『Revolver』はビートルズの最高傑作なのか?その理由や異論など、日本随一のビートルマニアが徹底討論

オリジナルでは1966年に発売されたThe Beatlesのアルバム『Revolver』が、昨年10月にスペシャル・エディションとしてリイシューされた。

アイドルグループの「ペルソナ」に心底疲弊し、次第にライブステージからレコーディングスタジオへと拠点を移していったThe Beatles。アバンギャルドアートや現代音楽に傾倒した彼らは、エンジニアとして新たに迎えたジェフ・エメリックらと音響実験を夜な夜な繰り返し、ポップと前衛を行き来するようなサウンドスケープを構築。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、そしてジョージ・ハリスンの「ソングライター」としての才能が拮抗し、ギリギリのバランスで成り立つような緊張感あふれる傑作アルバムを生み出した。

後にジョンのソロ作でもサウンドの要となる朋友クラウス・フォアマン(マンフレッド・マン)による、モノクロームのアートワークも強烈なインパクを放つ本作『Revolver』。その魅力について、音楽プロデューサーの鈴木惣一朗と、The Beatles研究の第一人者である藤本国彦が語り尽くした。

鈴木惣一朗は、なぜ『Revolver』に「ちょっとナナメな気持ち」を持っている?

―まずは、1966年にリリースされた『Revolver』というアルバムをどう捉えているのか、みなさんのスタンスをうかがいたいと思います。

鈴木:ぼくはあまのじゃくだと自分でわかっているのですが、『Revolver』に関してはちょっとナナメな気持ちがあるんですよ。それは、The Beatlesの楽曲を聴いてきた順番も影響していると思っていて。

―といいますと?

鈴木:1970年の夏、The Beatles解散の年。映画『レット・イット・ビー』から彼らの楽曲に出会い、遡って初期から時系列で聴き直していったのですが、そうすると「中期ビートルズ」もしくは「サイケデリック前夜のビートルズ」の作品である『Revolver』と『Rubber Soul』(1965年)は、結構後のほうに知ることになるわけです。

鈴木:つまり『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』(1967年)も『Abbey Road』(1969年)も、そして初期ビートルズの瑞々しい演奏も、すでに浴びるように聴いたあとで『Revolver』を聴いたときに、モノクロのジャケットも相まって「地味だな」と感じてしまった。『Rubber Soul』に関しては、『The Beatles(通称:ホワイト・アルバム)』(1968年)と双璧のフォークロックアルバムとして「最高!」と思ったのですが。

藤本:私はThe Rolling Stonesがまさにそういう聴き方でしたね。『Some Girls』(1978年)から入って、そこからファーストに戻って現行のストーンズと並行して聴いていったので、一般的に評価の高い『Goats Head Soup』(1973年)と『It's Only Rock'n Roll』(1974年)が全然ダメだったんです(笑)。古臭く感じてしまって

それよりも、リアルタイムで聴いている『Steel Wheels』(1989年)のほうがカッコいいと思っていました。

The Rolling Stones『Steel Wheels』を聴く

―聴く順番って結構重要ですね。

鈴木:そうなんです。もちろん、“I'm Only Sleeping”のような、まるで今のアシッドフォークの先駆けともいえる優れた曲も入っているんだけど、ポールがロック以外のジャンルを貪欲に取り込み、ソングライターとして花開いていくのに対してジョンはちょっと内向きの状態に入っていったのが、『Revolver』の時期だったと思うんです。The Beatlesへのモチベーションが落ちてしまい「曲が書けない」ということを、ジェフ・エメリックの音響技術で乗り切ろうとしているように感じてしまった。

―『Revolver』セッションから参加したジェフ・エメッリックは、The Beatlesの革新的なサウンドプロダクションに大きく貢献したエンジニア。彼の著書『ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』は、The Beatlesサウンドを深掘りするうえで欠かせない「資料」です。

