ONE OK ROCK新アルバム全曲解説。ロック衰退の時代に「ロックアルバム」をつくった理由

ONE OK ROCKの最新作、『Luxury Disease』。日本語に訳すと「贅沢な病」、すなわち彼らの1stアルバムである『ゼイタクビョウ』(2007年)と同じ意味を持つ。当時の日本のロックシーンを沸かせたこのアルバムのリリースから約15年が経ち、彼らは日本を代表するどころか、世界で戦うアーティストへと変貌を遂げた。

2016年には米国の人気レーベル「Fueled By Ramen」と契約を結び、世界各国でツアーを実施するなど、着実に海外での活動の地盤を固めていった。

だがそれは同時に、ロックというジャンル自体が勢いを失っていたメインストリームへの挑戦をも意味している。従来のやり方が通用しないことを知り、新たな戦い方を求めた彼らは、前作『Eye of the Storm』(2019年)でロック以外のジャンルを手掛けてきたさまざまな海外プロデューサーとタッグを組み、大胆にダンスミュージックを導入するなどポップに振り切った作風に挑むことで、新たなONE OK ROCKとしてのスタイルを打ち出すことに成功した。

そんな彼らが約3年半ぶりのリリースとなる本作で、再び「ロックアルバム」に舵を切った。プロデューサーにポップパンクの歴史的名盤の数々を手掛けてきたロブ・カヴァロを招き、その手にロックを取り戻す道を選んだのだ。

本稿では、Spotifyのプレイリストシリーズ「Liner Voice+」で行なわれた、FM802 DJ大抜卓人によるTakaの全曲解説インタビューを紐解き、世界と対峙し再びスタートラインに立ったONE OK ROCKの挑戦の軌跡を追う。

ONE OK ROCK「Liner Voice+」を聴く

固定観念に縛られないハイブリッドなロックサウンド

本作のプロデューサーを務めたロブ・カヴァロは、My Chemical Romanceの『The Black Parade』(2006年)やGreen Day『American Idiot』(2004年)といった数多くのロックの名盤を手掛けてきた人物だ。先行シングルとなった“Save Yourself”における、ヒリヒリとした質感のギターや、一つひとつの音の鳴り、空気の揺れをしっかりと感じられる重厚なバンドサウンドは、まさにロブの手腕によるものであり、世界基準のロックサウンドを鳴らすうえではベストな人選である。

ONE OK ROCK“Save Yourself”ミュージックビデオ

Taka:“Save Yourself”はもともとデモの段階でギターは入れていたんですけど、ここまでソリッドでロックっぽいサウンドでいくのかと驚きました。実際にメンバーがロサンゼルスに来て、ロブとレコーディングを始めたときぐらいから「おお!」というのはありましたね。ロブが持ってくるギターもアンプも、全部ヴィンテージのヤバいやつばっかりで。まさに「ロックアルバムレコーディング」だったという気がします。

だが、同楽曲が原点回帰のノスタルジーに満ちたものかというと、決してそういうわけではない。ソリッドなロックサウンドの緊張感のなかには電子音が絶妙に織り交ぜられており、浮遊しながら激しく明滅する音色が意識をさらに研ぎ澄ましながら、バンドをさらなる覚醒へと導いていく。

ほかの楽曲においても、多彩なエフェクトや生音を取り入れたアレンジの妙が光る“Let Me Let You Go”や、全面的にタッグを組んだPanic! at the Discoの影響を色濃く感じさせるオペラ的な“Neon”など、長年にわたって磨き上げられてきたバンドサウンドと他ジャンルのサウンドが一体となり、いままで聴いたことがないような音像でありながら、確かに「ONE OK ROCKのロック」と感じられる場所へと見事に着地している。

ONE OK ROCK“Let Me Let You Go”ライブドキュメンタリー映像
ONE OK ROCK“Neon”を聴く

このハイブリッドでフレッシュな音楽性は単にロブと組むだけでは実現できないものであり、『Eye of the Storm』を経たいまの彼らだからこそ鳴らせるものだろう。

Taka:ロックが衰退してしまっていた現状があるので、すべてをロブから聞いて吸収するのではなくてハイブリッド、つまりそれぞれの良さをちゃんと20%ずつ出して一つの作品に落とし込んでいくという、ぼくがプロデュースする感覚みたいなものもあったんですよね。

ロブは自分のやり方をしっかりと提示してきていて、そこに自分たちも乗っかるんですけど、そこにONE OK ROCKというものをちゃんと入れたいので、「こういうものをつくりたい」と彼に伝えながらやっていきました。

