2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

2021/07/30
テキスト・編集
山元翔一(CINRA.NET編集部)
イラスト:アボット奥谷

アメリカのシティポップリスナーは、日本の現行のシティポップにも大きな関心を示している

柴崎:そういうことと関連してか、「はっぴいえんどのメンバーが解散後にこういう活動をして」みたいな系譜的な語りって、海外の一般的なシティポップファンからはほとんど関心を持ってもらえないな~、と感じます(笑)。

松永:はっぴいえんどの先駆性に関しては、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年、監督はソフィア・コッポラ。同作のあるシーンで“風をあつめて”が使われている)や細野さんのおかげでいまは以前より海外での理解が進んだと思います。

20年ほど前にアメリカのディーラーの家に行ったときは、「はっぴいえんどはファーストしか聴かない。ファズが入ってるから」と言われたし、それでもまだ興味があるほうの反応でしたから(笑)。

はっぴいえんど『はっぴいえんど』(1970年)を聴く(Spotifyを開く

松永:ただ、細野さんや達郎さんワークスへの楽曲単位、アルバム単位での関心はあっても、たとえばティン・パン・アレーの仕事を追って聴くようなヒストリカルな掘り方はなかなか難しいかなと思います。

当時の日本での歌謡曲、ニューミュージック市場の巨大さとの関係性も理解しないといけないし。たとえば「アルファレコード」(註7)のリリースを軸にして、点と点を結びつけていくような学び方のほうがまだわかりやすいかな。

柴崎:昨今のブームを振り返ると、深化よりも浸透の速度のほうが圧倒的に早かったって感じですよね。自分みたいな音楽オタクの手から離れたからこそ、いまの状況があるんだなあ、と。そういう現状に対して「こんなの本来のシティポップとは違う!」と投げかけても、まあそれはそうなんだろうけど、ちょっと虚しい気もする(笑)。

プレイリスト『Tokyo City Pop 記憶の記録LIBRARY』を聴く(Spotifyを開く

芦澤:Spotifyがシティポップの年代別のプレイリストを2月にローンチしたのは、そういう状況も踏まえてだったんです。

もともと『City Pop: シティポップの今』という、現在進行形で活動しているアーティストがつくるシティポップ / ネオシティポップをまとめたプレイリストがあって、それが気づいてみたら、いつの間にかアメリカでいちばん聴かれているみたいなことが一時起きていたんですよ。

柴崎:へえ!

プレイリスト『City Pop: シティポップの今』を聴く(Spotifyを開く

芦澤:そういったニーズと、世界的に巻き起こったシティポップのバズを反映させるために、あるときから「シティポップの今」と謳っていながら、1979年に発表された“真夜中のドア”もフィーチャーされている、みたいなおかしなことになってきたんですね。

であれば、1970年代くらいからシティポップはずっと地続きであることを時代感や系譜とともに提示できたら、ということで1970年代、1980年代、1990年代、2000年代とディケイドで区切ってプレイリストをつくったんです。そのコンパイルする作業をしながら、その時代ごとにいろんな状況がありながらも、結果的に現在とのつながりを再確認できたんですよね。

プレイリスト『City Pop '90s』を聴く(Spotifyを開く

プレイリスト『City Pop '00s』を聴く(Spotifyを開く

芦澤:それらのプレイリストを通じて、いまのこの状況はじつは突発的なものではない、ということを感じてくださるリスナーがいればいいなと思います。

柴崎:そうですよね。シティポップって、パッと聴きでも抜群に心躍らされる音楽ですけど、系譜を辿ってみるとさらに面白く感じられる音楽だと思います。各ミュージシャンやプロデューサーの特質を探ってみるのもいいし、人脈地図が見えてくるといろんな発見があったりして。ライトな目線、マニアックな目線、両輪の面白さがありますよね。

「パッケージされたノスタルジー」ではなく「生きている音楽」としてのシティポップが向かう先

松永:日本の現行のシティポッププレイリストがアメリカでよく聴かれているのは意外ですよね。インディーアーティストや意欲的なリスナーたちが同時代人との共振を求めてる部分も大きいんですかね。

マック・デマルコやデヴェンドラ・バンハート、ジェリー・ペーパーみたいな、音楽的な面でのよき仲介者もいるし。つい最近のケースでは、シティポップの文脈ではないですけど、女性シンガーソングライターのフェイ・ウェブスターがmei eharaをストリーミングで見つけて交流が生まれ、楽曲にフィーチャリングしたという話題もありましたしね。

マック・デマルコ“Honey Moon”(2018年)を聴く(Spotifyを開く

フェイ・ウェブスター“Overslept feat.mei ehara”(2021年)を聴く(Spotifyを開く

松永:一方で、韓国のリスナーは1970年代のプレイリストも好んで聴いてるというのも意外ではあります。1980年代サウンドの人気が高いという認識だったから。でも、1970年代への支持もなんとなくわかるところはあるんです。

