、みたいなことをしていました。TSUTAYAの洋楽コーナーに行くと、絶対に飾ってあるのが『loveless』のピンクのジャケットだったので、おそらく自然と手に取ったのだと思います。
最初に聴いたときは、じつはあまりピンとこなかったんですよ。でも高校3年生になって、タワーレコード渋谷店の洋楽フロアで働き始めて、そこで一番仲良くなった先輩から「絶対シューゲイザーとか好きなはずだよ」と言われて。「シューゲイザーってなんすか?」みたいな感じだったんですけど、それで調べて「そっか、あれ(『loveless』)はシューゲイザーだったんだ」と。それでようやく理解できるようになりました。
菅野:私は小学校6年生のときに、姉に連れられて観に行ったよく知らないバンドのSEでマイブラの“Only Shallow”が流れていて。そこで雷に打たれたような衝撃を受けたんです。ノイズに包まれているのになぜか安心するという、小6にして「胎内回帰」のような感覚を覚えたんですよね。
菅野:それに、自分がいままで好きだったものが、そこで全部つながったような感覚もあったんです。「こういうことだったんだ!」って。でも誰の曲なのかもわからなかったし、当時はShazamとかもないから(笑)、一生懸命その「音」を覚えて、ライブが終わったらいろんなCD屋さんへ行って、いろんなCDを聴いて「正解」を探しに行って。「これだ!」となったのが『loveless』だったんですよね。
誤解を恐れずに言えば、本当の意味で「シューゲイザー」と呼べるアルバムは『loveless』だけじゃないのかなと思う(Natsuki)
―「自分がいままで好きだったものが、そこで全部つながったような感覚」って具体的にはどんなことだったんですか?
菅野:もともと私は絵画が好きで絵画教室に通ったり、読書が好きで学校の休み時間もずっと図書室にいたりしていたんです。その頃から周りのみんなと「なんか話が合わないな」という感覚と、自分が「好き」と思うものが、他の人には刺さってない感覚がずっとあって。それでも自分にとってはこれが絶対に美しくて、素敵なものなんだという「基準」みたいなものがあったんです。「これ、なんなんだろうな?」って。写実は描けないけど抽象画は描けるとか(笑)、そういう感覚がマイブラの音楽で全部わかった気がしたというか。
菅野:まずはサウンドに惹きつけられたんですけど、あとから彼らのアートワークを見て、まさに私が小学校低学年の頃に絵画教室で描いていた絵の雰囲気だ! と思って(笑)。自分の美意識や美学が本当にサウンドになっていたんだな、というのを実感しました。
―マイブラは「シューゲイザーの代表格」と呼ばれていますが、それについてはどんな見解を持っていますか?
Natsuki:誤解を恐れずに言えば、本当の意味で「シューゲイザー」と呼べるアルバムは『loveless』だけじゃないのかなと思うんですよね。いまでこそチルドレンはたくさんいるけど、どれも(『loveless』がリリースされた)1991年以降に登場したわけで、それ以前にはああいう作品はなかったわけですし。だからこそ「シューゲイザーの生みの親」ということになっているけど、本当にあのアルバムと同じジャンルみたいなものはないし、本人たちが「シューゲイザー」と呼ばれるのが嫌なのは、きっとそういう理由なのかなと思います。
ただ、あのアルバムに影響を受けたバンドや作品が、こんなにたくさん生まれていることはすごいことだなと思います。こうやって、イギリスから遥か遠くで暮らすぼくら日本人の耳にも届いて、自分が音楽をやるときにインスピレーション源として無意識に引用していたりするっていう。一種の刷り込みというか、宗教的な感覚すらするんですよね。本当に、マイブラそっくりに音をつくっちゃっているバンドもいるじゃないですか。
―そうですよね(笑)。
Natsuki:「影響されたアルバム」に『loveless』をあげるバンドが毎年デビューしてるってすごいことじゃないですか? Tamioのお父さんが「これを聴かなきゃダメだよ」と言っていた、いわゆるロックのスタンダードを一つアップグレードさせたということですからね。
菅野:マイブラって「欠けている」し、正しくもなければ健康的でもない。なのにこんなにも美しかったり、なにもかもぶち壊していくほどやかましい爆音なのに、なぜか安らぎを覚えたり。そういう相反するものが共存していると思うんですけど、それこそが私は「芸術」だと思う。私が立ちあげたブランド「Crayme,」のテーマも「ambivalent」で、一番遠いもの、真逆のものの「共存」が自分にとって一番大事にしていることでもあるし、マイブラの一番惹かれるところでもあるんですよね。
感受性オバケだった小学6年生の自分にとってマイブラとの出会いはこのうえない衝撃で、今後あれほどまでに影響を与えてくれるものには出会えないかもしれない。見事に人生を狂わせられました(笑)。学校では誰とも話が合わずに孤立したけど、そのおかげであらゆるカルチャーを掘る時間ができたし、マイブラに出会ったおかげでいろんな音楽を好きになって、ラジオの仕事もはじめて。だから、出会ってなかったらと思うと恐ろしいくらいです。
―PELICAN FANCLUBとLuby Sparksの音楽には、マイブラの影響ってどのくらいあります?
