Spotifyによる今年の「Pride」プロジェクトのうち、日本におけるローカルプレイリストの核となるのが「Let's Party Again」シリーズである。これは、クィアフレンドリーなパーティの現場で活躍するDJがキュレーションしたプレイリスト集だ。
プレイリストの監修を担当した筆者が3つのパーティをセレクトしたのだが、その際に重視したのはおもに2点。それぞれ無二の個性を持ちながら、すべてのジェンダーやセクシュアリティに開かれたオープンな姿勢を持っていること。そして、フロアで鳴らされている音楽に強いこだわりや美意識が感じられること。結果、当初のコンセプトでもあった、とても音楽的なパーティによるプレイリストが集まったと感じている。
本稿では『MOTORPOOL』、『DIAMONDS ARE FOREVER』、『オネエスタイルダンジョン』のプレイリストを作成してくれたDJ陣や主宰者に共通の質問を送り、パーティやプレイリストを紹介してもらった。この企画には、パンデミック下において厳しい状況にあるパーティやクラブをサポートしたいという想いもこめられている。いつかまた、パーティのフロアで会えることを願って。
渋谷・Contactを拠点とするアンダーグラウンドクィアパーティ『MOTORPOOL』
東京・渋谷Contactで開催されているアンダーグラウンドクィアパーティ『MOTORPOOL』によるテクノ、ハウスミュージック系のプレイリスト。レジデントDJのDSKEとMAYUDEPTHが選曲(Spotifyで聴く)
『MOTORPOOL』はどのような個性を持つパーティでしょうか?
かかっている音楽はテクノやハウスが中心。国内外から『MOTORPOOL』が共鳴する強力なアーティストを招聘しています。ジェンダーや年齢、国籍に関わらず様々なカルチャーの人々が集まりとても自由な雰囲気です。(MAYUDEPTH / 『MOTORPOOL』レジデントDJ)
ストイックに突き詰めた音楽性に、自由さを体験出来る煌びやかなパーティ感を兼ね備えた数少ないパーティだと思ってます。(DSKE / 『MOTORPOOL』レジデントDJ)
今回参加したPRIDEプレイリストのテーマやコンセプト、こだわった点などについて教えてください。
エレクトロニックミュージックの持つ多様性と実験性。(MAYUDEPTH)
いろんな国のプライドを体験して来て、見たもの感じたものに自分のフィルターを通して選曲にしました。自分なりにメッセージ性も込めているので聴いて感じていただけたら嬉しいです。(DSKE)
『MOTORPOOL』による「Let's Party Again」プレイリストカバービジュアル
パンデミックに伴い、現在クラブシーンは厳しい状況に置かれていることかと思われますが、パーティの現状、今後の予定や展開についてお聞かせください。
6月27日にMOTORPOOLとして初のストリーミング『MOTORPOOL TV』を渋谷のクラブContactから配信します。是非チェックしてみください。それ以降はまだ未定ですが現場でパーティを再開できる時を楽しみにしています。(MAYUDEPTH)
MOTORPOOLの開催を楽しみにしていただいてる皆様や未体験の方にもきっと楽んでもらえる内容ですので、ぜひチェックしてください!(DSKE)
30年にわたって続く「華麗なエンタテインメント・ショウ」。関西発『DIAMONDS ARE FOREVER』
関西発、約30年にわたって開催されており、現在は京都・METROで行なわれている『DIAMONDS ARE FOREVER』によるプレイリスト。「キャムプでポップで煌びやかなムード」のあるひとつの側面を、DJのkorが選曲(Spotifyで聴く)
『DIAMONDS ARE FOREVER』はどのような個性を持つパーティでしょうか?
