世界で人気を集める、日本のアニメ。海外の至るところで老若男女問わず愛されており、いまやメインストリームなカルチャーに成長した。
Spotifyは、そんなアニメの楽しみ方をより多面的に広げ、世界中のアニメファンが関連する音楽や音声コンテンツを楽しめるように場や接点をつくってきたことをご存知だろうか?
今回、Spotifyがなぜ「アニメ」というジャンルを支持し、どのような取り組みを行なってきたのか、その想いとともに紐解いた。
日本のアニメを世界につなぐ、Spotifyのプレイリスト
2016年秋より日本での正式サービスを開始したSpotifyが、アニメーション作品との連動企画を本格的に始めたのは2018年から。2017年にジャズを題材とした石塚真一によるコミック作品『BLUE GIANT』シリーズと連動する公式プレイリストを作成したのが最初の事例だが、翌年頃からアニメ関連楽曲のストリーミング配信が増加したことをきっかけに、2019年にかけて『進撃の巨人』や『ジョジョの奇妙な冒険』『東京喰種トーキョーグール』『僕のヒーローアカデミア』『攻殻機動隊』といった人気アニメ作品の公式プレイリストを次々と立ち上げた。
アニメのキービジュアルを必ずカバーに使用し、作中で流れている楽曲や主題歌、サウンドトラックをプレイリストで紹介。それにより関連アーティストの再生数が海外で伸びるという現象が起き始めたのもこの頃だ。その結果は、その年の「海外で再生された日本の音楽ランキング」に如実に現れるようになった。
こうした動きが顕著になりつつあるなか、アニメ作品で使用される楽曲のストリーミング配信がさらに広がり、また公式プレイリスト作成時に使用するキービジュアルなどのアニメ制作側からの提供や協力も格段に増えていく。例えば『機動戦士ガンダム』シリーズ、スタジオジブリ作品、『カウボーイビバップ』『エヴァンゲリヲン』シリーズなど、日本以外でも人気の高いアニメ作品のプレイリストが登場し、海外のファンから注目を集めた。さらに空前の大ヒットとなった『呪術廻戦』や『SPY×FAMILY』などの人気の高いアニメ作品と、プレイリストにとどまらずポッドキャストなどのコンテンツで連動する流れもできていく。
米津玄師『チェンソーマン』主題歌、国内アーティストで初のグローバルトップ50ランクイン
2019年11月には、作品単位、公開年代別、制作スタジオ別など、アニメに関連する公式プレイリストやポッドキャストなどをワンストップで見つけられる「アニメ」ハブがローンチ。海外でも多くのマーケットでこのハブが設置されたこともあり(現時点で38の国と地域で展開中)、アメリカやブラジル、メキシコ、さらにはインドネシアやフィリピン、台湾など海外でのアクセス数が大きく増えていく。
ここ数年は、ポッドキャストでの取り組みも増えてきている。最初に注目を集めたのは2019年10月に配信スタートした『ヒプノシスRADIO -Spotify Edition-』。これは、音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』に登場するキャラクターが毎週1人ずつ週替わりで登場し、キャラクターの設定に沿ってリスナーのお悩み相談に答えるTOKYO FMとのコラボ番組で、世界的にみてもトップクラスの新規リスナー数を獲得するなど大きな成功を収めた。
そして2021年1月から新たにスタートしたのが、『呪術廻戦』と連動したオリジナルポッドキャスト番組『呪術廻戦 じゅじゅとーく + オーディオコメンタリー』だ。毎回『呪術廻戦』の出演声優をゲストに迎え、収録の裏側や作品の見どころなどを紹介する内容が好評を博している。
かつて日本のアニメ作品は海外での公開までタイムラグがあり、熱心なファンが海賊版に手を伸ばして楽しんだりするようなニッチな市場だった。しかし、この数年NetflixやAmazon、Crunchyrollといった動画プラットフォームの普及によって、ほとんどリアルタイムで正規配信される動画を見ることができるようになった。アニメが国際的な人気コンテンツとなったのは、「受け手側の環境」が整ったことも理由の一つに挙げられるだろう。
それに伴いアニメ関連の音楽もメインストリームになりつつある。これを象徴する出来事が、米津玄師が歌う『チェンソーマン』のオープニングテーマ“KICK BACK”の大ヒットだ。10月12日に配信されたこの曲は、国内アーティストとしては初めてSpotifyのグローバルトップ50にランクインするという快挙を成し遂げたのである。
「成長」するプレイリスト。『竜とそばかすの姫』とタッグ
ではここで、Spotifyがタッグを組んだ主なアニメ作品をいくつか紹介していこう。
まずは細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』。この作品に関しては、かなり早い段階からスタジオ地図との連携が進められていたという。音楽と親和性の高い作品であり、millennium paradeや中村佳穂が深く関わるという情報も内々に得ていたが、Spotify側が苦心したのは、映画公開までその肝心な「音楽」が配信リリースされなかったこと。そのため映画の公開直後でないと、公式プレイリストを組むための曲数が整わない事態に直面したのである。
