BE:FIRSTの登場に、日本のポップミュージックシーンの明るい未来を期待した人も少なくないだろう。
プロデュースを務めるのは、AAAのメンバーとしてメインストリームを突き進み、ラッパーとしてアンダーグラウンドから叩き上げてられてきたSKY-HI。彼が巨額の個人資産投じたオーディション『THE FIRST』により、SHUNTO・JUNON・SOTA・MANATO・RYUHEI・RYOKI・LEOが選出。2021年8月16日のプレデビュー以来、着々と進化を続けてきた。
この夏には、『FUJI ROCK FESTIVAL '22』『SUMMER SONIC 2022』『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』にも出演し、怒涛の勢いで活躍を見せている。
そして8月31日、1stアルバム『BE:1』をリリースした。各種音楽チャートで40冠を達成した“Gifted.”をはじめ、ロックもR&Bもヒップホップもポップスも咀嚼し「BE:FIRST」というジャンルに昇華したこのアルバムは、日本のポップシーンの潮流が変わるのではないかと期待せざるを得ない出来だ。
本稿ではSpotifyのプレイリストシリーズ「Liner Voice+」で行なわれたBE:FIRSTのメンバーとSKY-HIによる『BE:1』の全曲解説をもとに、このアルバムに込められた想いを読み解いていきたい。
BE:FIRSTメンバーとリスナーを尊重するSKY-HIの姿勢
BE:FIRSTの1stアルバム『BE:1』は、リスナーに媚びるでもなく突き放すでもなく、クリエイティビティに振り切ったうえで、大衆に認められる作品となった。アルバムタイトルの『BE:1』には、2つの願いがこめられている。
SKY-HI:アルバムタイトルは「グループ全体で1」だからこそ、「それぞれが個でもある」ということをちゃんと打ち出していきたい。BraveとMassiveとSurviveとGrooveを持った、それぞれの個性を打ちだしていきたい。あとは、聴いてくれる人もなんとなくリスナーやお客さん、BESTY(BE:FIRSTファンの総称)というわけじゃなく、一人ひとりの人生にフォーカスしたものをつくっていきたいし、「そういうグループであろう」という意味で『BE:1』というタイトルをつけました。
つまり『BE:1』は、BE:FIRSTのメンバー一人ひとりを尊重するとともに、このアルバムを聴くリスナー一人ひとりを尊重する作品でもある。メンバーの個性を活かすべく、SKY-HIが用いているわかりやすい一例が「当て書き」だ。
SKY-HI:“Bye-Good-Bye”の歌いだしとか、やっぱりLEOだなって感じがあったし。“Moment”もLEOっぽいのを書きたいと思うと、そういうふうになっていくっていうのが結構あるんですけど。
SKY-HI:“Bye-Good-Bye”に関しては、全員に当て書き感があるという話はちょっとしましたけど、なかでもRYOKIは強いですよね。みんなに言われたもんな(笑)。誰がどこを歌うのかわからない状態で聴いたけど、RYOKIのパートだけはわかったって。
グループアーティストの場合、歌詞に歌い手を割り振っていく方法を取ることが多いが、BE:FIRSTの場合は、作詞時に歌い手を想定した当て書きがされている。
個人のバックグラウンドや人柄、思想を反映させているからこそ、強度があがる。また、メロディーラインにおいても「この人にはこのくらいのキーで、こんなメロディーで」というイメージを、SKY-HIは具体的に持っているのだ。
そこまで緻密なディレクションしていると疲弊してしまいそうな気がするが、SKY-HIは「みんなのバイブス」に背中を押されていると明かす。
SKY-HI:みんなといると書きたいものが出てくる。「こういうの、やってもらいたい」っていうのもあるけど、みんなキャラが濃いからさ。
個性豊かな7人に刺激を受けながら、つねに「次はどんなことをやろう」と思案しているSKY-HI。メンバーの生まれ持った個性はもちろん、それぞれの要望もクリエイティブに反映させる。全員がラップに挑戦したヒップホップナンバーの“Milli-Billi”もそんな楽曲のひとつだ。
SKY-HI:たしかMANATOが全員でラップする曲をつくりたいって言ってたんだよな。マイクリレーみたいなことやりたいっすねって。
それぞれの個性が活きる表現への落としこみ方を考え、なおかつ個々の何気ない「やりたい」にも丁寧に寄り添っていく。これは、SKY-HIがBE:FIRSTのメンバーと丁寧に向かいあい、それぞれの個を打ち出すべく尽力している事実にほかならないだろう。結果として、アルバムにはバラエティーに富んだ15曲が集結し、7人もその出来に心を躍らせている。
RYOKI:バラバラな曲調の15曲なので、毎回新鮮な気持ちでレコーディングできました。4人曲や3人曲もあり、BE:FIRSTのいろんな面をみなさんにお届けできる内容になっています。