関西発祥で約30年、国内外様々な場所でオリジナルメンバーを含めて現在も続いていること。セクシャリティやジェンダー、国籍や肌の色に拘りはないこと。キャムプやチープゴージャス、アートやアヴァンギャルドで脱構築な視点を併せ持つこと。1990年から現在は、京都メトロのマンスリーパーティであること。ひとりひとりの人生の中で、初めてクラブというものに来られた方々が体験する場所でもあること。 「What is your thing?」に対する、様々なイントゥやオブセッションな答えを提案し続ける時間と空間。
以上は私のテキストですが、詳細情報はライターの後藤純一さんや、オフィシャルサイト等からの引用が下記です。いわゆるワンショットのパーティではなく、上手く説明できずすみません。(kor / 『DIAMONDS ARE FOREVER』DJ)
〈DIAMONDS ARE FOREVER〉は、1980年後半当時国際的に活動を展開しつつあったパフォーマンス集団「ダムタイプ」の故ミス・グロリアス(古橋悌二)とDJ LaLa(山中透)が、関西でドラァグクイーン・パーティの場を模索していた時に、ドラァグクイーンでシャンソン歌手のシモーヌ深雪&上海ラブシアターと出会い、共に1989年に大阪・堂山で始めたパーティ。1990年より京都のクラブ「メトロ」で定期的に開催されるようになり、現在も月に一度、毎月最終金曜日の夜に、12月は30日に「メトロ紅白歌合戦」として開催されています。
2018年には東京六本木の森美術館の展覧会「クロニクル京都1990s ―ダイアモンズ・アー・フォーエバー、アートスケープ、そして私は誰かと踊る」で紹介されるなど、国内外にファンを持つ京都メトロの看板パーティのうちのひとつ。ドラァグクイーンたちによるその日のテーマに合わせたゴージャスかつアヴァンギャルドなショーの数々と、DJによるダンスミュージックによって構成された空間で、時代のトレンドに関係なく見る者すべてを魅了してきた。
今回参加したPRIDEプレイリストのテーマやコンセプト、こだわった点などについて教えてください。
たとえばパーティが始まって、帰路に着くまでを追体験出来るような、個々がバラバラで一緒に重なり合い、また独りになる時間の経過を愉しんでもらえるように、僭越ながら組んでみました。
ダイア(『DIAMONDS ARE FOREVER』)は、ダンスミュージックというか、新旧問わず、いわゆるクラブミュージックがかかるパーティで。ひとつの音楽ジャンルに特化はしていないんですね。時にはBPMの繋ぎからも解放されています。DJ LaLaさんのスタイルや私も、その月のテーマやフロアの雰囲気によって自由なところが、ものすごくあります。逆に、いくつかの定番曲も毎月かかり続けています。今月のムードはこんな感じです、というようなプレイリストです。
長らくダイアのマンスリーベニューである京都メトロは、オーナーの山本ニックさんの御考えで、元来、演者や客層は国内外に誰にでも分け隔てなく開かれています。ダイアの月末金曜日に来てくれはった方々も、お客様それぞれが楽しむ雰囲気ですね。ドリンクを片手にショウを観るのはもちろん、フロアで、ちょっとはしゃいでも良いし、流れて来る歌詞に耳を傾けても良い。サブフロアのソファでお話したり、うっかり寝てしもても良い。ときにはドラァグクイーンのショウやDJが掛ける曲に、「ひゃ、なんやこれ、ポカーン……。」とする。FEELとTHINKを行ったり来たりする感覚を、おもろいなぁと思って頂けたら嬉しいです。
とくに若い方々にぜひ聴いてほしいアルバムや、「伝統芸能」と私どもが勝手に呼ばしてもろてる大切な楽曲も、いくつかピックアップしています。素敵なジャケットデザインや素晴らしいアレンジャー等もたくさん知っていっていただけたら。曲によっては、7インチのシングル盤か、12インチのリミックス盤か、短くコンパクトか、現行の配信音源ではあまりないDJユースな長尺のものか、セレクトしています。
また、数曲毎にブロッキングしてあるので、リストのお好きなところ通して聴いていただいたり、もしくはシャッフルプレイで「おみくじ」や今日の占いみたいに、1曲めに何がかかるかな? と愉しんで頂くのもオススメします。
パフォーマーの中にストレート(異性愛者)の方や、女性のドラァグクイーンもいはりますが、パーティとしてLGBTQ+のプライドと重なる部分もあります。過去の膨大な文化的アーカイブや、キャムプやクィアなものが好きな結果としての要素のひとつ。なんちゃうかな、と感じています。気がつけば聴こえてくる、通奏低音のような。(kor)
