崎山蒼志と君島大空、2人の謎を相互に解体。しかし謎は謎のまま

このふたりが並ぶ姿を、待ち望んでいた人は多いかもしれない。崎山蒼志の2ndアルバム『並む踊り』に収録された君島大空とのコラボレーション楽曲、“潜水”。兼ねてより影響を公言し合っていたふたりが作り上げたのは、「個」と「個」がせめぎ合い、摩擦を起こし、その状態がそのまま「瞬間」に突き立てられたような1曲。その人にしか持ち得ない「声」を、「言葉」を、「生」を、実直に音楽に刻む――そんな道を突き進むふたりの音楽家の出会いは、こんなにも激しいうねりと、微細な輝きの連鎖をまとって、私たちに届けられた。

今回、崎山と君島による対談を敢行した。終始穏やかなトーンで進んだふたりの対話は、お互いへの尊敬に満ちた、とても幸福なものとなった。

左から:君島大空、崎山蒼志

君島さんの音楽は、今ある言葉で言える感じがしないくらい、すごいなって思っていて……。(崎山)

―崎山さんの2ndアルバム『並む踊り』に収録された君島さんとのコラボ楽曲“潜水”。崎山さんは常々、君島さんの名前をインタビューで挙げられたりもしていましたけど、おふたりの出会いはいつ頃なんですか?

崎山:リーガルリリーのたかはしほのかさんが、君島さんの“都合”っていう曲をツイートしていたのをきっかけに君島さんの存在を知ったんです。実際に聴いてみて、「うわっ、めちゃくちゃ素敵な曲だな」と思って、SoundCloudに上がっていた音源をたくさん聴きました。

崎山蒼志(さきやま そうし)
2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の高校生フォークソングGPに出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2019年10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリースした。

崎山:それで、去年の5月か6月くらいに、Twitterで僕が君島さんの楽曲を共有したら、君島さんが反応してくださって。君島さんの音楽は、今ある言葉で言える感じがしないくらい、すごいなって思っていて……。

君島:「今ある言葉じゃ言えない」っていうのは、僕も崎山くんの音源を聴いていて感じます。感想を言うことが憚られるといいますか、言葉にしちゃいけないものに満ち溢れている感じがする。最近、他の人の音楽を聴いていても、自分で曲を作っていても、既存のポップスや歌ものの形が崩れていく瞬間に一番高揚するんです。

君島大空(きみしま おおぞら)
1995年生まれ日本の音楽家。高井息吹と眠る星座のギタリスト。2014年からギタリストとして活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開をはじめる。2019年3月、1st EP『午後の反射光』をリリース。2019年7月、『FUJI ROCK FESTIVAL’19「ROOKIE A GO-GO」』へ出演を果たした。

崎山くんの音楽には、走り書きがそのまま歌になっているような、まとまっていないからこその魅力がある。(君島)

君島:僕の場合は、「聴きやすいものを作りたくない」っていう意識があるので、出てきたものをそのまま、なるべく形を変えずにアウトプットするようにしているんです。崎山くんは、新しい曲が出るたびに「なんでこうなるんだろう?」って思わせられて、しかもそれがめちゃくちゃいい作品で……本当に、「やめてください!」っていう感じなんですけど(笑)。

崎山:いやいやいや! 僕は本当に君島さんのことを尊敬しているので……。

5月18日、CINRA.NET主催『CROSSING CARNIVAL'19』にて崎山蒼志と君島大空のコラボセットが実現した / 撮影:垂水佳菜
崎山蒼志『並む踊り』を聴く(Spotifyを開く

君島大空『午後の反射光』を聴く(Spotifyを開く

君島:僕も、崎山くんのことをすごく尊敬しています。崎山くんは、自分で思っている以上にヤバいことをしていると思う。そのことに本人も気づいていないと思うけど、曲を聴くたびに、「どうやったら、これが出てくるんだろう?」って思うんです。この疑問を本人に訊くのは野暮だと思うんですけど、この場を借りて訊いてみたいです。

