崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

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編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

自身の音楽の成り立ちに極めて自覚的な長谷川と、奇跡的なまでに無意識的な崎山。二人からのコメントをもとに紐解く

先述のとおり、崎山蒼志と長谷川白紙の音楽は膨大な要素を消化吸収し素晴らしい個性を確立するという在り方の点では共通している。しかし、そうした要素の再構築の仕方、いうなればブラックボックスの使い方はかなり異なっていると思われる。

たとえば、崎山の音楽はギターを激しくかき鳴らしていることもあってサウンドの面でも歪みが多いが、長谷川の音楽はロック / ギター出身でないこともあってかサウンド的な歪みは少なく、しかしその一方で不協和音の多用やリズム構成など楽曲構造の面で歪みを担保しているような印象もある。そうしたことを念頭に置き、自作曲を構成するにあたりどのような意識を持っているかということを質問した結果、二人の回答は以下のとおり対照的なものとなった。

長谷川:(歪みは)非常に重要です。歪んでいるところがあるから整然としている部分も認識できるのであり、音楽の根源的な「緊張と弛緩」という概念も含め、「歪み」は非常に広大な範囲の音楽にアクセスできる軸だと思います。自作に関して言うのであれば、異なるものを無理に接着したり融合させたりするときの歪みこそが、わたしの音楽を進行させる最も強い力のひとつだと考えています。

長谷川白紙“砂漠で”を聴く(Spotifyを開く

崎山:(曲構成について問われて)意識的ではないです。比較的無意識な状態でバーっと浮かんだものを纏めたらそうなったという感じなので……。

崎山蒼志“国”を聴く(Spotifyを開く

長谷川が繰り返し自己言及する作曲様式に、既存の音楽形式を意識的に引用して接続し、その落差や歪さを重要な表現力にするというものがある。『MUSICA』2019年7月号掲載インタビューでは、その様式が以下のように説明されている。

たとえば現代音楽からいろんな要素を持ってきて、それを並べると、ただの現代音楽になるんですよね。あるいは、いろんな地方のジャズから要素を抜き出してきて並べると、やっぱりジャズになる。ただ、そういった様式を唯一横断できるのがポップスなんですよね。つまり歌が入ってるというのは私にとって凄く大きいことなんじゃないかなとは思うんですよ。歌って本当に強力な接着剤だと思うんです。歌があるだけで、かなり強引にあらゆるジャンルの要素全部を接着できるんですよね。

『MUSICA』2019年7月号掲載インタビューより(外部サイトを開く

同記事ではそうした作曲様式が、金継ぎ(割れた茶碗を漆で継ぎ合わせ金で装飾する修復方法)に喩えられている。異なる形式を強引に接着し、その接着面をどうデザインするかを考えることが制作の基本姿勢となっていて、歌はそのための接着剤として重要な機能を果たす。長谷川はこうした関係性を明確に言語化した上で駆使しており、その音楽の成り立ちは極めて意識的なのだと言える。

長谷川白紙“草木”を聴く(Spotifyを開く

これに対し、崎山の作曲はだいぶ無意識的なのだという。君島大空との対談記事では、こうした作曲の仕方について以下のようなやりとりがなされている。

崎山:僕も、曲を書いてそのままって感じなんです。本当はもっとまとまっていて、ちゃんと構築された曲を作りたいなって思うんですけど(笑)、そうならないんですよ。絶対に、そういうふうに作れない。

君島:でも、崎山くんの音楽には、走り書きがそのまま歌になっているような、まとまっていないからこその魅力がありますよね。だから、言葉の力が強靭なんだと思う。考えて構築された美しさではない、「出てきてしまった」がゆえのもの。それが結果としてめちゃくちゃ複雑怪奇で、そして人間的な言葉になっている。
「崎山蒼志と君島大空、2人の謎を相互に解体。しかし謎は謎のまま」より(記事を読む

崎山蒼志“塔と海”を聴く(Spotifyを開く

様式の再統合というようなことはあまり考えていない、どちらかといえば無意識的な制作方式を崎山は採っていて、それだからこそ豊かな音楽要素が未分割な形で映えるようにもなっている。本企画の質問に対する以下の回答は二人の在り方の共通点と相違点(ともに異なる形式を縦横無尽に接続しているが、それを意識的に行っている度合いはかなり異なる)をとてもよく表している。

崎山:全体的な音楽の印象としては、僕の音楽は荒く歪んでいるイメージがありますが、長谷川さんの音楽は滑らかに歪んでいるイメージがあります。

長谷川:崎山さんの存在は端的に奇跡的だと思います。ギターと歌というシンプルなスタイルのなかに到底シンプルではないいろいろな様式の破片が散りばめられているようで、その接続は本当に本当に見事です。音楽的なものも含め非常に多くの情報に迅速に、等価にアクセスできるようになったこの時代において、楽器と歌のみでデータベースとその統合を感じさせるようなアーティストは稀有だと考えています。