LEO:楽曲すべてが誇れるものというか。愛している曲ばかりのアルバムをつくることができたのは、BE:FIRSTの強みかな。自分たちのことを知らない人に「最近、LEOなにやってんの?」って聞かれたら「BE:FIRSTでマジ最高の音楽をやってるから聴いたほうがいいよ」って言えるくらい自分のチームを誇れるのは、なによりも健康的で素晴らしいことだと思う。そういう曲をつくってくれるSKY-HIさんには、感謝しかない。
日本のポップスをアップデート。BE:FIRSTの音楽的挑戦
『BE:1』は個性豊かな楽曲の集合体であるのと同時に、日本のポップスを更新すべく試行錯誤しているのも特徴のひとつだ。KMがプロデュースを手掛けた“Brave Generation”は、ディストーションギターとボーイズグループの融合が課題だった。
SKY-HI:ディストーションギターをボーイズグループの曲でやるのって、すごく難しかったんだよね。ギター系の曲をやるのが女の子のアイドルグループで何周かしているから、エレキギターを入れるとよくない意味で青春感が強く出すぎちゃって。
でも、エレキギターじゃないとこの曲は成立しないから「どれくらいヒップホップにして、どれくらいエモロックにしたら成立するんだろう」みたいなバランスに、めちゃくちゃ時間がかかった気がします。
ポップでキラキラした“Shining One”、静と動のコントラストで魅せる攻めの“Gifted.”に続くリリースとして世に放たれた“Brave Generation”。ヒップホップ感の強いビートとKM特有のギターサウンドは、這い上がる力強さを感じさせるNovel CoreとSKY-HIの書いた歌詞と重なり、BE:FIRSTの新たな扉を開いた。
SHUNTO:鋭い攻撃力のある曲だなって。遊び心を忘れていない感じのトラックに少年っぽさを乗せられるのが楽しいですね。最初のギターが鳴った瞬間に「うお~!」ってあがってくるので、ライブもすごく楽しいですね。
LEO:“Gifted.”の次に配信したのが“Brave Generation”だったじゃないですか。それくらいの頃から、自分のなかでBE:FIRSTはジャンルレスなグループってイメージができていった気がするので。“Brave Generation”をやれて、すごくよかったなと感じてる。
USのポップミュージックに日本歌謡のエッセンスを香らせる“Message”においては、J-POPのお約束と現代のリスニング環境の狭間で揺れた。
SKY-HI:いまの曲って、尺を短くしたほうがいいじゃない。でも、ストリーミングとかで最後まで聴ききれる曲と、いわゆるJ-POP的なつくりのラブソングって必ずしも相性がいいとはいえない。
昔の曲みたいにAメロ、Bメロ、サビ、2番のAメロ、Bメロ、サビ。間奏的なアプローチやラップパート、間奏入ってもう1回本サビ、落ちサビ、アウトロってなると5分くらいになっちゃうのをやるわけにはいかないから、すごく苦労しました。
苦心の末に生み出された“Message”は、楽曲構成の時点で日本のバラードをアップデートする快作だ。多くを語りすぎず楽曲の雰囲気を伝えきる約15秒のイントロ、1回目のサビ直後に入ってくるラップの2番Aメロ、歌の力にすべてを委ねた落ちサビ、締めくくりを感じさせるロングトーンに<LA LA LA>での大団円。
なかでも、多くの邦楽バラードが時間をかけて音を重ねることでクライマックスを演出してしまいがちななか、瞬時に音数を減らすことで一気に引きこみラストを演出する落ちサビの魅せ方は見事だ。ここのパートを担当したMANATOは、歌い方に相当悩んだという。
MANATO:いままでのレコーディングで1番時間がかかりました。「もう1回やらせてください」を100回くらい言った気がしますね。1サビと落ちサビって同じパートを歌ってるじゃないですか。でも、歌詞とメロディーだけが同じで、それ以外は全部違うようなイメージなんです。
J-POP的なアプローチを取りながら、一筋縄ではいかない“Message”。その出来にRYUHEIも満足そうな様子である。
RYUHEI:高校生になってラブソングを聴くことも多くなってきたので、こういう曲を歌えることが嬉しい。歌詞もすごくいいですね。やっぱりJ-POPが全体に出たラブソングは大切にしたいな。
信じる心が恐怖を克服。『BE:1』が起こす革命
楽曲と真摯に向き合い、一つひとつの作品に愛を持っているBE:FIRST。そんな7人だからこそ、SKY-HIはどの楽曲においても、現在と理想の未来をつなぐアプローチを模索していけるのだろう。過去のお約束を踏襲するわけでもなければ、新しい方法を無作為に投げこむこともしない。どちらにも偏らない按配を探りながら、楽曲としての最高を目指していく。
しかし、これはとても勇気が必要なことである。なにせロールモデルがない道を切り開いていかなければいけないのだから。事実、「Liner Voice+」のなかでも“Gifted.”の制作時を振り返りSKY-HIは「わりと怖かった記憶がありますね」と語ったり、“Bye-Good-Bye”の大ヒットを「1年以内にプレデビュー曲以上のインパクトを残さなきゃいけないって焦ってたから、マジでよかった」と口にしたりする場面がある。