鈴木:例えばテープループを駆使してつくり上げた実験的な楽曲“Tomorrow Never Knows”も、ぼくはすぐに飽きてしまった。もちろん、大人になって聴き返したときには感じ方もずいぶん変わったんですが、それでも心に「しこり」みたいなものが残った。今回、あらためて聴いても「ジェフ・エメリック、やりすぎだろ!」と思っちゃう(笑)。

The Beatlesの“Tomorrow Never Knows - Mono Mix RM11”を聴く

鈴木:録音術として、それまでの禁じ手にどんどんチャレンジしていったジェフの功績は計りしれない。バスドラムにマイクを突っ込んだり、ジョンの声を積極的にエフェクト処理したり、テープのバリピッチをいじりまくったり、いまやあたりまえとなったスタジオワークにどんどんチャレンジしたジェフの功績は計りしれない。「だからこそ!」ものすごく極端な言い方をすると「『Revolver』はジェフ・エメリックのアルバムなんじゃないか?」とすら思ってしまうんです。

『Revolver』のサウンド面に光をあてて、どれだけ素晴らしい作品であるかについて語ることはいくらでもできる。けれども、The Beatlesという「バンド」の歩みとしてみたときに非常に危ういバランスの時期につくられたアルバムだなと感じてしまう。切ない気持ちになっちゃうんですよ(笑)。だからソングライティング面で「The Beatlesはあのとき何を歌っていたのか?どんな気持ちだったのか?」が今回、気になった。

「『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』の装飾をすべて削ぎ落とすと『Revolver』のような作品になる」(藤本)

―藤本さんの見解をうかがう前にぼくの意見を言わせていただくと、鈴木さんとはまったく正反対の印象を『Revolver』には持っています。つまり、The Beatlesのアルバムで「最高傑作」だと思うのは、昔もいまも『Revolver』なんですよね。ジョン、ポール、ジョージのソングライティング能力がまさに拮抗している時期であり、ライブバンドとしてのスキルもまだ残りつつ、スタジオでの音響実験も積極的に行なっている。演奏面、サウンドプロダクション、ポップとアヴァンギャルドのバランスも含めて、まさにバンドとして絶頂期のThe Beatlesを象徴するようなアルバムだと思っています。

藤本:私も黒田さんと同意見です。まず『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』が、いままであまり好きじゃなかったんですよ(笑)。

そこはちょっと自分がひねくれていると思うのですが、あのアルバムは「ポップミュージックの金字塔」などと1970年代からずっといわれていて、ある意味「水戸黄門の印籠」みたいになっているじゃないですか。でも、当時の4チャンネルしかないレコーディング技術でつくられたということもあって、すごく薄ぼんやりしたサウンドというか。オーバーダビングやピンポン録音を重ねたことによって、ピンボケした写真を見せられているような、すごく不鮮明な音像に感じていた。

『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』の素晴らしさにようやく気づけたのは、2017年にリリースされたスペシャル・エディションを聴いたときなんです。

The Beatles『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』デラックス・エディションを聴く

鈴木:2017年、たしかにあの時。ジャイルズ・マーティンによるリミックスバージョンを聴いて、音像のクリアさにぼくは大感動しました。

藤本:『Revolver』のジャケットが、カラフルな『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』と対照的にモノトーンであることもサウンドを象徴している。時系列は逆になりますが、『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』の装飾をすべて削ぎ落とすと『Revolver』のような作品になるんですよ。この2枚のアルバムのあいだには深い隔たりがあったと思っていたのですが、ちゃんと地続きだったということに気づけたのが、スペシャル・エディションの意義でもあったのかなと。

―なるほど。『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』の装飾を削ぎ落とすと『ホワイト・アルバム』になると思っていたのですが、『Revolver』にもなるわけですね。面白い見解です。

