藤井 風が世界中でバイラルヒット。Spotify年間ランキングから、日本のアーティストの躍進に迫る

12月7日、Spotifyが2022年の音楽やポッドキャストシーンを振り返る、世界と日本のランキングの第二弾を公開した。本稿ではそのなかから「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」に注目。世界中でバイラルヒットを記録し、堂々の1位となった藤井 風や、Adoから米津玄師に至るアニメ関連楽曲の動向をまとめることで、「日本のアーティストの世界進出」についてあらためて考えてみたい。

藤井 風、国内アーティスト初の月間リスナー1,000万人超え

日本のアーティストが世界で活躍するためには? そんな長年のテーマを考えるにあたって、Spotifyが毎年年末に発表する「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」のランキングは毎年非常に興味深い。そして、先日発表された2022年のランキングで1位を獲得したのが、藤井 風“死ぬのがいいわ”だ。

2020年5月発表の1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』に収録されている“死ぬのがいいわ”は2022年に世界中でバイラルヒットを記録し、アジアとヨーロッパをはじめとした23の国と地域でバイラルチャート1位を獲得。TikTokをきっかけに、今年の7月〜8月にタイやベトナムといった東南アジアで火が点き、そこから人気は徐々に世界へと拡大していった。

8月29日にカナダ、8月30日にエジプト、9月2日にフランス、9月8日にブラジル、9月17日にはイギリスでも1位を獲得し、11月27日付けで国内のアーティストとして初めて月間リスナー1,000万人を突破。再生回数は1億5,000万回を突破している(以下、再生回数はすべて12月6日時点)。

藤井 風“死ぬのがいいわ”スタジアムライブ『 LOVE ALL SERVE ALL STADIUM LIVE』演出用映像

昨年2021年11月にSpotifyの国内でのサービス開始から5年間を振り返ったランキングにおける「過去5年に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」は、1位のTK from 凛として時雨“unravel”を筆頭に、ベスト10のうち8曲がアニメ関連の楽曲で、近年は「海外で聴かれている日本の曲=アニメ関連楽曲」という図式がほぼ定着していた(もちろん、世界的なシティポップブームというのも起こっているが、ここではあくまでランキングを指標とする)。

アメリカが活動拠点のNIGOを擁するTeriyaki Boyzは例外として、唯一アニメ関連曲以外でランクインしたのが、8位のYOASOBIの“夜に駆ける”だったが、ミュージックビデオがアニメーションということもあり、「ジャパンカルチャー」としての印象が強かった。“死ぬのがいいわ”も、アニメを使ったTikTokの投稿が多く、「ジャパンカルチャー」的な側面がないとは言えないが、楽曲自体は直接アニメと関連はない。“死ぬのがいいわ”のバイラルヒットは、やはり異例の出来事だ。

10月にはインドで撮影したミュージックビデオも話題の新曲“grace”を発表。総再生数における海外シェアは“死ぬのがいいわ”ほど高くはなく、まだアーティスト自身に対して海外でも固定のファンがしっかりついたとは言い難いが、月間リスナーにおける海外シェアの割合は依然として高い。なので今後徐々にほかの楽曲や、アーティスト自身への支持につながっていくことは十分に考えられる。今年は4月の時点でLAを訪れて楽曲制作を行なっていることがSNSを通じて伝えられていたこともあり、今後海外ツアーなども実現すれば、世界的なポップスターとなる未来も決して夢物語ではないはずだ。

藤井 風“grace”ミュージックビデオ

『チェンソーマン』『鬼滅の刃』『ONE PIECE』など、アニメ関連楽曲が世界から熱視線

2022年も海外では日本のアニメ関連楽曲が数多く聴かれているので、そちらの動向も見てみよう。今年リリースの楽曲で言うと、ランキング3位のSiM“The Rumbling”と、8位のヒグチアイ“悪魔の子”が『進撃の巨人 The Final Season Part 2』、6位のAimer“残響散歌”が『鬼滅の刃 遊郭編』、11位の星野源“喜劇”が『SPY×FAMILY』のテーマ曲。『進撃の巨人』は特に海外人気が高く、2017年発表のLinked Horizon“心臓を捧げよ!”は今年も19位にランクイン。『呪術廻戦』テーマ曲のEve“廻廻奇譚”、『鬼滅の刃』テーマ曲のLiSA“紅蓮華”も、アニメ作品自体の人気も伴って聴かれ続けている。

アニメ関連の楽曲はロングヒットが常態化していて、先に挙げた「過去5年に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」で1位のTK from 凛として時雨“unravel”(『東京喰種トーキョーグール』オープニングテーマ)と、4位のKANA-BOON“シルエット”(『NARUTO-ナルト-疾風伝』オープニングテーマ)は、どちらも2014年のリリースながら、今年もそれぞれ10位と14位にランクイン。海外のアニメファンは好きな作品の楽曲を繰り返し聴き続ける傾向があると考えられる。

プレイリスト「Global Hits From Japan 2022 -国境を超える日本の音楽-」を聴く

やや意外なのは国内外で大きな話題を呼んだ映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌、Adoの“新時代”がトップ20に入っていないこと。しかし、8月にリリースされた劇中歌を収録したアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』の楽曲は軒並み高い再生数を記録していて、「海外で最も再生されたアーティスト」のランキングではONE OK ROCKに続く9位にランクイン。10月にはアメリカのレーベル、ゲフィン・レコードとのパートナーシップ締結が発表され、来年以降の本格的な世界進出が期待される。

Ado『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』を聴く

もう一組、ランキングで注目すべきが17位の米津玄師“KICK BACK”。現在放送中の『チェンソーマン』のオープニングテーマであるこの曲は、Spotifyのデイリーランキング「トップ50 - グローバル」に国内アーティストとして初めてランクインを果たし、10月リリースの楽曲ながらすでに再生回数は8,000万回を超え、早くも年間のトップ20に入っているという規格外の状況だ。米津は2017年発表の“ピースサイン”が『僕のヒーローアカデミア』のテーマ曲としてすでに世界のアニメファンに聴かれているが、“KICK BACK”の勢いは「アニメファン」の枠を越えているように感じられる。

米津玄師“KICK BACK”ミュージックビデオ

また、『チェンソーマン』は週替わりのエンディングテーマも大きな話題になっていて、第一週のVaundy“CHAINSAW BLOOD”と、第二週のずっと真夜中でいいのに。“残機”はもともとのアーティストパワーも手伝って、すでに1,000万回再生を突破。第8話以降はTK from 凛として時雨、Eve、Aimerとすでにアニメ関連で結果を残しているアーティストの起用が続くので、アニメと楽曲が国内のみならず、世界でも相乗効果を生むことが期待される。

藤井 風のバイラルヒットが日本のアーティストの世界進出の新たな可能性を提示し、その一方でアニメ関連楽曲もこれまで以上に再生数を伸ばして、Adoや米津玄師のさらなる活躍の予兆が見えた2022年。Spotifyの国内サービス開始から6年を経て、世界の音楽地図は確実に変化の時期を迎えている。



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