そのような状況下で、ここまで進んでくることができたのはなぜか。それは、SKY-HIが人を信じているからはないだろうか。自分自身やBE:FIRSTのメンバー、プロデューサー陣はもちろんのこと、SKY-HIはリスナーをきちんと信じている。そうでなければ、“BF is...”のトーク時に、次のような内容にはならないだろう。
SKY-HI:振りがないこういう曲をかっこよくやれるグループっていいよね。本当にかっこよかったですよ、『VIVA LA ROCK 2022』。JUNONの“足跡には花束”もめっちゃかっこよかった。
JUNON:じつは、けっこう息が辛いんですよね(笑)。
SKY-HI:リスナーの人にアピールしたいのは、結構プリプロで技術的なところをつくりこんでるってことだよね。アクセントをどこに当てるとか。表現っていっても、気持ちだけじゃなくテクニックだったりするじゃないですか。そういうのを高いレベルでやっていることをアピールしていこう。
リスナーへの「信じている」意識は、コレオグラフ(振付)の話題にまで至っている。印象的なのは“Bye-Good-Bye”についてのSOTAとの会話だ。ノルウェーのダンスクルーQuick Styleが、この曲の振付を担当したことを振り返った。
SKY-HI:コレオグラファーは、Quick Style。どうだったんだろうね、SOTA。
SOTA:完璧でした。キャッチーな曲だからこそ、テクニカルがなくなったときに出ちゃう軽さが怖くて、ぼくもコレオグラフがパッと浮かばなかったんですよね。Quick Styleって名前を聞いたときに「これだ!」ってピシッとハマれたのは奇跡というか運命でした。
リスナーにコレオグラフのすごさを語るのが無駄だと諦めていたら、名前を出してエピソードを切り出すなんてきっとしないだろう。自分たちのクリエイティブに惹かれてくれた人なら、気持ちとともに技術があることを汲んでくれるはずだと思えるからこそ、アピールする意義を見出せるのだ。
現在の日本では、まだ「ボーイ・バンドを応援する=ビジュアルがいいから騒いでる」と周りから判断されることも少なくない。BTSが全米チャートで1位を獲ったいまでも、だ。
そんな現状だとしても、「クオリティファースト」「クリエイティブファースト」「アーティシズムファースト」を忘れずに活動をしていれば、純度の高いクリエイティブを生み続けてさえすれば、きっと世界は気づいてくれる、BE:FIRSTを起点とした革命が起きるのだと、SKY-HIは信じているのではないだろうか。
『BE:1』の根底に通っているのは、自分自身や仲間、そして未来を信じる心だ。誰にすり寄るでもなく気高く、寄り添ってくれる。
- リリース情報
-
BE:FIRST
『BE:1』初回生産限定盤(CD)
2022年8月31日(水)発売
価格:3,300円(税込)
AVCD-63372
1. BF is...
2. Gifted.
3. Scream
4. Moment
5. Be Free
6. Softly
7. Betrayal Game
8. Milli-Billi
9. Spin!
10. Move On
11. Brave Generation
12. Grateful Pain
13. Shining One (Re-recorded)
14. Message
15. Bye-Good-Bye
[Bonus track]
16. To The First
- プロフィール
-
- BE:FIRST (びーふぁーすと)
-
SKY-HI率いるBMSGに所属する、SOTA、SHUNTO、MANATO、RYUHEI、JUNON、RYOKI、LEOの7人組ダンス&ボーカルグループ。それぞれが歌・ダンス・ラップに対して高いクオリティとポテンシャルを持っているのと同時に、作詞・作曲・コレオグラフにまで発揮される音楽的感度の高さ、そして七者七様の個性を持った華やかさが魅力。「BE:FIRST」と名付けられたこの7人組は、プレデビューから日本の各種チャートの1位を席巻。ここからアジア、そして世界へと向けて偉大なる最初の一歩目を踏み出す。
- SKY-HI (すかいはい)
-
2005年9月にAAAのメンバーとしてデビュー。同時期から「SKY-HI」としてマイクを握り、都内クラブ等で活動をスタート。ラッパー、シンガーソングライター、トラックメイカー、音楽プロデューサーとして活躍。2013年はSKY-HI初のワンマンショーライブツアー『SKY-HI TOUR 2013-The 1stFLIGHT-』を開始。SKY-HIのツアーでハウスバンドを務めるミュージシャンチーム「THE SUPER FLYERS」の中心に立ち、自らがバンド音源や演出、照明に至るまでプロデュースするライブツアーは毎度、完売が続出。そして2020年9月、SKY-HI自らマネジメント/レーベル「BMSG」を立ち上げ、アーティストが自分らしく才能を開花させられる環境づくりに力を注ぐ。