2023年はRADWIMPSがひとつの目標として掲げていた念願のワールドツアーを実現させた年となった。2014年に初めて海外でのライブを行なって以降、アジアを中心にコンスタントにツアーを行ない、満を持してワールドツアーを計画したのが2020年。しかし、予想だにしなかったパンデミックによって、その計画はすべて中止となってしまう。
それでもバンドは歩みを止めず、国内でツアーを行ないながらワールドツアーを再度計画し、2023年それがついに現実に。北米・ヨーロッパ・アジア・オーストラリアを一年かけて回り、2000~5000キャパの会場が軒並みソールドアウト。どこの国や地域でも当初の想定以上のオーディエンスが集まり、各地での熱狂ぶりに、野田洋次郎は「ずっと夢のなかにいるような感覚でした」と話してくれた。
このワールドツアーの成功は、バンドが20年以上をかけて築き上げてきた地力を証明するものであると同時に、『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』という新海誠監督作品とのコラボレーションが世界的な人気を獲得したことも背景として大きい。現在日本の音楽はアニメとともに世界に届けられている一側面があるが、今回のツアーは「その先」を見つめるうえでも大きな意味があったはず。野田洋次郎にたっぷりと語ってもらった。
初の海外公演を行なった2014年と、ワールドツアーがパンデミックで中止になった2020年の記憶
―パンデミック明けの現在は日本人アーティストもどんどん海外に行くようになっているわけですが、RADWIMPSは2014年に初めて海外でライブをやっていて、その後もアジアを中心にコンスタントに海外ツアーを行なっていました。もちろん海外でライブをしていた日本人は他にもいましたけど、RADWIMPSぐらいの規模感でコンスタントに海外に行っていたバンドはそんなに多くなかった気がします。もともと海外でのライブはRADWIMPSの活動のなかでも大事にしていた部分だったのでしょうか?
野田:最初に海外に行った2014年が大きかったと思います。いまでも本当にはっきり覚えてて、初日が韓国のライブハウスだったんですけど、あのときの合唱が……日本のみなさんには申し訳ないけど、比じゃない熱量だったんですね。「やっと会えた感」っていうか、その喜びを全力で表現してくれて、その一期一会感が衝撃だったのを覚えてます。
その後に台湾、香港、シンガポールも回って、「海の外は別世界だ」みたいな感覚に自分たちが勝手になってたんだなと思い知らされました。自分は小さい頃にアメリカに行って帰ってきた身ですけど、やっぱり二十何年日本にいるとそういう意識が育まれるというか、いろんなエンタテインメントが国内で完結されてる世界だったし、それまではレーベルも日本での話に終始してたし。だからやっぱり初めて行ったあのタイミングからすべてを変えていった感じですね。
―初の海外ライブから6年後の2020年に北米、ヨーロッパ、アジアを回る初のワールドツアーが計画されていました。当時はバンドにとってどんなタイミングでしたか?
野田:北米にどうやって行くかがひとつのポイントとしてあって、事務所内でもずっと議論をしてたんです。周りを見ると『SXSW』をきっかけにするアーティストも多くて、そこから3〜4か所ツアーを回るっていうのが日本のバンドが北米に行くひとつのルートとしてある。で、実際僕らも『SXSW』の話をもらったり、「向こうのプロモーターで興味ある人いるよ」って社長からも言われてたりして。
でも俺は思い出づくりに行くみたいな感じになるのは嫌で、やるんだったらちゃんとストーリーを描きたい。それで「まだいまじゃないと思う」みたいな話を何回かしてきたうえで、2018年の終わりくらいに、「よし、2020年にやろうか」ってなった記憶があります。その前に日本で初めてのドームツアーをして、夏に北米からワールドツアーをスタートさせる。本当に「満を持して」っていう感じでしたね。2019年に『天気の子』が公開されて、それまでとはちょっと違う層に届いてるのもわかってたし、「ここで一回勝負をしてみよう」っていう感じがありました。
RADWIMPS『天気の子』を聴く(Spotifyを開く)
―逆に言うと、そうやって満を持して計画したワールドツアーがパンデミックの影響で全公演中止になってしまったショックは相当大きかったでしょうね。
野田:どん底に落ちたなっていう感じでした。3月から始まるドームツアーも1〜2週間前までゲネをやってたし、「4月には大丈夫だろう」みたいな感じでやってたのが、1本1本毎週のように延期になって、それが全部「もうめどが立たない」ってなったときには相当落ち込みましたね。
国からの援助もなかったし、あの年だけで何億という負債を物理的にもこうむったし、そのうえで海外も無理になって、だから本当に「うちの事務所つぶれるのか?」みたいな感覚があったし、いろんなことがありすぎて……よく生き延びたなっていう感覚ではありますね。でもやっぱりワールドツアーの中止が決まったあの瞬間、あそこでもういよいよ「僕らの今年描いてた物語がすべて終わったんだな」っていう感覚がありました。あのときは「もうどうにでもなれ」ぐらいの感覚にちょっとなっちゃった気がします。
「ずっと夢のなかにいるような感覚でした」。念願叶った初の北米ツアーと、そこで感じたアジア人のステータスの向上
―それでもバンドは止まることなく動き続け、国内ツアーを行ないながら再度ワールドツアーを計画し、昨年には3年越しで北米、ヨーロッパ、アジア、さらにはオーストラリアでのツアーを成功させました。昨年一年を振り返っていただけますか?
