崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

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編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

共作曲“感丘”が混沌としているのにポップな理由。特異なリズム構成、読解困難な歌詞について考察する

以上のような二人の資質が合わさって生まれた“感丘”(作詞:崎山、作曲・編曲:長谷川)は、双方のレパートリーのなかでも特に混沌とした構造を持つ楽曲になっている。

『ドミューにに』で司会を担当した姫乃たまは、“いつくしい日々”の楽曲提供を受けた際に長谷川から著しく入念なインタビューを受けたとのことで、マインドマップ作成を交えた取材はほとんどカウンセリングのようなものだったらしいが、それに類する前準備は“感丘”でも異なる形で行われていたようだ。崎山の単独公演(昨年11月10日、神田明神ホール)にゲスト出演した長谷川はMCで「いろんなソフトに崎山の声のデータをぶちこんで徹底的に分析した」と言っており、“感丘”はその声の音響特性や得意(または微妙に不得意)な音域に合わせて構築していると考えられる。

半音進行でふらふら漂う和声進行にはどことなくブラジル音楽の薫りが感じられるが、これは崎山が先述のようにアート・リンゼイやSonic Youth、King Kruleなどを好み、それらを経由してブラジル音楽的な和声感覚を自身の楽曲に導入していることが少なからず意識されているようにも思われる。

崎山が作成したプレイリスト「20202.0317」にはKing Kruleの楽曲も選ばれている。プレイリストを聴く(Spotifyを開く

加えて言えば、そもそも長谷川自身の音楽でもブラジル音楽的な要素が多用されている(Letieres Leite & Orkestra Rumpilezzに通じるアレンジの“フュー・スタディP”、アントニオ・ロウレイロに通じる和声進行の“横顔 S”や“它会消失”、他にも“草木”“怖いところ”など多数)。

Letieres Leite & Orkestra Rumpilezz『A Saga da Travessia』(2016年)を聴く(Spotifyを開く

アントニオ・ロウレイロ『Só』(2018年)を聴く(Spotifyを開く

『ドミューにに』の楽屋裏で質問したところ、ブラジル音楽は彼が最初に接した音楽ジャンルであり、友人の結婚式に楽曲を提供する際にはブラジル現地の友人の監修を受けて「2歳の子供が話しているように聞こえる」ようなポルトガル語の歌詞を書いたこともあるという。

“感丘”はこうしたブラジル音楽嗜好が両者の音楽性の接着剤として用いられ生まれた、金継ぎ作品なのだとみることもできるし、その上でブラジル音楽そのものには決してならない素晴らしい個性を確立してしまった楽曲なのだと思われる。

崎山蒼志“感丘(with 長谷川白紙)”を聴く(Spotifyを開く

なお、特異なリズム構成についていうと、3拍子というか3連と7連の間で揺れる感じになっているようにも思われるが、正確なところはよくわからない。

たとえば、Aメロ裏の鍵盤の刻みについて考えてみたい。

① 3連符(1小節を3倍数で分割)で考える:3+4+3+2=7+5=12
② 7連符(1小節を7倍数で分割)で考える:1.7×7=1.7×4+1.7×3=6.8+5.1=11.9≒12

上記のうちどちらかといえば、①のように数えることができるが、その①の7+5のうち7の終わりが少し短くなって5の入りが少し早くなれば、6.9+5.1のようになり、②とほぼ同様に聴こえてしまうわけで、生演奏ならではの微細な揺れが捉えられた音源を聴くぶんにはどちらにもとれてしまう。

また、ところによっては、「鍵盤が①」で「ボーカルが②」という組み合わせになっている場合もあるかもしれない。こうしたリズム処理にもブラジル音楽ならではの、「3連符と4連符が溶けてどっちつかずになり両者の間で宙吊りになっている」ような感覚が反映されていると考えられなくもない。解き明かしようのない謎に満ちたどこまでも興味深い音楽である。

以上を踏まえた上で凄いのが、とんでもなく混沌とした形状なのに底抜けに親しみやすく、理屈抜きに楽しい感じが前面に出ていること。これは“感丘”に限らず長谷川白紙の楽曲すべてに言える話で、『関ジャム』1月19日放映回における蔦谷好位置のコメントはそうした特性をとてもよく言い当てている。

不協和音、変拍子、独特な音色運びなど、こういったアブストラクトな要素を持った音楽は内向的になりがちですが、長谷川白紙の音楽は彼の脳内から広がっていく景色を見ているように外へ外へと眩い光を放っているように感じます。
『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)1月19日放映回「売れっ子プロデューサーが選ぶ年間ベスト」より

長谷川白紙『エアにに』を聴く(Spotifyを開く) / 参考記事:「長谷川白紙の楽曲を解剖 『リズム』『響き』『声』の3点から分析」を読む(リンクを開く

妥当な自信と才気が伴う一方で、非常に謙虚な人柄がそのまま出ている音楽だと思うし、そうした在り方が間口の広さやポップさに繋がっている面も少なからずあるのだろう。本企画の質問に対する長谷川の回答はそうした人柄をよく示している。