崎山:僕も、曲を書いていてそのままっていう感じなんです。本当はもっとまとまっていて、ちゃんと構築された曲を作りたいなって思うんですけど(笑)、そうならないんですよ。絶対に、そういうふうに作れない。

君島:でも、崎山くんの音楽には、走り書きがそのまま歌になっているような、まとまっていないからこその魅力がありますよね。だから、言葉の力が強靭なんだと思う。考えて構築された美しさではない、「出てきてしまった」がゆえのもの。それが結果としてめちゃくちゃ複雑怪奇で、そして人間的な言葉になっている。

メロディーに乗ったときにやっと完成する言葉のような、すごく危ういバランスで形を成している感覚が、スリリングでたまらない。(君島)

―「言葉」に関して言うと、君島さんが崎山さんに、吉増剛造さんの詩集をあげたというエピソードも、以前語られていましたよね(参考記事:崎山蒼志が戸惑い混じりに語る、『日村がゆく』以降の喧騒の日々)。

崎山:初めて君島さんに会ったときに、詩集を貸していただきました。

君島:吉増さんと崎山くんは、言葉の速度が似ている感じがしたんです。高速で、目くるめく感じ。そういった快感を僕は吉増さんの詩に感じていたんです。すごいスピード感で、すごい色彩で、すごい高低差で激しく視点を揺らされる……そういうところがたまらないんですけど、そんな吉増さんの詩は、崎山くんの詞の世界とリンクするような気がして。決して安定した言葉ではないんですけど、とても人間的である、というか。

崎山蒼志“塔と海”を聴く(Spotifyを開く

君島:「綺麗にまとめた」っていう言葉よりも、「なに言っているんだろう?」っていう言葉のほうが、景色が見える気がするもので。歌だと、より、そう思うんですよね。メロディーに乗ったときにやっと完成する言葉のような、すごく危ういバランスで形を成している感覚が、スリリングでたまらない。

崎山:ありがとうございます……。このアルバム(『いつかみた国』)に入っている曲……たとえば“国”とかは、メロディーを弾きながら出てきた言葉そのままなんですよね。そもそも“国”は、最初は18分くらいあるデモだったんですよ。

君島:わかる。僕も、曲を作るときは大体そうなる。『午後の反射光』に入っている曲も、何回も20分くらいある長さのデモを録っていて。いいところを繰り返したりしているだけなんだけど、そこにある空気を、僕はめちゃくちゃ大事にしているんです。自分しか知らないんだけど、めちゃくちゃ輝いている、というか。

崎山:わかります。

君島:音源になっている“国”は、その18分くらいある長さのものをまとめた感じなんですか?

崎山:“国”は、そうですね。<時を止める>の部分を、「これいいな」って、ずっと反復しながら弾いていて、流れで歌っている……それが、ゆっくりと18分間続いている音源があって。それをギュッとしたのが、アルバムに入っているものです。

君島:僕も、“午後の反射光”っていう曲は、最初は22分くらいあったんですよ。そのバージョンだと、サビが5回くらいあるんだけど(笑)。

崎山:ヤバっ! 聴きたいですよね?

―うん、聴きたいです。

君島:イヤです(笑)。

君島大空“午後の反射光”を聴く(Spotifyを開く

―(笑)。崎山さんの、18分ある“国”も聴きたいですよ。

崎山:僕も、聴かせたくないかも……。その18分ある“国”は、本当に無作為のものというか、部屋で楽しく弾いているだけの音源なんです。それが生まれたときは、それを聴いてほしかったですけど、今はちょっと……。

君島:僕も、EPの最初の構想としては20分の大曲を入れた音源にしようとしていたんですけど、そうはならなかった。でもいつか、そういうものも作ってみたいです。

自分のなかで、記憶や感情が分裂している感覚がありますか?(君島)

君島:あと、“国”の歌詞がヤバいっていうのが、ずっと、僕のなかで話題なんです。「崎山くんって、もしかしたら前世の記憶があるんじゃないか?」って思わせられるような歌詞を書きますよね。一度、それを本人に訊いたら、「ないです」って言われたんですけど(笑)。

―ははは(笑)。

崎山:でも、物事に既視感を感じることはあるかもしれないです。夢で見たな、みたいな……。

君島:感情に対しては、既視感はない?