野田:いやもう本当にずっと夢のなかにいるような感覚でした。北米ツアーが4月からだったんですけど、その2〜3か月前からチケットが即完していってるっていう情報が入ってきて。最初は1000とか1500、多くて2000ぐらいのキャパを考えてたら、全部ソールドアウトしたので、そこからもっとキャパを増やしていって。だからツアーをいざ迎えるっていう以前にもう、お客さんと俺らの相思相愛の気持ちみたいなのがすごいところまで高まっているなっていうのを感じました。
野田:「どこどこ売り切れました、どこどこも売り切れました」「じゃあ会場のキャパを増やそう」「2〜3か月後だと会場がもうないです」「じゃあ2デイズにしよう」「2デイズにしても即完でした」みたいな。結果的にロスは6000キャパになって、もう信じられないような感覚ですよね。でもやっぱり2020年からの溜まりに溜まった想いが溢れ出てるなっていうのはすごく思って、だからもうステージに乗った瞬間、「やっと会えたな」っていう感覚でしたね。
―ライブ自体の手応えはいかがでしたか?
野田:すごくありました。僕らのことを最近知ってくれたお客さんもいたとは思うんですけど、もう20年以上やってきたバンドの地力がちゃんと発揮できたし、新海作品だけを知ってるような人に対しても、ロックバンドとしてのポテンシャルをちゃんと発揮できたと思います。
いろんなプロモーターからも感想をもらって、「こんなにフィジカルで、即興性も兼ね備えてるようなバンドとは思わなかった」みたいなことを各地で言われたり。見に来てくれさえすれば絶対に捕まえられる自信はあったので、それがすごく確固たるものになりました。あとはやっぱり白人だろうが黒人だろうがヒスパニックだろうが、みんなが日本語で歌ってくれるのは何回体験しても慣れることがないというか、「音楽っていう言語なんだな」っていうことに改めて気づかされました。
―お客さんの層は場所によってもそれぞれかと思いますが、ざっくりどんな印象でしたか?
野田:7〜8割は現地の、日本人以外の人たちがベースでいて、メキシコとかはほぼほぼ日本人いなかったんじゃないかな。そうやって現地のファンがたくさん待ってくれていることがまず嬉しかったし、あとやっぱり日系人の扱われ方の変化を感じましたね。
僕はアメリカに行ったのが10年ぶりだったんですよ。28歳のときに旅行で行って、そのときも10年ぶりぐらいで、だから10年スパンでしかアメリカを見てないんです。10歳まで住んでて、その後に行ったのが18歳ぐらいで、その次が28歳で、今回37歳。で、やっぱり俺が住んでた30年前とは比べ物にならないぐらい……もちろんまだ差別はあるんだろうけど、でもアジア人のステータスがこんなに向上してるんだっていう感覚はものすごく感じました。
野田:俺が住んでた30年前は、日本人っていうだけで差別的に見られる部分がいくらでもあったし、そういう扱いもたくさん受けたし。でもいまはどこかで憧れの対象にもなってたりするわけですよね。白人、黒人たちにとっても、日本語はかっこいいし、アニメはかっこいいし。それって数少ない日本人がアメリカで頑張り続けたのと、日本のなかでクリエイターたちが頑張り続けたのと、その両方の結果だと思うと、ちょっと熱い気持ちになりました。
―特に印象的だった会場はありますか?
