2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

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山元翔一(CINRA.NET編集部)
イラスト:アボット奥谷

2020年12月、松原みき“真夜中のドア~stay with me”(1980年)がグローバルバイラル18日連続1位を獲得という、異例の事態を巻き起こしていたときのこと。

12月4日にSpotifyが発表した「海外で最も再生された日本のアーティストおよび楽曲ランキング」のなかに興味深い結果があった。『鬼滅の刃』や『NARUTO -ナルト-』をはじめ、『東京喰種トーキョーグール』『僕のヒーローアカデミア』といった超人気アニメへの起用楽曲が立ち並ぶなか、2018年にリリースされたcinnamons × evening cinema“summertime”というシティポップテイストの楽曲がランクインしていたのだ(註1)。

インディペンデントに活動するアーティストの楽曲が、長い時間をかけてその映像とともに海外のファンベースを築いてきたアニメソングと肩を並べて聴かれているのは、異例のことだ。Spotifyにおける“summertime”の再生回数は、現在3,500万回を超える(2021年7月時点)。

“summertime”がこのランキングに入ったことは、松原みき“真夜中のドア”のグローバルヒットと併せて「シティポップ的な楽曲が日本の外で聴かれている」という無視しがたい傾向を示している、と言っても過言ではないだろう。フューチャーファンクのミックス動画における日本のアニメ映像の流用、あるいは「Lo-Fi Beatsチャンネル」におけるアニメGIFも含めて(註2)、「そもそもシティポップは日本のアニメ文化との親和性が高いのではないか」という考え方に立ったとしても、だ。

では、何をもって「海外で聴かれている」とすることができるのか。

2010~2020年代のシティポップにまつわる前提を見つめ直し、シティポップブームの周辺に渦巻くナショナリズム的な欲望についても考えをめぐらせた記事に続き(記事はこちら)、本稿ではSpotifyのデータを通じてシティポップの海外受容(主にインドネシア、韓国、アメリカ)の実態に迫ることを試みた。

サンプルとしたのは、2021年時点における二大シティポップアンセム、竹内まりや“プラスティック・ラブ”と松原みき“真夜中のドア”の2曲。その聴取データなどを通じて、『シティ・ポップ 1973-2019』(2019年、ミュージックマガジン)の監修・松永良平、『シティポップとは何か』の編著者・柴崎祐二、Spotify Japanの芦澤紀子が、シティポップの海外受容の実態を覗き見た。

日本のシティポップは、なぜインドネシアで聴かれているのか?

芦澤:日本でシティポップの名盤・名曲とされているものとSpotify上で海外リスナーに多く聴かれているものは、違う場合も多々あって面白いです。

印象的なベースラインがあったり、ループ構造を持っているグルーヴ感のある楽曲、あるいは気持ちのいいカッティングが入っている楽曲が明らかに好まれる傾向にあります。いわゆるキリンジ“エイリアンズ”的な、「日本におけるシティポップの名曲」という価値観とは違う方向で注目されている印象は強くありますね。

菊池桃子、村田有美、林哲司の楽曲を収録したコンピレーションEP『Pacific Breeze 2 Ep: Japanese City Pop, AOR & Boogie 1983-1986』(2020年)を聴く(Spotifyを開く

松永:各国によっての受け止め方の違いもあると思うんです。その傾向についてはどのようにご覧になっていますか?

芦澤:まず、シティポップの二大消費国はアメリカとインドネシアです。

シティポップに限らず、アメリカが上位にくるのは自明で、マーケットの大きさ、ユーザー人口の多さと層の厚さもそうですし、多様な音楽を聴いている人がいます。

一方、どの曲をとってもインドネシアが上位に出てくるのは面白いです。これは日本の文化やJ-POPカルチャーとの親和性が高い国であること、ユーザー自体が非常に若くてTikTokやYouTubeの影響も受けやすいこと、あとRainychの存在などもあってシティポップの名曲が身近にあることが大きいと考えられます(註3)。


Rainychはインドネシア出身のシンガーで、現在のインドネシアにおけるシティポップ人気の立役者と見なされている。Rainychが“真夜中のドア~stay with me”のカバー動画を公開したのは2020年10月29日で、同曲がグローバルバイラルで18日連続1位を獲得するひとつの起爆剤にもなった(Spotifyを開く

柴崎:インドネシアは急激に数字が伸びてきたんでしょうか?

芦澤:インドネシアでのSpotifyローンチが日本の半年ほど前(2016年3月)で、マーケットとして成長率がそもそも激しいんです。そこはインドネシアは若者が多いということも関係しているのかもしれません(註4)。

柴崎:ということは、シティポップのみが異様に聴かれているわけではないと。

芦澤:そうですね。たとえばアニメ関連の楽曲でデータをとってもインドネシアは高いところに出てきます。


Rainychはシティポップ以外にYOASOBIといった現行の日本のポップス、『鬼滅の刃』や『僕のヒーローアカデミア』『化物語』などアニメ関連の楽曲も複数カバーしている

柴崎:インドネシアではRainychさんのようにシティポップ系楽曲を実際にカバーしてる人もいるし、日本でもファンの多いikkubaruのように、シティポップからの影響を公言してるバンドもいますよね。彼らの知名度は日本のほうが大きいようですが。

それとは別に、現地には1970年代後半からAORなどに影響を受けた「ポップ・クレアティフ」(註5)という音楽もあって、近年になって国内でもリバイバルしているようです。もしかすると、歴史的にメロウな音楽に対する親近感が受け継がれてきたというのもあるのかもしれないですね。


山下達郎や角松敏生など1980年代の日本の音楽からの影響を公言するバンド。tofubeats“水星”のカバーを発表したり、EP『Hope You Smile』(2013年)をヴェイパーウェイヴとも縁の深い日本のレーベル「Maltine Records」からリリースしたことでも知られる(Spotifyで聴く


インドネシアの2人組DJデュオ、Diskoriaが2020年に発表したディスコ風の楽曲“Serenata Jiwa Lara”は2021年7月現在、Spotify上で1,200万回以上再生されている(Spotifyで聴く

松永:そのメロウさへの傾倒は国ごとに歴史背景は違うとはいえ、フィリピン、マレーシア、台湾、香港あたりにも、通じる傾向でもありますよね。タイはかなり前からネオアコっぽい爽やかな曲が好まれていたし。

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書籍情報

『シティポップとは何か』

編著者:柴崎祐二
価格:2,475円(税込・予価)
発行:河出書房新社

プロフィール

松永良平(まつなが りょうへい)

1968年、熊本県生まれ。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌『リズム&ペンシル』がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務のかたわら、雑誌 / ウェブを中心に記事執筆、インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行う。

柴崎祐二(しばさき ゆうじ)

1983年埼玉県生まれ。音楽ディレクター、評論家。編共著に『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』、連載に「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」(『レコード・コレクターズ』)などがある。2021年9月に編著を務めた『シティポップとは何か』(河出書房)の刊行を控えている。

芦澤紀子(あしざわ のりこ)

ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

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