長谷川白紙の楽曲を解剖 「リズム」「響き」「声」の3点から分析

長谷川白紙の楽曲を解剖 「リズム」「響き」「声」の3点から分析

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編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2019/11/13
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長谷川白紙『エアにに』は、これまでの総決算にして、今後の飛躍に一層の期待がかかる快作

長谷川白紙がフルレングスとしては1作目となる『エアにに』を11月13日にリリースした。才能あふれる若手シンガーソングライターたちが次々と注目を集める現在、もっとも待望されていた作品のひとつだ。

長谷川白紙『エアにに』を聴く(Spotifyを開く

長谷川白紙の音楽を言葉で要約してしまうのはちょっと難しい。現代音楽、ジャズ、テクノ、ブレイクコアをDAWに放り込んでミックスしたようなトラックに溶け込む、なめらかなボーカル。さらには、ポリリズムや変拍子を随所に援用し、ポップミュージックでは耳慣れないようなコードやメロディーの動きをためらいなく響かせる。というと、いかにもハイブロウな印象を受けるかもしれない。しかし、そうしたリズムや響きの魅力の沼へとリスナーを引き込むポップなフックをそこかしこにちりばめるバランス感覚が抜群に冴えている。これが長谷川白紙が注目を集めてきた所以だろう。

Maltine RecordsからのEP『アイフォーン・シックス・プラス』(2017年)、初の全国流通盤となったミニアルバム『草木萌動』(2018年)を経た『エアにに』は、これまでで最も躍動感に富み、キャッチーなフレーズにも事欠かない快作となった。

長谷川白紙(はせがわ はくし)<br>20歳音楽家。2018年12月、10代最後に初CD作品『草木萌動』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、各所で絶賛され、新たな時代の幕開けをも感じさせるものとなった。2019年11月13日、1stフルアルバム『エアにに』をリリース。
長谷川白紙(はせがわ はくし)
20歳音楽家。2018年12月、10代最後に初CD作品『草木萌動』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、各所で絶賛され、新たな時代の幕開けをも感じさせるものとなった。2019年11月13日、1stフルアルバム『エアにに』をリリース。 / 『アイフォーン・シックス・プラス』を聴く(SoundCloudを開く

長谷川白紙『草木萌動』を聴く(Spotifyを開く

『エアにに』には、新曲だけでなく、『アイフォーン・シックス・プラス』収録の“砂漠で”新録や、姫乃たまへ提供した“いつくしい日々”のセルフカバーも収められているから、ある意味「これまでの長谷川白紙」の総決算、とも言える。一方で、新曲はいずれも「これからの長谷川白紙」への期待をかきたてる変化を見せている。

本稿では、「リズム」「響き」「声」という3つのキーワードを設定し、『エアにに』の魅力に迫ってみようと思う。

『エアにに』の「リズム」ーー楽曲の姿かたちを自在に変化させるリズムの妙

先行配信もされた“あなただけ”は、ホーンが奏でる軽快なフレーズに導かれながらスウィングする、躍動感あふれるリード曲だ。キャッチーなメロディーは多分にシンコペーションを含んで、これでもかと裏拍を強調する。

長谷川白紙“あなただけ”を聴く(Spotifyを開く

もちろん単にシンコペートするだけであれば長谷川白紙のこれまでの楽曲にだっていくらでも例があるだろう。けれども、パーカッシブにスタッカートで刻まれるこのリズムの跳ね方には、如実に変化が感じられる。“あなただけ”のみならず、“風邪山羊”や“山が見える”でもシンコペーションが作りだす躍動感を存分に味わえる。特に“風邪山羊”は長谷川白紙の楽曲のなかでもファンク指数が図抜けて高いと思う。

長谷川白紙“風邪山羊”を聴く(Spotifyを開く

その変化は、前作に収録された“毒”や『エアにに』でその路線を引き継ぐと言える“o(__*)”と比べるとよくわかる。手数が多く刻みが多いカオティックな高速ブレイクビーツに対して、ボーカルのメロディーはもっとゆるやかに流れるように感じられる。

長谷川白紙“o(__*)”を聴く(Spotifyを開く

長谷川白紙“毒”を聴く(Spotifyを開く

個人的に、カオスのなかに浮遊するようなボーカル、というコントラストが長谷川白紙の魅力のひとつだと思っていた。それゆえに『エアにに』で聴ける、弾むように軽快なリズムはすごく新鮮に感じられたのだ。

とはいえ、単に「スウィングしていていいね」、あるいは「グルーヴィーだね」というにとどまらず、リズムのアクセントが表と裏を行き来した果てに、表と裏という対が溶け合ってしまうような瞬間に至るのが面白い。リズムを操り、楽曲の姿かたちを自在に変化させる長谷川白紙の持ち味がここにつながっている。

長谷川白紙“山が見える”を聴く(Spotifyを開く

シンコペーション以外でリズムから見て面白いのは、石若駿をドラムに迎えたポリリズム満載の“蕊のパーティ”や、ガバキック(ディストーションがかけられたキック音のこと)がカオティックなグルーヴのなかにガイドを刻み込んでいく“悪魔”の展開も面白い。

長谷川白紙“蕊のパーティ”を聴く(Spotifyを開く

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リリース情報

長谷川白紙『エアにに』
長谷川白紙
『エアにに』

2019年11月13日(水)発売
価格:2,300円(税抜)
MMCD20032

1. あなただけ
2. o(__*)
3. 怖いところ
4. 砂漠で
5. 風邪山羊
6. 蕊のパーティ
7. 悪魔
8. いつくしい日々
9. 山が見える
10. ニュートラル

プロフィール

長谷川白紙
長谷川白紙(はせがわ はくし)

20歳音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、2017年11月、Maltine RecordsよりフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』をインターネット上で発表。2018年12月、10代最後に初CD作品『草木萌動』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、各所で絶賛され、新たな時代の幕開けをも感じさせるものとなった。2019年11月13日、1stフルアルバム『エアにに』をリリースした。

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