羊文学インタビュー。オルタナティブとJ-POPを両立させながら時代の最前線に躍り出るまでの足跡

『フジロック』のメインステージ出演、中国でのワンマンライブ、テレビアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」エンディングテーマ“more than words”のリリースなどを経て、バンドの知名度が大きく上昇した2023年は、羊文学にとって特別な一年になったと言っていいだろう。

地上波の音楽番組にも出演するし、コアな音楽ファンの集まるライブイベントにも出演するという、メンバーがかねてより語っていた「オルタナティブとJ-POPの両立」を体現するかのような現在のあり方は、日本の音楽シーンにおいて非常に希少。12月6日にリリースされるニューアルバム『12 hugs (like butterflies)』はそんな充実の一年を締め括る作品であると同時に、3人のこれまでの歩みを一度総括するような、バンドにとって非常に重要な作品だ。

そこで今回のインタビューではこれまでの足跡を振り返ってもらい、そのうえで“more than words”やニューアルバムについても語ってもらった。現在の彼女たちが発する「解放」のパワーが、一人でも多くの人に届きますように。

同期を使わずに3人の音にこだわる理由。「なんでもはできないからこそ出る歪さ、シンプルになっていく感じを大事にしてきた」

―羊文学はもともとモエカさんが高校生のときにスタートしていて、でも2017年に現在の3人になってからリリースやライブが活発になり、これまで「3人の音」をすごく大事にしてきた印象なのですが、その背景にあるバンドのスタンスをお伺いしたいです。

塩塚:私も含めてミュージシャンとしてできることはそんなに多いわけじゃないというか、全員めちゃめちゃすごいテクがあるわけじゃないんですけど、なんでもはできないからこそ出る歪さとか、シンプルになっていく感じを大事にしてきました。

いまの音楽は音が詰まってて、パッと聴いたときにはこれをどうやって演奏するのか、ギターの弾き語りにどう落とし込んでいいのかわからない曲が多い印象なんですけど、私たちはシンプルにならざるを得ないからこそ、そのシンプルな部分を自分たちなりに追求し続けています。

―もともと3人の音にこだわろうと思ったのはルーツがあるんですか?

塩塚:それは私が高校生のときにチャットモンチーさんのカバーを3人でしようと思ったら、楽譜に4人目の音が書いてあって、当時はまだ高校生だったのもあって、「3人でやってるのに違う音が入ってるじゃん」と思って(笑)。いまは私たちも全然ギターを重ねたりするんですけど、最初は「ギターは絶対一本しか入れないし、入れるとしたら同じ音を重ねるくらいしかしない」みたいな、もっとストイックな感じからスタートしてました。

―再現性を大事にしてきたということですね。

塩塚:そうですね。でもだんだんできることが増えてきて、それが味というか、個性になってきたのかなって。私のギターソロはその最たるもので、速弾きとかはできないけど、弾いてたらそれが味っぽくなってきた。

トラックを流したりとかもおもしろいとは思ってて、やりたくないわけじゃないんですけど、どこかに「トラックを流すんだったら全部のパート流せばいいじゃん」みたいな気持ちもちょっとあるんですよね。

―9月から開催されたワンマンツアーでは音源でシンセの入っている“OOPARTS”と“more than words”も3人の音だけで演奏してましたよね? あれはあえてそうしたんですか?

羊文学“OOPARTS”を聴く(Spotifyを開く

塩塚:あえてというか……同期の使い方がわからなくて(笑)。

―でも一個前のツアーでは“OOPARTS”で同期を使ってなかったでしたっけ?

河西:あれは同期じゃなくて、ただイントロでシンセを流しただけで。

塩塚:でも「なくてもいけるじゃん」ってなって、バンドだけで鳴らせるならそれでいいかなって。

―「あえてやらなかった」はちょっと言い過ぎだけど、でも3人でやれるんだったらそっちを選ぶと。

河西:もともと個人的にも3ピースが好きで、見た目もすごい好きだし、バランスがすごくいいなと思うんですよ。どっちかによってないっていうか、そういうシンプルさがもともと好きで……最初にこの3人で合わせたときもすごく感動しました。趣味とかはバラバラだけど、化学反応が起きて、他にないものになってるんじゃないかなって。

Pavement、My Bloody Valentine、The Stone Roses――羊文学のオルタナティブな音楽性のルーツ

―フクダくんは3人のバランスをどう感じていますか?

