「バズ」が埋め尽くす世界にあらがう。ゆっきゅん×水野しずが雑誌を創刊した理由

「バズ」が埋め尽くす世界にあらがう。ゆっきゅん×水野しずが雑誌を創刊した理由

2021/12/24
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:黒田隆憲、CINRA編集部

「どれもこれも気に入らなかった人が最終的に手に取るしかないマガジン」をコンセプトに掲げた、批評・カルチャー誌『imaginary』が発売された。

編集長は、水野しずとゆっきゅん(電影と少年CQ)の2人。夢眠ねむが店主を務める夢眠書店の新レーベル「夢眠舎」から、年2回の発行を予定しており、既存のメディアで未だ取り上げられていない「実力」のある人やカルチャーなどにフォーカスしていくという。

雑誌の立ち上げの背景には、誰もが手に入れられる無料のコンテンツで溢れ、深く考えなくても生きられるように画一化されてゆく社会のなかで、「いかにして自分の心を持ったまま生きていくか?」という切実な問題意識があったという。

いまこの時代に、あえて「紙の媒体」にこだわるのはなぜか。立ち上げの経緯はもちろん、同誌への熱い思いを語り合ってもらった。

「私たちはこれほどまでに、思ったことが言えていなかったのか」という衝撃(水野)

―まずはお二人が雑誌『imaginary』をつくることになった経緯から聞かせてもらえますか?

ゆっきゅん:去年8月に、コミック『NANA』について語る配信イベント『バラ色会議 第15夜 ~本気のNANAナイト~』を、(水野)しずちゃんとイラストレーターのせきやゆりえさんと3人で開催したんです。『NANA』はすごく有名なコミックだしみんな知ってるけど、まだちゃんと読まれていなかったり、ちゃんと語られていない部分があったりするんじゃないかという見立てで企画したのですが、それがものすごく盛況で。


矢沢あいによる漫画『NANA』は、2000年に連載を開始し現在は休載中。累計発行部数は5,000万部を突破しており、映画化もされるなど大ヒットした。大崎ナナと小松奈々、ふたりの「NANA」の恋と人生を描く

水野しず(以下、水野):そもそもは、ゆっきゅんのファンイベントのスピンオフ的な集まりだったのに、そこに「何か」があると嗅ぎ取った人たちがたくさん観てくださったんです。

<b>水野しず(みずの しず)</b><br>1988年生まれ、岐阜県多治見市出身。コンセプトクリエイター、ポップ思想家。武蔵野美術大学映像学部中退。ミスiD2015グランプリ受賞後、独自性が高いイラストや文筆で注目を集める。新しいカルチャーマガジン『imaginary』編集長。著書『きんげんだもの』。
水野しず(みずの しず)
1988年生まれ、岐阜県多治見市出身。コンセプトクリエイター、ポップ思想家。武蔵野美術大学映像学部中退。ミスiD2015グランプリ受賞後、独自性が高いイラストや文筆で注目を集める。新しいカルチャーマガジン『imaginary』編集長。著書『きんげんだもの』。

ゆっきゅん:普段のイベントの5倍くらいの人が配信を視聴してくれたんだよね。『NANA』について、ずっとこんなふうに話したかったんです!」みたいな声ももらって。私たちのことを知らない、純粋な『NANA』ファンの方たちにどうやってこのイベントが伝わったんだろう? とびっくりすると同時に、そういう人たちにも届けられたことがすごく嬉しくて。『NANA』全巻セットを買い直している人も結構いたよね?

<b>ゆっきゅん</b><br>1995年、岡山県生まれ。新時代の自由を体現するポップアイコン。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。「電影と少年CQ」のメンバーとしてライブ活動を続けながら、セルププロデュースによるソロ活動「DIVA Project」を始動。『キネマ旬報』『ユリイカ』などへの寄稿や、でんぱ組.incへの作詞提供など、幅広く活動中。
ゆっきゅん
1995年、岡山県生まれ。新時代の自由を体現するポップアイコン。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。「電影と少年CQ」のメンバーとしてライブ活動を続けながら、セルププロデュースによるソロ活動「DIVA Project」を始動。『キネマ旬報』『ユリイカ』などへの寄稿や、でんぱ組.incへの作詞提供など、幅広く活動中。

水野:そうそう。こちらの熱量や波動というものは、どんなフォーマットであれ伝わってしまうものなのだなとあらためて思い知らされる出来事だったんです。

ゆっきゅん:で、そのときのメンバーとつくったグループLINEで、「自分たちで批評とかする雑誌をつくりたいね」みたいな話になったのが、『imaginary』立ち上げのきっかけでしたね。

