6月は性的マイノリティの権利や文化を称揚するプライド月間
音楽はいま、性的マイノリティの表現や文化をどのように映し出しているだろうか。
Spotify上では、性的マイノリティの権利や文化を称揚するプライド月間である6月に展開している「Pride」プロジェクトにアクセスすれば、きっとその一端を発見できることだろう。「Pride」と題された特集ページがローンチされており、そこでは性的マイノリティにまつわる多彩なプレイリストやポッドキャストが聴けるようになっている。
国内向けには今年、クィアフレンドリーなクラブイベントにスポットライトを当てた「Let's Party Again」シリーズ、現代における性的マイノリティのアーティストによる多様な音楽をピックアップしたプレイリスト「Let' s March Again」、ミッツ・マングローブが中森明菜のシングルB面集をセレクトした「中森明菜 the B-EST by Mitz Mangrove」が用意されている(このうち「Let's Party Again」シリーズと「Let's March Again」の監修を本稿の筆者である木津が務めた)。
本記事では、グローバルのプレイリストと「Let's March Again」を紹介しながら、現行のクィアカルチャーと音楽シーンの関わりについて見ていきたい。
11色のプライドフラッグが象徴するもの
その前に触れておきたいのが、今年のプレイリストのアートワークでフィーチャーされているレインボーフラッグについてである。6色のレインボーフラッグが性的マイノリティの多様性や連帯を示すシンボルであることは多くのひとが知るところだろうが、ここではさらに黒、茶色、水色、ピンク、白が加わったレインボーフラッグが採用されている。
これは、グラフィックデザイナーのダニエル・クエイサーが2018年に完成させた「プログレス・プライド・フラッグ(Progress Pride Flag)」と呼ばれるものである。黒、茶色はブラックやブラウンをはじめとした有色人種の人びとを表しており、HIV / エイズとともに生きる人や亡くなった人をレプリゼントする意図もある。また、水色とピンクと白はトランスジェンダーのフラッグを取り入れたものだ。これは性的マイノリティのコミュニティ内においても差別の対象になるなどマージナライズ(周縁化)されてきたグループを可視化し、包摂することを目的としており、コミュニティのさらなる連帯を標榜する。
この新たなフラッグが示すものはそのまま、現代のクィアカルチャーの潮流と重なっている。それは音楽シーンにも言えることで、黒人やラティーノといった(欧米における)人種マイノリティ、トランスジェンダーやノンバイナリーのアーティストたちにより注目が集まっているのである。
ブラックのクィアアーティストの「声」と出会う「Black, Queer, and Proud」
そのことを象徴するのが3つのプレイリストだ。
ひとつめは、「Black, Queer, and Proud」と題されたブラックのクィアアーティストを中心としたプレイリスト。カバーはアメリカ・アラバマ州出身の4人組バンド・Alabama Shakesのフロントパーソンでもあるシンガーであり、レズビアンであることをカミングアウトしているブリタニー・ハワードだ。
ブラックのクィアアーティストを中心とした「Black, Queer, and Proud」プレイリスト(Spotifyを開く)
このプレイリストでは自然と、ブラックカルチャーと馴染みの深いソウル、R&B、ラップ / ヒップホップが多い傾向にあるが、それらはむしろジャンルを横断しながら混ざり合っていることが実際に聴いてみるとよくわかる。また、人種とセクシュアリティ / ジェンダーにおいて多重のマイノリティである当事者たちの生の「声」がここにはたしかにあり、ブラックでクィアであることを表明しているアーティストたちの多様で力強いサウンドを発見できる。
ジェンダーの無限のグラデーション、「Transcend」プレイリスト
ふたつめは、トランスジェンダー、ノンバイナリー(男性と女性のどちらにも分類されない性自認)、ジェンダーフルイド(ジェンダーが流動的であること)のアーティストの楽曲をピックアップしたプレイリスト「Transcend」。カバーはニュージーランドのラッパーのランダ。
トランスジェンダー、ノンバイナリー、ジェンダーフルイドのアーティストの楽曲を選曲した「Transcend」プレイリスト(Spotifyを開く)
性的マイノリティのミュージシャンといっても、長年シスジェンダーのゲイやレズビアン(とくにゲイ男性)ばかりが取り上げられることが多かったが、近年はトランスジェンダーやノンバイナリーの多彩な表現に耳目が集まりつつある。サム・スミス、アルカ(ARCA)といった有名なアーティストがノンバイナリーであるとカミングアウトしたことも話題になったが、ジェンダーの無限のグラデーションがその音楽のバラエティとともに知られるようになってきている。
ラテンにルーツを持つクィアミュージシャンらの現在が見えてくる「Latin Pride」
そして3つめが、ラテンをルーツに持つミュージシャンの楽曲を集めたプレイリスト「Latin Pride」。性的マイノリティ当事者だけでなくアライ(性的マイノリティの支援者)のアーティストも含まれているが、コミュニティからの支持ということも含めて、ラテンのクィアシーンの現在が見えてくる内容だ。カバーは、ガールズグループ・Fifth Harmonyの元メンバーで、バイセクシュアルであることをカミングアウトしているキューバ系アメリカ人シンガーのローレン・ハウレギだ。
ラテンをルーツに持つ性的マイノリティ当事者やアライのミュージシャンの楽曲を集めた「Latin Pride」プレイリスト(Spotifyを開く)
アメリカのメインストリームでもラテンポップに注目が集まっている昨今だが、このプレイリストにおいてリッキー・マーティンのような超有名なポップ・スターから、アルカのようなアンダーグラウンド寄りのアーティストまでが並んでいる様を見ても、その幅広さが感じ取れる。それは性的マイノリティのコミュニティにおいても同様で、スペイン語によるポップソングがプライド・アンセムとして成立していること自体が、現代の音楽シーンのダイバーシティを示すものである。