野田:メキシコに今年も行くことになったのは、会場の圧倒的な熱狂を目の当たりにしたことが大きかったですね。人間の持ってるエネルギーをまざまざと見せつけられるっていうか、開場した瞬間から開演までの2時間お客さんがずっと絶叫し続けてるんですよ。
とにかく「RAD! RAD!」って叫んでたり、俺らの歌を歌ったり。本番前に枯れ果ててるんじゃないの?ってぐらい叫び続けて、でも本番になった瞬間そのまた何倍も大きな声になって。だからイヤモニしててもお客さんの声がでかすぎて自分たちの音が全然聴こえないんですよ。それにとにかく圧倒されて、「メキシコだけは来年も行こう」という話になりました。
映画『すずめの戸締まり』との相乗効果、「ここからは日本から生まれるコンテンツということをさらに意識することが大事」
―セットリストについても聞かせてください。新海作品関連の楽曲に対する人気がありつつ、もちろんそれだけじゃないいろんな曲をバランスよく揃えながら、ベストなセットリストを探っていったのかと思いますが、そこに関してはいかがでしたか?
野田:やっぱり新海作品にまつわる曲は柱にはなるので、それを要所要所に置きながら、その間でRADWIMPSの懐の深さだったり、音楽性の部分でたくさん見せたいなっていうことでバランスを取って、セットリストも含めてすごくいいツアーだったと思います。
あとやっぱりサントラを全部やってるだけあって、去年やったインスト曲は“三葉のテーマ”だけですけど、それを弾き始めた瞬間の反応もすごかったりして、劇伴のツアーも全然できるだろうなって。オーケストラを連れてとか、可能性はすごくいろいろ感じますよね。
RADWIMPS“三葉のテーマ”を聴く(Spotifyを開く)
―やっぱり新海作品の曲をやったときの反応はすごかったですか?
野田:すごかったです。特に北米では『すずめの戸締まり』が4月から公開になったのもあって、映画のプロモーションと同じタイミングで。5月のヨーロッパもたしか現地で上映している時期に僕らもツアーを回ってて、それも奇跡的な感じでしたね。北米やヨーロッパの映画公開の時期がわからない段階で、ツアーは先に日程を出していたので、本当に奇跡としか言いようがない。ロスで向こうの吹替版の映画も見ましたし、そういうのも楽しかったです。
―曲によっては映像演出も込みで演奏したそうですね。
野田:“カナタハルカ”は『すずめの戸締まり』の映像を貸してもらって、プロモーションも兼ねて演奏したんですけど……そのときはあまりにもみんなスマホで撮るから、何回か心折れそうになりましたけどね。誰に向けて歌ってんだろうって、わからなくなる瞬間もあって。でもものすごい熱狂でした。
RADWIMPS“カナタハルカ”を聴く(Spotifyを開く)
野田:どこの会場も基本自由にスマホでの撮影OKだったので、逆に日本のライブの良さを感じたりもしました。スマホなくてライブをやるって、本当にかけがえないというか、そのときの一瞬をお互いの目に焼き付けて、耳に焼き付けてっていう日本のライブはすごくいいなと思ったりもしました。
―日本のアーティストの曲がアニメを介して世界に知られることはいいことではあると思うけど、この先はそうやって曲を知ってくれた人をちゃんとアーティストのファンにすることだったり、ライブに行きたいと思わせることが大事になってくるかと思います。そういった意味での手応えはいかがですか?
野田:いまは日本から発信される日本のコンテンツを、どれだけクオリティ高く面白いものをつくれるか。その特異性というか、日本だからこそ生まれたものが現在の結果を招いてるわけだから、そこを大事にしてやり続けるべきだなって。
この前『龍が如く』でJ.I.Dとコラボをして、何年も前からJ.I.Dのラップがずっと好きだったから、いざ一緒にやれるってなったときも英語でやろうかなと思ったんですけど、J.I.Dの方から「日本語でやろうよ」って言ってくれて、そういう時代なのかなと思いました。
野田洋次郎とJ.I.Dがテーマ曲“片時”を担当した『龍が如く7外伝 名を消した男 』オープニングムービー
野田:同時翻訳のツールもものすごく発展してるし、一昔前だったら米国などでは英語以外の言語はなかなか受け付けられなかったりもしたと思うけど、いまは当たり前に境界線がなくなってきてるから、ここからは日本から生まれるコンテンツということをさらに意識することが大事かなと思ってます。
“前前前世”や“ハイパーベンチレイション”、国内外での楽曲の受け取られ方の違い
―日本ではお馴染みの曲だけど海外では反応が違ったり、逆に日本よりも反応が大きい曲があったり、そういった違いも感じましたか?
