本当は続けたかった? ビートルズ最大の謎、解散の真相に迫る

本当は続けたかった? ビートルズ最大の謎、解散の真相に迫る

2021/10/15
テキスト
黒田隆憲
編集:黒田隆憲、CINRA編集部

最後にレコーディングした『Abbey Road』に、ビートルズの美学がもっとも強く感じられる理由

黒田:ゲットバックセッションには途中からビリー・プレストン(「5人目のビートルズ」とも呼ばれるキーボード奏者)が参加し、それによって曲づくりもスムーズに進むようになっていきます。

鈴木:でも、せっかく彼を呼んだのだから本格的なリズム&ブルースをやったっていいのに、それをあえてやらないのがビートルズなんですよね。『Let It Be』で彼が演奏しているフレーズを聴いていると、すごく制御されているように感じるんですよ。音楽のシミュレーショニズムを執拗に回避しているのは、例えば“For You Blue”のエフェクティブなピアノサウンドからも感じます。

The Beatles“For You Blue (1969 Glyn Johns Mix)”を聴く(Spotifyを開く

鈴木:この曲のピアノはポールが演奏しているのですが、確か彼は、「質の悪いホンキートンクピアノの音にしてほしい」というジョージからのリクエストに応えるため、ピアノの弦とハンマーのあいだに紙を挟んで演奏したとか。それでプリペアドピアノっぽい音になっているのですが、「この曲を、単なるアーシーなブルーズナンバーに仕あげてたまるか」みたいな気概を感じるエピソードです。

黒田:鈴木さんのおっしゃるシミュレーショニズムとは、言い換えれば「文脈を取り入れる」ということですよね。例えばローリング・ストーンズはまさにルーツミュージックの文脈を取り入れながら、それをオリジナルソングに仕あげていくような曲のつくり方をしていましたが、ビートルズは楽器の音色やフレーズから文脈を切り離し、素材として取り入れて自分たちの楽曲に組み込んでいく。そこに彼らのオリジナリティーがあるように思います。

鈴木:例えばスカやロックステディーのつもりでつくり始めた“Ob-La-Di, Ob-La-Da”が、それらとはまったく違った雰囲気の楽曲になったようにね。繰り返しになるけど、「昔のロックンロールバンドに回帰しようぜ」というコンセプトで始めたゲットバックセッションが上手くいかなかった理由もそこにある。

藤本:いま、お二人のお話をうかがっていて思ったのは、結局ゲットバックセッションというのは、「俺たちは音楽でもファッションでも、つねに独自のスタイルを取り入れてきたんだぜ」と思っていたビートルズが、あらためて「素」の自分たちを見つめ直してみたら「なんだ、俺たちってこんなにダサかったの?」と気づいちゃったみたいな、そういうプロジェクトだったのかなと。

黒田鈴木:(笑)

藤本:それで慌てて、「もっとちゃんとお化粧して、身嗜みも整えて発表しようよ」とつくったのが『Abbey Road』なのかなと。

黒田:だからこそ『Abbey Road』には、ビートルズとしての美学がもっとも強く感じられるのでしょうね。

ジョージがビリー・プレストンをつれてきたのは、ポールとジョンの「お行儀を良くするため」

黒田:ところで、ゲットバックセッションにビリー・プレストンを連れてきたのはジョージ・ハリスンですが、そこにはどんな思惑があったのでしょうか。

藤本:まず、ジョンとポールはジョージが書いた楽曲への関心度がとても低いんですよね。年齢もグループのなかで一番年下だし、ソングライターとして「レノン=マッカートニー」(ジョン・レノンとポール・マッカートニーが作詞・作曲した楽曲における共同名義)の楽曲より格下扱いされた彼は、ずっとフラストレーションを抱えていました。

遡ること1968年にレコーディングされた“While My Guitar Gently Weeps”も、当初ジョージはアコギで披露するけど誰にも興味を示されず、それを打開するためにレコーディングにエリック・クラプトンを連れて来るんです。そうすると、ジョンとポールはお行儀良くなるしレコーディングにも真面目に取り組むんですよ。それと同じ効果を狙ってジョージは旧知のビリー・プレストンをスタジオに招いたわけです。


The Beatles“Don't Let Me Down”。屋上で行われた公開ライブにも、ビリー・プレストンが参加している

藤本:ジョージは“Get Back”のセッション時に、「ギターはジョンだけでいい」というようなことをポールに言われておそらくショックを受け、ビートルズに嫌気がさしていったんグループを脱退しています。戻る条件としてビリー・プレストンの参加を要請したのですが、そういう意味では、ジョージはバラバラになりつつあった4人を一時的につなげる役割も担ったわけですよね。

しかもビリー・プレストンが加入することによってアンサンブルに厚みも出ますし、「剥き出しのバンドサウンド」を一番嫌がっていたジョンの気分がそれで盛りあがれば……という思惑も大きかったんじゃないかと思います。