エンドウ:ぼくにとってマイブラは、思春期の頃に言えなかったこと、沸々と湧いてくる思いを代弁してくれた存在だったんです。しかも「言葉」ではなく「サウンド」で。さっき菅野さんが、「なにもかもぶち壊していくほどやかましい爆音」とおっしゃっていたけど、まさにそう。鬱屈した気持ちを爆音で打ち払ってくれたのがマイブラだったんですよね。だから、ぼくが音楽をやるときもそういう存在でありたいと思いました。ジャンルはどうであれ、思春期の人にとっての「代弁者」になりたいと。ぼくがマイブラから譲り受けた部分はそこなのかなと思います。
―精神的な部分が大きかったのですね。
エンドウ:もちろん、真似もしますけどね(笑)。ジャズマス(Fender Jazzmaster:ケヴィン・シールズのトレードマークともいえるギター)に、ケヴィンが使っているエフェクターをつなげて鳴らしたこともあるし、いまも時々やっています。ただ、曲として届けるときには「要素」として取り込むことはあっても、ちゃんと距離感は持っていたい。もちろん精神性というか、マイブラを聴いていなかったら、やはりこんなアレンジにはならなかったなと思いますが。
PELICAN FANCLUB“ディザイア”を聴く(Spotifyを開く)
Natsuki:ぼくは歌詞からの影響はダイレクトに受けていますね。マイブラの歌詞、めちゃくちゃ参考にしているんですよ。
―へえ!
菅野:サウンドではなく、歌詞に影響を受けたという話はあまり聞いたことがないかもしれない。
Natsuki:ファーストアルバム『Luby Sparks』をつくっているときも参考にしていました。マイブラの歌詞は、シンプルだけど響きのいい単語がすごく多いんですよ。しかも、言葉を選ぶセンスがメチャメチャいい。こういうジャンルで、のちに使われがちな単語、例えば「sleep」とか「honey」とかそういういい感じの、語呂のいい単語の宝庫なんです。いろんなバンドの歌詞を参考にしているんですけど、そのなかでもマイブラの歌詞はずば抜けて綺麗だなと思いますね。ストーリー性とかなくても、ただただ響きの綺麗な一節が歌詞のなかに入っているのがぼくにとっては理想で。それをうまくやっているのがマイブラだと思っています。
とにかくメロディーラインが素晴らしくて。コードに対してのメロディーの当て方が、どんな曲をやってもマイブラでしかない(エンドウ)
―Tamioさんは、ギターのサウンドメイキングでケヴィンに影響を受けているところあります?
Tamio:ケヴィン・シールズさんは、よくギターのネックにカポをつけるじゃないですか。あと変則チューニング。マイブラ独特の浮遊感って、レギュラーチューニングだと絶対出せない曲もあって。変則チューニングでカポをつけて空気感を出すみたいな。そういう部分ではすごく影響を受けています。
エンドウ:とてもわかります。
Tamio:ぼく、下北沢で一度PELICAN FUNCLUBのライブを観たことがあるんですけど、開放弦を多用していますよね。スリーピースバンドだから、弦の響きがより重要になってくるんじゃないかと思っていました。
エンドウ:そうなんですよ。開放弦の揺れが気持ちいい浮遊感を出すんです。同じAのコードを弾くにしても、開放弦を使って弾きたくなりますよね。
Tamio:そうそう。じつは、いまつくっているLuby Sparksの新作でも、どの曲にも絶対に開放弦を使っています。あとは、6弦をダウンチューニングさせて弾くことは結構ありますね。メタルバンドがよく用いるチューニングなんだけど、オルタナバンドも浮遊感を出したいときとかよく用いています。Swervedriverとかもよくやっていましたね。
Luby Sparks“Birthday”を聴く(Spotifyを開く)
―みなさん、マイブラのライブは観たことありますか?
