2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る

2021/07/30
テキスト・編集
山元翔一(CINRA.NET編集部)
イラスト:アボット奥谷

両者のリスナーが併せて聴く楽曲の違いから見えてくるもの

芦澤:あと、松原みきさんのリスナーが併せて聴いているものはほとんどシティポップ軸で、大橋純子、杏里、杉山清貴&オメガトライブ、秋元薫、大貫妙子、濱田金吾といったアーティスト名が並びます。

柴崎:おお、まさに直球でシティポップ的。

芦澤:そうですね。あとそこにNight Tempo的な文脈でWinkも入ってくるみたいな感じです(笑)。

プレイリスト『City Pop '80s』を聴く(Spotifyを開く

Night Tempo『Wink - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』を聴く(Spotifyを開く

芦澤:まりやさんの場合はかなり違っていて、日本のリスナーの趣向を反映してか、今井美樹、オフコース、佐野元春、渡辺美里、DREAMS COME TRUE、徳永英明、ハイ・ファイ・セット、薬師丸ひろ子、中森明菜などといったラインナップになっています。

日本での消費が大きいという点では、大滝詠一さんも同様で、日本がいまのところ圧倒的に多いです。

▼大滝詠一の楽曲再生数の上位5か国

1位 日本

2位 アメリカ

3位 台湾

4位 インドネシア

5位 タイ


大滝詠一“君は天然色”を聴く(Spotifyを開く

柴崎:曲単位でいうと“君は天然色”が圧倒的?

芦澤:そうですね。

柴崎:やっぱり去年のアニメ『かくしごと』タイアップの影響が大きいんですかね。

松永:CMソングとしても毎年くらい頻繁に使われてますけど、最近でいえば『かくしごと』は大きかったでしょうね。

柴崎:ああいった例を突破口に大滝さんの音楽の魅力がもっと世界にも広がれば面白いですよね。


大滝詠一“君は天然色”が起用された『かくしごと』(2020年)のエンディング映像

シティポップ以外に見いだす、海外のリスナーと大滝詠一の接点

松永:シティポップではないんですけど、the pillowsって海外ですごく人気があるんですよ。

それは彼らが主題歌を提供したアニメ『フリクリ』がアメリカでも「Adult Swim」(アメリカのアニメ専門チャンネル「カートゥーン ネットワーク」の夜の放送枠)の枠にのったことで知られたって経緯があるんですね。

だから、“君は天然色”にも、そういう展開は起こりうるかも。いずれにせよ、サブスクリプションというプラットフォームに乗ったことで、思いがけない場所で予想もしなかった感じ方で認知されるという可能性は持てたと思います。

アニメ『フリクリ』(2000年~2001年)の主題歌、the pillows“Ride on Shooting Star”も収録されたプレイリスト『Anime Rewind '00』を聴く(Spotifyを開く

柴崎:そうですね。でも基本的に大滝さんの楽曲は、現在海外でウケているブギー的でダンサブルなものとは違うし、シティポップの文脈と離れて定着する可能性がありますよね。

『A LONG VACATION』(1981年)を海外の人がパッと聴いたときに、即座に「シティポップだ!」ってならなそうな気がする。

松永:『ロンバケ』のサウンドに対しては「ジャケのイメージと違う」と感じる反応がアジアやアメリカでも多いですよね。日本ではあのジャケとサウンドは完璧な相性と思われているのに。

 大滝詠一『A LONG VACATION』(1981年)を聴く(Spotifyを開く) / 関連記事:大滝詠一の足跡とその言説。『ロンバケ』はシティポップなのか?(記事を読む

松永:さっきも言いましたが、海外での永井さんのイラスト人気はすごいし、シティポップのアイコンとしても超強力。ビジュアルの印象から入る現代の海外リスナーにとって、大滝さんのオールディーズ的な音像はむしろジャケとの齟齬を生んじゃってるかも。日本とは受容のされ方が対照的だなと感じます。