黒田:なるほど。

藤本:実際、ジョンは「ビリー・プレストンをビートルズのメンバーにしたい」と言っていたらしいですからね、ポールに反対されますけど(笑)。いずれにせよ外部ミュージシャンとして唯一その名前がクレジットされるなど破格の扱いをされました。

ビリー・プレストンが、ビートルズのレーベルよりリリースしたアルバム『Encouraging Words』(1970年)。ビリー・プレストンとジョージ・ハリスンの共同プロデュースで制作された(Spotifyを開く

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書籍情報

『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』
『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』

2021年8月12日(木)発売
著者:黒田隆憲、佐藤一道(共同監修)
価格:3,080円(税込)
発行:シンコーミュージック
ISBN 978-4-401-64852-8

『365日ビートルズ』
『365日ビートルズ』

2021年11月1日(月)発売予定
著者:藤本国彦
価格:2,750円(税込)
発行:扶桑社

リリース情報

ワールドスタンダード『エデン』
ワールドスタンダード
『エデン』

2021年11月27日(土)発売
価格:3,850円(税込)
SLIP-8510

The Beatles『Let It Be』スペシャル・エディション[スーパー・デラックス]<輸入国内仕様 / 完全生産限定盤>
The Beatles
『Let It Be』スペシャル・エディション[スーパー・デラックス]<輸入国内仕様 / 完全生産限定盤>(5CD+Blu-ray)

2021年10月15日発売
価格:19,800円(税込)
UICY-79760

●CD全57曲収録
●CD1:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●CD2&3:未発表アウトテイク、スタジオ・ジャム、リハーサル:27曲
●CD4:未発表1969年『ゲット・バックLP』(グリン・ジョンズ・ミックス)新マスタリング:14曲
●CD5:『レット・イット・ビー』EP:4曲
●ブルーレイ:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックスのハイレゾ(96kHz/24-bit)、5.1サラウンドDTS、ドルビー・アトモス・ミックスのオーディオ収録
●ダイカット・スリップケース
●本文100ページの豪華ブックレット付

【ディスク1】
レット・イット・ビー ニュー・ステレオ・ミックス

1. トゥ・オブ・アス
2. ディグ・ア・ポニー
3. アクロス・ザ・ユニヴァース
4. アイ・ミー・マイン
5. ディグ・イット
6. レット・イット・ビー
7. マギー・メイ
8. アイヴ・ガッタ・フィーリング
9. ワン・アフター・909
10. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
11. フォー・ユー・ブルー
12. ゲット・バック

【ディスク2】
ゲット・バック – アップル・セッションズ

1. モーニング・カメラ(スピーチ – モノ) / トゥ・オブ・アス (テイク4)
2. マギー・メイ / ファンシー・マイ・チャンシズ・ウィズ・ユー (モノ)
3. キャン・ユー・ディグ・イット?
4. アイ・ドント・ノウ・ホワイ・アイム・モーニング(スピーチ – モノ)
5. フォー・ユー・ブルー(テイク4)
6. レット・イット・ビー / プリーズ・プリーズ・ミー / レット・イット・ビー(テイク10)
7. アイヴ・ガッタ・フィーリング(テイク10)
8. ディグ・ア・ポニー(テイク14)
9. ゲット・バック(テイク19)
10. ライク・メイキング・アン・アルバム?(スピーチ)
11. ワン・アフター・909(テイク3)
12. ドント・レット・ミー・ダウン(ファースト・ルーフトップ・パフォーマンス)
13. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード(テイク19)
14. ウェイク・アップ・リトル・スージー / アイ・ミー・マイン(テイク11)

【ディスク3】
ゲット・バック – リハーサル・アンド・アップル・ジャムズ

1. オン・ザ・デイ・シフト・ナウ(スピーチ – モノ)/オール・シングス・マスト・パス(リハーサル – モノ)
2. コンセントレイト・オン・ザ・サウンド (モノ)
3. ギミ・サム・トゥルース(リハーサル – モノ)
4. アイ・ミー・マイン(リハーサル – モノ)
5. シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー(リハーサル)
6. ポリシーン・パン(リハーサル – モノ)
7. オクトパス・ガーデン(リハーサル - モノ)
8. オー!ダーリン(ジャム)
9. ゲット・バック(テイク8)
10. ザ・ウォーク(ジャム)
11. ウィズアウト・ア・ソング(ジャム) – ビリー・プレストン・ウィズ・ジョン・アンド・リンゴ
12. サムシング(リハーサル - モノ)
13. レット・イット・ビー(テイク28)

【ディスク4】
ゲット・バック LP – 1969グリン・ジョンズ・ミックス

1. ワン・アフター・909
2. メドレー: アイム・レディ(aka ロッカー) / セイヴ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー / ドント・レット・ミー・ダウン
3. ドント・レット・ミー・ダウン
4. ディグ・ア・ポニー
5. アイヴ・ガッタ・ア・フィーリング
6. ゲット・バック
7. フォー・ユー・ブルー
8. テディ・ボーイ
9. トゥ・オブ・アス
10. マギー・メイ
11. ディグ・イット
12. レット・イット・ビー
13. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
14. ゲット・バック(リプリーズ)