長谷川白紙“悪魔”を聴く(Spotifyを開く

ここで興味深いのが、長谷川が「その接続は本当に本当に見事です」と言うように、崎山の音楽は本人の弁に反してかなり緻密に構築されていることである。対照的な意味合いの言葉を並べて複雑なニュアンスを生む歌詞や、その展開がコード進行をはじめとした音楽面での構成と密接に関係しているなど、諸々の要素の間には無意識的にやっているとはとても思えないくらい美しい連関がある。

たとえば、長谷川もライブのレパートリーとし弾き語りカバー集『夢の骨が襲いかかる!』にも収録した“旅の中で”は、後半の<なんだろうか / 行先はわからないままで / あの人の顔が浮かんだり>で停滞するコード進行がその後の<でも次の方向へ向かってるのはたしかだ>を経て動き出すようになっており、歌詞における物語展開が音楽の流れと軌を一にする構成が楽曲の表現力を深めている。

長谷川白紙による、崎山蒼志“旅の中で”のカバーを聴く(Spotifyを開く

崎山蒼志“旅の中で”を聴く(Spotifyを開く

この曲ではボサノバにも通じるリリカルで浮遊感のある音進行が軸になっているが、崎山が激しくかき鳴らすギターがそこに強烈な圧を加え、ハードコアパンクにも通じる身体性を生み出している。これは崎山が好きだというアート・リンゼイに通じる配合であり、長谷川のいう「楽器と歌のみでデータベースとその統合を感じさせる」在り方をとてもよく表している。

崎山の楽曲はいずれもこうした複雑な構造を各々異なる形で成立させていて、“国”終盤の<ねぇ君の話はなに>におけるアメリカのフォークとゴスペルが混ざり合ったポストロックのような音進行(ジム・オルークやGastr Del Solに通じる)が一般的な日本のフォークに近いフレーズに違和感なく繋がる展開や、ミナス音楽と日本のフォークがモザイク状に交錯するような“踊り”のサビにおける<毒を持ち成長する><やさしい>といった言葉の対比など、異なる文脈を軽やかに接続する例は枚挙に暇がない。

崎山蒼志“踊り”を聴く(Spotifyを開く

崎山自身は無意識的にやっているようだが、そこから生まれる音楽にはかなり明晰な論理展開があり、走り書きだが整っている、達人の筆法のような作品になっている。崎山と長谷川の音楽の相性がいい理由はこんなところにもあるのではないかと思う。

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リリース情報

崎山蒼志『並む踊り』
崎山蒼志
『並む踊り』(CD+DVD)

2019年10月30日(水)発売
価格:3,000円(税込)
SLRL-10046

[CD]
1. 踊り
2. 潜水(with 君島大空)
3. むげん・(with 諭吉佳作/men)
4. 柔らかな心地
5. 感丘(with 長谷川白紙)
6. 夢模様、体になって
7. 烈走
8. 泡みたく輝いて
9. Video of Travel

[DVD]
1. ドキュメント「崎山蒼志 LIVE 2019 とおとうみの国」
2. 「国」ミュージックビデオ

長谷川白紙『エアにに』
長谷川白紙
『エアにに』(CD)

2019年11月13日(水)発売
価格:2,530円(税込)
MMCD20032

1. あなただけ
2. o(__*)
3. 怖いところ
4. 砂漠で
5. 風邪山羊
6. 蕊のパーティ
7. 悪魔
8. いつくしい日々
9. 山が見える
10. ニュートラル

長谷川白紙
『夢の骨が襲いかかる!』

2020年5月29日(金)配信

1. Freeway
2. 旅の中で
3. LOVEずっきゅん
4. 光のロック
5. セントレイ
6. シー・チェンジ
7. ホール・ニュー・ワールド

プロフィール

崎山蒼志
崎山蒼志(さきやま そうし)

2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の高校生フォークソングGPに出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。その2か月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。12月5日には1stアルバム『いつかみた国』をリリース、併せて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。2019年3月15日にはフジテレビ連続ドラマ『平成物語』の主題歌「泡みたく輝いて」と明治「R-1」CM楽曲「烈走」を配信リリース。10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリースした。

長谷川白紙
長谷川白紙(はせがわ はくし)

1998年生まれ、音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、17年11月インターネット上でフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』、18年12月10代最後に初CD作品『草木萌動』、19年11月に1st AL『エアにに』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップ・ミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、新たな時代の幕開けをも感じさせるものに。20年5月歌と鍵盤演奏のみで構成された弾き語りカバー集「夢の骨が襲いかかる!」を発表。

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