2024年、大注目のアーティストは?『RADAR: Early Noise 2024』10組の選出理由

SNS発。コロナ以降さらに多様化する「令和時代のシンガーソングライター」

Spotifyが、2024年に躍進を期待する次世代アーティスト『RADAR: Early Noise 2024』を1月11日に発表。選出されたアーティストを紹介するSpotify公式のMusic+Talk番組が同日配信された。出演者は前回同様、Spotifyの芦澤紀子と音楽コンシェルジュのふくりゅう。司会は名古屋にあるFMラジオ局・ZIP-FMのナビゲーターAZUSAが務めた。

『RADAR: Early Noise』は、毎年、年の初めに躍進が期待されるアーティスト10組を選出。そのアーティストの魅力をプレイリストなどで年間を通じて継続的に紹介するSpotifyの新人サポートプログラムである。これまで『RADAR: Early Noise』は、あいみょんやKing Gnu、藤井風、Vaundyら現在の邦楽シーンを牽引する多くのアーティストを選出。当プログラムを通じて多くのリスナーにそのアーティストが持つ魅力を伝え、ネクストステージへのステップアップをサポートしてきた。昨年はSkaai、DURDAN、Tele、TOMOO、なとり、春ねむり、Furui Riho、ヤングスキニー、LANA、れんの10組が選出されている。

そんな『RADAR: Early Noise』による選出アーティストを深掘りするMusic+Talkでは、まず芦澤とふくりゅうが2023年の音楽環境についてこのように振り返った。

芦澤:シーンの多様化に準ずるかたちで幅広くアーティストを選出している『RADAR: Early Noise』を一言で総括するのは難しいのですが、さまざまな分野で活躍が見られた1年だったと思います。たとえばなとりは、“フライデー・ナイト”がSpotifyブランドCMに起用され、3,400万再生(※)を超えるヒットにつながりました。“Overdose”も引き続き聴かれ続けており、2023年国内でもっとも再生された楽曲ランキング6位に入る健闘を見せました。

※本稿のデータはすべて番組収録時のもの

なとり“Overdose”(Spotifyで開く

芦澤:またLANAは、Buzz Trackerにも選ばれた“TURN IT UP”がバイラルヒットを記録。ほかにも『POP YOURS』(国内最大規模のヒップホップフェス)によるオリジナル楽曲“Makuhari”や、Awichの“Bad Bitch美学”といった話題曲にも参加するなど大躍進の1年となりました。さらに、8月に開催された『SUMMER SONIC』では、東京会場にて2日間にわたりRADAR: Early Noiseステージが展開され、DURDN、Skaai、LANA、春ねむりなど昨年選出されたアーティストが多数参加してくれました。

そんな2023年の音楽シーンを踏まえ、2024年がどんな1年になっていくかを芦澤はこう予想する。

芦澤:まずは「令和時代のシンガーソングライターの多様化」が挙げられます。2020年の藤井風やVaundy以降、従来のSSWの枠に収まらない多才なソロアーティストがどんどん出てきています。コロナ禍以降はさらに加速し、ネットカルチャー発やTikTok発という文脈から、例えば昨年もimaseやなとりが活躍しました。

ふくりゅうも芦澤に同意。「『シンガーソングライター』というより、『シンガーソングクリエイター』と呼びたくなるようなアーティストの活躍がどんどん広がってきている」と補足した。

例年以上にフレッシュな顔ぶれが揃う、2024年の『RADAR: Early Noise』

さて、そうした2024年の音楽シーンの動向を鑑みながら、Spotifyが選んだ今年活躍が期待される『RADAR: Early Noise 2024』は、MFS、音田雅則、サバシスター、JUMADIBA、jo0ji、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN、tuki.、十明、First Love is Never Returned、離婚伝説の10組だ(50音順)。

RADAR: Early Noise 2024(Spotifyで開く

選出されたポイントについて芦澤は、このように述べた。

芦澤:『RADAR: Early Noise』は、先に全体のテーマを設けてからアーティストを選出しているわけではなく、純粋にアーティスト軸で1組ずつ熟考を重ねて選出しているため、選出のポイントはアーティストによって異なります。ただ、選出された10組を俯瞰してあらめて感じるのは、今年はかなりフレッシュなラインナップになっているということです。