現代のメインストリームの動きを踏まえたうえで、それでも生々しい手触りを感じられるような新たなロックサウンドをつくり上げる。その制作作業は、これまでさまざまな海外のメインストリームで活躍してきたスタッフを交えてもなお、一筋縄ではいかないものとなっていたようだ。

Taka:“Save Yourself”はミックスで相当揉めたんですね。最初はいまのアメリカのポップの王様と言われているような方にお願いしたら、リバーブが強すぎるものが返ってきて「ポップじゃないからね、ロックだからね」となって。次はロックの人にお願いをしたんですが、EDMっぽいパートがものすごくスカスカで返ってきたんですよ。

それでこの曲でボーカルのプロデュースをしてくれているSasha Sirotaという人から、「ぼくに1回ミックスをやらせてほしい。ロックもわかるし、ポップもわかるから」と言われて、頼んだんですが、それも違うんです。結局、全部のミックスを止めて、最初にレコーディングでエンジニアをやってくれた人がその場でつなぎ合わせた状態のドライなもの、生々しいもの。この方向性でいこうってなったんですね。

さまざまな音楽的挑戦を経て研ぎ澄まされたビジョン

一方で、「コロナ期間中に辛かったことを全部ここに閉じ込めた」と語る“So Far Gone”は、本作中もっともパーソナルな楽曲の一つであり、ストリングスを交えた壮大なロックバラードが展開される。豪華なアレンジが施されていながらも、一切邪魔されることなくまっすぐ耳へと入ってくるTakaの美しい歌声が印象的な仕上がりだ。それは極端な言い方をすれば、ポップアーティストのロックバラードを聴いているかのような感覚に近い。それもまたバンド側の明確な意図によるものだ。

ONE OK ROCK“So Far Gone”を聴く

Taka:“So Far Gone”だけ、ミックスをポップのレジェンド、ジャスティン・ビーバーとかをずっとやっているチームにお願いしました。ロブは、こういう曲はやっぱり王道のロックのミックスエンジニアにお願いしたがっていたんですが、ぼくはそれでは駄目だという判断をして。

自分の声のトーンの低さと、そこから突き抜けてくるボーカルの感じが強すぎては駄目だし、全体的に美しく聞こえてほしい。でもロックっていうのは、その基盤として存在してほしいっていう。そういう判断も、絶対に自分でするようにしました。

ときには荒々しい手触りを残し、ときには徹底的に美しく磨き上げる。楽曲のプロデュースやアレンジだけではなく、サウンドメイキングにおいても明確に意図を持ったうえで、自ら判断を下す。その在り方は、前作でさまざまなプロデューサーのやり方を学び、さまざまな音楽性に挑戦したからこそ実現できるものであり、いまのバンドの持つビジョンがこれまでに無いほど研ぎ澄まされていることを示している。

スタジオに現れた宇多田ヒカルの助言

本作にも収録されている“Renegades”は、世界的なポップスターであるエド・シーランとともに、イギリスでのレコーディングセッションを経て制作された楽曲だ。

ONE OK ROCK“Renegades”ミュージックビデオ

それだけでもインパクトのある出来事だったが、今回のインタビューでは、本楽曲の制作の数日後、別のセッションを行なっているとき、スタジオに宇多田ヒカルが現れたことが明かされた。じつはこのとき、宇多田も同じスタジオで自身の作品のレコーディングに取り組んでおり、その偶然がある出来事を引き起こす。

Taka:その楽曲のプロデューサーがフランス人で、英語が普通に喋れるけど、ネイティブではない方で。ぼくは当然、ネイティブじゃないですよね。そのなかのレコーディングで「ちょっとこの発音違うんだよね」って彼が言って、「うーん」ってなりながらも何回かやっていたら、ヒカルちゃんがバーってブースに入ってきて「自分のオリジナルでいいから!」って言ってくれたんです。

ぼくがクリエイティブに対する自分の考えに迷っていたときに「Takaは間違ってないよ」ってわざわざブースに入ってくるっていう。「かっこいいな、この先輩」と思いましたね。

宇多田ヒカルといえば、ONE OK ROCKは2021年7月に実施されたバンド初のアコースティックライブ『ONE OK ROCK 2021 “Day to Night Acoustic Sessions” at STELLAR THEATER』で“First Love”のカバーを披露した。