【ディスク5】
レット・イット・ビー EP

1. アクロス・ザ・ユニヴァース(未発表 グリン・ジョンズ 1970ミックス)
2. アイ・ミー・マイン(未発表 グリン・ジョンズ 1970ミックス)
3. ドント・レット・ミー・ダウン(オリジナル・シングル・ヴァージョン ニュー・ミックス)
4. レット・イット・ビー(オリジナル・シングル・ヴァージョン ニュー・ミックス)

【ブルーレイ】
1. トゥ・オブ・アス
2. ディグ・ア・ポニー
3. アクロス・ザ・ユニヴァース
4. アイ・ミー・マイン
5. ディグ・イット
6. レット・イット・ビー
7. マギー・メイ
8. アイヴ・ガッタ・フィーリング
9. ワン・アフター・909
10. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
11. フォー・ユー・ブルー
12. ゲット・バック

The Beatles『Let It Be』スペシャル・エディション[2CDデラックス]
The Beatles
『Let It Be』スペシャル・エディション[2CDデラックス](2CD)

2021年10月15日発売
価格:3,960円(税込)
UICY-16030/1

●26曲収録
●CD1:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●CD2:未発表アウトテイク、スタジオ・ジャム、リハーサル:13曲
●40ページのブックレット付

The Beatles『Let It Be』スペシャル・エディション[1CD]
The Beatles
『Let It Be』スペシャル・エディション[1CD](CD)

2021年10月15日発売
価格:2,860円(税込)
UICY-16032

●オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲

The Beatles『Let It Be』スペシャル・エディション[LPスーパー・デラックス]<直輸入仕様 / 完全生産限定盤>
The Beatles
『Let It Be』スペシャル・エディション[LPスーパー・デラックス]<直輸入仕様 / 完全生産限定盤>(5LP)

2021年10月15日発売
価格:25,300円(税込)
UIJY-75215/9

●全57曲収録(4枚の180g / ハーフスピード・マスタリングLP+45rpm 12インチEP)
●LP1:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●LP2&3:未発表アウトテイク、スタジオ・ジャム、リハーサル:27曲
●LP4:未発表1969年『ゲット・バックLP』(グリン・ジョンズ・ミックス)新マスタリング:14曲
●EP:『レット・イット・ビー』EP:4曲
●ダイカット・スリップケース
●本文100ページの豪華ブックレット付

The Beatles『Let It Be』スペシャル・エディション[1LP]<br><直輸入仕様 / 完全生産限定盤>
The Beatles
『Let It Be』スペシャル・エディション[1LP]<直輸入仕様 / 完全生産限定盤>(LP)

2021年10月15日発売
価格:5,500円(税込)
UIJY-75220

●オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●180g/ハーフスピード・マスタリングLP

The Beatles『Let It Be』スペシャル・エディション[1LPピクチャー・ディスク]<直輸入仕様 / 完全生産限定盤>
The Beatles
『Let It Be』スペシャル・エディション[1LPピクチャー・ディスク]<直輸入仕様 / 完全生産限定盤>(LP)

2021年10月15日発売
価格:7,150円(税込)
PDJT-1030

●THE BEATLES STORE JAPAN限定商品
●オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●180g / ハーフスピード・マスタリングLP
●アルバム・アートのピクチャー・ディスク仕様

プロフィール

黒田隆憲(くろだ たかのり)

1990年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャーデビュー。その後、フリーランスのライター&エディターに転身。世界で唯一のマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマンとして、世界各地で撮影を行なう。2018年にはポール・マッカートニーの日本独占インタビューを務めた。著書に『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』(ともにDU BOOKS)、共著に『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』(シンコーミュージック)『ビートルズの遺伝子ディスク・ガイド』(DU BOOKS)『マッカートニー・ミュージック ~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)など。

藤本国彦(ふじもと くにひこ)

楽情報誌『CDジャーナル』編集部(1991年~2011年)を経て2015年にフリーに。主にビートルズ関連書籍の編集・執筆やイベント・講座などを手掛ける。主な著作は『ビートルズ213曲全ガイド 2021年版』(シーディージャーナル)、『ゲット・バック・ネイキッド』(牛若丸/増補新版は青土社)、『ビートル・アローン』(ミュージック・マガジン)、『ビートルズ語辞典』(誠文堂新光社)、『ビートルズはここで生まれた』(CCCメディアハウス)、『ジョン▪レノン伝 1940-1980』(毎日新聞出版)、『気がつけばビートルズ』(産業編集センター)。最新刊は『365日ビートルズ』(扶桑社)。映画『ジョージ・ハリスン / リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』『イエスタデイ』の字幕監修、書籍『ザ・ビートルズ:Get Back』の監修も担当。相撲とカレーと猫好き。

鈴木惣一朗(すずき そういちろう)

1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジ・ブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、ビートルズ関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある。最新作は『エデン』ワールドスタンダード(発売日:2021年11月27日)。

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