アメリカ人に「こういう(『ロンバケ』的な)曲は自分の国もある」と言われたこともあります。1950年代や1960年代のオールディーズそのものを思い起こさせるし、そういう音楽がアメリカではいまもラジオでよく流れてるから素直にそう反応しただけなんでしょうけど。

一方、東南アジアではかつてドラマ『ラブジェネレーション』(1997年)が放映されていて、その主題歌“幸せな結末”と1990年代の東京の景色とを結びつけてシティポップ的に受け止めているリスナーもいると最近聞きました。入り口の違いで聴かれ方も変わりえるというのは、面白いですよね。

大滝詠一“幸せな結末”(1997年)を聴く(Spotifyを開く

“プラスティック・ラブ”の人気と“真夜中のドア”のバズの奥にある、リスナーの性質の違い

芦澤:毎年年末に、海外で聴かれた日本のアーティストの楽曲のランキングをとっていまして、トップテンのほとんどがアニメ関連か、アニメで使われた楽曲が占めています。

アニメという要素が非常に重要という傾向は前提として、2020年でいうと、トップテンのなかに“summertime”っていうcinnamonsとevening cinemaによる2018年の楽曲が入っているんです。

2020年12月に発表された、Spotifyで「海外で最も再生された国内アーティスト」「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」
2020年12月に発表された、Spotifyで「海外で最も再生された国内アーティスト」「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」

芦澤:この曲は東南アジアのTikTokで非常にバズったことからバイラルチャートに波及してベトナムやフィリピンのバイラルで上位に上り詰め、それが英語圏の国に波及し、2年越しに日本国外でいちばん聴かれた曲のトップテンに入ったんですね。この現象は面白いと思います。

evening cinemaはRainychの一連の楽曲をプロデュース、アレンジしていて、最近だと“RIDE ON TIME”を一緒にやった流れがありますし。


cinnamons × evening cinema“summertime”を聴く(Spotifyを開く


原曲は山下達郎が1980年に発表した楽曲で、Rainychによるカバーは2021年3月26日に公開された(Spotifyを開く

芦澤:2021年現在のシティポップの海外受容の傾向を整理すると、インドネシアではTikTokなどソーシャルとの強い結びつきや親和性のある楽曲がメインストリームで聴かれるようになってきている。それに対して北米は、もう少しマニアックに、いわゆるオタクが掘っているような文脈のものも含めて聴かれているのかもしれないです。

柴崎:こうやっていろいろ資料を見ながら考えてみると、YouTube経由の“プラスティック・ラブ”の人気と、TikTok経由の“真夜中のドア”のバズって、それが巻き起こった時期や広がり方からして、前者はミレニアル世代中心のナードな層が主導していたのに対し、後者はZ世代中心のもう少しライトな層が主導している、と理解できそうですね。

松永:それは言い得て妙ですね。

柴崎:もちろん混じり合っている部分もあると思いますが。

「シティポップ」という言葉やイメージは、海外にどのように伝わっているのか?

松永:「シティポップ」ってワードが海外へどういうふうに伝わっているのかが気になってよく海外の友達に聞くんです。つい10年くらい前までは「意味はわかるけど、文法的に間違ってるよ」と言われるケースもありました。いまはどれくらい浸透してるんでしょうね? データとしてわかるような目安ってありますか?

芦澤:プレイリスト数がどのくらいあるのかという質問を事前にいただきましたが、“真夜中のドア”のプレイリスト総数はオールタイムで検索すると230万もありまして(2021年7月時点)。

柴崎:うわ! それはすごい。

芦澤:Spotifyのエディトリアルチームが作成したものを含んではいるんですけど、ほとんどがユーザープレイリストですね。もちろん“プラスティック・ラブ”のプレイリストもたくさん作られてはいるんですが、230万があまりにも圧倒的すぎてびっくりしました。

松永:それぞれのプレイリストのタイトルで「シティポップ」と謳っているものが多いんでしょうか?

