崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

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s.h.i.
編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

今なお無限に増え続ける未知なる音楽に対して。ストリーミング時代における、音楽リスナーとミュージシャン、ミュージシャン同士の距離

『音楽ナタリー』掲載記事「アーティストの音楽履歴書」では、長谷川の現在に至る聴取遍歴が具体的に語られていて非常に興味深い(参照:『音楽ナタリー』掲載記事より)。そこで「初めて買ったCD」として言及され、今でも折に触れて愛着が語られるサカナクションは、以上のような姿勢の確立に重要な役割を果たしたのではないかと思われる。

サカナクション『シンシロ』(2009年)を聴く(Spotifyを開く

長谷川白紙によるサカナクション“セントレイ”のカバーを聴く(Spotifyを開く

サカナクションは、「オーバーグラウンドの中のアンダーグラウンドというのが、自分たちの立ち位置だと思っています」(参照:『美術手帖』掲載インタビューより)と言うように、ある種の入り口となって後進に音楽を紹介する役割を意識的に担ってきたバンドでもある。昨年6月に『rockinon.com』に掲載されたインタビューでは以下のようにも語っている。

僕らにはバンドとしての大義が結成時からあって。美しくて難しい音楽を音楽にさほど興味ない健全な若者たちにどう通訳するかっていうことをコンセプトに音楽を作ってきたんです。それがいつのまにか大きくなったことでうやむやになってたんですね。そのうやむやになっていることに対して自分たちで悩んで苦しんできたから、ちゃんとゴールというか、入り口があって出口があってっていう、それを作るっていうのが『NF』を立ち上げた大きな理由で。それを始めたことで、今回のアルバムの芯というか核ができたなと思います

『rockinon.com』掲載記事「サカナクション・山口一郎、約6年ぶりの新作アルバム『834.194』までの長い物語を語る」より(外部サイトを開く

サカナクション『834.194』(2019年)を聴く(Spotifyを開く

昨年の『SUMMER SONIC』の深夜企画としてコラボレーション開催された『NF in MIDNIGHT SONIC』はそうした姿勢を具現化したものと言える。この企画については、中心人物の山口一郎がTOKYO FMのレギュラー番組で以下のようにコメントしている。

聴いたことがないミュージシャンがいっぱいいると思う。でも、聴いたことがないミュージシャンを調べて聴いてみる、という機会ってなかなかないじゃない。そのライブを観るってもっとないと思うんですよ。(中略)そういうことを繰り返していく中で、自分が知らなかったことを知っていけたので。それを経験してもらいたいなと思って、今回そういうラインナップにしました。

『エキサイトニュース』掲載記事「サカナクション山口一郎が語る『NF in MIDNIGHT SONIC』心構え」より(外部リンクを開く

この『NF in MIDNIGHT SONIC』を体験した筆者の目から見て、現状、サカナクションの啓蒙的試みは大きな規模で成功しているとは言い難い。事実、『NF in MIDNIGHT SONIC』はThe Cinematic Orchestra、Floating Points、テイラー・マクファーリン、Washed Outといった海外アクトの出演がほぼ完売後に発表されたこともあり、1万数千人に及ぶ観客の90%以上がサカナクションなどの国内アクトに集中・殺到していた。

先掲の「美しくて難しい音楽を音楽にさほど興味ない健全な若者たちにどう通訳するかっていうことをコンセプトに音楽作ってきた」「うやむやになっていることに対して自分たちで悩んで苦しんできた」という発言は、これまでの活動を通じての試行錯誤やそこに伴う葛藤を反映したものと読める。こういった困難な状況においても、サカナクションはより広い層のリスナーに対するアプローチを、瓶詰めの手紙を海に流すがごとく繰り返してきた。

J-POPや邦楽ロックを主に聴いている層のために聴きやすい要素(歌メロやコード進行における歌謡性など)を残しながら、それを入口に、今なお無限に増え続ける未知なる音楽に興味を持たせるのは簡単なことではないが、「孤独のメッセージ」を受け取り開花させる人は少数ながら確かに存在する。そして、そのメッセージを予想もつかない形で発展させてしまうことさえある。

