崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

崎山蒼志と長谷川白紙、逸脱した才能の輪郭。メールで取材し考察

テキスト
s.h.i.
編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

本稿は、崎山蒼志『並む踊り』のコラボレーターの一人である長谷川白紙と実施したメールインタビューをもとにした考察である(メールインタビューはこちらより)。さらに5月29日には、長谷川白紙による崎山蒼志“旅の中で”のカバー音源を収録した作品が発表され、リスナーを驚かせた。

崎山蒼志と長谷川白紙とメールを介しておこなった問答の言葉の端々には、両者の音楽に横たわる謎を紐解きうる「何か」を見いだすことができる。まるで川底に眠る宝石のようにきらきらと顔を覗かせている「何か」に手を伸ばすべく、音楽評論家・s.h.i.が二人の音楽家について考えを巡らせた。以下のテキストは、その試みの一部始終である。

崎山蒼志(さきやま そうし)<br>2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の「高校生フォークソングGP」に出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2019年10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリース。
崎山蒼志(さきやま そうし)
2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の「高校生フォークソングGP」に出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2019年10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリース。

長谷川白紙(はせがわ はくし)<br>1998年生まれ、音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、2017年11月インターネット上でフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』、2018年12月10代最後に初CD作品『草木萌動』、2019年11月に1st AL『エアにに』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップ・ミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、新たな時代の幕開けをも感じさせるものに。2020年5月歌と鍵盤演奏のみで構成された弾き語りカバー集『夢の骨が襲いかかる!』を発表。
長谷川白紙(はせがわ はくし)
1998年生まれ、音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、2017年11月インターネット上でフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』、2018年12月10代最後に初CD作品『草木萌動』、2019年11月に1st AL『エアにに』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップ・ミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、新たな時代の幕開けをも感じさせるものに。2020年5月歌と鍵盤演奏のみで構成された弾き語りカバー集『夢の骨が襲いかかる!』を発表。

崎山蒼志『並む踊り』は、ストリーミングサービスの普及によってもたらされた、ポップミュージックの新局面の象徴でもある

崎山蒼志と長谷川白紙は、2000年代のJ-POPなどが発した「孤独のメッセージ」の素晴らしい結実なのではないか。彼らを見ているとそう感じることがある。

無人島に取り残された人が瓶詰めの手紙を海に流し、絶望に沈んでしまう前に誰か助けてくれないかと願うーーほとんど徒労に終わるかもしれない試みでも、それを受け取り開花させる人は確かに存在し、予想もつかない形で発展させてしまうことさえある。YouTubeや各種ストリーミングサービスが普及するにつれ、こうした例が確実に増えてきたように見えるし、ここ数年はその勢いが世界規模で増し続けている。このような影響関係の連環を生む環境(≒インターネット)の恩恵を、最もよい形で享受してきたのが彼らの音楽なのではないかと思う。

崎山蒼志“ソフト”を聴く(Spotifyを開く

長谷川白紙“山が見える”を聴く(Spotifyを開く

1月23日のSUPER DOMMUNE企画による長谷川白紙特集『ドミューにに』に出演させていただいたときにも少し話したのだが、他者から影響を受けるのを恐れない音楽家がこのところ増えてきたように感じられる。

2010年代半ばの時点でも、YouTube(2005年サービス開始)やSpotify(2008年サービス開始、日本では2016年9月に上陸)のようなストリーミングサービスを利用して積極的に音楽を探求することが容易になり、多くの音楽リスナーにとって未知の音楽に触れる機会は限りなく開かれたものとなった。そんななか、2020年現在に「他者から影響を受けるのを恐れない音楽家がこのところ増えてきた」というのは個人的な印象の域を出ないものの、他者から影響を受けていることを公言する音楽家の発言を目にする機会は多くなってきているように思われる。

崎山蒼志が作成したプレイリスト「崎山蒼志 Oh…Yes…」を聴く(Spotifyを開く

その一因と考えられるのが、近年のポップミュージックシーンにおけるコラボレーション型制作体制の定着だろう。2010年代に入ってラップミュージックが世界を席巻したことを受けて、ヒップホップなどでは定番だったプロデューサーの複数起用やフィーチャリングといった手法はメジャーなポップスの領域でも要となり、そうした協同作業のきっかけ作りや事後説明に伴い影響関係が語られることが一般的になってきている(関連記事:荏開津広×渡辺志保 ラップが席巻した10年代を振り返る)。

