映像から語るヒップホップ文化 荏開津広×渡辺志保

映像から語るヒップホップ文化 荏開津広×渡辺志保

インタビュー・テキスト・編集
久野剛士(CINRA.NET編集部)
撮影:寺内暁

奴隷制から現代まで。アフリカン・アメリカンの生きた歴史を知る

渡辺:あと、ベタな作品ですけど、Netflixで見られる『ヒップホップ・エボリューション』も非常にいい教材だなと思います。今年、シーズン4がリリースされて、本当にベーシックな部分から、コアなところまで知れる。しかも、彼らはすごくストーリー作りがうまいので、点と点を線にしてくれながら進んでいくんですよ。

シーズン4では、ニューオーリンズのバウンス・カルチャーについてかなり深く取材していて、私も全然知らなかった固有名詞や、昔の流行の話などが出てきます。もうヒップホップを何十年も聴いてます、みたいな方から初心者の方まで、同じぐらい楽しめるんじゃないかなって思います。


『ヒップホップ・エボリューション』シーズン2 予告編

荏開津:『ヒップホップ・エボリューション』は日本でヒップホップに積極的に関わっている人はほぼ見ているのではないでしょうか? 私も最初は、「さすがにもうこれは入門だろうから、見なくてもいいのでは」と思っていたんです。でも、見始めたら面白くて。

渡辺:シーズン1は、もともとHBOのカナダが制作した映像作品だったんですよね。それもあってか、シーズン1は、クール・ハーク(Kool Herc)とかアフリカ・バンバータ(Afrika Bambaataa)とか、教科書通りっぽいヒップホップの入門的な内容なんですけど、私が感嘆したのは、シーズン2以降にちゃんとヒューストンやアトランタなど、これまでヒップホップの歴史が語られる上でスルーされがちだったところを丁寧に拾っている点なんです。たとえばアトランタでいえば、キロ・アリ(Kilo Ali)っていうレジェンドラッパーがいるんですけど、ローカル以外だとあまりスポットライトが当たらない存在なんですよね。でも、『ヒップホップ・エボリューション』ではちゃんと本人のインタビューもフィーチャーしていて、2020年になって、動くキロ・アリの映像を見られるなんて、思っていなかったです。

キロ・アリ『Classic Trap Music』を聴く(Spotifyを開く

荏開津:予算とリサーチ力がすごいですよね。

渡辺:「よくカメラの前にその人を引っ張り出してくれました」、みたいな感動があって。本当に貴重な当時の証言もあるので、アーカイブ性も高いと思います。

荏開津:Netflixは、やはり内容が充実したものが多いですよね。今はNetflixやAmazonプライムがあるから、入門として、それらの作品は本当にいいですよね。

渡辺:そうですね。AmazonプライムもHBO系やBET系の作品が充実していますよね。私もAmazonプライムだとクイーン・ラティファがベッシー・スミスを演じてる『BESSIE / ブルースの女王』(2014年 / ディー・リース監督)を見ました。

あと、ティファニー・ハディッシュ(『サタデー・ナイト・ライブ』のホストも務めた、アメリカの俳優・コメディアン)の『クレイジー・グッド』や、タラジ・P・ヘンソン(アメリカの俳優、出演作に映画『ドリーム』など)が主演の『ハート・オブ・マン』とか、B級っぽいコメディ作品も多くAmazonプライムで見ることができるので重宝しています。

渡辺:あと最近は、女性の黒人映像作家の作品に優れたものが頻出していると思っていて。最も有名なのはキング牧師を描いた『グローリー / 明日への行進』(2014年)という映画の、エイヴァ・デュヴァーネイ監督。

彼女は『13th -憲法修正第13条-』(2016年)というドキュメンタリーも撮っていて、『アカデミー賞』にノミネートされた初の黒人女性映画監督になったんです。その『13th -憲法修正第13条-』は、奴隷制時代から現代アメリカまで、いかにアフリカ系アメリカ人らが不当な扱いを受けて苦しんできたかという内容を丁寧に描いていて。直接的にはヒップホップミュージックと関係ないかもしれないんですけど、アーティストたちが育ってきた社会背景を知るという意味では非常に優れた映像作品です。