限られた条件のなか、事前に盛り上げるために何ができるか。試みの一つとして、映画の公開数か月前に『This Is スタジオ地図』と銘打ったプレイリストをローンチ。『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』など、これまでスタジオ地図が手掛けてきた5作品に使用された音楽をまとめて公開した。そこである程度のフォロワー/リスナーベースをつくったうえで、『竜とそばかすの姫』の公開に合わせてプレイリスト内容を一新するという、いわばプレイリストが「成長」していく戦略をとったのである。
また『竜とそばかすの姫』の場合、映画制作チームと直接パートナーシップを組むことにより、メイン楽曲への「Canvas」(Spotifyモバイルアプリで楽曲を全画面再生する際に、背景でループ再生されるショートムービー)の実装や、映画を手掛けた音楽監督、ミュージックスーパーバイザーや関わった作曲家らが作品の裏側を語る「オーディオコメンタリー」を録り下ろし、それをプレイリストのなかに挿入するという施策も実施。映画をより深く知るためのコンテンツづくりに努めた。
さらに劇場では、来場者にステッカーを配布する試みも行なっている(この施策は後述する2作品でも実施)。ステッカーに印刷されたQRコードをスキャンすると、プレイリストにアクセスできる仕組みに。
他にも、映画公開1周年を記念して行なわれた、フルオーケストラの生演奏で細田守作品の映像を楽しむイベント『スタジオ地図シネマティックオーケストラ2022』では、Spotifyのプレミアムユーザーを限定数抽選で招待するといった複合的な取り組みも実施した。
Spotify独自の機能がつくる、『ONE PIECE FILM RED』のマルチコンテンツ体験
『ONE PIECE FILM RED』も、先述の『竜とそばかすの姫』と同様、音楽がメインの作品である。しかもAdoがメインキャラクターであるウタの歌唱パートを担当し、その楽曲を中田ヤスタカをはじめVaundy、Mrs.GREEN APPLEなど、Spotifyとも親和性の高いアーティストたちが手がけている。
そこでSpotifyは、作品に対してより没入感の高い音楽体験を目指した。例えば「Canvas」に加えて、作品に関するメッセージをデジタルブックレット的に表現した「ストーリーライン」を搭載。ちなみにこのプレイリスト限定で聴けるルフィのキャラクターボイス「ルフィからのスペシャルメッセージ!」が、バイラルチャートに長期にわたりランキング入りするなど珍しい現象も起きた。
屋外での施策としては、『探せ、ウタ声。』と題した宝探しイベントを8月に渋谷で開催。作中に登場する歌姫・ウタの楽曲の歌詞の一部が記載された広告が街中に散りばめられており、その広告の写真を撮り集めた参加者が指定された場所へ行くと、お宝の入ったガチャガチャで遊べるという仕掛けは、夏休み期間中だったこともあり大きな反響があった。
新海誠最新作『すずめの戸締まり』の『聴く小説』で生むシナジー
そして、新海誠が監督・脚本を務めた新作アニメーション映画『すずめの戸締まり』が2022年11月11日に公開された。
今回これまでにない新しい試みとして、『聴く小説・すずめの戸締まり』と題したSpotify限定の音声コンテンツをMusic+Talkフォーマットで配信したことが挙げられる。これは、ヒロイン岩戸鈴芽の声を演じた原菜乃華が映画のノベライズ小説の序盤部分を朗読し、それを全30話のオーディオブック的なコンテンツとして毎日更新していく、という新しい企画である。各話は5分前後のコンパクトな構成で、ちょっとした隙間時間に聴くことができ、連日更新されるので聴く習慣化にもつながりやすい。映画を観に行く人にとってある意味では「予習コンテンツ」にもなり、どんな映画なのか期待感を膨らませる役割も果たしている。
『聴く小説・すずめの戸締まり』は9月30日、RADWIMPSによる主題歌“すずめ”が配信されたタイミングで第1話の配信がスタート。映画公開前日の11月10日に全30話が完結するという時系列で連続配信された。現在は各話の合間にサントラ曲を散りばめて再構成した完全版として、まとめエピソードを一気に楽しむこともできる。
また、『This Is スタジオ地図』と同様のアプローチとして、『新海誠 音楽の扉』というプレイリストを9月30日に合わせてローンチ。これまでの新海誠作品を彩る音楽を軸に、前述の『聴く小説・すずめの戸締まり』も盛り込んだ内容で、新海誠作品の世界観に多角的に触れながら、映画公開およびサウンドトラックリリースの11月11日を楽しみに待つ設計となっている。
映画公開後は、サウンドトラック楽曲はもちろんのこと、作品内の印象的なシーンでSpotifyアプリから流れる設定の「昭和ポップス」の名曲たちもプレイリストに編成し、映画の追体験ができる仕掛けが施されていることにも注目したい。
「アニメは日本が世界に誇るポップカルチャーです。その魅力を音楽や音声コンテンツなどを通じて、世界のリスナーに多面的に紹介するのが、私たちSpotifyの果たすべき役割だと考えています」
そう語ってくれたのは、Spotify Japanで音楽関連の企画推進を統括する芦澤紀子氏。「Canvas」や「ストーリーライン」などを組み合わせ、音と視覚要素を絡めた多次元で楽しめるプレイリスト体験や、聴く小説、オーディオコメンタリー、キャラクターボイスなど作品の世界観を音声で楽しむ切り口、さらには「街」を絡めたオフプラットフォームでの多角的な展開。そして、世界に向けての発信。いまやSpotifyは、単なるミュージックプラットフォームではなく、新時代の「雑誌」的な役割を果たしているのだ。