その当時を振り返った際にも、「できなさすぎて、頭がおかしくなりそうだった」「本人にも『こんな難しい曲を、よくもまぁぼくが小学校ぐらいのときに出してくれましたよね。やりづらいし、難しいし、大変ですよ!』と愚痴をこぼさせていただきました(笑)」と語っていた通り、Takaにとっての宇多田ヒカルは、シンガーとしても、海外を拠点に活躍する日本人アーティストとしても偉大な先輩にあたる。そんな宇多田ヒカルからの助言は、当時試行錯誤を続けていたTakaにとっても大きな意味を持つものだったのではないだろうか。

Official髭男dism・藤原聡とのコラボで受け継がれる意思

一方で、ONE OK ROCKもまた、いまや多くのアーティストに影響を与える偉大な存在だ。本作の日本盤の最終トラックに収録されている“Gravity”で共演が実現したOfficial髭男dismの藤原聡は、まさに彼らに影響を受けた若手アーティストの代表とも言えるだろう。

Taka:もともと、藤原くんがONE OK ROCKをすごく聴いてくれているというのは聞いていたんですよ。なんなら、ONE OK ROCKのおかげで歌をやれていますと言ってくれてるのを知っていて。すごく俺ら歳とったなと思っていたんですね(笑)。そんな子たちがもう、いまでは日本でナンバーワンのバンドになっている。

じつは、この“Gravity”自体はアルバム制作以前から存在していた楽曲であり、元々は収録が見送られる可能性もあったという。だが、同楽曲が大好きだったというマネージャーの後押しにより、あらためてアルバムの楽曲として検討されることになった。そのなかで出てきたのが、今回のコラボレーションというアイデアである。

ONE OK ROCK“Gravity feat. 藤原聡(Official髭男dism)”を聴く

美しいアルペジオに寄り添うように優しく歌うAメロから、一気にエモーショナルなロックの洪水へと突入するサビのコントラストに圧倒される同楽曲だが、藤原のボーカルが入った途端に景色が一変することに驚かされる。ONE OK ROCKの楽曲であるはずなのに、確かにOfficial髭男dismの楽曲を聴いているかのような感覚に陥るのだ。

Taka:自分のなかでも出し切っちゃってる部分もあるし、何か新しい要素がないとと思っていて。それで「ひょっとしたら、この曲、藤原くん合うかもしれない」と思って、この曲を渡してお願いしたんです。そしたら、後半のピアノとかアレンジもしてくれて。それがまた髭男っぽくて、「わぁ、すっげぇいいじゃん!」と思ったんですね。ボーカルも入れて、掛け合いもちゃんとつくって、結果的にすごく良い曲になりましたね。

その親和性の高さの背景には、藤原の歌声やアレンジの魅力もさることながら、何よりも藤原自身がONE OK ROCKの音楽の影響を受けて育ったことが挙げられるだろう。一方で、Taka自身も藤原に対して、特別な想いを抱いている。

Taka : 自分の夢に対して、叶えていく力を多分、藤原くんはすごく持っているんですよね。人からもすごく愛されるし。「世の中にまだ不可能がないんだな」ってことが、彼の生き方を見ているだけでなんだかわかってくる気がする。

それは、まさに藤原自身がTakaの姿を見ながら感じていたことではないだろうか。ONE OK ROCKはバンドが誕生した頃からずっと、行き詰まった現状を打ち破り、夢を叶えるために前へと進み続けてきた存在である。それは自らの出自に対する偏見に苦しんだ初期から、新たな音楽性を武器に海外へ挑もうとする現在まで、決して変わることはない。そんな「不可能を可能にする」という姿勢もまた、多くのアーティストに影響を与えてきたのだろう。今回のコラボレーションは、ONE OK ROCKがこれまでに築き上げてきたものをあらためて証明するような出来事だったと言えるのかもしれない。

ロック回帰の背景にあった「怒り」の正体

まさに『ゼイタクビョウ』で彼らの音楽に魅了された筆者のようなファンにとって、本作の「現代のメインストリームに通用する新たなロック」という方向性は、喜ばしいものに他ならない。だが、忘れてはならないのは、この方向性に至ったきっかけが「怒り」にあるということだ。

歌詞に目を向けてみると、“Save Yourself”や“Let Me Let You Go”“So Far Gone”“Gravity feat. 藤原聡(Official髭男dism)”など、多くの楽曲で「君(You)」を失い、傷付き、怒りを抱く様子が描かれていることに気付く。そんな本作を象徴する楽曲が、15歳の自分と、それから19年が経ったいまの自分の姿を対比する姿を描いた“Mad World”だろう。同楽曲が生まれた背景について、Takaは次のように語る。