エンドウ:2018年に観ました。初期の楽曲の印象はガラッと変わりましたね。“thorn”を生で聴いたときにはすごすぎて爆笑しました。「これ、ぼくがやりたかったんだけど」という嫉妬と衝撃がないまぜになって。“you made me realise”もとてつもなかったですね。
My Bloody Valentine“thorn”を聴く(Spotifyを開く)
Tamio:ぼくは2013年と、2018年の2回行きました。2013年のときは新潟に住んでいたんですけど、学校には仮病を使って東京まで観に行ったんですよ(笑)。しかも、これが自分にとって生まれて初めてのライブ。なのに、会場に入る前に耳栓を配られるじゃないですか(マイブラのライブは、あまりにも轟音のため事前に耳栓が配布されることもある)。めちゃめちゃ怖かったんですよね。
一同:(笑)
Tamio:でも最初の音が鳴った瞬間、「でかい!」というより「気持ちいい」と思ったんですよね。ただ音量があがっているのではなくて、音圧の稼ぎ方がすごいんだなと。それはきっと、バンドだけでなく帯同しているスタッフの力もあるのでしょうけど。いずれにせよ最初に観たのがマイブラで、それがライブの基準になっちゃっているから、他のライブを観ても「音、ちっちぇえな」と思ってしまう。
―それはよかったのか、悪かったのか難しいですね(笑)。
菅野:私もTamioくんと同じで、初めて観たのは2013年の新木場コーストです。そこで「爆音」と「轟音」の違いを知りました。爆音は耳が痛くなるけど、轟音は気持ちいいんだって。ライブは「聴く」のではなく「体感」するものだなと思ったし、身体中に膜ができて台風の目のなかにいるみたいな感覚というか。ずっと音にマッサージされているみたいでしたね(笑)。“you made me realise”のノイズビット(曲中、10分以上にわたってフィードバックノイズを奏でているセクションのこと)には「永遠」を感じました(笑)。ずっと自分の記憶を辿っているようでもあったし、さっきも言ったように胎内回帰みたいな、自分のなかに潜っていく感じもありましたね。
Natsuki:ぼくは「SONICMANIA 2018」で初めて観ました。ちょうどそのときにYuckのマックス・ブルームが、ぼくらのEP(『Luby Sparks』)のプロデュースで来日してたんです。レコーディングが終わって、メンバーとマックスと一緒にメッセまで行きましたね。マックスもマイブラが大好きで散々影響を受けているんだけど、まだライブを観たことがなかったらしくて。めちゃくちゃ興奮していました。
実際の演奏は、あれだけのヘッドライナー級の存在になっても相変わらず荒々しくて(笑)。根っこの部分にパンクとかハードコアがあって、そこの部分はずっと揺らいでいないんだろうなと思って感動しましたね。
―今回、マイブラの楽曲がサブスク解禁になりましたが、あらためて聴いてみてどう思いましたか?
エンドウ:ぼくは『m b v』にめちゃくちゃハマりました。リリースされた2013年に聴いたときは、正直ピンとこなかったんですよ。きっと『loveless』の存在が、自分のなかであまりにも大きくなり過ぎてしまったからだと思うんですけど。でもリリースからもう8年経つじゃないですか。今回サブスク解禁になったのであらためて聴いてみたら、とにかくメロディーラインが素晴らしくて。コードに対してのメロディーの当て方が、どんな曲をやってもマイブラでしかないんですよね。
My Bloody Valentineのサードアルバム『m b v』を聴く(Spotifyを開く)
Tamio:ぼくもサブスク解禁して、『m b v』をあらためて聴いていいなと思いました。
―『m b v』は、リリース当時は確かに賛否両論でしたよね。菅野さんはどうでしたか?