野田:セットリストを考えるときにSpotifyの上位曲を各国見せてもらったんですけど、本当に各国全然違うんですよ。例えば、北米だと“ハイパーベンチレイション”が上位に入ってて、新海作品のいくつかの曲を上回ってたりとかして。なので、そういうのも参考にしながらセトリはつくりました。
RADWIMPS“ハイパーベンチレイション”を聴く(Spotifyを開く)
野田:あとアジアのお客さんは、もしかしたら日本のファンよりも俺らの歌詞を覚えてると思います。サビだけじゃないんですよね。AメロもBメロも歌い続けてて、本当にすごかった。
日本人が英語の曲を聴いて、その意味を自分で解釈して、なんならそれを喋れるようになるところまでいくっていうのはなかなか難しいと思う。アジアのほかの国の人は日本語を学校で習ったわけでもないと思うんですけど、映画や音楽で勉強して、喋れるところまでいってるので、その知的欲求とか知的探究心は、僕ら日本人も見習わなきゃいけないんじゃないかと思いました。
―Spotifyの人気上位曲を見ると“すずめ feat. 十明”が一番再生数が多くて、その後には『君の名は。』関連の楽曲が並んでいて。セットリストにも『君の名は。』関連の曲が多めに入ってたり、やはり海外だと特に『君の名は。』の人気が高いのでしょうか?
野田:『すずめの戸締まり』と『天気の子』の曲はフィーチャリングがいるのでやってないっていうのもありますけど……でもやっぱり『君の名は。』が入口になってるのかなっていう気はしますね。“前前前世”をわりと序盤にやるので、「もうやるんだ」みたいな……それは昔からそうだったんですよ。『君の名は。』公開時の海外でのライブでも大体1曲目にやってて、「それはもったいないんじゃない?」みたいなことを当時から言われてて。
RADWIMPS“前前前世 – movie ver.”を聴く(Spotifyを開く)
―それがRADWIMPSらしさでもあるわけですけどね。
野田:でもやっぱり“前前前世”は起爆剤になりますね。日本でも最近はあんまりやってなかったので、いざやるとやっぱりいい曲なんだなって気付かされます。つくった当時の自分のマインドも知れるというか、天邪鬼なバンドではあったので、変拍子もなく、王道の8ビートでここまでやりきってる曲は映画がなかったら絶対つくらなかったから、行き切った曲だなと改めて思ったりしました。
―改めて“前前前世”を聴くと、すごくポップパンクっぽくて。ここ数年でポップパンクのリバイバルが起きたりしたから、いま聴くとちょうどいいなと思ったりもしました。
野田:たしかに、そうかもしれない。ライブだとギターの歪みがちょっと増えて、よりパンクっぽさが増したりもするし、アップデートのしがいがある曲かもしれないですね。
ロンドン、パリ、ベルリン――数千キャパが埋まった8年ぶりのヨーロッパツアー
―北米の次が2015年以来8年ぶりとなるヨーロッパツアーでした。
野田:8年前は集客含めてアジアよりも大変でした。キャパ200とかのライブもあったし、ロンドンで700〜800とか。それでも日本人のお客さんにも頼ってたし、たぶん3〜4割はいたのかなっていう感じで、だからそれ以来行けてなかったんですよね。今回本当に満を持してまた行けて、ヨーロッパも本当にソールドアウトがすごく早くて、アメリカからの勢いがそのままつながっていった感じでした。
―キャパも今回は1桁増えて、ドイツのケルンでは4000キャパがソールドアウト。
野田:ケルンはもう見渡す限りお客さんっていうか、信じられない景色でした。アメリカともまたちょっと違う客層で、オタク度が増すというか、本当に好きなのが伝わってくる感じがありました。
アニメもそうだし、J-ROCKというか、ジャパニーズロックバンドが持ってる空気が好きな人もいるし。だからこれは俺ら1バンドじゃなくて、日本のロックバンドたちみんなで培ったものなんだろうなっていうのも感じました。あと「8年前に来た人いる?」って聞いたら、2〜3人手を挙げてくれたりとかもして、嬉しかったです。
―特別印象に残ってる国を挙げてもらうとしたら、やっぱりドイツ?