長谷川:(いたずら心やエンタテインメント精神のようなものを明確に意識しているかと問われて)わたしは——意外だと言われることが多いのですが——おそらく本質的には人を楽しませることが非常に好きなタイプなのだと思います。ただ音楽やTwitterにおいてもそうかと言われると難しく、わたしが自作においてポップスの感覚やある種のエンターテインメント性を取り入れるのは、そうした方がより多くの、より複雑な要素を取り込めるからという理由に他なりません。

Twitterも最低限の分別は弁えられるようになってきましたが、依然言いたいことを言っているだけなので、わたしの音楽やツイートにわたしの本質的なエンターテインメント精神が表れているかと言われれば、それは当たらずも遠からずくらいなのかなと思います。いたずら心はいつでも何においてもめちゃくちゃあります。わたしは21歳になっても未だに自分がいたずら好きの子どもであり続けていることに驚愕しています。

そして、“感丘”では長谷川の上記のような人柄に加え、作詞担当の崎山の資質も非常に重要な役割を果たしている。本企画の質問に対する以下の回答は実に象徴的なものである。

長谷川:崎山さんの詞は、見るという行為自体をメタに捉えていると考えています。それは個人的に共感を覚える点でもありながら、崎山さんの作品の中でも特に卓越した精度で行われている点です。物事の記述とその感想というある種のテンプレートから身体的に自然に逸脱しているのが、いつ見ても鮮やかだなあと思います。

崎山:(「遍く行為の中から、作曲に最も近いものを選ぶとしたら何ですか?」という長谷川の質問に対し)観察。

この曲の<隠れ方 見て 確かめて><未来の私が見ている>といった歌詞はそうしたメタ視点や観察力の存在をよく示しているし、そうした資質があるからこそ崎山の素朴で強靭な歌声はあれほど不思議な深みを湛えたものになっているのだろう。

以上のような両者の資質が滑らかに金継ぎされた“感丘”はまことに得難く素晴らしい楽曲なのだと思う。

以上、崎山蒼志と長谷川白紙の音楽について簡単に触れてきた。君島大空や諭吉佳作/menについても言えることだが、かれらはみな作編曲力や演奏表現力だけでなく作詞・言語表現力も尋常でなく優れており、影響を受けることを恐れない姿勢を通して卓越した基礎力を高め続けている。

若いからすごいのではなく、すごい人間がたまたま若かっただけ。これからも様々な試行錯誤を通して素晴らしい音楽を生み出し続けていただけるのだろうし、リアルタイムでその様子を追うことができるのをありがたく思います。

本稿のもととなったメールインタビューより
本稿のもととなったメールインタビューはこちら(記事を読む

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リリース情報

崎山蒼志『並む踊り』
崎山蒼志
『並む踊り』(CD+DVD)

2019年10月30日(水)発売
価格:3,000円(税込)
SLRL-10046

[CD]
1. 踊り
2. 潜水(with 君島大空)
3. むげん・(with 諭吉佳作/men)
4. 柔らかな心地
5. 感丘(with 長谷川白紙)
6. 夢模様、体になって
7. 烈走
8. 泡みたく輝いて
9. Video of Travel

[DVD]
1. ドキュメント「崎山蒼志 LIVE 2019 とおとうみの国」
2. 「国」ミュージックビデオ

長谷川白紙『エアにに』
長谷川白紙
『エアにに』(CD)

2019年11月13日(水)発売
価格:2,530円(税込)
MMCD20032

1. あなただけ
2. o(__*)
3. 怖いところ
4. 砂漠で
5. 風邪山羊
6. 蕊のパーティ
7. 悪魔
8. いつくしい日々
9. 山が見える
10. ニュートラル

長谷川白紙
『夢の骨が襲いかかる!』

2020年5月29日(金)配信

1. Freeway
2. 旅の中で
3. LOVEずっきゅん
4. 光のロック
5. セントレイ
6. シー・チェンジ
7. ホール・ニュー・ワールド

プロフィール

崎山蒼志
崎山蒼志(さきやま そうし)

2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の高校生フォークソングGPに出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。その2か月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。12月5日には1stアルバム『いつかみた国』をリリース、併せて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。2019年3月15日にはフジテレビ連続ドラマ『平成物語』の主題歌「泡みたく輝いて」と明治「R-1」CM楽曲「烈走」を配信リリース。10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリースした。

長谷川白紙
長谷川白紙(はせがわ はくし)

1998年生まれ、音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、17年11月インターネット上でフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』、18年12月10代最後に初CD作品『草木萌動』、19年11月に1st AL『エアにに』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップ・ミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、新たな時代の幕開けをも感じさせるものに。20年5月歌と鍵盤演奏のみで構成された弾き語りカバー集「夢の骨が襲いかかる!」を発表。

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