The Beatles『ホワイト・アルバム』を聴く

藤本:先ほど惣一朗さんは、『Rubber Soul』と『ホワイト・アルバム』を「フォークロックアルバムの双璧」とおっしゃいましたが、むしろ今回のスペシャル・エディションを聴いて『ホワイト・アルバム』との共通点を強く感じました。『ホワイト・アルバム』は2枚組ですが、ジャンルの広がりに関してはかなり似ていますよね。

―たしかに。“Tomorrow Never Knows”と“Revolution 9”、“Got To Get You Into My Life”と“Savoy Truffle”、“Here, There And Everywhere”と“I Will”のように、対になるような楽曲があります。

藤本:そうなんです。The Beatlesは4人合わさればすごいけど、ソロでもすごい曲が書けるということを証明していたのがこの2枚のアルバムかなと思いますし、『Revolver』は『ホワイト・アルバム』へと引き継がれる萌芽があるような気がしますね。

藤本:アルバムの位置づけに関してもう少し話すと、『Rubber Soul』と『Revolver』は中期ビートルズの傑作といわれていますが、私の見立てだと『Rubber Soul』は「前期ビートルズの頂点」。つまりロックンロールバンドとしてのフォーマット、4人にキーボードやパーカッションを加えた編成でつくられた究極であり最後の作品です。

一方『Revolver』は、ライブ活動に対して疲弊している時期の4人が、とにかくスタジオで新しいこと試したくて、それにジェフ・エメリックが応えていった作品なのだと思います。

―ジェフ・エメリックはもちろん、のちに「フランジャー」というエフェクターを生み出すきっかけとなった「ADT(Artifical Double Tracking)」の開発者、ケン・タウンゼントというエンジニアの功績も大きかったですよね。

藤本:一般的にThe Beatlesのなかで実験精神が旺盛なのはジョンだといわれていますが、この頃はポールもシュトックハウゼンに影響を受けてテープループの素材をスタジオに持ち込むなど、ロックンロールバンドの範疇を超えた作品をつくろうと、(『Revolver』セッションの)最初から考えていたのは間違いないでしょう。

ポップスターであることを降りたジョンと、ポップスターであることをいまも楽しむポールの才能が拮抗。ドラッグも影響大

藤本:そして、黒田さんがおっしゃったようにジョンとポールの力関係も拮抗していて、それを象徴していたのが先行リリースされた“Paperback Writer”と“Rain”だったと思うんです(2曲ともアルバムには未収)。

ジョンが作曲した“Rain”がB面になったわけじゃないですか。なぜ惣一朗さんが、この時期のジョンを「内向き」と感じたのかというと、おそらくポップスターであることを「降りた」からだと思うんです。

The Beatles“Rain”を聴く(Spotifyを開く

The Beatles“Paperback Writer”(Spotifyを開く

藤本:タイミングとしては“Help!”の時期。この曲についてのちにジョンは、「(あの曲は)心の叫びだった」と明かしていますが、有名になったけどプライバシーはないし、ヒットソングを書き続けることへの徒労感がピークに達していた。いい曲は当然書けるのですが、いわゆるポップでキャッチーな曲づくりはポールに譲ってしまったのだと思います。

鈴木:いわれてみれば今回、アップル・コアが新たにつくった“I'm Only Sleeping”のミュージックビデオを見ると、ポップスターを楽しんでいたはずのジョンが、ベッドのなかでずっとまどろんでいる感じ。当時のジョンの「内向きの倦怠感」みたいなものを、見事に映像化していました。

The Beatles“I'm Only Sleeping”を聴く(Spotifyを開く

―ジョンには「俺は負け犬」と歌う“I'm a Loser”や、「俺は疲れ果てた」とぼやく“I'm So Tired”のような楽曲もありますしね。

藤本:そう。基本的にそんなジョンの尻を、ポールが叩いていたのだと思います。

鈴木:(笑)。ジョンは当時、アビーロード・スタジオに通うということすらストレスだったはず。だからワンテイクでレコーディングを終えてすぐに帰ろうとした。よく2拍待てずに小節をまたぐのも、変拍子で気をてらうというよりは基本的に「せっかち」だからなんじゃないかな、とすら思う。