野田:ロンドンはロンドンでillionを始めたときによく行ってたし、昔初めて彼女と2人旅行したヨーロッパはスペインだったし、それぞれ思い入れはあるんですけど、でもドイツはたしかに特別だったな。ベルリンが即完して、追加でケルンが決まったんですけど、べニューも含めて感動でした。
野田:パリは親が住んでたのもあって、何回も行ってはいたので、凱旋感も含めて、すごい楽しかった。あと印象的だったのが、レジェンドたちが各会場でライブをやってて、それこそRADIOHEADだったりデヴィッド・ボウイだったりのサインと、その会場でやったときの写真が全部残ってるんですよね。錚々たる人たちがそこでやってて、自分も同じ場所でライブをやってるっていう、あれは感動しましたね。
「ホーム」を感じたアジアツアー、そして初上陸のオーストラリアツアーへ
―日本でのライブハウスツアーを挟み、7月からはアジアツアーが開催されました。アジアに関しては何度も行ってるから、「ただいま」という感じだったのかなと。
野田:そうですね。第3形態に入って凱旋みたいな感じっていうか、一回りも二回りも大きくなって、ホームに帰ってきた感じはありました。やっぱりアジアツアーは自分たちのホームだっていう感覚があります。ただアジアに関しては「チケットを買えない」っていう声がものすごくて、それが今年のアリーナツアーにつながってるんですよ。
野田:なんとかして会場をアップグレードしたいっていうのを直前まで言ってたけど、どうしてもコロナ明けで大きい会場は埋まっちゃってて、なので俺は去年のツアー中に今年のアリーナの発表をしたいぐらいの感じで。結果的にそれはできなかったけど、でも各会場で「来年また帰ってくるんで」っていうのを言いながらツアーを回りました。『すずめの戸締まり』は中国や韓国で歴代の日本映画の興行収入を塗り替えたりもして、その熱も存分に味わえました。
―もう毎回通ってるようなファンもいるだろうから、アニメ関連の曲以外でももちろん盛り上がるでしょうしね。
野田:本当にそうですね。どの曲でもずっとみんな歌ってるし、やっぱりここはホームなんだなって思います。北米とかヨーロッパはどこか掴みに行くっていうか、ちゃんと捕まえるぞっていう思いがあって、もちろんアジアもあるんだけど、それ以上に僕らにホームだと思わせてくれる空気があって、ありがたかったです。
―さらに10月にはオーストラリアツアーも行なわれましたが、他の国や地域との違いは感じましたか?
野田:たしかヨーロッパを回ってるときに「オーストラリアツアー、どうしましょう?」っていう議題になってて、「この勢いならいけるんじゃないでしょうか」みたいな感じで。ただ俺らからすると「南半球に俺らを知ってる人っているの?」みたいな感覚だったんですよ。俺ら本当心配性なんで、それこそSpotifyでリサーチとかして。で、結果的に「よし、やるか」みたいになって、最初シドニーは2000ぐらいのキャパだったんですけど、1日で売り切れて、気づいたら今回のツアーで3番目ぐらいにキャパがでかい会場になって。
野田:それもすぐ売り切れて、メルボルンももうちょっと会場広げようみたいになったけど、押さえられなくて、じゃあ2デイズにしようとか、それもびっくりしました。お客さんもすごくいいお客さんで、親日国なんだなって感じたし、また絶対戻ってきたいと思いました。去年のツアーの締めくくりにもすごくいい場所だったし、最高でしたね。
―こうやって振り返ると、本当にどの国や地域でも数千キャパの会場がソールドアウトになっていて、ものすごいことですよね。
野田:どの地域のプロモーターもみんなまっすぐに目を見て、「次はさらにでっかいところでやれるよ」と言ってくれたし、「またやろうよ」と熱く語ってくれたので、これはやっぱりただ思い出をつくっただけじゃなくて、ここからもっと育てていきたいなと思いました。
俺らにどれだけの時間が残されてるかわからないですけど、「RADWIMPSがやった」っていう実績がつくれたことで、「俺らもできるんじゃないか」と思ってもらえるミュージシャンがこの先続けばいいなと思うし、そうなっていってほしいなと心から思いますね。
「自分という人間を知ってもらうきっかけはひとつじゃなくて、網の目のように張り巡らせて表現していくこともすごく大事」
―現在はストリーミングサービスなどを通じて、日本の音楽が海外でも聴かれるようになってきたし、パンデミック以降は海外ツアーを行なうアーティストも増えているわけですが、洋次郎さんはこの状況自体をどんなふうに感じていますか?
