荏開津広×渡辺志保が語る、2020年の注目プロデューサー

荏開津広×渡辺志保が語る、2020年の注目プロデューサー

テキスト・編集
久野剛士(CINRA.NET編集部)
撮影:寺内暁

ラップミュージックに起きる、マップの拡大と変化

左から:渡辺志保、荏開津広

―当初はアメリカの内部で地域を広げていったものが、全世界共通になって大きな変化を生んでいるということですかね。

荏開津:私はそう思います。それまではニューヨーク、サウス、LAやベイエリアで担ってきたものという感覚なので、カナダ人のドレイクがラップスターになったときも衝撃を受けました。最初にイギー・アゼリアが出てきたときもビックリしました。まあ、ちょっとオールドスクール過ぎる感想かもしれませんが(笑)。

渡辺:なるほど、彼女はオーストラリアですもんね。

荏開津:オーストラリアの女性がラップメインでヒットを飛ばす、しかもそれをサポートしていたのがT.I.というのは「時代が変わったな」と思いましたね。

イギー・アゼリア『The New Classic』を聴く(2014年 / Spotifyを開く

荏開津:あと、キュービーツ(Cubeatz)っていうドイツの兄弟プロデューサーユニットもいますよね。ドイツに行ってきて思い出したのは、日本と同じでUSミリタリーのベースが1970年代から数多くあったんですよ。すると、黒人の兵隊もいっぱい来ていて、ヨーロッパの中でも特にヒップホップが根づきやすい地域になる。日本や韓国も、アジアの中でミリタリーベースがありますから、ブラックミュージックというか、ディスコやファンクが入ってきていて。

また、ベトナム戦争や湾岸戦争もあります。まったくよいことと思いませんが、20世紀というのはアメリカが世界中に兵隊を送ってきた世紀でした。そのとき兵隊になる人は決して経済的に恵まれている人ばかりではないですが、そうした人たちにとって決定的に力のあるカルチャーで、なおかつ新しい構造の音楽でもあるヒップホップが世界中に拡散されました。そういう意味でもやっぱりグローバルにダンスミュージックが世界中を覆ってると思うんです。

地理的な意味での地域だけでなく、政治や経済で繋がった地域もあります。地域の人が、その地域の音楽聴くーー例えば「ジャマイカではレゲエ」みたいなことではなくて、それこそ志保さんがアメリカのR&Bを小学校5年生のときに聴くのって、そういうことだと僕は思ってて。志保さんの音楽体験も叔父さまがきっかけですが、その頃から日本とアメリカの経済的な関係があって、志保さんのファミリーの一員もアメリカに渡っていたわけです。

荏開津広

渡辺:たしかにそうですね。

荏開津:だから、UKや韓国やドイツ、地続きのカナダはグローバルなカルチャーを受け入れるセンスがいちはやく根づいていた。イギー・アゼリアも、英語圏のオーストラリアだし。そういう地域から順番じゃないけど、どんどんと才能が出てきてるのかなと思います。

ただし、昔のイギリスはアメリカに対する対抗心があった気がしますよね。10月に来日するマッシヴ・アタック(Massive Attack)も、もともとヒップホップDJクルーだったのに、1990年代にいざ自分たちの作品を作ると、アメリカのヒップホップらしくはならないわけですよね。それは、「アメリカのヒップホップの真似はやらない」と意識していた気がします。だからどちらがいいとか悪いとかではない。

―なるほど。

荏開津:そういう意識が、やっぱり1990年代大きくあったわけで。そこが、今は変わったと思います。その変化と、志保さんのいうソーシャルメディアは深い関係があるかな、と。

渡辺:荏開津さんがおっしゃった通り、ラップシーンにおけるマップっていうのは、もう世界規模で同時多発的に大きなことがバンバン起こってる状況なのかなって思うんですよ。