さらに、2010年代における「トラップ」の大流行はポップミュージックそのものにも影響を及ぼし、ポップミュージックシーンのあらゆるところでその音楽要素が用いられるようになると、ロックバンドやシンガーがラッパーやトラックメイカーと共演するといったジャンル間の交流は、さらに広まり定着することになる。そして今やそのジャンル同士の力関係は逆転した。2019年に発表されたラッパーのPost MaloneがBlack Sabbathのオジー・オズボーンを客演に招いた“Take Me What You Want feat. Ozzy Osbourne & Travis Scott”はそのひとつの象徴であろう。

Post Malone“Take Me What You Want feat. Ozzy Osbourne & Travis Scott”を聴く(Spotifyを開く

椎名林檎やKOHH、小袋成彬が客演した宇多田ヒカル『Fantôme』(2016年)は、日本のメジャーなポップミュージックシーンにおけるコラボレーション型制作体制を体現するアルバムのひとつだし、椎名林檎『三毒史』(2019年リリース作。宮本浩次、櫻井敦司、向井秀徳、トータス松本ほか、多数のミュージシャンが参加)や星野源『Same Thing』(2019年リリース作。Superorganism、PUMPEE、トム・ミッシュらがフィーチャリング参加)など、こうした傾向を明確に意識したものが次々と生まれている。

宇多田ヒカル『Fantôme』を聴く(Spotifyを開く

椎名林檎『三毒史』を聴く(Spotifyを開く

星野源『Same Thing』を聴く(Spotifyを開く

このようなコラボレーションはインターネット上でのディグをきっかけに生じる場合も多く、「星野源が音楽に対して落ち込んでいるときに動画サイトでスーパーオーガニズムのライブ映像を見たことが始まり(参照:『rockinon.com』掲載記事より)」だった楽曲“Same Thing”はその好例と言える。

君島大空や諭吉佳作/men、そして長谷川白紙が参加した崎山蒼志の『並む踊り』(2019年)もインターネット上での交流がきっかけになって生まれたアルバムであり、こういったポップミュージックの在り方が変容しつつある流れのなかの作品だと考えられる。

崎山蒼志『並む踊り』を聴く(Spotifyを開く

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リリース情報

崎山蒼志『並む踊り』
崎山蒼志
『並む踊り』(CD+DVD)

2019年10月30日(水)発売
価格:3,000円(税込)
SLRL-10046

[CD]
1. 踊り
2. 潜水(with 君島大空)
3. むげん・(with 諭吉佳作/men)
4. 柔らかな心地
5. 感丘(with 長谷川白紙)
6. 夢模様、体になって
7. 烈走
8. 泡みたく輝いて
9. Video of Travel

[DVD]
1. ドキュメント「崎山蒼志 LIVE 2019 とおとうみの国」
2. 「国」ミュージックビデオ

長谷川白紙『エアにに』
長谷川白紙
『エアにに』(CD)

2019年11月13日(水)発売
価格:2,530円(税込)
MMCD20032

1. あなただけ
2. o(__*)
3. 怖いところ
4. 砂漠で
5. 風邪山羊
6. 蕊のパーティ
7. 悪魔
8. いつくしい日々
9. 山が見える
10. ニュートラル

長谷川白紙
『夢の骨が襲いかかる!』

2020年5月29日(金)配信

1. Freeway
2. 旅の中で
3. LOVEずっきゅん
4. 光のロック
5. セントレイ
6. シー・チェンジ
7. ホール・ニュー・ワールド

プロフィール

崎山蒼志
崎山蒼志(さきやま そうし)

2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV『日村がゆく』の高校生フォークソングGPに出演。独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。その2か月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。12月5日には1stアルバム『いつかみた国』をリリース、併せて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。2019年3月15日にはフジテレビ連続ドラマ『平成物語』の主題歌「泡みたく輝いて」と明治「R-1」CM楽曲「烈走」を配信リリース。10月30日に2ndアルバム『並む踊り』をリリースした。

長谷川白紙
長谷川白紙(はせがわ はくし)

1998年生まれ、音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、17年11月インターネット上でフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』、18年12月10代最後に初CD作品『草木萌動』、19年11月に1st AL『エアにに』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップ・ミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、新たな時代の幕開けをも感じさせるものに。20年5月歌と鍵盤演奏のみで構成された弾き語りカバー集「夢の骨が襲いかかる!」を発表。

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