SNSギタリストの可能性 世界でバズを起こすIchika Nitoの歩み

SNSギタリストの可能性 世界でバズを起こすIchika Nitoの歩み

2021/10/14
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:YURIE PEPE 編集:金子厚武、CINRA編集部

Instagramに投稿した演奏動画でバズが起こり、世界にその名が知れ渡ったギタリスト・Ichika Nito(以下、Ichika)。ジャズとメタルを背景に、ピアノを弾く原理で両手を用いるその独創的なプレイが注目を集め、Instagramのフォロワーは約50万人、YouTubeチャンネルの登録者は約170万人(2021年10月現在)、その大半が海外のファンという、特殊なポジションを築き上げている。今年に入ってからはたなか(前職・ぼくのりりっくのぼうよみ)とササノマリイとともに新バンドDiosをスタートさせ、国内での注目度も急上昇中だ。

これまで「ギタリスト」としての側面がピックアップされることの多かったIchikaだが、今回の取材では表現者としての行動原理に迫るとともに、「なぜIchikaが海外のリスナーやミュージシャンから求められるのか?」を、アニメやゲームなど海外で人気の日本カルチャーとも結びつけながら掘り下げていった。また、SNSを通じた活動のなかで何を感じ、いまどこを目指しているのかについてもじっくりと話してもらった。YouTubeでは言葉を発しないIchikaの聡明な語り口から、まだ見ぬ物語の行く末を期待せずにはいられない。

Instagramで起こったバズ。「YouTubeでも同じことが起こるか検証した」

―IchikaさんはInstagramに投稿した演奏動画でバズが起こって、海外の音楽ファンに広く知られるようになったわけですよね。

Ichika:動画の投稿は、自分がギターでつくった曲を聴いてほしくて始めたことでした。当時ぼくは大学生で、就職のことも頭にあったので、最初は「海外を意識して」というより「友達に聴いてもらうため」くらいの感覚だったんです。

ただ、海外にギタリストの動画を紹介する大きなチャンネルがあるのは知っていたので、そういうところに見つかるようにタグはつけていて。それがたまたま引っかかって、アメリカで人気のチャンネルで紹介されたんです。


最初にバズが起きた2017年9月の演奏動画。自身の楽曲“a bell is not a bell”をプレイしている。

Ichika:それから、そのチャンネルを好きで見てる有名なハリウッド女優の方が、身内の俳優とかモデル、ミュージシャンの間でぼくの動画を回してくれたみたいで。かれらがそれぞれのファンに向けて、「やばいやつがいる」と広めてくれたおかげで、一気に10万人くらいフォロワーが増えたんです。

Ichika(いちか)<br>イギリスのギター雑誌『Total Guitar』の読者が選ぶ「史上最高のギタリスト100選」で「現在最高のギタリスト」として8位にランクイン。2018年からはゲスの極み乙女。の川谷絵音らとインストバンド「ichikoro」でも活動している。Dream Theaterのジョン・ペトルーシなど著名なギタリストはもちろん、ゼッドやマーティン・ギャリックス、ホールジーなどの楽曲をプロデュースするジョン・カニンガムといった別ジャンルの世界的アーティストたちからも厚い支持を受けている。Ichikaの研ぎ澄まされた感性と唯一無二のギタースタイル、トーン、テクニックには、海外からも楽曲提供や楽曲参加のラブコールが絶えない。去年から始めたYouTubeは現在登録者数が169万人越えと、ワールドワイドな注目の高さがうかがえる、いま日本で際立っている知っておくべきギタリスト。
Ichika(いちか)
イギリスのギター雑誌『Total Guitar』の読者が選ぶ「史上最高のギタリスト100選」で「現在最高のギタリスト」として8位にランクイン。2018年からはゲスの極み乙女。の川谷絵音らとインストバンド「ichikoro」でも活動している。Dream Theaterのジョン・ペトルーシなど著名なギタリストはもちろん、ゼッドやマーティン・ギャリックス、ホールジーなどの楽曲をプロデュースするジョン・カニンガムといった別ジャンルの世界的アーティストたちからも厚い支持を受けている。Ichikaの研ぎ澄まされた感性と唯一無二のギタースタイル、トーン、テクニックには、海外からも楽曲提供や楽曲参加のラブコールが絶えない。去年から始めたYouTubeは現在登録者数が169万人越えと、ワールドワイドな注目の高さがうかがえる、いま日本で際立っている知っておくべきギタリスト。

―いまではInstagramのフォロワーが約50万人、さらには、そのあとに始めたYouTubeチャンネルの登録者がすでに約170万人と、すごいことになっていますね。

Ichika:Instagramのバズはある意味すごく偶発的で、再現性がないと思ったんですよね。不確かなものにただ乗っかるのは嫌だったので、YouTubeでも同じようなことをやって、同じような状況になるか検証しようと思ったんです。

YouTubeでも同じようにフォロワーが増えたら、たまたまじゃなくてちゃんと自分のギターが認められたんだって、確証が得られる。そこは自分が前に進むためにすごく大事な部分で、結果YouTubeも同じように伸びたから、大丈夫だなって。


現在IchikaのYouTubeチャンネルで最も再生されている演奏動画。「彼女にアピールしたいけど、ギターと20秒しかないとき」というタイトル

―当時から他のギタリストの動画はよく見ていたんですか?