フクダ:メンバーそれぞれのキャラクターがありつつ、でも音楽のジャンルでは共通点も多いので、そこはすごくやりやすいです。あと感覚とか感性も重要で、この3人は服とか本の好みも共有できてるので、アートディレクターを決めるときとかも「いいね」っていうのが言葉を交わさずとも感覚でわかるというか。

―オルタナティブな音楽性でいうと、3人が根底の部分で共有しているのはどんな音楽だと言えますか?

フクダ:塩塚はPavementとかが好きで、ああいうちょっとローファイな感じはみんな好きだし、僕はシューゲイザーが好きで、My Bloody ValentineとかSlowdiveとかRideとかChapterhouseとか、そういう90年代のバンドも共通してみんな好きですし、ゆりかちゃんはThe Stone Rosesとかが好きで、そこも共通点ですね。

―いまの羊文学は日本の音楽シーンのなかでもすごく特異な立ち位置にいて、今年のフェスでいうと、『テレビ朝日ドリームフェスティバル』と『メタモルフォーゼ』の両方に出演してるバンドなんて他にいなくて。でも以前から「オルタナティブとJ-POPを両立させる」ということを掲げていたと思うから、まさにいまその形になってるなって。

フクダ:メインストリームとアンダーグラウンドの両立は個人的なテーマとしてずっとあったので、それができてるのはすごく嬉しいです。今年は海外に向けてのプロモーションも多かった印象で、香港の『Clockenflap』でコアな音楽ファンのみなさんが見てくださったのもすごく嬉しかったです。

その一方ではメインストリームでの活動も多くて、『ドリームフェスティバル』もそうですし、『ミュージックステーション』や『CDTV』に出れたのも新鮮でした。羊文学としては変わることなく、新しいお客さんにも届けられたのかなっていう気はしています。

クリスマスシーズンを彩るインディーズ時代の代表曲“1999”誕生秘話

―Spotifyの再生回数を見ると、いまは“more than words”が最も再生されてるんですけど、2番目に再生回数が多いのがインディーズ時代に発表された“1999”で。この曲はバンドにとってどんな意味がある曲だと言えますか?

羊文学“1999”を聴く(Spotifyを開く

塩塚:もともとはこんなに聴いてもらえるとは思わなかったというか、クリスマスが好きなので、クリスマスのイベントをしたいなと思って、クリスマスの曲をつくったんですよね。それこそ当時Pavementがすごく好きで、MVとかをよく見ていて、「こういうのに合う感じの音楽をつくりたい」と思って、だからいまでも頑に冬しか演奏しないんです(笑)。フェスとかだとたまにやるんですけど。

―だから毎年12月にクリスマスライブをやるわけですよね。

塩塚:そうですね。“1999”から聴いてくださる方が増えたりとかしたのかもしれないけど……この曲を出した頃はそんなことを考えてる余裕がなかったんです。

このときはちょうど事務所に所属してなかったんですよ。でも自分たちでなにかクリスマスにリリースしたいと思って、本当はEPが良かったけど、間に合わないからシングルにするかEPにするかを当時のマネージャーと何回も話し合って、でもシングルを出すなら特別なものじゃないと嫌だから、絵本にして、かなり無理を言って装丁をやってもらったりして。

このとき一緒にやったharune.hさんっていうイラストレーターの方とは今年のクリスマスライブでもご一緒するんですけど、とにかく企画から全部自分たちでやって、もういっぱいいっぱいでした(笑)。

―最初はカセットテープでのリリースでしたよね。

塩塚:そうだ、CDをつくるにはもうギリギリすぎたけど、カセットだったら出せるとか、そういう理由もあって。で、カセットで出せたから、じゃあ次はCDって、順を追って、毎年しつこくクリスマスになるたびにリリースして(笑)。そういうのもあって、たくさん聴いていただけるものになったのかもしれないですね。

―なんでそんなにクリスマスが好きなんですか?