ヒットの生まれる環境や構造が時代とともに変わってきているため、フルサイズの楽曲を多数リリースしていなくても、例えばSNSなどに発信基盤を持つことで、クリエイティブのセンスやリスナーの反応を可視化しているケースもありますし、最近のトレンドとして、何かのきっかけで発見されてから広がるまでのタームが短くなってきていることもあると思います。「表現や伝達の手段が多種多様になってきている」ということを踏まえた結果になっているのかもしれません。

ここからは例年と同じように、10組のアーティストをいくつかのグループにわけて1曲ずつ紹介していく。今年はサバシスター、離婚伝説、First Love Is Never Returnedの3組を「令和をアップデートする新世代BAND」、MFS、JUMADIBAの2組を「爆進する次世代グローバルHIP-HOP」、音田雅則、tuki.、十明の3組を「SNSから発信するネットネイティヴSSW」、そしてjo0ji、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINの2組を「個性的なZ世代オルタナティヴPOP」に分類した。

ユニークかつ興味深い顔ぶれだが、なかでも筆者が注目したのはJUMADIBA、tuki.、CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINの3組だ。

昨年はkZmの“DOSHABURI”や、 Watsonとともにフィーチャーされたralphの“Get Back”など、客演ものがバイラルヒットして注目を集めたJUMADIBA。自身の作品も3月に2nd ミックステープ“nobori - 上り”、12月に最新EP『noodle』など精力的にリリースをしており、全国ツアーも行なうなどファンベースを確固たるものにした1年だった。

芦澤:JUMADIBAはThe BeatlesやOASISが大好きだと公言しています。そういうUKからの影響は、ファズ感のあるダークでクールなトラックにも表れていると思いますね。散文的でオリジナリティに満ちたリリックとフロウ、サッカー愛を表現する髪型やファッションなど、作品はもちろんキャラクターにも独自の世界観を持っているのが特徴です。

攻撃的でハードな楽曲がある一方で、浮遊感のあるチル系トラックもつくるなど表現の幅も多彩です。今後はオールジャンルのフェスなどにも活動のフィールドを広げていくと話していますし、ヒップホップシーンにとどまらず、より多くの音楽ファンにリーチしていくポテンシャルを感じますね。

ふくりゅう:今回、「爆進する次世代グローバルHIP-HOP」にグループ分けしたMFSとJUMADIBAは、どちらもワールドワイドなセンスを持っていながら日本語ラップを確実にアップデートしてくれています。そんな心意気に惚れ惚れしちゃいますね(笑)。しかも「情景の見えるラップ」というか、そういったセンスも2組に共通して感じます。

そんな二人の見解を受けナビゲーターのAZUSAも、「私は普段そんなにヒップホップを聴くわけではないけど、JUMADIBAの音楽は琴線に触れますね」と話した。

JUMADIBA“超Fresh”(Spotifyで開く

コロナ禍でのDTMによる音楽制作。テクノロジーの進化がミュージシャンの層を厚くした

オリジナル曲の“晩餐歌”が、昨年大きな話題となった現在15歳のシンガーソングライターtuki.については、「圧倒的な声の魅力と歌唱力にまず惹きつけられる」と芦澤が絶賛。

芦澤:ギター1本の弾き語りで歌われる“晩餐歌”の弾き語りバージョンは、彼女が持つ唯一無二の存在感と感情表現が堪能できます。この曲はもちろん“一輪花”も、まっすぐな愛情とその裏側にある哀しみや孤独、ヒリヒリとした感情を歌い上げている。昨年リリースされた楽曲は3曲だけだったにもかかわらず、Spotifyの月間リスナーは早くも160万人を突破しました。リスナーは、自身のプレイリストやライブラリに彼女の楽曲を保存して繰り返し聴いているケースが多く、同世代の若いリスナーのみならずあらゆる世代に広がっています。

さらにふくりゅうは、tuki.や音田雅則、十明のようにSNSを発信の拠点に活動するアーティストの存在感が、コロナ禍でぐっと増していったことを指摘し、次のように分析した。