Ichika:そうですね。ただ、いまでこそ「ネオソウルギター」みたいなひとつのカルチャーができあがっていますが、当時はまだマテウス・アサト(ブラジル出身の日系人ギタリスト。SNSを通じて、新世代のギターヒーローとして注目集めた)がYouTubeだけに投稿してたような時代。すごく雑多な感じだったと思います。

タグをつけたのも半分冗談みたいな、「ぶっちゃけ見られないだろうけど、一応つけるか」くらいのすごく軽い気持ちだったんです。でも、それによってバッと広がって、「こうやって世界に出ていくやり方もあるんだな」ってそのとき知りました。


かつてはリズム / ビートが主役だった「ネオソウル」だが、2010年代のリバイバル以降はギターの存在感が高まり、演奏動画がSNSを通じて拡散されるムーブメントへと発展。日本では星野源とのコラボでも知られるトム・ミッシュはその先駆け的な位置づけの一人

世界のオタクたちが注目? 「2.5次元的な感覚で見られている」

―自分の演奏動画がなぜ受けたのか、自己分析はしていますか?

Ichika:してますね。ぼくは大学で医学を専攻していて、ゴリゴリの理系だったので、もともと実験することが癖みたいになってるんですよ。「仮説・実験・結果・考察」というサイクルを回していくことが何をやるにも当たり前のルーティーンになっていて、自分の動画に関しても統計を出したりしています。

やっぱり一番は「なんだこのギタープレイ?」みたいな、音楽性と技術に注目してもらえたんだと思います。それプラス、iPhoneで雑に撮ったことで親近感が生まれて、時代に合ってたのかなとか、タイトルにインターネットミームを絡ませたことで、ギターファン以外のいままでに知ってもらえなかった層にリーチできたり、そういう要素もあったりして。

Ichika

歴史あるギターブランドIbanezと、日本人アーティストとして初めてシグネチャー契約を結び、発売されたモデル「ICHI10」
歴史あるギターブランドIbanezと、日本人アーティストとして初めてシグネチャー契約を結び、発売されたモデル「ICHI10」

Ichika:あとYouTubeに限った話でいうと、ぼくまったくしゃべらないんですよね。なので、基本的にはキャラクターとして成立しにくいはずなんです。普通YouTubeって、話しているのを聞いて、人となりがわかって、ファンになったりするじゃないですか? ぼくはそういう要素がないにもかかわらず、キャラクター化してる現状があって。

―なんだろう、2.5次元的な感覚なんですかね。

Ichika:そうそう。よくコメント欄で、「protagonist=主人公」という言葉が使われてるんですよ。「Ichika Nitoは主人公だ」みたいな、そういう捉え方をしている人たちが結構いるみたいで。没入感があるというか、「自分がこんなにギター上手かったらかっこいいよな」みたいな、そういう気持ちで見てくれてるのかなって。

―面白いですね。ジャズやメタルを背景とする高い音楽性や技術に惹かれているのはもちろん、主人公であるIchikaさんに自分を投影している。世界には日本のアニメやゲームのファンが多くて、音楽もそれに紐づいて聴かれている現状ともリンクする話だなと。

Ichika:そうだと思います。彼らのいう「主人公」って、小説や映画じゃなくて、やっぱりアニメやゲームの主人公だと思うんですよ。というのも、コメントしてくれるファンのなかにアニメアイコンの人がすごく多いんです。ぼくのYouTubeを見てくれてるのは9割が海外の人なんですけど、半分以上がオタクの人なんじゃないかなって。

―Ichikaさんの初期作のアートワークも、やはりアニメやゲーム的な世界観でしたよね。

Ichika『forn』を聴く(Spotifyを開く

Ichika『she waits patiently』を聴く(Spotifyを開く

Ichika『he never fades』を聴く(Spotifyを開く

Ichika:そういうイメージでした。ぼくはそもそも音楽をやっている目標が、「魂の琴線に触れる音楽をつくって、演奏する」ということなんです。じゃあ、それをするためにはどうすればいいのか、仮説を立てて、検証を繰り返しているのがいまなんですよね。

ただ、人にはいろんな感情があるなかで、複数の感情に対して雑多に音楽をつくっても、あまり成長しない。なので、まずは「せつない」とか「悲しい」という感情のベクトルに向かう音楽をつくるための技術を磨こうと、数年前に決めたんです。

―たしかに、Ichikaさんの音楽からはそのフィーリングが感じられます。

Ichika:とはいえ、自分が人生のなかで経験する「せつない」や「悲しい」は限られているから、人の話を聞いたり、物語で疑似体験をすることが大事だと思ったんです。そこで、当時音源をつくっているときにのめり込んでいたアニメやゲームの世界観をイメージして、アートワークをつくってもらいました。

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イベント情報

「The Session Eclipse」

日時:2021年10月15日(金)

①12:30開場 / 13:00開演
②18:30開場 / 19:00開演
会場:渋谷ストリームホール

プロフィール

Ichika(いちか)

イギリスのギター雑誌『Total Guitar』の読者が選ぶ「史上最高のギタリスト100選」で「現在最高のギタリスト」として8位にランクイン。2018年からはゲスの極み乙女。の川谷絵音らとインストバンド「ichikoro」でも活動している。Dream Theaterのジョン・ペトルーシなど著名なギタリストはもちろん、ゼッドやマーティン・ギャリックス、ホールジーなどの楽曲をプロデュースするジョン・カニンガムといった別ジャンルの世界的アーティストたちからも厚い支持を受けている。Ichikaの研ぎ澄まされた感性と唯一無二のギタースタイル、トーン、テクニックには、海外からも楽曲提供や楽曲参加のラブコールが絶えない。去年から始めたYouTubeは現在登録者数が169万人越えと、ワールドワイドな注目の高さがうかがえる、いま日本で際立っている知っておくべきギタリスト。

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