塩塚:学生の頃の影響ですかね。みんなでキャンドルを持ったり、歌ったり、いい思い出がいっぱいあります。

―サウンド感的にもクリスマスムードがあって、羊文学らしさを体現する曲になってますよね。

フクダ:ドリームポップな雰囲気で、浮遊感があって、陶酔感があって……最高です。

河西:最初はもっとギターポップみたいな感じの曲だった気がするんですけど。

塩塚:アレンジ頑張ったね。学校帰りに歌だけレコーディングしたり……懐かしい。

―インディーズデビュー当時はまだ学生で、さっきの話のとおり、エスカレーター式にスッとメジャーまで来たというよりは、一つひとつ自分たちでポリシーを持って進む道を選んできた印象があるんですけど、そのあたりはいかがですか?

塩塚:変なポリシーがいっぱいあったというか、私がすごく自分勝手なので(笑)。1年休学してバンドだけでやってみようと思って、でもいざ休学したら暇に耐えられなくて、それで就職して、でも就職したらしたで忙しくなって……だから、そこまで強い意志があったわけでもなくて。

フクダ:「やりたいことをやる」ということは常に重視したというか。MVの監督も自分たちで決めたり、やっぱりやりたくないことをやるとクオリティが落ちちゃうので、ずっとやりたいことをやってると思います。楽曲に関しても、「誰かに言われたからやった」みたいなことはないですし、それは全部においてそうですね。

Wet LegやBLACKPINKと共有する時代感。「ガールズバンドのイベントには絶対出たくないと思ってた」

―「いまの音楽は音が詰まってるものが多い」という話もありましたが、コロナ禍で一回バンドの元気がなくなって、DTMでつくられる音楽が増えましたよね。でも今年に入ってもう一度ライブが活性化して、特にインディシーンだとオルタナティブな音楽性のバンドがすごく増えた印象があります。そういった音楽シーンの変遷をどう感じていますか?

フクダ:おっしゃる通り、オルタナティブロックとかシューゲイザーとか、そういうテン年代以降のバンドに影響を受けたバンドが多いなって。若いインディーズのバンドを聴くと、クオリティもすごく高いです。

特に感じるのが、トゥインクルエモっていうジャンルだったり、僕が昔聴いてたような、American FootballとかTera Melosとかがまたリバイバルしてきてるなって。みんなタッピングをしたり、そういうのがまたリバイバルしてる印象で、あと僕らに影響を受けた10代のバンドとか……。

塩塚:そんなでかいこと言って(笑)。

フクダ:一部かもしれないけど、そういう人たちもいるんだなって。

―客観的に見ても、羊文学はすでに影響を与える側になってると思います。そういうシーンの流れは海外の動きから派生してる部分もあると思うんだけど、今年でいうとそれこそPavementのファンを公言しているWet Legが盛り上がって、バンドサウンドの復権を印象付けたようにも思います。彼女たちから刺激を受けたりもしてますか?

塩塚:Wet Legはかっこいいなと思いましたけど、私はバンドサウンドよりも、最近は流行のハイパーポップとかが好きで。昔からそうなんですけど、バンドサウンドももちろん聴くし、好きだけど、それより宅録とかでつくられたものが好きなんですよね。そこから受けたインスピレーションをバンドにしてるみたいなところもあるし。でもその一方でThe Smashing Pumpkinsとかも好きだから、そういうイメージでやってるのもあったり。

―以前はジェイムス・ブレイクが好きだっていう話もしましたよね。

塩塚:そうですね。そういうのを聴いて、耳でいろいろ収穫してきて、でもアウトプットはフィジカルにできるバンドサウンドだったっていう感じですかね。最近はバンドサウンドを聴くと逆に安心するかも。「なにやってるかわかる人いた!」みたいな(笑)。踊ってばかりの国を観るたびに、すごいバンドやる気になります。

―Wet Legは女性2人がフロントに立って、オルタナ寄りの、抜けのいいバンドサウンドを鳴らしてるという意味でも、羊文学と時代感を共有してる感じがしたんですよね。

塩塚:女が強くなってきたんですかね。

―そういう側面もありますよね。

塩塚:BLACKPINKもそうだし、ビリー・アイリッシュとかもそうだけど、いわゆる女性らしいと思われてる枠を超えた人たちが海外で大きく評価されてますもんね。特にBLACKPINKは同じアジア人として、「いまの日本はどうなんだろう?」みたいな疑問はずっとあったりして。

―海外のフィメールラッパーが女性をエンパワーメントするような動きをしてたり、K-POPだとガールクラッシュみたいな動きがあったり、そういう流れは確実にある。でも羊文学はそこをメッセージとして強く打ち出すという感じではないですよね。

塩塚:言わないですけど、気持ちはめっちゃあります。

―女性がロックバンドをやることに対して、意味を感じながら活動をしている?