野田:すごくいいことだと思います。でもここから10年ぐらいが試されてるなと思うのは、やっぱりいまはアニメとのタイアップみたいなところにものすごい比重が置かれてるというか、国内の音楽産業自体がたぶんいまそうなってて、アーティストが単体で育っていく、成立していく状況とはちょっと違うのかなと思うので、いまバンドを始める人たちは大変だろうなっていうのはどこかで感じていて。
だから海外に伝えていくときも、そのアーティスト自身のことをどんどん深掘りして好きになってもらうための、次の努力は必要だろうなとすごく思います。知るきっかけとして、タイアップだったりとか、コラボだったりがあったうえで、そのアーティストの幹のところまでたどり着いてもらうことが必要だろうなっていう感じはしますね。
―そういう意味でもライブをしに行く、実像を見てもらうことは重要ですよね。
野田:そうだと思います。あとバンドだったらバンドだけをやればいいと思われるかもしれないけど、ウェス・アンダーソンの『犬ヶ島』でベルリン映画祭のレッドカーペットを歩いたりとか、映画音楽をつくったりとか、芝居をしたりとか、俺はこれまで違う角度でも発信を続けてきて、根っこにちゃんとバンドもあってっていう、そうするとやがてその点と点がつながっていったりもするんですよね。
自分という人間を知ってもらうきっかけはひとつじゃなくて、網の目のように張り巡らせて表現していくこともすごく大事なのかもしれません。そうすることでより立体的になるっていうか、俺自身もそうやって人を知っていったらより知れた気になるし。だからやりたいことをとにかくたくさんやるべきだし、そうやってどんな角度であれ自分を表現し続けることがすごく大事だなと思います。
―いまは国内と海外をつなげるツールもたくさんあるから、いろんな活動をして種を蒔いていくことによって、いつか思いもよらない場所でそれが結びつくかもしれない。
野田:本当にそうで、予想もしないことが起きるんですよね。音楽を担当させてもらった『パレード』もNetflixで全世界配信されるし、昨日Instagramにそのことをポストしたら、コメントの半分ぐらい英語で。
野田洋次郎が音楽・主題歌を担当した『パレード』の予告編
野田:RADWIMPSを通して『パレード』を知ってくれるのは、俺が音楽をやるひとつの意味だろうし、そうやって日本の作品がより海外に伝わってたらいいなと思うし、予期しない作用がいっぱい起こってほしいなと思いますね。
2024年はアジアでアリーナ規模のライブを開催。野田洋次郎がツアータイトルに込めた想いとは?