藤本:“She Said She Said”とか、変拍子すごいですよね。

―かと思えば、“Tomorrow Never Knows”みたいに1コードで押し切る曲もあったりして。

鈴木:ポップスターであることをいまも楽しんでいるポールと、ポップスターであることに疲弊したジョン。ジョージも後者だったと思うんですけど。

藤本:ポールとリンゴは基本エンターテイナーなので、いまも現役で活動しているのはよくわかります。もしジョンとジョージがいまも生きていたとしても、80歳近くになってワールドツアーをやるとか考えられないですよね(笑)。

話を戻すと、ジョンが『Revolver』の時期から積極的に自分の声を変えていくようになるのは、『Rubber Soul』までの自分のイメージを払拭したかったからだと思うんです。これは翻訳家の朝日順子さんもおっしゃっていますが、この頃からジョンは、「素の自分」が嫌になっていくというか、別の自分に変身したい願望がどんどん強まっていく。

―マリファナやLSDを用いてトランス(変性意識状態)することに拘泥していったのもそれが理由ですよね。

藤本:ドラッグの影響はかなり大きかったはず。東洋思想に傾倒していくのもこの時期で、それも別の自分に生まれ変わりたかったからでしょう。インドでの滞在も、最後まで残ったのはジョンとジョージでしたよね。リンゴとポールは早々に引き上げてしまった。

ジョンは『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』以降、インド滞在までの期間は曲が書けなくなってしまいますが、それを思うとポールとの力関係が最も拮抗していたのは『Rubber Soul』と『Revolver』だったのでしょうね。

藤本:スタジオワークも、『Revolver』のときからさらに時間をかけるようになっていきます。『Revolver』セッション以前は基本的に昼から夜にかけて行なわれていましたが、『Revolver』セッションは深夜から明け方にかけて行なわれるのも珍しくなくなっていく。

この時期はまだライブ活動もあったので多忙ではありましたが、そんなときでもスタジオワークにもたっぷりと時間をかけていた。しかも1966年の前半は3か月くらい休暇を取っているので、そのあいだにもきっと3人は精力的に曲を書いていたと思いますし。メンバー4人の距離感も、一番よかった時期だと思うんですよね。最初の話に戻すと、『Rubber Soul』は「前期ビートルズの頂点」であり、『Revolver』は「後期ビートルズの始まり」といえるのではないかと。

―『Revolver』は捨て曲が一切ないというか、どの曲も完成度がめちゃめちゃ高いんですよね。かなりインド色強めの“Love You To”も、ファーストテイクを聴くとメロディーがとても強いなと思いました。

The Beatles“Love You To”を聴く(Spotifyを開く

藤本:そうですね。ソロ時代のジョージの楽曲を彷彿とさせるところもあって。

鈴木:“Within You Without You”に連なるこの“Love You To”を聴いていると、The Beatlesに飽きてしまったThe Beatlesが「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という架空のノベルティバンドを仕立て上げる前から、すでにバンドを解体する作業が『Revolver』で行なわれていたことがわかる。これがデビューして3年半で行なわれていたという事実にも驚かされますね。ペースがとにかく早すぎる(笑)。

―今回、『Revolver:スペシャル・エディション』で初めて聴いて印象に残っている曲などありますか? ぼくは“Yellow Submarine”のデモ音源に驚きました。まるでジョンのソロ曲“Mind Games”みたいなメロディーだなって。

The Beatles“Yellow Submarine - Songwriting Work Tape / Part2”を聴く
ジョン・レノン“Mind Games”を聴く
The Beatles“Strawberry Fields Forever - Take1”を聴く