ふくりゅう:コロナ禍だったからこそ音楽制作に集中できたアーティストは多かったのではないでしょうか。Adoもそうでしたが、とた や なとり、imaseといったアーティストたちは、DTMによる制作環境をベッドルームやクローゼットに置いている。コロナ禍でのテクノロジーの進化が、このジャンルをより加速させていると感じます。YouTubeやTikTokなどネット動画サービスの普及が、無名のニューカマーでもファンダムを築きやすくしていますし。ミュージシャンの層をどんどん厚くしてくれている気がしますね。

なかでもtuki.は、一聴して心を鷲掴みにする泣きの歌声が魅力。15歳の視点から人間の「業」を歌う、その鋭い洞察力は宇多田ヒカルと重なる気もします。宇多田の“First Love”を聴いたとき、<最後のキスはタバコのflavorがした>という歌詞に「え、15歳なのになぜこんな気持ちが書けるの?」と驚いたことを思い出すというか(笑)。新しい才能の誕生を感じますね。

AZUSAもtuki.について、「これから何十年も追い続けたいと思わせてくれるアーティスト」と話していたのが印象的だった。

tuki.“晩餐歌 - 弾き語りver.”(Spotifyで開く

小学校の幼馴染3人で結成されたCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN(以下、CHO CO PA)は、電子音楽に民族音楽的な要素を加えることによって生まれるエキゾチックで独創的な世界観が、コアな音楽リスナーのあいだで注目を集めている。

芦澤:彼らは都内の路上を車で移動しつつ、そこでレコーディングした環境音や、さまざまな道具を駆使して奏でるパーカッシブなサウンドを素材に、夜な夜な遊びながら曲を制作する謎な動画がTikTokなどSNS上で話題になりました。しかも、完成した楽曲はどれもセンスに溢れた素晴らしいクオリティのものばかり。キューバ民謡やブラジル、アフリカ、インド音楽、そして沖縄や秩父のお祭りまで、世界各国のさまざまなテクスチャーが自由な解釈で取り込まれ、彼らの感性のままに空想旅行を楽しんでいるような、浮遊感のある楽しくも瑞々しい作品に仕上がっています。

ほぼノンプロモーションにもかかわらず、BTSのRMがInstagramのストーリーズで“空とぶ東京”をシェアするなど、国内外のアーティストからも注目を集めており、『朝霧JAM』や『FESTIVAL de FRUE』といった各種フェスにも出演するなど、その評判は高まるばかり。しかも、ベースのYutaは細野晴臣を祖父に持つというところで、細野の「トロピカル三部作」と時空を超えた共通点を感じながら聴くのも楽しいですよね。

ふくりゅう:芦澤さんのおっしゃる通り、定義にとらわれない自由な音使いが素晴らしい。こうしたサウンドに日本語の歌詞が乗っていることも、海外のリスナーから好意的に受け入れられています。「ガラパゴス」と言われ続けている日本の音楽シーンですが、ガラパゴスであるが故に欧米とは異なるオリエンタルな魅力を獲得できていることを、CHO CO PAが証明してくれている。それこそYMOから通じる「日本産ポップミュージック」の最前線にある。面白い流れだなと思いますね。

CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN“空とぶ東京”を聴く

こうして『RADAR: Early Noise 2024』の選出アーティストを1組ずつ紹介し、今後の活躍に期待を込めながら番組の最後を2人はこう締めくくった。

ふくりゅう:Early Noiseでの選出はあくまでも「始まり」。今後、リスナーのみなさんとこの10組のアーティストがどんな物語を持ち飛躍していくか。海外での活躍も含めて楽しみにしていきたいです。

芦澤:歴代Early Noiseのなかでも、特にアーリーでフレッシュなラインナップになった今年の10組。ここから広がっていく未知なる可能性、伸びしろにも期待したいです。コロナも明け、今後リアルなスペースもどんどん戻ってくると思いますので、まだパフォーマンスを見ていないアーティストがどんな展開をしていくのか。ジャンルや世代、言葉などさまざまなボーダーを超えつつ、活躍の幅を見せてくれるのを楽しみにしています。

RADAR:Early Noise 2024「Music+Talk Edition」



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