あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

2021/07/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

ポール・マッカートニーがたった一人でつくり上げたアルバム『McCartney III』を、世代の違うさまざまなジャンルのアーティストたちが再構築したカバー&リミックスアルバム『McCartney III Imagined』がリリースされる。

本作にはアンダーソン・パークやセイント・ヴィンセント、Khruangbin、BECKら錚々たるメンツが集結。20世紀が産んだ最大のポップアイコンであるポールの作品を、まるで「ガジェット」のように扱いながらつくり上げたユニークな「コラボ曲」が並んでいる。本作を聴いていると、参加アーティストたちの自由な発想に驚かされるとともに、どれだけ「調理」されても残り続けるポールらしさ、その「素材」としての強度にもあらためて感嘆せざるを得ない。そう、本作を最も楽しんでいるのがポール本人であることは間違いないだろう。

The Beatlesとしてデビューしてからじつに60年もの間、つねに第一線で活躍し続けるポール・マッカートニー。その無尽蔵に湧き上がるモチベーションは一体どこから来ているのか。その膨大な作品を、これから聴く人はどう楽しんだらいいのか。今回Kompassでは、自他ともに認めるポールファンのミュージシャン・鈴木惣一朗(ワールドスタンダード)に、あらためてポールの人柄や音楽家としての魅力について、たっぷりと語ってもらった。

屈指のメロディーメーカーでありながら、The Beatlesのなかで誰よりもアヴァンギャルドだったポール・マッカートニー

―鈴木さんがThe Beatlesのメンバーのなかでも、とりわけポールが好きな理由は?

鈴木:ちょっと屈折していて、じつを言うと人としての魅力はジョン・レノンのほうに感じるんです。きっとぼくは、「ジョンのことが好きなポール」を好きなのだと思う。「だったら、ぼくと一緒じゃん」って(笑)。そして、ジョンが大好きなポールが、ジョンを失ったあとにどうやって音楽を紡いでいくのかにものすごく興味があったし、実際、何10年にもわたって格闘しているさまを、彼はリアルタイムで見せてくれています。ポールはつねにインタビューでもジョンの話をしているし、「ジョンだったらこの曲をどう言ってくれるだろう?」ということを意識している発言も多い。

鈴木惣一朗(すずき そういちろう)<br>1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジ・ブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、ビートルズ関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある。
鈴木惣一朗(すずき そういちろう)
1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジ・ブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、ビートルズ関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある。

―確かにポールはジョンの死後、エルヴィス・コステロやナイジェル・ゴドリッジ、最近ではマーク・ロンソンなどことあるごとに共同プロデューサー、コラボ相手を変えていて、ずっと「ジョンに代わる相棒」を探し続けている印象はあります。

鈴木:一方、ジョンは亡くなる直前のインタビューで、「人生のうちで2回、ぼくは素晴らしい選択をした。ポールとヨーコだ」と言っていた。つまり相思相愛なわけですよね。そんな二人の、ある意味では「ラブストーリー」をずっと見せつけられているような気がするんです。

ポール・マッカートニーが、亡くなったジョン・レノンへの想いを綴った楽曲“Here Today”を聴く(Spotifyを開く

鈴木:ぼくがThe Beatlesを知ったときにはすでに解散してしまったけど、そのThe Beatlesを追い求めているポールの姿はずっとリアルタイムで見てきた。だからぼくは、ポールから目が離せないのだと思います。もちろん、思春期まっただなかにWings(ポールが1970年代に結成していたバンド)という素晴らしいグループがあったのも大きいですけどね。The Beatlesはリアルタイムじゃなかったけど、Wingsは完全なリアルタイムで追いかけていたから。ポールとリンダ(・マッカートニー:ポールの最初の妻。Wingsのコーラス&キーボディスト)が一緒に歌っているのがとにかく好きなんですよ。

―ミュージシャンでありプロデューサーである鈴木さんから見て、ポールが優れているのはどういうところだと思いますか?

鈴木:彼はまずプレイヤーとして優れた人。ベースはもちろんですが、ピアノも弾けばギターもドラムも演奏する。もともとは14才の頃、アマチュアのジャズミュージシャンだった父親から譲り受けたトランペットも演奏していたんですよね。そこでおそらく和声も勉強したのだろうし、エルヴィス・プレスリーに衝撃を受けてギターを持ったジョン・レノンとは、音楽遍歴がまったく違うわけです。

鈴木惣一朗

―「トランペットを吹きながらでは歌えないから、ギターに持ち替えた」というエピソードは有名ですよね。

鈴木:最初、The Beatlesにはギターで加入して、その後ベーシストに転向するわけだけど、いわゆるベーシストのようなルート弾きはほとんどしない。例えば、『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(1967年)のレコーディングのときは、すべての楽器を録音し終わってから最後にベースをダビングしたといわれています。

つまり低音を支えるというよりは、カウンターメロディーを弾く楽器としてベースを扱っているんです。そうやって音楽をハーモナイズしていくセンスを持ちながら、それを脱構築していくことも厭わない人だった。そこが、音楽家として優れているところのひとつだと思います。ぼくは、素晴らしいメロディーを書くコンポーザーとしてのポールももちろん好きなのですが、それをぶち壊していく過激なところにも惹かれます。彼のアルバム『Chaos & Creation In The Backyard』(2005年)のタイトルじゃないけど、「混沌(chaos)」と「創造(creation)」をずっと繰り返してきた人なのだなと。

The Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を聴く(Spotifyを開く

―The Beatles時代、じつはジョンやジョージよりも先にアヴァンギャルドにアプローチしたのはポールだといわれています。1967年、ポールが電子音楽のイベント『The Million Volt Light and Sound Rave』のために制作するも、The Beatlesのメンバーから「あまりにも前衛的すぎる」との理由でボツにされ、未だ未発表のままの“Carnival of Light”という曲もありますし。

鈴木:当時、ロンドンの中心に住んでいたポールはアヴァンギャルドシーンに接近して、ウィリアム・バロウズからカットアップの手法を学ぶなどしていたといわれていますよね。パブリックイメージではジョンのほうが前衛的なミュージシャンとされているけど、実際はポールも相当アヴァンギャルドだったし、その傾向はThe Beatles解散以降、The Fireman(ポールの変名プロジェクト)などで顕著になっていく。そうしたエピソードは『ポール・マッカートニーとアヴァンギャルド・ミュージック』(ストレンジデイズ)という本に詳しく書かれていますが、とにかくポールはそうやって「洗練」と「野蛮」を行き来しながら音楽をつくっていたのではないかと。そのあたりはバート・バカラックにも通じる気がします。

ポールが、プロデューサーのユースと結成した変名プロジェクトThe Firemanの『Electric Auguments』を聴く(Spotifyを開く

Page 1
次へ

プロフィール

鈴木惣一朗(すずき そういちろう)

1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジ・ブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、ビートルズ関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある

感想をお聞かせください

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Category カテゴリー

What's "Kompass" ? コンパスとは

「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。