芦澤:多いですね。カバー画像もヤシの木のあるリゾート感のあるイラストであったり、Night Tempoのジャケにあるようなちょっとアニメっぽいものだったりとか、それぞれがリスナーのセンスでカバーとタイトルをつけている感じです。なぜか“真夜中のドア”は『anime tunes』ってプレイリストに入ってたり。

ユーザープレイリスト『anime tunes』を聴く(Spotifyを開く

柴崎:面白いなあ。

松永:日本で「ソフトロック」って言葉がブームになった時期がありますけど、日本人が考えたソフトロックのアーティストや作品に対応する言葉が21世紀に入ったあたりですら英語圏にはなかったんです。いまだったら「サンシャインポップ」って言ったりして、それもかなり雑な括りではあるんですが(笑)。

とにかくアメリカで「ソフトロックを探してる」って言うと、BreadとかSeals & Croftsを勧められて、「違う違う、Harpers Bizarreとか、Free Designとか」って説明すると「それはサイケっぽいフォークだよね?」みたいな反応。だから「シティポップ」って言葉が定義もないのにスッと受け入れられたのは不思議だし面白いなと感じてます。

K-INDIEのアーティストたちもシティポップって言葉に対して率直ですよね。“SEOUL CITY POP”って曲もあるし。日本のぼくらが「シティポップとは何か?」って概念的に考える以前に彼らはその容器に勢いよく飛び込んでいた。

IHYA“SEOUL CITY POP”(2018年)を聴く(Spotifyを開く

柴崎:リアルタイムの世代も含めて、日本のファンのあいだでは、「シティポップとは何ぞや?」って喧々諤々とやってきた歴史がありますよね。

渋谷系や2010年代のインディーポップのなかのそれらしきサウンドをシティポップに括るのはおかしいじゃないかとか、厳密に定義をすれば1980年代初頭にプロモーション上そうカテゴライズされていた山本達彦や稲垣潤一などを「シティポップ(ス)」と呼ぶべし! それ以外はダメ! みたいな。

山本達彦『Martini Hour』(1983年)を聴く(Spotifyを開く

稲垣潤一『REALISTIC』(1985年)を聴く(Spotifyを開く

柴崎:でも、シティポップっていう用語がどんどん拡張してきたからこそいまの広範なブームがあるんだろうし、ジャンル概念の拡散はある程度不可逆的なものとして受け入れざるをえないのかなと思ったりもします。

松永:拡大解釈が可能である、っていうね。過去には「ソフトロック」にしても「AOR」にしても日本の音楽リスナーは世界中のどこよりも拡大解釈をしながら海外の音楽を受容し、広範にリスニングしてきたはずなのに、「シティポップ」の解釈に対しては強めの抵抗感がむしろ日本側で出た。そこは興味深かったですね。

柴崎:「シティポップ」に厳密な定義があるようでない、けれども漠然としたイメージは共有されている。そういう曖昧さがそのまま輸出されていて、それが現在のシティポップブームを駆動するダイナミズムにつながっている部分もありますよね。

ジャンルを厳密に規定することで見えてくるものもあるし、学究的な方法論としてはシンパシーも感じるんですけど、ポピュラーミュージックである限り、ジャンル概念が拡張していくのは宿命ですから。大量のプレイリストでピックアップされている曲のバラエティを見ると、余計にそう思います。

ユーザープレイリスト『City Pop Serotonin Vibes』を聴く(Spotifyを開く

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書籍情報

『シティポップとは何か』

編著者:柴崎祐二
価格:2,475円(税込・予価)
発行:河出書房新社

プロフィール

松永良平(まつなが りょうへい)

1968年、熊本県生まれ。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌『リズム&ペンシル』がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務のかたわら、雑誌 / ウェブを中心に記事執筆、インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行う。

柴崎祐二(しばさき ゆうじ)

1983年埼玉県生まれ。音楽ディレクター、評論家。編共著に『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』、連載に「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」(『レコード・コレクターズ』)などがある。2021年9月に編著を務めた『シティポップとは何か』(河出書房)の刊行を控えている。

芦澤紀子(あしざわ のりこ)

ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

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