NOT WONKの精神。集団でも記号でもない、1人のあなたにむけて

NOT WONKの精神。集団でも記号でもない、1人のあなたにむけて

2021/03/24
インタビュー・テキスト
矢島大地
撮影:佐藤祐紀 編集:柏井万作(CINRA.NET編集部)

NOT WONKの4thフルアルバム『dimen』は、NOT WONKのディスコグラフィの中でとりわけ異彩を放つ作品である。格段に深くなった音響と、セオリーを度外視した唐突な展開と、その上で動物のように歌い叫ばれるソウルフルなメロディ。精神性も音楽構造も理路整然としてきた従来のNOT WONKを思えば、ここまでリミッターを吹っ飛ばした姿は異様ですらある。すごい歌とすごい音に溺れながら、しかし音楽に溺れられることの快感が一生持続するアルバム。この音楽に通底する衝動と脈動は、一体何なんだ?

本作のラストに収録された“your name”で歌われるのは、「名前を呼びあうことで存在を認め合う」という、人間のプリミティブな繋がりの確認である。この楽曲は、2019年にNOT WONKが地元・苫小牧で開催した企画『your name』で手売りされたものだ。加藤修平の手刷り・直筆のインビテーションが一人ひとりに送付され、受付に立った加藤が一人ひとりの名前を呼んで始まった1日が『your name』だったわけだが、徹底的に1対1の関係にこだわり、顔と名前と存在を認識し合うことから生まれる何かを掬い上げようとしたイベントは、NOT WONKが大事にしてきた「パンク」の根本においても、一人ひとりが記号化され個人が見落とされていくばかりの世の向きにおいても的確で痛快だった。『dimen』で歌われる多くの言葉が「今を生きる一人ひとりの多様さ」と「容易に正解と不正解で語れない社会」を丁寧になぞっていることを考えると、一人ひとりの存在を認めようとする姿勢を改めて示した“your name”こそが今作の心臓だったのだろう。そう考え、『your name』から始まったことを紐解きながらNOT WONKの背骨と『dimen』を語り尽くしたのがこのインタビューだ。

加藤はいつだって、NOT WONKはいつだって、「あなたと話したい」「名前を呼び合いたい」と語りかける。それはなぜか? たったそれだけが、自分とあなたを独りにしない方法だと知っているからだ。

1対1の関係で対話できる場所であり、広げたものを自分の手に引き戻したいと思って構想したのが『your name』だった。

加藤修平(かとう しゅうへい)<br>2010年に結成した、苫小牧を拠点に活動する3ピースバンドNOT WONKのギターボーカル。2017年に『RISING SUN ROCK FESTIVAL』、2018年には『FUJI ROCK FESTIVAL』『りんご音楽祭』『全感覚祭2018』に出演。同年11月には札幌ベッシー・ホールでのワンマン、翌年3月東京での初ワンマンを成功させるなど、その卓越したライヴパフォーマンスで着実なステップアップを果たす。
加藤修平(かとう しゅうへい)
2010年に結成した、苫小牧を拠点に活動する3ピースバンドNOT WONKのギターボーカル。2017年に『RISING SUN ROCK FESTIVAL』、2018年には『FUJI ROCK FESTIVAL』『りんご音楽祭』『全感覚祭2018』に出演。同年11月には札幌ベッシー・ホールでのワンマン、翌年3月東京での初ワンマンを成功させるなど、その卓越したライヴパフォーマンスで着実なステップアップを果たす。

―今作『dimen』のラストに収録された“your name”はもともと、2019年の12月に苫小牧で初開催された自主イベントの名前であり、その会場で手売りされたシングル曲で。

加藤:はい、そうですね。

―「個々の名前を通して存在を認め合う」という歌の内容も含めて『dimen』の心臓になっている曲だと感じたんですが、加藤さんご自身は、2019年の『your name』から『dimen』に至るまでの過程をどう捉えられていますか。

NOT WONK『dimen』を聴く(Spotifyを開く

加藤:遡ると、『your name』という名前でイベントをやろうと思いついたのは、avexから『Down The Valley』を出すと決まった時だったんですね。もともと僕らはKiliKiliVillaというインディーレーベルで、直接会話できる人数で進んできたわけですけど、メジャーレーベルから作品を出すとなった時にスタッフさんやチームも一気に拡張してーーと言えば聞こえはいいですけど、関わる人が一気に増えたことで自分の手から離れてしまった部分が多かったんですよ。

その反動というか、広げたものを一度自分の手に引き戻したいと思って構想したのが『your name』だったんです。1対1の関係で対話できる場所を作れたらいいなと考えて、一人ひとりに直筆のインビテーションを贈って、当日の受付でも僕が名前を呼ぶ形で入場してもらって。

『your name』のレポート記事「全国から苫小牧へ NOT WONKの意思に呼応した同志たちの熱狂」より
『your name』のレポート記事「全国から苫小牧へ NOT WONKの意思に呼応した同志たちの熱狂」より(記事を読む)"

―そもそも加藤さんはNOT WONKの現在地をどう捉えていたから『Down The Valley』をメジャーレーベルからリリースしようと思ったのか。そしてNOT WONKと人の関係を1対1に引き戻そうと思ったのはNOT WONKにどんな信条があるからなのかを改めて教えてもらっていいですか。

加藤:僕らはちゃんと地に足が着いた状態でバンドをやりたいと考えてきたし、規模を大きくすることに躍起になるのはあまりに盲目的だと思うから『Down The Valley』以前はインディーでの活動を選択してきたわけですけど、でもその一方で、「自分の作った作品がよくないわけがない、聴いてほしい」っていう欲望も当然あって。要は、NOT WONKはそのふたつの感情の狭間で活動してきた感覚があるんです。