塩塚:すごくプライドを持ってます。やっぱり始めたときから……ライブハウスが悪いわけではないですけど、女の子が搾取されてるなって感じることも、空気的にはたくさんあったし、だからガールズバンドのイベントには絶対出たくないと思っていて。出ざるを得ないときもあったし、女の子のバンド自体はもちろん好きなんですけど、でもそのくくりには絶対入らないように活動しなきゃっていうのはずっとありました。

原点回帰を果たし、ありのままの自分を解放した新作『12 hugs (like butterflies)』

―では新作の話をさせてください。『POWERS』や『our hope』は時代の空気的にどうしても一人で家にこもるような、内向きなベクトルが根底にあった気がするけど、『12 hugs (like butterflies)』は社会全体が動き出したのもあって、外向きの力を感じる作品だと思いました。

「自分を愛する」「自分を赦す」という根底のテーマは変わってないんだけど、一人でこもることのつらさとはまた別種の、外側との摩擦から受けるつらさを感じさせつつ、それも含めてハグをするような、抱きしめるような、強さと優しさを持ったアルバムだなと感じました。

羊文学『12 hugs (like butterflies)』を聴く(Spotifyを開く

塩塚:話を聞きながら「確かに」と思いました。コロナ禍とは関係なく、私はいままでの人生ずっと……引きこもってはいないんだけど、精神的引きこもりみたいな感じで、友達とかにしても、心の深い繋がりをあんまり持ったことがなくて。

そのままコロナ禍に突入して、よりもっと1人でいやすくなってたんですけど、明けてからは自分の環境が変わったこともあり、友達といるのって楽しいなとか、そういう基本的な人間の気持ちみたいなのを知って。

塩塚:そういうなかでつくったから、たしかに人との関わり合いのなかで感じたことがたくさん詰まっていて、もともといままでとはかなり空気感が違うアルバムになったと思ってたんですけど、話を聞いて「そういうことか」と思いました。

フクダ:タイトルにある通り「バタフライハグ」がテーマになっていて、各楽曲の歌詞や雰囲気は、自分自身を抱きしめてるようなアルバムになったと思います。

サウンドアプローチ的には原点回帰といいますか、斜に構えずレコーディングができて、インディーズ時代に最初に出した『トンネルを抜けたら』がもうちょっと進化したような印象もあります。

羊文学『トンネルを抜けたら』(2017年)を聴く(Spotifyを開く

フクダ:メジャーからのファーストは結構尖ったサウンドで、セカンドはポップさとの両立を目指したんですけど、そうやっていろんなものを得たうえで、初期の感じをもう一度出したら、また新しいものが見えるんじゃないかなっていうのは、意識的にやりましたね。

スネアの感じもちょっとゴーストを入れたりとか、それは『トンネルを抜けたら』のときに“雨”とかでやってたことで、結構そこを意識したりもして。かなり自由にできたというか、解放されたというか、そういう印象はあります。

河西:やっぱり「受け入れる」みたいなことはすごく大きなテーマになっていて。このジャケットにも通じると思うんですけど、悩んでることとかも自分で受け入れて、自分をハグしてる感じ。だから曲自体も「自分たちらしさを出す」みたいなことを大事にしました。

河西:前作は「みんなが聴きやすい音にするにはどうすればいいか」みたいなことを考えたけど、今回は聴きやすさも意識したうえで、最終的には自分の好みとか自分らしさを取ったので、ありのままの私たちらしさが出てると思います。

「いままでは曲の方が柔らかかったり、優しかったりしたけど、でもいつもファイティングポーズな感じもある」。“more than words”で塩塚モエカが見つけた「自分らしさ」

―TVアニメ『呪術廻戦』のテーマ曲として書き下ろされた“more than words”がバンドにとって大事な一曲になったことは間違いないと思うんですけど、この曲をつくったことがアルバム全体にどんな影響を与えたと言えますか?