崎山:あぁ……あるかもしれないです。

君島:崎山くんは、200年後くらいにいる感じがするんですよね。それくらい感情とかに対して、醒めた質感がある。もちろん、そこには優しさもあって。すごく大きな生命体のような安心感があるんですよね。なにかを教えてくれている、というか……押しつけてくるわけではなく、自分が立っている場所に狙って降ってきているものっていう感じがする。

(“国”の歌詞を見ながら)<かつて流した涙>って……<かつて>という言葉を書けるのは、すごいなって思います。自分のなかで、記憶や感情が分裂している感覚がありますか?

崎山:いやいやっ、ないです。

君島さんの音楽を聴いていると、美術室の窓から光が入っていた光景を急に思い出したりします。なにかが「もたらされる」ような……。(崎山)

―でも、僕としても、君島さんがおっしゃっていることにはハッとしました。崎山さんの音楽を聴くと、「歳を重ねたから、過去のことを思い出す」ということではない形で、「なにかを思い出す」という状態が、人にはあるんだって思います。

君島:そうなんですよね。崎山くんの歌詞は、「知ってしまった」感じがするんです。

崎山:僕としても、君島さんの曲は、こっちが感覚を研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど聴こえてくるものがあるような気がします。いけばいくほど、いける。君島さんの曲を聴いていると、小学校とか中学校の頃のような、繊細な心で見ていた視点を思い出す感覚があるんです。別に、その頃が輝いていたわけではないし、当時を好きっていうわけではないんですけど……僕、美術部だったんですけど、君島さんの音楽を聴いていると、美術室の窓から光が入っていた光景を急に思い出したりします。なにかが「もたらされる」ような……。

君島:「もたらされる」っていうのは、僕も崎山くんの音楽に感じます。決して、押しつけられているような感覚はない。「こんな場所に窓があったんだ」みたいな感覚。今まで知らなかった場所から光が入ってくるような……「そんなことをしてくれて、ありがとう」って思います。

崎山:いやいやっ……恐縮です、本当に。僕も君島さんの音楽を聴いて、ここまで「わからない」感覚に入り込んでくる人はいないなって思います。

君島:そう言ってくれるのは本当に嬉しいです。特に『午後の反射光』は、自分にしかわからないことについての音源なので。「聴かれなくてもいい」くらいに思いながら作った音楽に対して、そういう感想を持ってくれるのは嬉しいです。

―『午後の反射光』リリース時のインタビューでも、この作品はとても「自分」に満ち溢れたものである、とおっしゃっていましたよね(参考記事:君島大空が求める「ギリギリ、音楽」。繊細な芸術家の脳内を覗く)。

君島:僕の音楽には、わりと明確に「対象」があるんですけど、その音楽のなかで対象にしているものっていうのは、本来、絶対に接近しえないものなんです。でも、音楽によってなら、「それ」に自分が接近できるのではないか? っていうイメージが、自分のなかにはずっとあって。もう会うことが叶わない存在や時間に、自分が限りなく接近して、そこにずっといたい……きっと僕は、そういうコンセプトでこの先も音楽を作っていくし、その欲求がなくなれば、僕は音楽を作らなくなるかもなって思います。

自分が本当に心から「いい曲だ」と思える曲が書けたら、「もうやめてもいいかな」って思うのかもしれないです。(崎山)

―ナンセンスな質問だと思うんですけど、崎山さんは、「これが果たされれば、音楽を辞めていいかもしれない」みたいなものは、現状ありますか?