で、avexからリリースするタイミングは、まさにそこの部分を問われた感じがしたというか。でも(avexから作品を出すことを)「やったほうがいいよ」って言ってくれたのはKiliKiliVillaの安孫子さんと与田さんで。KiliKiliVillaの動きは商業的な構造へのアンチテーゼだと思ってたから、すごく驚いたんですよ。

加藤修平

―そうですね。メジャーかインディーかっていう話じゃなく、精神性として。

加藤:でもふたりは、NOT WONKの音楽と規模感が当初のKiliKiliVillaの構想をハミ出してきたっていうふうに考えていて。まずは音楽が届くことを第一で考えると、ある種のインディーマインドがNOT WONKの足かせになっているんじゃないかって危惧してくれてたんです。それでNOT WONKのチーム自体を拡張していったのが2019年だったんですけど。でもその頃、『フジロック』のROOKIE A GO-GOについてGEZANのマヒトさんと連絡を取り合うことがあって、構造に参加すること、構造との関わり方についての話だったんですけど。当時俺はそれを単に否定的な意見として捉えてしまって、それで俺もまた考えてしまったんですね。メジャーに行くこと、音楽を広げようっていう動きは、やっぱりオルタナティブとかパンクから離れることなのか悩んだし、純粋に音楽として素晴らしいものとパンクとして筋が通っているもの、その両方をやりたいんだよなっていうことも思って。

加藤修平

―まさに、パンクもロックも音楽の型で語れるものじゃないっていうことは、NOT WONKがこれまでの作品で体現してきたと思うんですけど。

加藤:僕は、いわゆる「パンクとはこうだよね」「ロックとはこうだよね」っていうところからは離れたいと思ってきたんですよね。パンクとはいっても「3コードで」とか「ビートが速くて」みたいな固定観念ではなくて、音楽は音楽として気持ちいいものを作りたいと考えてきただけなんです。たとえば札幌︎KLUB COUNTER ACTIONとかでカッコいい先輩たちと出会ってきたけど、その一方で「SEX PISTOLSのカッコしてるだけじゃん」っていう人も見てきた。要は、ファッションとか音楽の型でパンクが決定されるわけじゃないって感じてきたんですよ。

逆に言えば、好奇心を道しるべにして鳴らす音楽を「パンクじゃない」とか「オルタナティブじゃない」とか言われる筋合いもないんです。そういう好奇心の部分と、自分が大事にしてきたパンクに筋を通したいっていう気持ちと、その両方がピークに達していたのが『Down The Valley』のタイミングだったのかもしれないですね。たとえばの話、「メジャー1発目のアルバムだと思ってフタを開けたらデビュー作みたいなパンキッシュなサウンドだった」っていうふうに、メジャーレーベルに一矢報いた感を演出することも簡単にできたわけです。でも音楽を作る上では、純粋に好奇心を大事にしたかったので。

NOT WONK『Down The Valley』を聴く(Spotifyを開く

―結果、『Down The Valley』はソウルもエモも同線上で飲み込んだ大進化の作品になりましたね。

加藤:そこまでやったなら、じゃあ今度は広がってしまったものを自分の手に引き戻すタームだと考えて、伝言ゲーム式にスタッフとバンドが存在する関係じゃなく、放射状に1対1の関係を作っていきたかった。それが『your name』の着想でありテーマでしたね。

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リリース情報

NOT WONK『dimen』
NOT WONK
『dimen』(CD+DVD)

2021年1月27日(水)発売
価格:3,500円(税込)
CTCR-96007B

[CD]
1. spilit in the sun
2. in our time
3. slow burning
4. shell
5. get off the car
6. 200530
7. dimensions
8. interlude
9. the place where nothing’s ever born
10. your name

[DVD]
1. Boycott
2. I Won't Cry
3. Shattered
4. Down the Valley
5. slow burning
6. your name

イベント情報

『LIVE! : dimen_210502_bipolar_dup.wtf』

2021年5月2日(日)
【第一部】14:30開場 / 15:15開演
【第二部】18:00開場 / 18:45開演
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
料金:自由席4,000円(税込 / ドリンク代・送料込み) / 当日券未定

プロフィール

NOT WONK(のっと うぉんく)

2010年に結成した、苫小牧を拠点に活動する3ピース。2015年の1st AL『Laughing Nerds And A Wallflower』をリリース、タワーレコメンにピックアップされる。2017年にはRISING SUN ROCK FESTIVALにも出演(その後、18、19年と3年連続での出演を果たす)。2018年にはFUJI ROCK FESTIVAL ルーキー・ア・ゴーゴー、りんご音楽祭、全感覚祭2018に出演。同年11月には札幌ベッシー・ホールでのワンマン、翌年3月東京での初ワンマンを成功させるなど、その卓越したライブパフォーマンスで着実なステップアップを果たす。今年、コロナ禍においても、8月には渋谷WWWXにてワンマンライブ&配信イベントを敢行。9月には、Levi’s「TYPE-1 JEANS」キャンペーン映像の音楽をVo.加藤(SADFRANK)が担当する。さらに、10月27日にKT Zepp Yokohamaで開催された収録ライブに『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2020 酔杯2 ~The Song of Apple ~』にゲストとして抜擢されるなど、スタイルを崩さずしっかりとした実績を積んでいる。

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