『DIAMONDS ARE FOREVER』による「Let's Party Again」プレイリストカバービジュアル
パンデミックに伴い、現在クラブシーンは厳しい状況に置かれていることかと思われますが、パーティの現状、今後の予定や展開についてお聞かせください。
90年代から京都メトロへ遊びに行ったり、箱貸しパーティでステージに立たせてもらったりしていたんですが、シモーヌ深雪さんと様々なイヴェントをお手伝いしているうちに、気がつけば約10年ほど、毎月月末金曜日はDJをさせていただいてます。4月は感染症予防対策と「不要不急」という事で、中止となりました。
パーティの写真や過去のフライヤー、毎月の告知はこちらをご参照ください。
現状、京都メトロは休業中ですが、スタッフの皆さん自ら無観客ストリーミング配信で様々な試みをされています。『DIAMONDS ARE FOREVER』も初のストリーミング生配信版を5月の月末金曜日に開催、そして6月26日金曜日にも予定しています。フロアとはまた別次元の映像で感じるダイアのパーティ感覚を、ケとハレ、日常と非日常の狭間を体験していただければ幸いです。(編集部注:京都METROは6月23日から一部営業を再開。コメント取材は6月16日に実施)
7月以後は情勢に考慮しつつ柔軟な対応になるかと存じます。とはいえマンスリーパーティは続きます。また、京都メトロのフロアでお会い出来る日を楽しみにしています。
大きな音で音楽の掛かる場所で踊ったり、何気ないお話をしたり、その日限りのちょっとした体験や経験は、私たちの人生に、どんなに大切か、はかりしれない歓びをもたらす事かを忘れないために。(kor)
「史上最高で最低」のMCバトルイベント。新宿二丁目発『オネエスタイルダンジョン』
東京・新宿二丁目のAiSOTOPE LOUNGEで開催されているMCバトルイベント『オネエスタイルダンジョン』の熱狂を再現するプレイリスト。DJを務めるDJ SHIKISAIが選曲(Spotifyで聴く)
『オネエスタイルダンジョン』はどのような個性を持つパーティでしょうか?
史上最高で最低のMCバトル!(Snoopバタ子 / 『オネエスタイルダンジョン』)
今回参加したPRIDEプレイリストのテーマやコンセプト、こだわった点などについて教えてください。
ラップバトルがメインのパーティですが、今回Rap / Hip Hopに拘らず、90s~新譜Hip Hop / R&Bからネタモノ、Old School / Dance ClassicからDancehallモノを中心に、日本語Hip Hop / R&B、勿論パーティに縁のあるアーティストの楽曲まで幅広くセレクトしました。(DJ SHIKISAI / 『オネエスタイルダンジョン』DJ)
『オネエスタイルダンジョン』による「Let's Party Again」プレイリストカバービジュアル
パンデミックに伴い、現在クラブシーンは厳しい状況に置かれていることかと思われますが、パーティの現状、今後の予定や展開についてお聞かせください。
『オネエスタイルダンジョン』は、現場で大笑いしながら参加していただきたいパーティなので、現場開催が可能になり次第動き始めたいと思います!(Snoopバタ子)
音楽文化とクィア文化の幸福な交差点
これらのプレイリストを聴いていると、それぞれのフロアの臨場感が浮かび上がってくるように感じられる。クィアフレンドリーなパーティは性的マイノリティにとって社交場として、シェルターとして、心と身体を解放する場所として存在し続けているが、そこに豊かな音楽が鳴っていることは、パーティが音楽文化とクィア文化の幸福な交差点であることを表しているだろう。Spotifyのグローバルのプレイリストにも、ボールカルチャーを紹介する「The House of…」と題されたプレイリストのシリーズが並んでいたが、パーティでこそ感じられる「Pride」を表現したいという想いで共通しているのではないかと思う。(参考:プライド月間を彩るプレイリストを紹介。LGBTQIA+の表現を祝福)
この個性豊かなプレイリスト群を通して、日本のクィアカルチャーやパーティのカッコよさ、音楽的なおもしろさを感じていただけると嬉しい。そしていつかまた、パーティで会いましょう。
Spotifyの「Pride」キャンペーンの一環として、筆者が選曲したプレリスト「Let's March Again」(Spotifyで聴く)
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