菅野:私はリリース当時から大好きでした。綺麗で正しくて、すごくかっこいいものが聴きたいならマイブラじゃなくてもいいと個人的には思うから(笑)。彼らの味というか、そこにしかない肌馴染み感を求めてマイブラを聴いているので、「最高だな」と思いましたね。本当にいい意味で変わっていないというか。時を経ても変に大人になったり、悟ったりせず曖昧な少年のまんまで。ケヴィンはずっと夢を見ているんだなと思ったのが、すごく励みになったんですよね。「自分もこのまま生きていける気がする!」って(笑)。
いまはビンテージのロックTシャツが高騰している。そのなかの頂点というか、もっとも高価でレアなのがマイブラ(Natsuki)
―いっときはEDMとヒップホップに席巻されていたギターサウンドが、ここ最近、また復活している感じがするんですよね。しかもビーバドゥービーやスネイル・メイルなど、マイブラの遺伝子を感じる存在も多いと思うのですが、その辺りどうでしょう。
エンドウ:ちょっと前になるけど、DIIVの『Deceiver』やStar Horseの『You Said Forever』にはマイブラの遺伝子を感じます。最近だと4ADのDry Cleaningが最高ですね。挙げていくとキリがないけど、Captured TracksやLuxury Recordsの人たちがマイブラフォロワーだと感じるし、佇まいからして「マイブラ好きなんだろうな」というバンドも多いじゃないですか。アートワークやアー写の雰囲気で音がわかるというか、ジャケ買いもあまり失敗しない。
―個人的にはスカルクラッシャーが、マイブラっぽいというか。轟音ではないけど、メロディの浮遊感に通じるものを感じました。
菅野:最近、スカルクラッシャーめっちゃ聴いてます。女の子で轟音を鳴らすかっこいい子たちが増えていますよね。日本でもラブリーサマーちゃんとか、リーガルリリーとか。
スカルクラッシャー“Song for Nick Drake”を聴く(Spotifyを開く)
エンドウ:リーガルリリー、ヤバいすよね。
Tamio:ギターの音がほんとすごい。
Natsuki:マイブラがサブスク解禁したタイミングで、Yuckのマックスやハッチーが一斉にインスタにマイブラをあげていたので、「みんな待っていたんだな」って思いました。ちなみにハッチーは以前、共演したことがあるんですけど、彼女はプロジェクト名をHatchieにするかHoney Power(マイブラの曲名)にするかで悩んだらしいです。
―いい話ですね(笑)。
Natsuki:あと、これは少し音楽から離れるのですが、ぼくは古着屋でも働いていて、いまってビンテージのロックTシャツがものすごく高騰しているんですよ。そのなかの頂点というか、もっとも高価でレアなのがマイブラなんです。The Cureも人気ですが、マイブラのほうがレアなのはオフィシャルのマーチャンダイズが当時はまったくと言っていいほどなかったからなんですよね。当時のTシャツ、5万とかで売っているんですよ。しかも日本だけじゃなくて世界的に人気なんです。
一同:へえー!
Natsuki:ここまで高騰した理由の一つは、カニエ・ウェストが『feed me with your kiss』(1988年)のジャケットをモチーフにしたTシャツを着ていたからです。ちなみにThe 1975も、前回来日したときにRideのTシャツを着ていましたけど、あれも古着で4万くらいするんですよ。昨年、Supremeがマイブラとコラボしたシリーズを出していましたけど、きっとそういう状況を知っているからだと思うんですよね。
菅野:あのシリーズ、まんまと買っちゃいました(笑)。
Natsuki:ファッション業界にも影響を及ぼしているのだから、マイブラが残したものは偉大すぎるというか。すごいよなあとあらためて思います。レコードも1990年代のオリジナル盤が高騰していますが、個人的にはTシャツにしてもレコードにしても、「ビンテージのほうが価値がある」みたいなのは、ちょっと古いのかなと思っていて。
それよりも、今回のようにDominoから再発されたり、Supremeとのコラボで新しいシリーズが出たりして、若い人たちに知ってもらう機会が増えるほうが健全だなと思います。マイブラのこと全然知らない人がTシャツを着て、それがきっかけで好きになってもらえたりするのとか、めちゃくちゃいい流れじゃないですか。
―確かに。いまは音楽もリリースされたらすぐ消費されてしまいがちだけど、こうやって再発するたびに話題になって、あらためて聴いてまた「いいな」と思える作品があるのは尊いことだなと思います。最後に、マイブラに今後期待することがあればぜひ。
エンドウ:とにかく曲をたくさん書いて、ライブしてくださいという気持ちですね。
Tamio:新作は、2枚同時に出すって言ってるんですよね。
―『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューによれば、1枚目のアルバムには「あたたかくメロディック」な楽曲が収録されて、2枚目のアルバムはより実験的なものになるそうです。『m b v』を出すのに22年もかかったんだけど、大丈夫かな。