近年の国内シーンの活況は、突然変異的に現れた天才たちが偶然成し遂げたものではない。先達の奮闘が実を結んだからこそのものでもある

長谷川の“あなただけ”が、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)の1月19日放映回「売れっ子プロデューサーが選ぶ年間ベスト」で2位(蔦谷好位置)と4位(mabanua)に選ばれた。

“あなただけ”は、1990~2000年代的なJ-POPの薫りがほとんどしない、1960年代モード寄りジャズと現代音楽を混ぜてボカロ風味のあるビッグバンドジャズ形態に変換したようなスタイルの楽曲だ。にもかかわらず、この番組をきっかけに知ったJ-POPファンや邦楽ロックファンの多くを即座に魅了している様子がSNS上で見られた。このことからも、既存の歌謡曲的なものから距離があったとしても親しみやすさとインパクトがあれば聴き手の嗜好を問わず訴求力を発揮できるのだと考えられる。

長谷川白紙“あなただけ”を聴く(Spotifyを開く

アメリカの音楽シーンの新陳代謝の激しさも、先述のようなミュージシャンたちが革新性と聴きやすさを両立する作品を生み出そうと意識し、競いあっているからこそ生じるのだろうし、近年の日本のシーンの充実を見ると同様な状況が生まれつつあるように感じられる。しかし、それは突然変異的に現れた天才たちが偶然成し遂げたことではなく、サカナクションを筆頭に、1990年代からジャンル間の交流傾向を促してきたDragon Ashやm-flo、あるいはASIAN KUNG-FU GENERATION(音楽フェス『NANO-MUGEN FES.』の主催、フロントマン・後藤正文による作品賞『Apple Vinegar Award』主宰などを通して国外国内を問わず優れたアーティストの紹介に務めている)のような先達の地道な活動があって初めて可能になったことと言えるのではないか。

先掲『アーティストの音楽履歴書』では、長谷川が山口一郎のインタビューを読んでエレクトロニカに興味を持ち、サカナクションを通してAOKI takamasaやミニマルテクノを知ったのち、ネットで「エレクトロニカ おすすめ」などと検索してrei harakamiやAphex Twin、YMOなどを熱心に聴くようになった経緯が語られている。

AOKI takamasa『Silicom』(2001年)を聴く(Spotifyを開く

rei harakami『[lust]』(2005年)を聴く(Spotifyを開く

Aphex Twin『Richard D. James Album』を聴く(Spotifyを開く

Yellow Magic Orchestra『BGM』(1981年)を聴く(Spotifyを開く

『ドミューにに』のライブで、rei harakamiによるサカナクション“ネイティブダンサー”のリミックス(“ネイティブダンサー (rei harakami へっぽこre-arrange)”)で締めるtomadのDJから、長谷川による同曲カバーに繋げた展開は以上のような文脈を完璧に踏まえているし、そうやって系統的にディグしていく姿勢はサカナクションの活動に触れたからこそ得られたものでもあるだろう。

長谷川白紙“キュー”を聴く(Spotifyを開く

崎山がよく聴いていたと公言するNUMBER GIRLやBUCK-TICK、比較的近い領域でシーンの先頭に立ち続けるceroやTHE NOVEMBERSのようなバンドも、他者の音楽作品を積極的に紹介し後進に影響を与え続けている。このように、ゆるやかなおすすめを通した波及効果がある種の教育システムとなり次代に繋がっている面は確実にあり、崎山や長谷川の豊かで新しいポップミュージックはそうした礎があったからこそ生まれたのだと考えられる。

崎山蒼志“夏至”を聴く(Spotifyを開く

崎山蒼志“そこには”を聴く(Spotifyを開く

先述の『NF in MIDNIGHT SONIC』などを見ると、サカナクションや星野源、米津玄師といったアーティストたちが今に至るまで地道に続けてきた搦め手的な音楽的啓蒙は、まだまだ広い成果を生んでいるとは言い難い。それこそ無人島から瓶詰めの手紙を海に流し返事を待つような、孤独のメッセージを繰り返しているような状況が続いていた。