K-INDIEって、バンドカルチャーともクロスしているから、インディー感のあるバンドサウンドでやるとなったら、1970年代シティポップのサウンドを参照するほうが演奏としての理には適ってる気がします。アマチュアリズムも残したバンドでやるシティポップの理想形としてシュガー・ベイブを捉え直すとか。

こういうふうにぼくが感じてしまうのは、Night Tempoさんに取材したときにシュガー・ベイブや山下達郎さんのソロの初期を指して「下北沢っぽい」と表現したことが強く残ってる、っていうのも影響してるかもしれないですけど。

プレイリスト『In The K-Indie』を聴く(Spotifyを開く

柴崎:たしかに、その感覚は日本の2010年代以降のインディーポップ系のシティポップ=ネオシティポップにも通底しているものかもしれませんね。

逆に、DJであるNight Tempoさんは、ぼくとのインタビューのなかで「80年代以降のエレクトロニックなサウンドが好き」と言っていました。日本もそうですけど、バンド中心のインディーポップ的なシーンと、ネットから発生したシティポップリバイバルには少し嗜好の差がある気がします。

松永:そうなんですよね。でも、そこがクロスしてる面白さがある。台湾と日本の音楽の橋渡しをされている寺尾ブッタさんの話を先日トークイベントで聞いたときは、台湾ではすでにシティポップ的な流行はひと段落して、バンドサウンドはまた違う方向に向かってるという話でしたね。

落日飛車『SOFT STORM』(2020年)を聴く(Spotifyを開く

柴崎:欧米に比べると、韓国や台湾など、アジアのインディーポップ系のミュージシャンたちは日本の「ポスト・ネオシティポップ」的な実践とも深く共振している印象があります。

日本との地理的な近さもあって、実際に日本のインディーバンドがアジアでライブを行ったり、その逆のパターンも頻繁にある。それも大きく関係していると思うのですが。

現在のシティポップブームって、「パッケージされたノスタルジー」として捉えることができる一方で、「生きた意匠」として現行の楽曲に取り入れられてきた、という意味では、「人間的」で、アクチュアルな広がりを持つものでもあると思うんです。

松永:うん。そういう意味では、その実践性が上がっていくことによって、ある時代のサウンドのフォーマットをひたすら踏襲するのではなくて、ボサノヴァやMPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ、ブラジルのポピュラーミュージックのこと)が世界言語として定着して現代の音楽には普通に存在するイディオムに変化していったように、シティポップもやがて「この曲が特別」というところから離れて、ある意味「特別じゃない、普通にあるもの」になっていくでしょうしね。

そこから先は、もっとバンドサウンドと融合してニューウェイブ、ポストパンク的なサウンドが主流になるのかもしれないし、世界的にコロナ後のパーティーがはじまったらダンスミュージックとしての享楽性がもっと引き出されていくのかもしれない。ムーブメントや流行がジャンルの定義を変えていくことってこれまでもたくさんあったし、シティポップも例外じゃないと思います。

「Light In The Attic」が手がけたコンピレーション『Somewhere Between: Mutant Pop, Electronic Minimalism & Shadow Sounds Of Japan 1980–1988』(2021年)を聴く(Spotifyを開く

柴崎:「80年代の玉手箱」としてのシティポップ観と、主にアジアや日本のインディーアーティストたちが「いま」の音楽として実践してきたもの、その2つのフェイズが同居し、ときに相剋している、という。

一方で、メジャーなJ-POPやオタクカルチャー、K-POPでもシティポップ的な意匠を盛り込むことは既定路線になりつつあるし、ネットを中心に、Z世代以降のリスナーもどんどん流入している。ブームの中心は既に次なるフィールドへ移った感もあります。

そう考えると、ヴェイパーウェイヴ的価値観に発する諧謔性のようなものはさらに後景へと退いて、「人とつながるコスモポリタンなメディア」としてのシティポップ像が、今後ますます顕在化していくかもしれませんね。「拡散と形骸化」という単純な流行サイクル論で捉えきれるものでもない。だから、このブームは、これから先更にまた別の展開をする可能性もありますよね。

Kompassでは、2010~2020年代のシティポップにまつわる前提についてまとめた記事「シティポップの世界的ブームの背景 かれらの日本という国への目線」を公開中
Kompassでは、2010~2020年代のシティポップにまつわる前提についてまとめた記事「シティポップの世界的ブームの背景 かれらの日本という国への目線」を公開中(記事を開く

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書籍情報

『シティポップとは何か』

編著者:柴崎祐二
価格:2,475円(税込・予価)
発行:河出書房新社

プロフィール

松永良平(まつなが りょうへい)

1968年、熊本県生まれ。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌『リズム&ペンシル』がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務のかたわら、雑誌 / ウェブを中心に記事執筆、インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行う。

柴崎祐二(しばさき ゆうじ)

1983年埼玉県生まれ。音楽ディレクター、評論家。編共著に『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』、連載に「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」(『レコード・コレクターズ』)などがある。2021年9月に編著を務めた『シティポップとは何か』(河出書房)の刊行を控えている。

芦澤紀子(あしざわ のりこ)

ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

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