ONE OK ROCK“Mad World”を聴く

Taka:ぼく自身も前作からの3年半の間にいろんなことを感じて、人生って本当に何があるかわからないなっていうのをまざまざと考えさせられたんですね。それを振り返ったときに、自分がこのバンドを始める前の「人生に行き詰まっていた」自分から、いまの自分を見るということを、世の中が変だと感じるこのタイミングでできたら、良いのかもしれないなと思ったんですよ。

<あの日僕が僕に誓った / 夢は枯れることなく無事に育った / 19年後の今僕がいるこの世界>と歌うその姿からは、夢を諦めることなく進み続けたいまの自分自身を称えるような印象を受ける。だが、サビで繰り返される「狂った世界を生きている(Living in a mad world)」という言葉は、いまの彼がいる場所が決して理想的なものではないことを示唆している。

Taka : 人間っていうものにフォーカスを当てたときに、あんまり何も変わらないんだなっていうのに気付いたんですよね。テクノロジーばかり進歩して、人間そのものの感情っていうのは、ほとんど何も変わらないんじゃないかと。多分、ぼくが生まれてから死ぬまでの間に人間が劇的に変わることってないと思っているんですよね。

テクノロジーに置いていかれてるのか、人間が衰退しているのかはわからないんですけど、こういうことってずっと続くんだろうなって。ただそれがずっと続くってことは、愛とか夢とか希望も、当然永遠に続くんだろうなっていう。歳をとればとるほど、諦めたりとか、リリース(手放す)したりすることが多くなるけど、ぼくはまだ諦めたくないという強い想いが、こういうタイミングで出てきたりするんですよね。

アルバムを通して繰り返し描かれる「君(You)」との光景は、一見するとともにわかり合うことのできなくなった、ある恋愛の終わりを描いているようにも思える。だが、同時に、「かつて自分と同じくらいに強い野心を抱いていたにも関わらず、それを諦め、動くことをやめた人と向き合う姿」を描いているようにも感じられる。

恐らく、Takaをロックへと導いた怒りの矛先は、ある個人ではなく、「諦め」という感情そのものなのではないだろうか。日本人アーティストが海外で成功することなんてできない、いまのメインストリームでロックなんて通用しない、もう若くないから無理はできない、夢を叶えることなどできない、そんなさまざまな「諦め」を覆そうとする強い想い。それこそが、本作を世界基準のロックアルバムへと導いたのではないだろうか。

Taka : いままで、ロックもやって、ポップなこともやってきて、ツアーもやってきて、アメリカに実際住んでみて、友だちもつくって、それをふんだんに出したアルバムじゃないかな。いままでの自分の集大成かつ、ここから始まっていくっていう、その両方が掛け合わされているアルバムになっているなって思いますね。

この作品は勝負の1枚だと思っているので、ここから今後どこまで行けるか、気合い入れてやっていくしかないですよね。

そう、これはあくまで「スタートライン」である。ここから、ONE OK ROCKの新たなる戦いが幕を開けるのだ。

ONE OK ROCK「Liner Voice+」を聴く
リリース情報
ONE OK ROCK
『Luxury Disease』通常盤(CD)


2022年9月9日(金)発売
価格:3,300円(税込)
WPCR-18540

1. Save Yourself(セイコー プロスペックス CMソング)
2. Neon
3. Vandalize
4. When They Turn the Lights On
5. Let Me Let You Go
6. So Far Gone
7. Prove
8. Mad World
9. Free Them feat. Teddy Swims
10. Renegades
11. Outta Sight
12. Your Tears are Mine
13. Wonder
14. Broken Heart of Gold
15. Gravity feat. 藤原聡(Official髭男dism)
プロフィール
ONE OK ROCK (ワンオクロック)

2005年にバンド結成。エモ、ロックを軸にしたサウンドとアグレッシブなライブパフォーマンスが若い世代に支持されてきた。2007年にデビューして以来、全国ライブハウスツアーや各地夏フェスを中心に積極的にライブを行なう。これまでに、武道館、野外スタジアム公演、大規模な全国アリーナツアーなどを成功させる。2016年には11万人規模を動員する野外ライブを、2018年は東京ドーム2日間を含む全国ドームツアを開催。日本のみならず海外レーベルとの契約をし、アルバム発売を経てアメリカ、ヨーロッパ、アジアでのワールドツアーを成功させるなど、世界基準のバンドになってきている。2019年2月にはアルバム『Eye of the Storm』を全世界でリリース。エド・シーランのアジアツアーのオープニングアクトにも抜擢された。また、2020年10月には自身初の試みとなるオンラインライブを無観客のZOZOマリンスタジアムから世界同時生配信し、成功を収めた。2021年7月には有観客で初のアコースティックライブを開催し、今までとは違った新たな一面を見せた。



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