藤本:本当にそうですね。この曲を聴くと、“Strawberry Fields Forever”(1967年)が生み出された経緯も見えてくるような気がします。

“Yellow Submarine”はリンゴの代表曲になっていますが、リンゴには“Good Day Sunshine”あたりを歌わせ、この曲をジョンが歌うことにしていたら、もちろんアニメはつくられなかっただろうし、“Strawberry Fields Forever”もお蔵入りになったかもしれない。当然、金沢明子の“イエロー・サブマリン音頭”(1982年)も生まれていなかったでしょうね。

一同:(笑)

金沢明子“イエロー・サブマリン音頭”を聴く

『Revolver』はギターロックのアルバム? 最新技術デミックスを導入したスペシャル・エディションを聴き込むことで見えてくる新たな魅力

鈴木:でも、こんなノベルティソングのような“Yellow Submarine”と、アヴァンギャルドな“Tomorrow Never Knows”が同じアルバムに入っているバンドなんて、ありそうでじつはなかなかないですよね。

―“Got To Get You Into My Life”のセカンドバージョンを聴くと、イントロや間奏で演奏されているギターリフが“Paperback Writer”のそれと酷似しているのも面白かったです。

The Beatles“Got to Get You into My Life - Second Version”を聴く

藤本:この曲の制作過程をこうして垣間見ると、ポールって本当に完全主義なのだなとあらためて思いますね。あと、この時期でも3人(ジョン、ポール、ジョージ)のコーラスワークを積極的に取り入れようとしていたのもわかります。最終的にはカットされ、代わりにホーンセクションが導入されますが。

鈴木:『The Beatles Anthology 2』や、一連のブートレグ音源など聴いていた頃から気になっていたのだけど、当初“Got To Get You Into My Life”に歪んだギターをふんだんに入れようと思ったのはなぜだったのだろう。

―リッチー・ブラックモアの発言によると、イギリスでは1960年にバーニー・ワトソンがScreaming Lord Sutch & The Savagesの"Jack The Ripper"(1963年)で初めてファズを使用したといわれています。キース・リチャーズが“(I Can't Get No)Satisfaction”(1965年)のデモレコーディングのとき、サックスのようなサウンドが欲しくてギターにファズトーンをつなげた逸話も有名ですね。

Screaming Lord Sutch & The Savages"Jack The Ripper"を聴く
The Rolling Stones“(I Can't Get No)Satisfaction”を聴く

鈴木:もしかしたらポールも、(歪んだギターを入れている)初期テイクの段階からこの曲にはブラスを入れるつもりだったのかもしれないね。しかも(ブラスを)オンマイクで録って、リミッターをたっぷりかけて歪ませているわけだから。「歪んだギターではない管楽器もどれだけヘビーに録音できるか?」という発想。これは今考えてもかなり画期的だと思います。

藤本:その実験が、のちの“Revolution”みたいなサウンドを生むきっかけになっていたのだから面白いですね。

The Beatles“Revolution”を聴く(Spotifyを開く

藤本:そういえば最近、「イギリスのギターロックアルバム」で『Revolver』が10位に選出されていたんですよ。イギリスではあのアルバムって「ギターロック」というイメージなんだなと。それも興味深いものがありました。

鈴木:そういう話を聴くと、たしかに“Taxman”や“She Said She Said”、“And Your Bird Can Sing”などギターが印象的な楽曲が多いですね。

―冒頭、鈴木さんの「『Revolver』はナナメに見ている」発言から始まったので冷や冷やしましたが(笑)、今回もマニアックな考察からお二人ならではの独自の見解まで、いろいろお聞きすることのできた楽しい対談になりました。

鈴木:(笑)。よく「惣一朗さんってポール派ですよね?」といわれるのだけど、そうじゃなくて「ジョン・レノンのことを好きなポール・マッカートニーが好き」なんですよ。「じゃあジョン派ということですか?」と聞かれたら、「いやいや、ポール派です」と答えるくらいひねくれているのだけど(笑)。

ジョンとポールは最初から最後まで基本的に相思相愛だけど、愛憎が交錯した時期の2人のスリリングな関係性を、思春期に知ってしまい、色々と感じたことが自分のそもそものスタートなので……ぼくはビートルズリスナーとしては湾曲して歪んでしまっているんです(笑)。

