30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

2021/09/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:西村満 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』がリリースされた1967年や、パンク・ムーブメントが勃発した1977年など、ロック・ポップミュージック史にはターニングポイントとなる年がいくつかある。いまからちょうど30年前、数多くの名盤が生まれた1991年もまた「ロック史における重要なターニングポイント」と位置づけることができるだろう。

例えば、1980年代にはずっと「古い」とされていた1960年代ロックを再評価する機運が、1980年代半ばから英国で高まり出し、マンチェスターを拠点とする「セカンド・サマー・オブ・ラブ」と融合。1991年に、Primal Screamの『Screamadelica』やシューゲイザーの金字塔となるMy Bloody Valentineの『Loveless』が産声を上げた。一方、米国シアトルではグランジの先駆けといわれるNirvanaの『Nevermind』がこの年リリースされている。ここ日本でも、そうした海外のムーブメントに呼応するように、たくさんの良質なアルバムが生まれていた。「グランジ元年」や「ブリットポップ前夜」などとも称される1991年。いったいこの年に世界では何が起きていたのだろうか。

2020年9月、その名も『THE THIRD SUMMER OF LOVE』をリリースするなど当時の音楽に大きな影響を受けているシンガーソングライターのラブリーサマーちゃんと、リアルタイム世代であるシンコーミュージック編集者・荒野政寿とともに、1991年を振り返ってみた。

1991年の名盤を支えたのは、のちのブリットポップにつながる「シックスティーズ再評価」の機運

―いまから30年前、1991年って荒野さんは何をしていました?

荒野:ぼくは受験に失敗して浪人1年目。翌年の4月に日大芸術学部に入るまで、高校時代からバイトしていたレコード屋に浪人中も日曜日以外は出ていました。1日7時間くらい働いていたのかな。それで学費を貯めていましたね。

ラブサマ:すごい! えらいですね。

荒野:あははは。バイトが休みの日は渋谷のレコード屋をひたすら回っていました。ぼくらの世代は大抵そうだと思うのですが、まずは全米ビルボードチャートの「トップ40」から入って、そこから自分の好きなジャンルを深掘りしていくという。1980年代後半から90年代初頭にかけて人気があった洋楽の筆頭はユーロビートでしたが、ぼくは「それよりもロックが聞きたい!」と思った。それで以前から好きだったThe Beatlesをはじめ1960年代の音楽に影響を受けた、UKとUSのインディーにどんどん興味が湧いていきました。

荒野政寿(あらの まさとし)<br>1988年から都内のレコードショップで勤務。1996年、シンコー・ミュージックに入社。『WOOFIN’』『THE DIG』編集部、『CROSSBEAT』編集長を経て、現在は書籍と『Jazz The New Chapter』『AOR AGE』などのムックを担当。著書に『プリンスと日本 4 EVER IN MY LIFE』(共著、小社刊)。2021年8月、『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』を編集。
荒野政寿(あらの まさとし)
1988年から都内のレコードショップで勤務。1996年、シンコー・ミュージックに入社。『WOOFIN’』『THE DIG』編集部、『CROSSBEAT』編集長を経て、現在は書籍と『Jazz The New Chapter』『AOR AGE』などのムックを担当。著書に『プリンスと日本 4 EVER IN MY LIFE』(共著、小社刊)。2021年8月、『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』を編集。

荒野:例えばUSだとThe Three O'ClockやRain Paradeのような、いわゆる「ペイズリー・アンダーグラウンド」周辺が大好きでしたね。UKでは、それらと近い匂いがするCreation Recordsのアーティストや、C86(英国の音楽雑誌NMEが1986年にリリースした伝説のコンピレーションカセット)周辺のバンドなどを好んで聴くようになりました。なかでも世代的に大きかったのが、1989年にリリースされたThe Stone Roses(以下、ローゼズ)の1stアルバムです。

The Stone Roses『The Stone Roses』を聴く(Spotifyを開く

ラブサマ:邦題は『石と薔薇』だったんですね。

荒野:ものすごい直訳タイトルですよね(笑)。今回、あらためていろいろ聞き直してみて、ローゼズの影響下にあるUKインディーバンドはこんなに多かったんだなと再認識しました。特にリズムです。1stアルバムの前にリリースされた“Elephant Stone”や、その後にリリースされる“Fools Gold”(1989年『Fools Gold / What the World Is Waiting For』収録)など16ビートを強調したファンキーなリズムを、みんなこぞって取り入れていた。

ラブサマ:Blurの“There's No Other Way”なんて、もろにそうですよね。


Blur“There's No Other Way”

―ラブサマちゃんは、1991年ってどんな印象がありますか?

