
握手会モデルの崩壊で向き合う アイドルセルフプロデュースの時代
神宿『Brush!!』- テキスト
- レジー
- 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)
コロナで苦境に立ちながら、その巻き返しの図り方を模索するアイドルたち
2010年代に市民権を得たアイドルカルチャーは、「コロナ禍」によって強制的に終了させられたーー。
こう書くといくぶん表現として過激にも感じられるが、ここ数カ月の動向を見ていると、このような評価をせざるを得ない。
新型コロナウイルスへの対策として社会に一気に広がった「三密」「ソーシャルディスタンス」という概念は、2010年代の音楽業界における産業の中心地でもあった女性グループアイドルの世界を直撃した。活動を行うことそのものが「密」を呼ぶ大所帯の48および46グループはテレビの音楽番組からは姿を消し、彼女たちの活動を駆動していた握手会も軒並み中止に。これまで頻繁にメディアに登場していた彼女たちのようなメジャーレーベル所属のアイドルからいわゆる「地下アイドル」まで、ほぼ全てのアイドルが同じような状況に追い込まれた。
徐々に「正常化」に向かいつつある日本の社会において、「自粛」の影響を最も大きく受けた業界の1つであるライブエンターテイメント業界も少しずつ新しい道を模索し始めている。ただ、アイドルに関する興行については特にリカバリーが難しい領域となるだろう。「ソーシャルディスタンスの概念を踏まえつつ従来の握手会と遜色のない楽しみを提供できるイベント」を実現させることは可能なのだろうか?
これまでの「得意技」を封じられたアイドルシーンだが、一方でその間にもクリエイティブ面における革新が随所で起こっていたのも、このシーンの懐の深さを表すものだろう。
定期的に行われていたリリースイベントが行えなくなった状況において率先して新たな取り組みにチャレンジしたのがlyrical school。5人がそれぞれの場所からパフォーマンスする動画がずらっと並ぶ『REMOTE FREE LIVE』は、音のバランスなども含めた「ライブパフォーマンス」としてのクオリティーの高さと、その絵の惹きの強さで大きな話題を呼んだ。
『This Is lyrical School』プレイリストを聴く(Spotifyを開く)
lyrical school『REMOTE FREE LIVE vol.1』
「リモート」という切り口では、でんぱ組.incが発表した“なんと!世界公認 引きこもり!”の「テレワークMV」もコロナ禍におけるアイドルシーンの外せないトピックである。全ての作業がリモートで行われ、それらがSNS上でも開示されながら楽曲制作が進んでいくさまは感動的ですらあった。
でんぱ組.inc“なんと!世界公認 引きこもり!”MV
もともとビジネスの規模が大きかっただけにそのあおりも大きかった46グループにおいても、このタイミングで音楽的なブレイクスルーがあったことは付記しておきたい。白石麻衣の卒業シングルとして発売された乃木坂46『しあわせの保護色』のカップリング曲として発表された“I see...”は、“ダイナマイト”あたりのSMAPやブラックビスケッツなどともシンクロする1990年代的なサウンドが注目を集めた。表題曲を上回るYouTubeの再生回数をたたき出したこの曲は、人気が高まっているグループ4期生のテーマソングとしてこの先も愛されていくはずである。
乃木坂46『しあわせの保護色』を聴く(Spotifyを開く)
乃木坂46“I see...”MV
苦境の中からひねり出されたこれらの作品は、接触が失われたアイドルシーンの次の時代のあり方を感じさせてくれるものだった。もともと「握手会」自体が「CDを売るための工夫のたまもの」だったと考えると、厳しい状況下で新しい「工夫」が登場するのがアイドルを取り巻く環境の常なのかもしれない。
リリース情報
- 神宿
『Brush!!』 -
2020年7月29日(水)配信
プロフィール

- 神宿(かみやど)
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原宿発!の五人組アイドルユニット。グループ名の「神宿」は「神宮前」と「原宿」を合わせたもの。神宿(KMYD)の頭文字、K=KAWAII(可愛い!)、M=MAX(全力!)、Y=YELL(応援!)、D=DREAM(夢!)を届けるため原宿を拠点に活動している。