藤本:(笑)。私自身は今回『Revolver』をあらためて聴いて、The Beatlesのアルバムのなかで圧倒的に頂点だなということを再認識しました。黒田さんがおっしゃったように、メンバーの力関係やそれぞれのモチベーション、曲のバランス、演奏力、サウンドメイキング、すべてが最高の形でアウトプットされたのが『Revolver』だと思います。

今回、デミックスという形でリリースされたのも面白かった。今後の期待も膨らみますね。次は『Rubber Soul』のスペシャル・エディションが出ると踏んでいますが、ジャイルズに言わせると『Help!』と『Rubber Soul』は対になるアルバムであり、この2枚はジョージ・マーティンがちゃんとリマスターできなかったということもあって、自分がデミックスを駆使して仕上げることで、親孝行にもなると思っているんじゃないかな(笑)。

一同:(笑)

藤本:1stアルバム『Please Please Me』(1963年)から『Beatles For Sale』(1964年)までの4枚、特に『Please Please Me』の頃は、別テイクとは「ボツ」を意味していましたから、残っている音源をすべてデミックス処理で蘇らせてくれるかもしれない。“She Loves You”のようなシングル曲がどうなるのかも含め、いまからとても楽しみです。

リリース情報
© Apple Corps Ltd.

The Beatles
『Revolver [Special Edition]』(CD)

2022年10月28日(金)発売
価格:2,860円(税込)
品番:UICY-16125

1. Taxman(2022 Mix)
2. Eleanor Rigby(2022 Mix)
3. I'm Only Sleeping(2022 Mix)
4. Love You To(2022 Mix)
5. Here, There And Everywhere(2022 Mix)
6. Yellow Submarine(2022 Mix)
7. She Said She Said(2022 Mix)
8. Good Day Sunshine(2022 Mix)
9. And Your Bird Can Sing(2022 Mix)
10. For No One(2022 Mix)
11. Doctor Robert(2022 Mix)
12. I Want To Tell You(2022 Mix)
13. Got To Get You Into My Life(2022 Mix)
14. Tomorrow Never Knows(2022 Mix)
リリース情報
ワールドスタンダード
『ポエジア… 刻印された時間』(CD)

2023年3月25日(土)発売
価格:4,950円(税込)
品番:SLIP-8513LP
書籍情報
『56年目に聴き直す『リボルバー』深掘り鑑賞ガイド〈シンコー・ミュージック・ムック〉』

監修:藤本国彦
2022年11月28日(金)発売
価格:2,090円(税込)
ISBN 978-4-401-65301-0
書籍情報
『アンド・ザ・ビートルズ Vol.4 リボルバー』

監修:藤本国彦
2022年12月22日(木)発売
価格:1,650円(税込)
IJAN: 4910042560133
プロフィール
鈴木惣一朗 (すずき そういちろう)

1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、The Beatles関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある。最新作はワールドスタンダード『ポエジア... 刻印された時間』(発売日:2023年3月25日)。

藤本国彦 (ふじもと くにひこ)

音楽情報誌『CDジャーナル』編集部を経て2015年にフリーに。主にThe Beatles関連書籍の編集・執筆やイベント・講座などを手掛ける。主な著作は『ビートルズ 213曲全ガイド 2021年版』(シーディージャーナル)、『ゲット・バック・ネイキッド』(牛若丸/増補新版は青土社)、『ビートル・アローン』(ミュージック・マガジン)、『ジョン・レノン伝 1940-1980』(毎日新聞出版)。映画『ザ・ビートルズ:Get Back』『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』『ジョン・レノン~音楽で世界を変えた男の真実~』『ミスタームーンライト~1966ザ・ビートルズ武道館公演みんなで見た夢~』ほか字幕監修/監修も多数。相撲とカレーと猫好き。



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「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。

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