ラブサマ:ロックミュージック史のなかで、「ブリットポップ元年」といわれているのが1995年(Oasisの“Roll With It”とBlurの“Country House”が同じ日にリリースされた年)じゃないですか。そこが私にとって一番興味のある時代なので、1991年はその「前夜」というイメージがいままではありました。でも、今回の対談のお話をいただいていろいろ調べてみたら、めちゃめちゃ豊作の年なんですよね。

ラブリーサマーちゃん<br>1995年生まれ、東京都在住の26歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。
ラブリーサマーちゃん
1995年生まれ、東京都在住の26歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。

ラブサマ:私、Blurの1stアルバム『Leisure』が大好きなんですよ。この頃はまだグレアム・コクソン(G)のローファイっぽいギターなど、メンバーそれぞれの持ち味はさほど生かされていないんですけど、それでもデーモン・アルバーン(Vo,G)のシニカルな歌詞や、キャッチーだけど一筋縄ではいかないメロディー、プログレっぽい変拍子のようなひねりも効いているし。

Blurの『Leisure』を聴く(Spotifyを開く

―“Birthday”とかは、シド・バレットっぽさもありますよね。

荒野:当時のデーモンは金髪でマッシュルームっぽくて、映画『時計じかけのオレンジ』のアレックス(マルコム・マクダウェル)みたいないで立ちだと思いました。優等生というよりは、知能犯的な感じ……この人絶対に天才だなと思っていましたが、当時はUKインディー通の仲間にBlurが好きだと言うと「正気かよ、あんなバンド亜流だろ」って散々バカにされました(笑)。

ラブサマ:ええー! そうだったんだ……あんな名盤なのに。

左から:ラブリーサマーちゃん、荒野政寿

―当時はいいとこ取りのハイプなバンドと思われていたフシもありましたよね。のちのブリットポップにつながる「シックスティーズ再評価」の機運は、1991年にはかなり高まっていました。ローゼズしかり、Inspiral CarpetsやCharlatansのような、The Doorsを彷彿とさせるオルガンロックしかり、みんな1960年代のロックに影響を受けたバンドです。

荒野:Creation Records周辺を見渡してみても、Primal Screamも初期はThe Byrdsのような12弦ギターを使ったフォークロックをやっていたし、のちにアシッドハウスへと傾倒していくThe Timesも、もともとはTelevision Personalities周辺から現れたネオモッズバンドだった。ちなみにアラン・マッギー(Creation Recordsの創始者)は、さっき話したRain Paradeとも契約しようと思っていたみたいですね。当時のUKの「シックスティーズ再評価」は、USのペイズリー・アンダーグラウンドから受けた影響がものすごく大きかったと思う。

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リリース情報

ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
ラブリーサマーちゃん
『THE THIRD SUMMER OF LOVE』

2020年9月16日(水)発売
価格:3,630円(税込)
COCP-41239

1. AH!
2. More Light
3. 心ない人
4. I Told You A Lie
5. 豆台風
6. LSC2000
7. ミレニアム
8. アトレーユ
9. サンタクロースにお願い
10. どうしたいの?
11. ヒーローズをうたって

書籍情報

XXX
『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』

2021年8月12日(木)発売
著者:黒田隆憲、佐藤一道(共同監修)
価格:3,080円(税込)
発行:シンコーミュージック

プロフィール

荒野政寿(あらの まさとし)

1988年から都内のレコードショップで勤務。1996年、シンコー・ミュージックに入社。『WOOFIN’』『THE DIG』編集部、『CROSSBEAT』編集長を経て、現在は書籍と『Jazz The New Chapter』『AOR AGE』などのムックを担当。著書に『プリンスと日本 4 EVER IN MY LIFE』(共著、小社刊)。今年8月、『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』を編集。

ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ、東京都在住の26歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。

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