羊文学“more than words”を聴く(Spotifyを開く

塩塚:“more than words”は「私たち」以前に、めっちゃ私らしいと思っていて。逆にいままでやってきたことは、私たちらしくあったかもしれないけど、どこかで私らしくないとずっと思ってたんです。

もちろん一曲一曲はいい曲が出来たなと思って出したし、頑張ってつくったし、そのときの自分のベストはやってきたつもりだけど、でもどこか無理してるというか、そんなノリがあったんですよね。

でも“more than words”は本当にこれがやりたかったし、「みんなこれを聴け!」みたいな気持ちでリリースした曲で。絶対に後悔したくないと思ったんです。

塩塚:これまでは「バンドだからこれができない」とか、「これがやりたいけどどうしたらいいかわからないからやめておこう」とか、そういう制限を勝手に自分で自分に課してることがいっぱいあって、それで不自由になってたから、それを全部解放して、そういう曲の筆頭が“more than words”だし、アルバム全体もそういう雰囲気になったかなって。

―途中で話したように普段聴くのはバンドより打ち込みのものが多かったりして、そういう自分とバンドにちょっと差があったりもしたし、「3ピースであることへのこだわり」を話してもらったけど、それが制限になってしまっていた部分もあるのかもしれない。でも“more than words”はシーケンスを使っていたり、自分がいまやりたいことをそのまま反映させて、「私らしい」と言えるものになったと。

塩塚:この一年で自分自身とバンドのなかでの自分像がちょっとずつ近づいてきた感じがあって、このアルバムも自分像に近い感じがしていて。

いままでは曲の方が柔らかかったり、優しかったりしたけど、でもいつもファイティングポーズな感じもあるし、そんなにマイルドで崇高な感じじゃないというか。今回のアルバムを通して、そういうのが自分のなかでちょっとずつ一致してきた感じがします。ライブの衣装を黒にしたり、“more than words”をつくったり、ちょっとずつすり合わせができた一年だったなって。

―“more than words”のサウンド自体は前作で“OOPARTS”をつくったことが大きかった印象で、あの曲でシンセや4つ打ちを試したから、それを発展させることができたのかなって。

河西:もともとモエカが送ってくれたデモはもっと打ち込みの音だったんですけど、それをバンドにしたことによって、バンドの力強さが足されました。グルーヴがあるところとないところがあるというか、不思議なリズムで、でも2Aとかはちゃんとバンドサウンドだし、こうやってバンドらしさを出せたのはよかったですね。

フクダ:“more than words”は『呪術廻戦』のお話をいただいてつくったものなので、監督からいただいたワードをもとにした部分が大きくて。無機質のなかの温かさだったり、そういうのは4つ打ちサウンドで感じられますし、「渋谷事変」なので都会感だったり、ちょっと閉塞感があったり、いろんなキーワードをもとにつくりました。

基本的に羊文学の楽曲で4つ打ちはごく稀で、2000年代のロックは4つ打ちが流行った印象があるから、そういうのは好きなんですけど、これまでは意識的に入れてなかったんです。でも今回の楽曲は4つ打ちが求められる雰囲気にも合うなと思って、個人的にもこれまでで一番ぐらいに好きな曲になりました。

渋谷駅で撮影された“more than words”のパフォーマンス映像

2024年4月に横浜アリーナでのワンマンが決定。「今回のアルバムはいままでやってきたことのまとめでもあり、その次に行くための準備」

―10月に観させてもらったZepp HanedaでのライブのMCで「“more than wordsをつくってるときに、その当時の気持ちでもう一曲できた」という話をしてたと思うんですけど、それって“honestly”?