『13th -憲法修正第13条-』予告編

渡辺:あと、メリナ・マツォウカスという黒人女性映像作家がいまして、彼女もビヨンセ“Formation”やリアーナ“We Found Love”のMVなどを撮っていて、本当に美しい、かつ力強い映像で知られる監督です。彼女の初の長編映画『Queen&Slim』(2019年)が、昨年末にアメリカで公開されまして。ブラック版ボニー&クライドともいわれるような映画なんですが、ローリン・ヒルらが参加したサウンドトラックも本当に素晴らしくて。そうした黒人女性映像作家らに、個人的に注目しています。


『Queen&Slim』予告編

『Queen and Slim Soundtrack』を聴く(Spotifyを開く

荏開津:Netflixで見られる『マルコムX暗殺の真相』は、強くおすすめいたします。マルコムXは公民権運動の時期から大きな影響を与えた政治的な活動家ですが、1965年、39歳のときに暗殺されてしまうんです。その暗殺の公表された犯人は真犯人ではない、そしてときのアメリカ政府とFBIの暗殺への介入が強くあったことを告発する映像です。

これが真相かどうかは別として、みれば分かりますがヒップホップを生んだコミュニティーがムスリムのコミュニティーと重なっているということは強調したいです。それは別に歴史の話ではなくて、ジェイ・エレクトロニカ(Jay Electronica)の43歳にして10年越しのデビューアルバム『A Written Testimony』をジェイ・Zとビヨンセが2020年にリリースすることまでまっすぐ繋がっています。あともうひとつ直接的にはヒップホップに関係ない映画で『それでも夜は明ける』(2013年 / スティーヴ・マックイーン監督)という映画をおすすめしたいですね。アメリカの奴隷制度がどんなものだったのか、映画で理解するためにはこれが入門としていいのかなと思います。

ジェイ・エレクトロニカ『A Written Testimony』を聴く(Spotifyを開く


『それでも夜は明ける』15秒TVスポット

渡辺:確かに。ルピタ・ニョンゴが出演していますよね。

荏開津:そう。スティーブ・マックイーンっていう現代美術作家兼映画監督の作品で、すごくいい映画なので。この映画の舞台となった時代から150年経って、オバマが大統領になったことを踏まえて見てもらいたいです。今でも、アール・スウェットシャツの母親はUCLAの大学教授でレイス・スタディー(人種研究)をしているんですが、そうした土壌からもラッパーが登場していて、そのカルチャーが現在グローバルに広がっていることを考えると感動すると思います。ただ、それはあくまで背景の話です。確かドナルド・グローヴァーのコメディー『アトランタ』でも軽口を叩かれていましたが、あれも本人たちがいうのと僕が日本でいうのでは意味が違う。

アール・スウェットシャツ『Feet Of Clay』を聴く(Spotifyを開く

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プロフィール

荏開津広(えがいつ ひろし)

執筆 / DJ / 京都精華大学、東京藝術大学非常勤講師、RealTokyoボードメンバー。東京生まれ。東京の黎明期のクラブ、P.PICASSO、MIX、YELLOWなどでDJを、以後主にストリート・カルチャーの領域で国内外にて活動。2010年以後はキュレーション・ワークも手がけ、2013年『SIDECORE 身体/媒体/グラフィティ』より、ポンピドゥー・センター発の実験映像祭オールピスト京都ディレクター、日本初のラップの展覧会『RAP MUSEUM』(市原湖畔美術館、2017年)にて企画協力、Port Bの『ワーグーナー・プロジェクト』(演出:高山明、音楽監修:荏開津広 2017年10月初演)は2019年にフランクフルト公演好評のうちに終了。翻訳書『サウンド・アート』(フィルムアート社、2010年)、『ヤーディ』(TWJ、2010年)。オンラインで日本のヒップホップの歴史『東京ブロンクスHIPHOP』連載中。

渡辺志保(わたなべ しほ)

音楽ライター。広島市出身。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタヴュー経験も。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門」(NHK出版)などがある。block.fm「INSIDE OUT」などをはじめ、ラジオMCとしても活動中。

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