崎山:僕は最近、ライブで“Woman "Wの悲劇"より”をカバーしているんですけど、あの曲は、松本隆さんによる歌詞も、ユーミンさん(松任谷由実、名義は呉田軽穂)による曲も、本当に研ぎ澄まされていて、完璧な曲だなっていう感じがするんです。ああいう曲を作れたら、「もうやめていい」って思うのかもしれないですけど……。

薬師丸ひろ子“Woman "Wの悲劇"より”を聴く(Spotifyを開く

―それは、さっきのちゃんと構築された曲が作りたいっていう感覚に通じるものですかね?

崎山:そうですね。でも僕は、そういう曲は書けないような気がします。話はちょっと違うかもしれないですけど、ゆらゆら帝国が『空洞です』を作ったあとに、坂本慎太郎さんが「完璧だと思うアルバムが作れたからやめる」って言ってバンドを解散させた話があるじゃないですか。かっこいいなって思います。同じように、自分が本当に心から「いい曲だ」と思える曲が書けたら、「もうやめてもいいかな」って思うのかもしれないです。そうしたら、急にハードメタルとかをやり出すかもしれない。

君島:ヘヴィメタルじゃなくてハードメタルなんだ(笑)。

崎山:本当は、今からでもやりたいんですけど。

君島:わかる。僕も、実はそういう音楽をやりたいっていう気持ちがあって、それ用の「HEAVY」(Empress Effects)っていうエフェクターを買ったんですけど。

崎山:本当ですか? 僕もこの間、HARD OFFで3000円だった「DEATH METAL」(DIGITECH)っていうエフェクターを買いました。

君島:ヤバいね(笑)。

違う星の音楽を聴いているような音楽の響きがめちゃくちゃ好きなんです。(君島)

君島:僕も崎山くんも、ギターがとにかく好きだもんね。そこがなによりの共通項かもしれない。

崎山:そうですね。ギターがめっちゃ好き。エフェクターも大好き。

君島:僕もアコギから入ったので、崎山くんのギターを聴いていると「いやーん」ってなるときあるもん。演奏もめちゃくちゃ達者ですし、アイデアもすごく面白いから。

崎山:君島さんも、めちゃくちゃすごいギタリストだなって思います。普通にガットギターで弾き語りをするときも、まるで、古い機織り機で織っているような、緻密な感じがあるんですよね。僕、わけわかんないですもん、君島さんの弾いているコード。

君島:同じ言葉をお返しします(笑)。僕自身、あんまり楽典に強くないですし、そういう教育も受けていないんですけど、なるべく和音に意識を注ぐようにしているんです。ブラジリアンなどの歌がある音楽で聴いたことのないような響きが、そもそも好きなので。「なんでそうなるの?」っていうような、違う星の音楽を聴いているような和音の響きがめちゃくちゃ好きなんです。

僕は崎山くんのギターを聴くと、どこか近しいものを感じる部分もあるんですよね。崎山くんがよく使っていると、僕が勝手に思っているコードがあって。僕もそれをよく使うんですけど、それを見つけた瞬間に「仲よくなれそうだな」って思ったんです。「その間を、そう押さえるんだね? わかる!」みたいな……他の誰にも伝わらない話ですけどね。あの、“潜水”のGマイナーの、6弦ルートの……。

崎山:あぁ~、わかります。

君島:同じコードでも、指の開き方や押さえ方に、思考のサインみたいなものを感じるんです。こういうことを考えすぎると、ギターなんて弾けなくなってしまうんでしょうけど(笑)。でも、「そのコードの押さえ方、わかるなぁ」って思う瞬間が、崎山くんにはある。一瞬出てくる経過和音の使い方とか、それはすごく感覚的なものなんだけど「いいな」って思う美感が、僕と崎山くんは似ているんじゃないかなって思うんです。

崎山:今回、君島さんが“潜水”をリメイクしてくれましたけど、コードも変わっている部分があって、「ここ、君島さんっぽいな」って思う部分がありました。「君島さんだなぁ」って思う、というか。

崎山蒼志“潜水 (with 君島大空)”を聴く(Spotifyを開く

君島:聴いてもわからないくらいだと思うけどね。ガラッと変わったというよりは、本当に一瞬、変えている感じだから。

崎山:その一瞬に、「うぉぉぉい! これだよ!」ってなるんです(笑)。

“潜水”に関しては、自分がすごく感情的になっている歌だなって思います。(崎山)

―そもそも、“潜水”はいつ頃作られた曲だったんですか?