塩塚:そうです。

羊文学“honestly”を聴く(Spotifyを開く

―自分の信念を貫こうとする強い意志と、周りからの声に苦しめられる弱さとが文字通り正直に綴られていて、この曲も自分を受け入れる過程において、すごく大事な一曲になったんじゃないかと感じました。

塩塚:羊文学に対して「明るかったけど暗くなったね」って言う人もいれば、「暗かったけど明るくなったね」って言う人もいたり、X(旧Twitter)とかを見るといろんな人がいろんなことを言ってて、もちろん私もいろいろと思うんです。

でも“more than words”に関しては、みんなが「前はこんなのじゃなかった」とか言って、聴くのをやめたとしても、「私はこれがやりたいんです」って言いたかったし、そういう気持ちでやらないといけないと思って、その気持ちを“honestly”に書きました。

塩塚:でもこの曲が愚痴っぽくならなかったっていうところが、このアルバムのいいところというか、いままでになかったことなんじゃないかと思ってて。歌詞を見るとちょっと愚痴っぽいけど、自分の腕を切るみたいな気持ちで歌うんじゃなくて、すごく清々しくつくることができたのは、自分を大切にしている感じがあるのかもしれないですね。

―バンドとしての活動が大きくなったタイミングで、自分自身とバンドのなかの自分像を合致させて、「これが私」と言い切れる作品が出せたということは、この先の未来を考えたうえでもとても意味があることだと思います。

塩塚:今回のアルバムはいままでやってきたことのまとめでもあり、その次に行くための準備みたいな作品でもあると思っていて。だからこの先でなにをしたいのかはいまは全然まっさらで、もちろん決まってるスケジュールはあるから、そこへの準備は進んでいくんですけど、ここ最近は本当にひさしぶりにあんまり新しい曲もつくってなくて。

でもそろそろまたつくろうかなって、ちょうど昨日くらいから動き出したところで、それでいま頭がめっちゃホットな状態なんです(笑)。この先がどうなっていくかはいまは本当にわからないですけど……でもきっとすごくおもしろいことになりそうな気はしてます。

リリース情報
羊文学
『12 hugs (like butterflies)』


2023年12月6日(水)リリース

初回生産限定盤(CD+Blu-ray)
KSCL-3480〜3481
価格:5,500円(税込)

CD収録曲(全12曲) ※初回、通常共通
1. Hug.m4a
2. more than words
3. Addiction
4. GO!!!
5. 永遠のブルー
6. countdown
7. Flower
8. honestly
9. 深呼吸
10. 人魚
11. つづく
12. FOOL

Blu-ray収録内容 ※初回盤のみ
「Live at FUJI ROCK FESTIVAL’21」

1.mother
2.人間だった
3.ロマンス
4.1999
5.砂漠のきみへ
6.ghost
7.powers
8.マヨイガ
9.夜を越えて
10.あいまいでいいよ
11.祈り
通常盤(CDのみ)
KSCL-3482
価格:3,850円(税込)
公演情報
『まほうがつかえる2023』

2023年12月14日(木)
会場:東京都 LINE CUBE SHIBUYA
OPEN 18:00 / START 19:00
全席指定:前売6,500円(税込)

2023年12月25日(月)
会場:大阪府 フェスティバルホール
OPEN 18:00 / START 19:00
全席指定:前売6,500円(税込)

『羊文学 LIVE 2024 “III”』

2024年4月21日(日)
会場:神奈川県 横浜アリーナ
OPEN 17:00 / START 18:00
全席指定:前売7,800円(税込)
プロフィール
羊文学
羊文学 (ひつじぶんがく)

Vo.Gt.塩塚モエカ、Ba.河西ゆりか、Dr.フクダヒロアからなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルタナティブロックバンド。2023年、アルバム『our hope』が第15回CDショップ大賞2023 大賞<青>を受賞。ライブでは『FUJI ROCK FESTIVAL’23』に出演。日中のGREEN STAGE出演アーティストとしては異例の動員数を記録した。そして全国10ヶ所、全12公演を周るワンマンツアー『羊文学 Tour 2023 “if i were an angel,”』も完走。さらにバンド初となる海外ワンマンライブを台北、上海で開催。両公演共にチケットは販売開始直後にソールドアウトするなどアジアを中心に海外での注目度も上昇中。さらに、横浜アリーナワンマンライブ『羊文学 LIVE 2024 “III”』も開催決定。キャリア史上最大規模の初のアリーナ公演となる本公演は来年4月21日に開催される。



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