これら3つのプレイリストは、これまで性的マイノリティのコミュニティのなかでもあまりまとまった形で光が当たってこなかったマイノリティの表現の豊かさを伝えている。それは音楽であるがゆえに、メロディとして、アンサンブルとして、グルーヴとして、よりインクルーシブな形で当事者たちの「Pride」を掲げている。
ジャンル別のプレイリストを通して触れる、現代のポップミュージックにおける「Pride」の風景
もちろん、ジャンル別に楽しめるプレイリストも揃っている。Queen、エルトン・ジョン、マドンナ、レディー・ガガといったアーティストによる歴代の有名プライドアンセムを厳選した「Pride Classics」、近年のクラブミュージックにフォーカスした「Club Resistance」、インディ / オルタナティブのエッジの効いた楽曲を集めた「Alternative Pride」、マスクで顔を隠すカナダ人シンガー、オーヴィル・ペックの存在もあって近年注目されているフォーク / カントリー系のクィアミュージシャンをピックアップした「Queer As Folk」など。個人的には、ニコ・ミューリーをカバーとして、コンテンポラリーミュージック系のミュージシャンを揃えた「Queer Composers」がとくに発見の多いプレイリストだった。
Queenやマドンナなど歴代の有名プライドアンセムが並ぶ「Pride Classics」プレイリスト(Spotifyを開く)コンテンポラリーミュージック系のクィアの作曲家たちを揃えた「Queer Composers」プレイリスト(Spotifyを開く)
性的マイノリティ当事者、もしくはそのコミュニティと関わりの深いミュージシャンによる音楽がこれほどまでに多岐にわたっていることそれ自体が、現在のシーンやムーブメントの充実を表しているだろう。そしてそのことが、クィアシーンに限らない音楽文化全体を確実に豊かなものにしている。現代のポップミュージックにおける「Pride」の風景である。
フラッグシップのテーマは「Unlike Any Other(他の何にも似ていない)」。ボールカルチャーに光を当てた特集も
単発のプレイリスト以外にも、アンダーグラウンドにおけるボールカルチャーのシーンを取り上げた「The House of...」シリーズや、リスナーの星座に合わせた12通りの多様性を遊んでみせる「星占いプレイリスト」シリーズ、性的マイノリティ当事者の作曲家が手がけた楽曲をまとめた「Written by: Us」シリーズといった特集も興味深い。とりわけ「The House of...」はアンダーグラウンドのクィアパーティの熱気が伝わってくるものであり、偶然とはいえ、日本の「Let's Party Again」シリーズと通じるところがあって嬉しく感じたのだった。パーティの現場で鳴らされてきたたくさんのサウンドが、性的マイノリティたちの自由を広げてきたのだから。
1980年代ニューヨークのボールカルチャーを描いたドラマ『POSE』の振付などを手掛けるツイッギー・プッチ・ガーソンがキュレーションした「The House of Twiggy Pucci Garcon」プレイリスト(Spotifyを開く)
こうした細部を包括しつつ、Spotifyにおけるグローバルの「Pride」プロジェクトの今年のフラッグシップとなるプレイリストが「Out Now: Unlike Any Other」だ。
これは、性的マイノリティ当事者の比較的新しい楽曲を中心として編まれた、バラエティに富んだカラフルなサウンドをポップに楽しめるもの。今年のSpotifyの「Pride」プロジェクトのキャッチコピーである「Unlike Any Other」──すなわち、それぞれが「何にも似ていない」こと、それぞれが自分らしくあることを祝福するようなプレイリストに仕上げられているのである。
今年のSpotifyの「Pride」プロジェクトのフラッグシップとなるプレイリスト「Out Now: Unlike Any Other」(Spotifyを開く)
パンデミック下で中止に追い込まれた多くのプライドバレード。鳴り響く音楽とともに、再び歩くことのできる日を思って
最後に、わたしが作成したプレイリスト「Let's March Again」も紹介したいと思う。「Let's Party Again」シリーズは現在のパンデミック下において苦境にあるパーティをサポートする意味をこめたものだが、「Let's March Again」は『東京レインボープライド』をはじめ、中止に追いやられることになった多くのプライドパレードが再び行なわれることを願って作ったものである。
性的マイノリティであることを公言しているミュージシャンや関わりの深いアーティストによる比較的新しい楽曲(もっとも古いもので2017年)を中心に、なるべく多くのジャンルを横断するようにピックアップした。ディスコから始まり、ここにはポップもラップ / ヒップホップもロックもパンクもエレクトロニカもソウルもジャズもダンスホールもアンビエントもある。レズビアンもゲイもバイセクシュアルもトランスジェンダーもノンバイナリーもインターセックスもジェンダークィアのアーティストも含んでいる。それだけ、性的マイノリティの存在も表現も多様で多岐に及ぶことが伝われば嬉しく思う。
カバーを飾るのは、日本で生まれ、現在ロンドンを拠点とするRina Sawayama。日本をルーツに持ちながらグローバルな活躍を見せている点でも、パンセクシュアルであることをカミングアウトしている点でも、現代的な存在感を放っているアーティストである。
筆者監修により、プライドパレードが再び行なわれることを願って作られた「Let's March Again」(Spotifyを開く)
「Pride」はもともと、マイノリティの権利を訴える抗議として生まれたものだ。公民権運動とも関わりが深い。ひとりひとり異なる存在が集まり、ともに歩くためのプライドパレード。そこでたくさんの音楽が鳴り響くことを、わたし(たち)はいつも願っている。
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