シティポップの世界的ブームの背景 かれらの日本という国への目線

シティポップの世界的ブームの背景 かれらの日本という国への目線

2021/07/09
テキスト・編集
山元翔一(CINRA.NET編集部)
イラスト:アボット奥谷

シティポップブームの土壌をつくった日本のクラブシーンにおける「和モノ」の文化

柴崎:ぼくも年齢的に現場に間に合えたわけではないですけど、DJ現場における「和モノ」(DJプレイできる邦楽レコードのことを指す)再評価の流れって、渋谷系初期みたいなときからグループサウンズとか歌謡曲をクラブでかけたりとか、いろいろあったわけじゃないですか。

松永さんが『レコードコレクターズ』で書かれていましたけど、1990年代にロンドンのシーンには山下達郎を回すDJがいた、みたいなこともあった。

松永:実際、1990年代にDJ用のブートレッグに“Dancer”(1977年に山下達郎が発表した『SPACY』の楽曲)が収録されているのを見たこともあります。たしか、アーティスト名は「SPACY」になってた(笑)。

柴崎:1990年代の時点で、シティポップの海外需要の土壌となるものが既にあったということになりますよね。

そのあと国内でも、木村ユタカさんのディスクガイドが2000年代前半に出たり(2002年刊行の『ジャパニーズ・シティ・ポップ』)、ダンスミュージック的なビートを強調したシティポップの実践として流線形が出てきたり、MR.MELODYやXTALさんがダンスミュージックの解釈としてシティポップのミックスをつくって、日本のフュージョンとかシティポップをGファンクとかハウス的な感覚で聴くことを提示したり、みたいな。

他にも、okadadaさんが長年やっているイベント『ナイトメロウ』とか、いろいろと例はありますけど、すごく芳醇な前史が蓄積されているんですよね。

流線形『シティミュージック』(2003年)を聴く(Spotifyを開く


松原みき“真夜中のドア~stay with me”は日本のクラブミュージックの現場で長い間愛されており、Mr.MELODYが手がけた『City Pop Mix』(2004年)にも“プラスティック・ラブ”とともに収録されていた

柴崎:現在の国外の感覚に直接的に流れ込んでいるわけではないだろうけど、少なくとも日本国内におけるディグやプレイの蓄積があったうえで、いまのような状況がある。

そういう下地をつくったパイオニアの功績は非常に強調しておきたいですよね。ネットのおかげで、いきなり0から100になったっていうことではない。

松永:そう思います。クラブでの人気を背景に再発が出たり、シーンとして盛り上がるという構図は海外でも日本でも同じですしね。

柴崎:そうですね。


『和モノA to Z Japanese Groove Disc Guide』(2015年)を監修・選盤・執筆したDJ吉沢dynamite.jpとCHINTAMという、数々の和モノ音源を紹介してきたDJがセレクトしたコンピレーションアルバムのダイジェスト動画

柴崎:さっきも触れましたが、1970年代的なロウな「プレ・シティポップ」=シティミュージックに対する評価は1990年代半ば以降脈々とあって。

松永:むしろその頃はそれしかなかったような。

柴崎:シュガー・ベイブの『SONGS』(1975年)は聖杯化が進んでいるけど、『FOR YOU』(1982年に発表された山下達郎の6作目のアルバム。代表曲のひとつである“SPARKLE”などを収録)のレコードは激安で買える、みたいな感じですよね、その頃は(苦笑)。

松永:そうそう。達郎さんも含めて、日本の1980年代の音楽は長い間見過ごされてたと思いますよ。それがまさか、日本のロックのレア盤セールのトップを飾るようになるとは。

柴崎:その価値転換がすごくドラスティックに行われたのがフューチャーファンク以降だったとすると、やっぱりさっき挙げたDJのみなさんはその先駆として重要だと思うんですよね。

その鼻の利き方は本当にすごいと思うし、折々で一番見過ごされてるものから良質なグルーヴを発見してくる「レア・グルーヴ」の最も優れた実践のひとつだなとも思います。

松永:MR.MELODYさんやXTALくんがシティポップでミックスをつくったのも、安いものからものすごくかっこいいものをつくり出すって行為を粋に感じたからだとも思う。

ヒップホップがそうであったように、安く売られている、入手しやすいジャンク的なものから新しいものを発見する人たちがアンダーグラウンドなところから新しい文化を生み出してきた歴史があるけど、シティポップではそれと同じことがBOOKOFFで起きたんだとぼくは理解していますね。そこに海外からのデジタルな発見がかぶさってきたという流れ。


杏里“Good Bye Boogie Dance”(1983年)を聴く(Spotifyを開く

「過去の音楽を発掘する文化の運動自体がはらんでるダイナミズムも同時に語っていかないといけない」(柴崎)

柴崎:サブスクリプションって、ある意味ではとてもデモクラティックなツールだと思うんですけど、一方で「安いもののなかから珍しくてすごいものを探す」みたいなフィジカルメディアの分布勾配を前提とするレア・グルーヴ的な運動は起こりづらくなるんだろうなと思うんですよね。

最後のフィジカル世代の人間としては寂しさも若干あったりして(笑)。もちろん、馴染みのない地域の音楽やマイナーなジャンルを手軽に探求できる快感はストリーミングならではだと思うんですけど。

プレイリスト『City Pop ‘90s』を聴く(Spotifyを開く

芦澤:コレクターのニッチな宝探しの喜びみたいな側面の強かったディグという行為に対して、われわれストリーミングサービスは誰もが等しく聴くことのできるものとして楽曲を提供しているわけで。

SNSなどで楽曲がシェアされたり、使われたりということを通じて爆発的な浸透がある一方で、損なわれてしまう部分もあると感じる方もいるのかもしれないですね。

柴崎:どうしてこんなことを言うのかというと、「シティポップ、世界中でバイラルヒットしてめでたいね」だけだと、結局マーケティング論みたいなところばかりに回収されていってしまうと思うからなんです。音楽内容そのものの面白さを探求していく方向がないと、あとに続く面白い動きもなくなっちゃうんじゃないかという気もするんです。

過去の音楽や、ニッチなものを発掘するっていう文化の運動自体がはらんでるダイナミズムも同時に語っていって、ストリーミング時代ならではの「宝探し」の面白さを探求したい気持ちがあります。

松永:そうですね。シティポップって「こうじゃなくちゃいけない」というジャンルではないので拡大解釈がどこまでも可能。

だからこそ、「宝探し」の快感のありかを継承したり独自に伸ばしたりできる可能性がある。「これもシティポップだ」って言うのは自由。だからいまは重要なタイミングだなとは思いますね。

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プロフィール

松永良平(まつなが りょうへい)

1968年、熊本県生まれ。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌『リズム&ペンシル』がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務のかたわら、雑誌 / ウェブを中心に記事執筆、インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行う。

柴崎祐二(しばさき ゆうじ)

1983年埼玉県生まれ。音楽ディレクター、評論家。編共著に『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』、連載に「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」(『レコード・コレクターズ』)などがある。2021年9月に編著を務めた『シティポップとは何か』(河出書房)の刊行を控えている。

芦澤紀子(あしざわ のりこ)

ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

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