崎山:2年前の夏頃ですね。“国”と近い時期に作っていました。最初に君島さんが褒めてくださったのが、この“潜水”だったんです。

君島:この曲も初めて聴いたとき、すごく見たことのある景色のような感覚があったんです。心象にすごく近いところにある景色、というか。自分がその景色のなかにいたときに言いたかった言葉を言ってくれているような曲だと思いました。あと、この曲では<愛してる>と歌われますよね。

僕は「愛してる」とか絶対に言えない性格だと自分では思っているんですけど、歌のなかなら、こんなに素直に言えるんだなって、改めて気づかせていただいた感じがします。

―崎山さんは、“潜水”を作った頃のことは具体的に覚えていますか?

崎山:覚えています。個人的に、いろいろ思うことがあったんですけど……。普段、曲を書くときは俯瞰している感じが多いなって自分で思っているんですけど、“潜水”に関しては、自分がすごく感情的になっている歌だなって思います。

―じゃあ、他の曲とは少し違う質感のある曲なんですね。

崎山:うん、違う感じはありますね。

君島:たしかに、視点がずっと「ひとり」な感じがしますよね。あんまり動いていない感じがする。心の動きはあるんだけど、存在自体は、ずっと渚に立っている感覚というか……そこで、移ろっていく景色がある。

僕がこの曲を聴いてそう思うのは、本当に、自分の過去にそういう時間があったのか、そういう記憶が自分のなかで作られたのか、その両方なのかはわからないですけど……。「1対1」になってくれる曲だなって思いますね。完全に、ひとりにしてくれる感じがする。それが、僕にとってはすごく心地いいです。

崎山:僕としても、本当に、「ひとりの曲」っていう感じがします。

―なぜ、2年前のそのとき、こういう曲が作れたんだと思います?

崎山:思い当たることはあるんですけど、言いづらいです。ちゃんと言葉にできない気がします。

君島:(“潜水”の歌詞を見ながら)この言葉たちになるしかなかった感情っていうことだよね。だからこそ、この曲を聴いている間は、そこに「伏せられているもの」を、すごく感じられるんだと思う。

僕がやりたかったのは、めちゃくちゃ歪んだギターにかき消される、崎山蒼志の歌が聴きたかったっていうことです(笑)。(君島)

―今回の“潜水”は、サウンドプロデュース、編曲、コーラス、それにギターをはじめとする楽器を君島さんが担当されたんですよね。そして、ドラムは君島さんの作品にも参加されている石若駿さんが叩いている(参考記事:石若駿という世界基準の才能。常田大希らの手紙から魅力に迫る)。こういったバンドサウンドともいえるプロダクションで曲を完成させるのは、崎山さんのディスコグラフィーのなかでも初めてのことですよね。

崎山:そうですね。最初に、君島さんからデモのようなものをいただいて、その時点で「うわっ、ヤバいな!」と思って、レコーディングに臨んだんです。現場で、石若さんがドラムを叩いている光景も見たんですけど、本当に「ぱない」というか……「この人、どうしたんだろう?」って思って……。

君島:ほんと、「この人、どうしたんだろう?」って思うよね(笑)。

崎山:「なんかあったのかな」って……(笑)。

―(笑)。君島さんは、プロデュースするにあたって、どんなことを意識されましたか?