例えば、Spotifyのグローバルチャートを見てると、1位がいきなりイタリアのラップだったりするんですよ。あと、去年から特にフランスのヒップホップの勢いもすごくて。Spotifyでフランスのチャートを見ると、上位は大体、全部ヒップホップなんですよ。しかも、ほぼ半分以上が自国のドメスティックなヒップホップソングなんです。

その中でも、PNLという兄弟ユニットの人気がすごくて、“Au DD”(2019年)のMVは1億3400万回も再生されています。フランスの団地のドラッグディーラーみたいな筋の兄弟ユニットなんですけど、アルバム『Deux frères』が大ヒットしてから、ヴァージル・アブロー(ファッションデザイナー、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」最高経営責任者)と正式にコラボするという動きを見せていました。

PNL『Deux frères』を聴く(2019年 / Spotifyを開く

荏開津:最初にヒップホップがアメリカから輸入された国は、日本とイギリスとフランスですもんね。

―アジアのヒップホップも、より注目されるといいですね。

渡辺:私が希望を感じるのは、当たり前ですけどビートには言葉が必要ないところですね。だから、アジア圏、日本のビートメイカーにも大きなチャンスがあると思うんです。実際、去年LAで現地のヒットプロデューサーたちと同席する機会があって、そこでもKM、Cherry BrownことLil'Yukichi、ZOT on the WAVEらが手掛けた日本のヒップホップ楽曲を聴いてもらったんですよね。あえて、日本人のビートメイカーだとはいわず聴いてもらったんですけど、みんな「これ日本のビートメイカーのビートなの?」とビックリしていたので。なにかチャンスの歯車が回り始めたら、大きな変化があるかもしれないな、と。

BudaMunkはビートシーンが根強いLAでもライブを行っていますし、以前にGreen Assassin Dollarに話を聴いた際も、ストリーミングサービスの再生回数においては、海外のオーディエンスが非常に多いといっていました。

渡辺志保

渡辺:あと、シカゴに拠点を置いてチーフ・キーフらに楽曲提供しているDJ KENNは、それこそ現地でドリル・シーンを形作ってきた数少ない、というか唯一の日本人ビートメイカーだと思いますし、アトランタに拠点を置いているYungXanseiというビートメイカーは、R&Bシンガーのサブリナ・クラウディオや、ラテンR&Bデュオのヴァイス・メンタというアーティストらを手掛けていて、今後の活躍も楽しみにしているところです。


DJ KENNがプロデュースした、チーフ・キーフ“Bang”

YungXanseiがプロデュースした、Sabrina Claudio x Wale“All My Love”を聴く(2019年 / Spotifyを開く

YungXanseiがプロデュースした、ヴァイス・メンタ“CHTM”を聴く(2020年 / Spotifyを開く

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プロフィール

荏開津広(えがいつ ひろし)

執筆 / DJ / 京都精華大学、東京藝術大学非常勤講師、RealTokyoボードメンバー。東京生まれ。東京の黎明期のクラブ、P.PICASSO、MIX、YELLOWなどでDJを、以後主にストリート・カルチャーの領域で国内外にて活動。2010年以後はキュレーション・ワークも手がけ、2013年『SIDECORE 身体/媒体/グラフィティ』より、ポンピドゥー・センター発の実験映像祭オールピスト京都ディレクター、日本初のラップの展覧会『RAP MUSEUM』(市原湖畔美術館、2017年)にて企画協力、Port Bの『ワーグーナー・プロジェクト』(演出:高山明、音楽監修:荏開津広 2017年10月初演)は2019年にフランクフルト公演好評のうちに終了。翻訳書『サウンド・アート』(フィルムアート社、2010年)、『ヤーディ』(TWJ、2010年)。オンラインで日本のヒップホップの歴史『東京ブロンクスHIPHOP』連載中。

渡辺志保(わたなべ しほ)

音楽ライター。広島市出身。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタヴュー経験も。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門」(NHK出版)などがある。block.fm「INSIDE OUT」などをはじめ、ラジオMCとしても活動中。

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