Natsuki:はははは。1990年代より機材のレベルがあがっているなかで、どんなサウンドがつくられるのか。めちゃくちゃ楽しみですよね。
菅野:私はマイブラのピュアさというか、混沌としているようでものすごく澄んでいる、そういうサウンドやバンドとしての在り方がすごく好きなので、これからもずっと変わらずいてほしいです。新作は、いつまででも待てるので(笑)、好きなときに作品をつくって、好きなときに日本に来てライブをしてほしいなと思います。長生きしてほしいですね。
- リリース情報
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- PELICAN FANCLUB
『ディザイア』 -
2020年10月3日(土)配信
(TVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』第2クールエンディング主題歌)
- Luby Sparks
『Birthday』 -
2020年1月15日(水)配信
- My Bloody Valentine
『Isn’t Anything』 -
1988年11月21日(月)発売
- My Bloody Valentine
『loveless』 -
1991年11月4日(月)発売
- My Bloody Valentine
『m b v』 -
2013年2月2日(土)発売
- My Bloody Valentine
『ep’s 1988-1991 and rare tracks』 -
2012年5月4日(金)発売
- PELICAN FANCLUB
- プロフィール
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- PELICAN FANCLUB (ペリカンファンクラブ)
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エンドウアンリ(Vo, G)、カミヤマリョウタツ(B)、シミズヒロフミ(Dr)からなるロックバンド。エンドウアンリによる「透き通るほど〈純度の高い声〉」の存在感と、散文詩のように描かれる「音のように響く歌詞」の世界―――。シューゲイザー・ドリームポップ・ポストパンクといった海外の音楽シーンとリンクしながら、確実に日本語ロックの系譜にも繋がる、洋・邦ハイブリットな感性を持つスリーピースバンド。ライブでは独自のスタイルで唯一無二の空間を創り出す、ロックシーンにおける「異端」の存在。最新曲「ディザイア」(TVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』第2クールエンディング主題歌)が配信中。
- Luby Sparks (ルビースパークス)
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Natsuki(Vo, Ba)、Erika(Vo)、Sunao(Gt)、Tamio(Gt)、Shin(Dr)の5人組。2016年3月結成。2017年7月には『Indietracks Festival 2017』(英国ダービーシャー)に日本のバンドとして唯一出演。2018年1月、マックス・ブルーム(Yuck)と全編ロンドンで制作したデビューアルバム『Luby Sparks』を発売。2018年11月、4曲入りのEP『(I’m) Lost in Sadness』をリリースしている。2019年1月には、Say Sue Me(韓国)を招き、初の自主企画ライブ『Thursday I don’t care about you』を成功させ、10月15日にはjan and naomiをゲストに迎えたTAWINGSと共同企画『Dreamtopia』を渋谷WWWで、10月25日には、Yuckを来日させ、自主企画第二弾『Yuck X Luby Sparks 2019』をLOOPで開催。これまでにThe Vaccines、The Pains of Being Pure at Heart、TOPS、NOTHINGなど、海外アーティストの来日公演のフロントアクトも数多く務めている。
- 菅野結以 (かんのゆい)
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雑誌『LARME』『with』などで活躍するファッションモデル。10代の頃から『Popteen』『PopSister』の専属モデルを務め、カリスマモデルと称される。2010年8月に初の著書『(C)かんの』を出版し、その後最新スタイルブック『yuitopia』まで6冊の書籍を発売。アパレルブランド「Crayme,」、コスメブランド「baby+A」のプロデュースおよびディレクションを行っているほか、TOKYO FM『RADIO DRAGON -NEXT- 』、@FM『LiveFans』では豊富な音楽知識を生かしてパーソナリティを担当している。SNSの総フォロワー数は約100万人に及ぶ。