2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

2021/07/30
テキスト・編集
山元翔一(CINRA.NET編集部)
イラスト:アボット奥谷

レコードを愛する韓国の若者たちとシティポップの関係

松永:韓国にSpotifyがローンチしたのって今年の2月でしたよね?

芦澤:そうです。

松永:まだ明確な動きとしてはSpotify上では数値化されてない状態だとは思うんですけど、「K-INDIE」といわれるものにはシティポップ的なサウンドの人が以前からかなり多かったんですよ。

傾向としては、アニメ / 漫画的なジャケットを使ったり、あとエレピの音やギターのカッティング、レコードの針音ではじまる曲もすごく多い。

george“After a long time (Digging Club Seoul Ver.)”(2018年)を聴く(Spotifyを開く

松永:実際、韓国の若い子たちの間では古いレコード屋さんでシティポップとかのレコードを買うのがブームになってて(註6)、それを反映してか、デジタル配信の楽曲なのにレコードの針音を入れている。

実際に数字として現れるのはこれからなんでしょうけど、韓国の若い子たちはすごくストレートに影響を受けているんだろうなとは感じますよね。

芦澤:そう思います。今年の2月に、1970年代から2000年代までを10年区切りでコンパイルしたシティポップのプレイリストを立ち上げたんですけど、ローンチ以降数か月間のアクセス推移を見ると、韓国は上位に入ってきていました。特に1970年代を好んで聴いているみたいです。

プレイリスト『City Pop '70s』を聴く(Spotifyを開く

芦澤:K-INDIEやK-POPも含め、いろんな韓国エディターによるプレイリストが公開されているんですけど、Spotifyのローンチ初日からシティポップのプレイリストはつくられています。

聴いてみると、K-POPアーティストの発表したシティポップ風の楽曲なども散りばめられていて非常によくできたプレイリストなんですよね。

松永:そうですね。すごくシティポップ度合いが高い曲が多くてびっくりしました。

韓国のシティポップが集められたプレイリスト『City Pop Korea』を聴く(Spotifyを開く

芦澤:まだ全体的なユーザー数としてインドネシアのような規模感になっていないんですけど、シティポップと親和性が高い傾向はデータに出てきています。

音楽の現場にいる韓国の若者たちがシティポップで熱狂する背景にあるもの

柴崎:韓国は日本文化の流通が禁じられていた期間が長かったし、未だに日本語楽曲を電波に載せるのには実質的な制約がある状況なんですよね。

あるDJの方も言っていたんですが、だからこそ一部の若者たちの間で、「シティポップを聴くこと」がかえってサブカルチャー的な真正性をまとっている、と考えられるかもしれないなと。「本流」ではないゆえのパワーというか。

松永:そうですね。ぼくらが生まれる前の時代からあることですけど、日本人の「洋楽コンプレックス」と近い部分もあるんじゃないかって気もします。

ただ、韓国発のシティポップには表現上のてらいや屈折が少なく、いろんな意味でとても素直です。憧れもありながら、自分たちの好きな感覚を体現できるフォームとしてアウトプットを試みている。

あと、シティポップに限らず配信リリースの仕方が韓国は日本に比べても進んでいますよね。アルバムまで待たずに年に5~6曲くらい出すアーティストも多いです。1曲できたら新しいジャケットをつくってどんどんアップロードしていく。

現行のアーティストでシティポップ的な新曲のアウトプットがここ最近でいちばん多かった国は韓国だったと思っています。

芦澤:Night Tempoの存在もそうですけど、最近の韓国の音楽ファンはアイドルポップ的なものも含めてシティポップとして聴いている感覚がありますよね。


Night Tempoは韓国のプロデューサー / DJで、シティポップのみならず昭和歌謡やアイドルソングにダンスミュージック的な要素を持ち込み、これまで日本でも見過ごされているところがあった楽曲たちの再評価を促した。現在のシティポップブームの立役者のひとりとして見なされている

プレイリスト『This is 菊池桃子』を聴く(Spotifyを開く

柴崎:韓国は、ここ最近の「ニュートロ」(ニュー・レトロのこと)ブームもあって、メジャーからもシティポップ的な楽曲がどんどん出てきてますよね。それと同時に、ここ10年くらいの韓国インディーシーンの熱量もすごい。

コロナ以前何度かソウルへ行ったときに強く思いましたが、クラブでもライブハウスでも、若い人がわーっと盛り上がっていて、それにノセられてお酒がめちゃ進む、みたいな。日本のライブハウスみたいに、後ろのほうで手を組んでシラーっと観てる、みたいなのがなかったのが印象的で(笑)。街自体もすごく元気。あくまで僕の観測範囲の話ですけどね。

Bronze“With The Star feat.OOHYO”(2019年)を聴く(Spotifyを開く

松永:アメリカの場合、国が大きいし人口も多いから、総数としての規模感は大きいかもしれないですけど、実際にどこかの街で日本のシティポップでガンガンに盛り上がっている名物パーティーがある、みたいな話はあんまり聞かないんですよね。

コロナ禍以前の話になってしまいますけど、パーティーがあったとしても比較的小規模なものだったでしょうし、シティポップファンの多くはもっとインドアでベッドルーム的な感覚での受容が強かったと思います。

柴崎:なぜなんでしょうね。やっぱりヴェイパーウェイヴ的なナード感を受け継いでいるのか……。でも、昨今はセレブっぽいパーティーでもシティポップがかかっているっていう話も聞きますよね。オタク的なフェイズとは別に、徐々にライトな需要が分岐していっている感じもある。

プレイリスト『Pacific Breeze: A City Pop Primer』を聴く(Spotifyを開く

松永:もちろんそういう需要の変化には、『Pacific Breeze』みたいなきちんと編集されたコンピレーションが、永井博さんによるアイコンとしてわかりやすいアートワークで出たことも大きいですよね。

ジャパニーズシティポップからの直接的な影響というわけではないけど、ジョン・メイヤーの新作『Sob Rock』のバリバリ80sなジャケやサウンドにも驚きました。あのアプローチが当時を知る世代へのノスタルジックな共感性というより、どちらかといえば若い世代のアンテナに向かっていることはとても現代的。ジョン・メイヤー自身も1977年生まれで、80年代後半にようやく思春期って世代ですしね。

ジョン・メイヤー『Sob Rock』(2021年)を聴く(Spotifyを開く

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書籍情報

『シティポップとは何か』

編著者:柴崎祐二
価格:2,475円(税込・予価)
発行:河出書房新社

プロフィール

松永良平(まつなが りょうへい)

1968年、熊本県生まれ。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌『リズム&ペンシル』がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務のかたわら、雑誌 / ウェブを中心に記事執筆、インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行う。

柴崎祐二(しばさき ゆうじ)

1983年埼玉県生まれ。音楽ディレクター、評論家。編共著に『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』、連載に「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」(『レコード・コレクターズ』)などがある。2021年9月に編著を務めた『シティポップとは何か』(河出書房)の刊行を控えている。

芦澤紀子(あしざわ のりこ)

ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

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