今、ロックが立ち向かう敵は気候変動? 大谷ノブ彦×柴那典が語る

今、ロックが立ち向かう敵は気候変動? 大谷ノブ彦×柴那典が語る

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柴那典
撮影:Uwabo Koudai 編集:中島洋一、中田光貴(CINRA.NET編集部)

大谷ノブ彦(ダイノジ)と、音楽ジャーナリスト・柴那典による音楽放談企画「心のベストテン」。Kompass初掲載となる今回は、『フジロック』で話題を呼んだNight Tempoの話からスタート。

Night Tempoの音楽的手法から派生して、映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『天気の子』の話に展開。気候変動の話からThe 1975やテイラー・スウィフトの新作の話まで、数珠繋ぎのように繰り広げられた音楽トークをお届けします。

(Night Tempoは)レトロフューチャーというか、実際には存在しなかった過去を表現している。(柴)

大谷:柴さん、見ました? 今年の『フジロック』でNight Tempoが渡辺美里の“My Revolution”をかけて大合唱になってたじゃないですか。僕にとってはね、あれが2019年夏の最大の衝撃でした。

渡辺美里“My Revolution”を聴く

:すごかったですね。めちゃめちゃ盛り上がってました。

大谷:『フジロック』って、コアな音楽好きが集まるフェスっていうイメージがあるじゃないですか。でも、実際は割とライトな人たちというか、とりあえず野外フェスに遊びに行こうという人たちも増えてるんですよね。というのも、何年か前に僕の友達がやってる「桑田研究会バンド」っていうサザンのカバーバンドが出たときも、めっちゃ大合唱が起こって。

:そうなんですよね。カバーバンドとかトリビュート企画も増えてきてる。

左から:柴那典、大谷ノブ彦
左から:柴那典、大谷ノブ彦

大谷:松田聖子のモノマネ芸人のまねだ聖子もウケてたし(笑)。そういう流れの先に“My Revolution”の盛り上がりがあるんだなって思いました。

:Night Tempoって韓国のアーティストなんですけれど、彼は自分の音楽のことを「昭和グルーヴ」って言ってるんですよ。よく「シティポップリバイバルの火付け役のひとり」みたいに言われるんですけれど、彼自身はシティポップも昭和歌謡も全部好きだから、DJではWinkの“淋しい熱帯魚”も渡辺美里の“My Revolution”もかけてがんがん盛り上がる。

Night Tempo, Wink『Wink - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』を聴く。Night Tempoがアレンジを手がけた“淋しい熱帯魚(Night Tempo Showa Groove Mix)”も収録されている

大谷:昭和の日本の音楽シーンに憧れてるんですよね。『フジロック』の次の日に西荻窪へ行って、商店街で写真撮ってましたから。

:普段は韓国で暮らしてるけれど、ちょくちょく日本に来てレコード買ったりライブを観にいったりしてるんですよね。

大谷:アメリカでも人気ですもんね。LAのクラブで杏里さんの“Remember Summer Days”のリミックスをかけて1000人以上を踊らせてる。

Night Tempo, 杏里“Remember Summer Days(Night Tempo Showa Groove Mix)”を聴く

大谷:僕らはシティポップの文脈で杏里さんを聴いてるけど、Night Tempoは昔の日本のいい曲をフラットな耳で聴いて、世界にシェアしてる。だから、これだけ説得力があるんだなって。

:Night TempoのLAでのライブは、Yung BaeっていうフューチャーファンクのDJの前座だったんですが、彼やフューチャーファンク、ヴェイパーウェイヴのアーティストには共通する価値観があるんです。

「過去にしか楽園がない、未来は過去の反復としてしか表れてこない」という、ちょっと皮肉的な考え方なんですけれど。(編集部注:ヴェイパーウェイヴ / フューチャーファンクとは、1970~1980年代の日本のシティ・ポップや、アニメ、テレビCM、さらにはショッピングモールの店内BGMなどを脈略なくサンプリングし、匿名性の高いアーティストたちによって2012年頃からYouTubeやSoundCloudを中心にインターネット上にアップされる音楽のジャンルのこと)。

大谷:いわゆるノスタルジーとは違うんですよね?

:そうなんですよ。Night Tempoの曲は、サウンドはダンスミュージックになっているし、ジャケットやMVのビジュアルの色合いも過剰にエフェクトがかかっていて。レトロフューチャーというか、実際には存在しなかった過去を表現している。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的な世界観というか。

大谷:それって『バック・トゥ・ザ・フューチャー』というより、タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に近い世界観ですよね。タランティーノ監督も過去の事象ものを再構築するという、いわばDJ的な手法で映画を作っている。

:たしかに。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も、実際には無かった過去を描いた作品ですもんね。1969年にハリウッドであったシャロン・テート殺害事件を題材にしてるけど、主役の二人は架空の映画俳優とそのスタントになっている。

大谷:あれ、最高でしたよね。途中で、シャロン・テートが自分の出演した映画を映画館に観に行くシーンがあったじゃないですか。スクリーンを観て、お客さんの反応を見回しながら、嬉しそうに笑ってる。あそこなんか、観てて泣いちゃいそうになった。

:最高のシーンですよね。シャロン・テートを演じてるのはマーゴット・ロビーなんだけれど、彼女が観てるスクリーンには本物のシャロン・テートのフィルムが映し出されている、という。

大谷:あの作品って、映画そのものをテーマにした映画なんですよね。監督もインタビューで言ってたんだけど、悲劇のヒロインとしてじゃなく、新進気鋭の女優だったシャロン・テートの日常をちゃんと描きたかったって。だからグッとくる。

大谷ノブ彦(おおたに のぶひこ)<br>1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。
大谷ノブ彦(おおたに のぶひこ)
1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。

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プロフィール

大谷ノブ彦(おおたに のぶひこ)

1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにて大谷ノブ彦(ダイノジ)との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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