水野:潜在意識では、(雑誌づくりを)やりたい気持ちが以前からあったんですけど、実際にイベントをやってみたことでそれが言語化できたというか。

おそらく2016年くらいからだと思うのですが、「場づくり」みたいなワードがいろんな場所で頻繁に言われるようになったじゃないですか。それってインターネットの世界があまりにも広がり過ぎてしまい、境界線みたいなものがなくなっちゃったから、そのなかで自分たちの「文脈」を持って関われる「場」を、多くの人が必要としたということだと思うんです。同じような磁場を持った人たちが、共鳴し合いながらなんとかこぎつけるような場所といったらいいのでしょうか。

左から:ゆっきゅん、水野しず

水野:ただ、自分たちはそんな「場づくり」とかいった大それたことはまったく考えていなくて。むしろ「場みつからず」状態というか、さまよう放浪者のように思っていたから……。

ゆっきゅん:「場はぐれ」だよね(笑)。

水野:そう、場はぐれ(笑)。だから『NANAナイト』も、最初はただ「少女漫画について語ろう」というひとつの企画に過ぎなかったんです。ところが、そこにあった熱量によって「場」のような何かが形成されてしまった。

そのことにすごく感動して、私たちが潜在意識で思っていた「雑誌をつくりたい」「メディアをつくりたい」「紙にして発行したい」という意思を、そこでようやく吐露できたんです。

ゆっきゅん:「そういうタイミングが来た」みたいな感じだったよね。

水野:これまで自分の行動の領域といえば、ほとんどがインターネットだったんです。そういう場所として、これからはインターネットだけじゃなく「紙の媒体」もあったらいいなと思ったんです。

―なぜ「紙の媒体」なのでしょうか。

水野:イベントのときに生まれた振動、波長の震え方を見て、私はこれを手触りを持って触れられるものにしたいと思ったからです。これまで私の活動の中心はほとんどインターネットでしたが、インターネットって、まさに「場」の最たるものじゃないですか。でも、そこで同調した人たちもまだ「物質」として触れたことのない、いわば「思念体ジュエル」のように輝く人たちだったので(笑)。

水野しず

水野:じつは、先日も同じメンバーで『本気の少女漫画ナイト NANAナイト2 ~『NANA』の夢、全部叶えたろかスペシャル~』というイベントをやっていたんですけど、毎回やるたびに「ここまで『正直』をやってしまっても大丈夫なんだ」という発見があるんですよ。その驚きって、逆に言えば「私たちはこれほどまでに、思ったことが言えていなかったのか」という衝撃でもあって。

ゆっきゅん:「言えなくさせられている」というか。

水野:言えていなかったこと、触れないようにしていたことが、自分たちでもまだこんなにあると気づいたんですよね。

ゆっきゅん:まだ私たちは、思っていることを言えている方だと思うけど(笑)。

ゆっきゅん

水野:ゆっきゅんも正直な人だからどんどん本音のタガが外れているんですけど、それでもまだまだ言えていないことがある。だとしたら、世の中の人たちはどれだけ自分の意見が言えているのだろうか、と。

―「思ったことが言えなかったり、言えなくさせられたりしている状況」に、なぜなってしまったのでしょうか。

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番組情報

水野しず×ゆっきゅん 雑誌『imaginary』祝♡創刊~誕生から裏話まで~

おふたりをゲストにお招きしたポッドキャスト番組が、SpotifyのKompassアカウントにて配信中です。雑誌の誕生話から裏話までお話しいただきました。さらに番組内では音楽とトークをひとつのコンテンツのなかで一緒に楽しめるサービス「Music+Talk」を使用して、『imaginary』を読みながら聴きたい楽曲紹介や、imaginaryなお悩み相談にも回答いただきました。

プロフィール

ゆっきゅん

1995年、岡山県生まれ。新時代の自由を体現するポップアイコン。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。「電影と少年CQ」のメンバーとしてライブ活動を続けながら、セルププロデュースによるソロ活動「DIVA Project」を始動。『キネマ旬報』『ユリイカ』などへの寄稿や、でんぱ組.incへの作詞提供など、幅広く活動中。

水野しず(みずの しず)

1988年生まれ、岐阜県多治見市出身。コンセプトクリエイター、ポップ思想家。武蔵野美術大学映像学部中退。ミスiD2015グランプリ受賞後、独自性が高いイラストや文筆で注目を集める。新しいカルチャーマガジン『imaginary』編集長。著書『きんげんだもの』。

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