君島:あんまり編曲をする余地がない曲なので、アレンジと言えるようなことはそんなにしていなくて。僕がやりたかったのは、めちゃくちゃ歪んだギターにかき消される、崎山蒼志の歌が聴きたかったっていうことです(笑)。

―おぉ(笑)。

君島:歌の邪魔をすることを考えました。

―たしかに、1曲のなかで、崎山さんと君島さんの「個」と「個」がぶつかり合って摩擦を起こしているような曲に仕上がっていますよね。

君島:相手が、崎山くんだからできたんです。それくらい、崎山くんの歌は強いから。他の人では、こうはできないと思います。あと、いつも自分の音源ではミックスまでやっているんですけど、この“潜水”はミックスはやっていないので、次に機会があればミックスまでやりたいですね。めちゃくちゃ微細なところまで手を伸ばして、2年ぐらいかけて1曲作りたい(笑)。

崎山:あぁっ! いいですね!

君島:それこそ、18分くらいあるような曲を作りたいね(笑)。

―こうしたサウンドメイクを経験してみて、崎山さんのなかで、この先の音楽的な可能性も広がったりしましたか?

崎山:わからないですけど……今回の“潜水”のような曲は、絶対に自分ではできないことだと思うんです。君島さんとやったから、できたことで。なので、「この先、こうしてみよう」みたいなことは今は思わないですね。……でも、本当に感動しました。自分が作った曲が、こういう形になるんだって。

君島:僕のこの曲に対する気持ちが強すぎて、今回はこういう形になりました。気持ちをぶつけるしかなかった。

崎山:本当に、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。

リリース情報
『並む踊り』(CD+DVD)

2019年10月30日(水)発売
価格:2,728円(税抜)

[CD]
1. 踊り
2. 潜水(with 君島大空)
3. むげん・(with 諭吉佳作/men)
4. 柔らかな心地
5. 感丘(with 長谷川白紙)
6. 夢模様、体になって
7. 烈走
8. 泡みたく輝いて
9. Video of Travel
[DVD]
1. ドキュメント「崎山蒼志 LIVE 2019 とおとうみの国」
2. 「国」ミュージックビデオ

イベント情報
『崎山蒼志 TOUR 2019 「並む踊りたち」』

2019年10月28日(月)
会場:東京都 渋谷 CLUB QUATTRO

2019年11月3日(日・祝)
会場:香川県 高松 SPEAK LOW

2019年11月4日(月・振休)
会場:大阪府 梅田 TRAD

ゲスト:諭吉佳作/men

2019年11月10日(日)
会場:東京都 神田明神ホール

ゲスト:長谷川白紙

2019年11月16日(土)
会場:福岡県 ROOMS

2019年11月17日(日)
会場:広島県 SECOND CRUTCH

2019年11月30日(土)
会場:愛知県 名古屋 JAMMIN'

2019年12月15日(日)
会場:静岡県 浜松 窓枠

ゲスト:君島大空

2019年12月21日(土)
会場:宮城県 仙台 HooK

2019年12月22日(日)
会場:北海道 札幌 KRAPS HALL

料金:各公演 前売3,700円(ドリンク別)

プロフィール
崎山蒼志 (さきやま そうし)

2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の高校生フォークソングGPに出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。その2か月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。12月5日には1stアルバム『いつかみた国』をリリース、併せて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。2019年3月15日にはフジテレビ連続ドラマ『平成物語』の主題歌「泡みたく輝いて」と明治「R-1」CM楽曲「烈走」を配信リリース。5月6日に自身初となるホール公演「とおとうみの国」を浜松市浜北文化センター大ホールで大成功させた。10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリースした。

君島大空 (きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。高井息吹と眠る星座のギタリスト。2014年からギタリストとして活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞/作曲/編曲/演奏/歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。ギタリストとしてタグチハナ、konore、坂口喜咲、婦人倶楽部、Orangeade、などのアーティストのライブや録音に参加する一方、2017年には霞翔太監督作品「離れても離れてもまだ眠ることを知らない」の劇中音楽を担当。アイドルグループsora tob sakanaへの楽曲提供など様々な分野で活動中。2019年3月、1st EP『午後の反射光』をリリース。2019年7月、『FUJI ROCK FESTIVAL’19「ROOKIE A GO-GO」』へ出演を果たした。



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「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。

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