しかし、そうした活動は他者から影響を受けるのを恐れない姿勢を持つミュージシャンを育て、近年のポップミュージックにおけるコラボレーション型制作体制の定着とあいまって、シーンの土壌を豊かにすることに確実に貢献している。異なるジャンルを当たり前のように横断するかれらの音楽は、それに見合った展開の多さと速度を備え、1曲のなかで様々な文脈を横断し、その接続面で生じる「歪み」をも活かしながら独特の形を成していく。

このような音楽に接して育つ後の世代はさらに拡張された感覚を身につけるはずだし、先行する世代も新たな発想を得る機会が多くなるだろう。SNSやストリーミングサービスが発達した現在のポップミュージックはこのように「ネットワークを形成する音楽」でもあり、その源流には1990年代から2000年代にかけて培われ一般化したジャンル間の交流傾向がある。崎山蒼志や長谷川白紙はこうした流れの上に萌芽した才能の代表格であり(本メディアの既出特集記事に登場した、君島大空や諭吉佳作/menもそう)、これからもさらに素晴らしい実りをもたらしてくれるに違いない。

左から:崎山蒼志、君島大空 / 撮影:松永つぐみ(「崎山蒼志と君島大空、2人の謎を相互に解体。しかし謎は謎のまま」より)
左から:崎山蒼志、君島大空 / 撮影:松永つぐみ(「崎山蒼志と君島大空、2人の謎を相互に解体。しかし謎は謎のまま」より)

崎山蒼志“潜水(with 君島大空)”を聴く(Spotifyを開く

左から:崎山蒼志、諭吉佳作/men / 撮影:松永つぐみ(「崎山蒼志と諭吉佳作/men、見つめ合う2つの才能 その特異な実態」より)
左から:崎山蒼志、諭吉佳作/men / 撮影:松永つぐみ(「崎山蒼志と諭吉佳作/men、見つめ合う2つの才能 その特異な実態」より)

崎山蒼志“むげん・(with 諭吉佳作/men)”を聴く(Spotifyを開く

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リリース情報

崎山蒼志『並む踊り』
崎山蒼志
『並む踊り』(CD+DVD)

2019年10月30日(水)発売
価格:3,000円(税込)
SLRL-10046

[CD]
1. 踊り
2. 潜水(with 君島大空)
3. むげん・(with 諭吉佳作/men)
4. 柔らかな心地
5. 感丘(with 長谷川白紙)
6. 夢模様、体になって
7. 烈走
8. 泡みたく輝いて
9. Video of Travel

[DVD]
1. ドキュメント「崎山蒼志 LIVE 2019 とおとうみの国」
2. 「国」ミュージックビデオ

長谷川白紙『エアにに』
長谷川白紙
『エアにに』(CD)

2019年11月13日(水)発売
価格:2,530円(税込)
MMCD20032

1. あなただけ
2. o(__*)
3. 怖いところ
4. 砂漠で
5. 風邪山羊
6. 蕊のパーティ
7. 悪魔
8. いつくしい日々
9. 山が見える
10. ニュートラル

長谷川白紙
『夢の骨が襲いかかる!』

2020年5月29日(金)配信

1. Freeway
2. 旅の中で
3. LOVEずっきゅん
4. 光のロック
5. セントレイ
6. シー・チェンジ
7. ホール・ニュー・ワールド

プロフィール

崎山蒼志
崎山蒼志(さきやま そうし)

2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の高校生フォークソングGPに出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。その2か月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。12月5日には1stアルバム『いつかみた国』をリリース、併せて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。2019年3月15日にはフジテレビ連続ドラマ『平成物語』の主題歌「泡みたく輝いて」と明治「R-1」CM楽曲「烈走」を配信リリース。10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリースした。

長谷川白紙
長谷川白紙(はせがわ はくし)

1998年生まれ、音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、17年11月インターネット上でフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』、18年12月10代最後に初CD作品『草木萌動』、19年11月に1st AL『エアにに』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップ・ミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、新たな時代の幕開けをも感じさせるものに。20年5月歌と鍵盤演奏のみで構成された弾き語りカバー集「夢の骨が襲いかかる!」を発表。

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