―最後に、今年のワールドツアーについても聞かせてください。現在スケジュールが発表されているのが3月からのラテンアメリカツアーと、5月からのアジアツアーで、アジアではアリーナクラスの会場になると。
野田:海外でアリーナツアーをやることはひとつの夢でもあって。単純に機材だったり、演出面でもアリーナならやれることが多くて、それをちゃんと海外のファンの人にも見てほしいなっていうのはずっと大きな目標だったので、それができるのはすごく嬉しいし、去年よりもだいぶアップデートしたライブができるだろうなと思います。
そうなると世界のビッグネームと同じ会場でやることになるので、ちゃんと日本代表として、負けずにやりたいし、競うわけではないけど、俺らしかできないライブが必ずあると思うし、また来たいなと思えるライブをやろうと思ってます。
―ツアーのキービジュアルも発表されていて、田名網敬一さんの作品は素晴らしいですね。RADWIMPSとの相性もいいなって。
野田:まさか引き受けてくださるとは思ってなかったんですけど、日本でももっとアートと音楽がコラボレーションしていいなと思っていて、アメリカだとトラヴィス・スコットがツアービジュアルにジョージ・コンドを使ったり、当たり前にそういうことが起きてて、いざ俺が日本代表として出ていくなら誰だろうと思ったときに、田名網さんにぜひお願いしたいと思って。アトリエにお邪魔させてもらって、いろんなことを話して、このパワーを一緒に届けたいなと思いました。
―今回のツアーには「The way you yawn, and the outcry of Peace」というタイトルが付けられています。この言葉に込めた想いを教えてください。
野田:ワールドツアーは自分たちバンドとしては大いなる冒険ではあるんですけど、世界の景色としては決していま明るくはないので、ちゃんと自分への戒めも含めて……一番近くにいる人が情けないあくびをしてる姿の愛おしさと、でもいま、毎日誰かにとってのそういう愛しい人が失われてたり、血を流している。
その狭間に僕らは生きてるっていうことをちゃんと自覚したうえで祝祭感のあるツアーをしたいなと思っていて、それをちゃんとタイトルに落とし込むのはどうかなっていうのを……すごく迷ったんですけど、でもそれがRADWIMPSではあるなと思ったので、このタイトルにしました。
―現状RADWIMPSの日本語の歌詞の意味を海外のどれくらいの人が理解しているかはわからないけど、RADWIMPSの表現の深い部分、それこそ幹の部分を知ってもらうことが今後ひとつのチャレンジにはなりますよね。その意味で、このタイトルは日常や人生における両面性に目を向けながら、その先で光を見出そうとするバンドの意志が伝わるタイトルになっていると思います。
野田:「あなたは何を考えてるの?」とか「あなたはどう思うの?」っていうことを日本人は避けて通りがちだし、質問することもされることもなかなかないかもしれないけど、やっぱりその人のアイデンティティがなんなのかって実は一番大きなところで。
海外を回ってインタビューを受ければそれをすごい痛感させられるし、「あなたの意見はどうなのか?」とか「あなたはどう感じているのか?」っていうことを常に真ん中に持っておくことは、この地球上で生きるうえではすごく大事だなと思う。ちゃんとそういうアーティストでいたいし、ちゃんとそういう発信をできる人でありたいと思います。
- イベント情報
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『RADWIMPS WORLD TOUR 2024 “The way you yawn, and the outcry of Peace” [Latin America]』
3月15日(金)メキシコシティPepsi Center WTC
3月17日(日)モンテレイAuditorio Citibanamex
3月21日(木)サンパウロ Terra SP
3月24日(日)サンティアゴ Caupolican Theatre
『RADWIMPS WORLD TOUR 2024 “The way you yawn, and the outcry of Peace” [Asia]』
4月6日(土)東京 国立代々木競技場 第一体育館
4月7日(日)東京 国立代々木競技場 第一体育館
4月13日(土)横浜 ぴあアリーナMM
4月14日(日)横浜 ぴあアリーナMM
5月1日(水)マニラ Smart Araneta Coliseum
5月7日(火)香港 AsiaWorld-Expo Hall 10
5月11日(土)シンガポール Singapore Expo
5月15日(水)台北 Taipei Music Center
5月23日(木)バンコク UOB LIVE
5月25日(土)ソウル SK Olympic Handball Gymnasium
- プロフィール
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- RADWIMPS (らっどうぃんぷす)
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野田洋次郎(vo/gt/pf)、桑原彰(Gt)、武田祐介(ba) (山口智史(Dr)は活動休止中) 。2001年結成、2005年メジャーデビュー。ジャンルという既存の枠組みに捉われない音楽性、恋愛から死生観までを哲学的に、情緒的に描いた歌詞で、思春期を過ごす世代を中心に幅広い層に大きな支持を受けている。その音楽性はバンドサウンドに留まらず、アニメーション映画『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』の音楽全般を担当。劇伴音楽でも多彩な作曲性を発揮し非常に高い評価を得た(それぞれの作品において第40回日本アカデミー賞最優秀音楽賞、第43回日本アカデミー賞最優秀音楽賞、第46回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞)。2023年は約5年ぶりの海外ツアーを敢行。国内でも約8年ぶりとなるライブハウスツアーを開催した。2024年3月にはRADWIMPS史上初上陸の地域を含む中南米4都市を巡る中南米ツアーを、4月から5月にかけては日本公演含むアジア7つの国と地域を巡るアジアツアーを開催する。