YUKIがソロ11作目となるフルアルバム『パレードが続くなら』をリリースした。2022年2月にソロデビュー20周年を迎えたYUKIだが、本作はこの20年間、その神秘的かつ華やかな存在感、さまざまな音楽的アイデアに挑戦する先鋭性、そしてつねにその時々の自分自身を表現するリアルさでもって、多くの人々を魅了してきたYUKIという稀代の表現者の、ひとつの集大成といえる作品である。この記事では、Spotifyのプレイリストシリーズ「Liner Voice+」で行なわれたYUKI本人によるアルバム全曲解説での発言をピックアップしながら、アルバム『パレードが続くなら』の奥に広がる、目くるめくYUKIの世界を紐解いていきたい。
「たくさんの自分」を受け入れながら自己を更新
2022年はソロ20周年のアニバーサリーイヤーということで、『Free & Fancy』『Bump & Grind』という方向性の異なる2作のEPのリリースや、全国ツアー『YUKI concert tour “SOUNDS OF TWENTY” 2022』を開催するなど精力的な活動を見せていたYUKI。
本作の表題曲であり、1曲目を飾る“パレードが続くなら”は、EP『Free & Fancy』にも収録されていた曲であり、南田健吾(agehasprings Party)作編曲による流麗なエレクトロサウンドと、そのうえを縦横無尽に行き交う歌唱が見事な1曲である。YUKI自身はこの曲を「アルバムのプロローグ的な1曲」であるとしながら、謎に満ちた彼女の楽曲制作の秘密とこの曲に込めたものを、以下のように語っている。
YUKI:私はデモでいただいた楽曲を聴いたときに、映像が浮かぶことが多いんです。その映像は景色であることもあれば、いつか見た絵本の1ページや挿絵であることもあれば、漫画の1コマであることもあれば、テレビで見た知らない街、映画のワンシーンやセリフであることもあります。
その最初に見えた景色を歌詞にしていくんですけど、この曲(“パレードが続くなら”)のときは、いろいろな顔の私。私がたくさんの私を引き連れて、派手に着飾っていて、なにかを大きな声で叫びながら、楽しそうに力強く進んでいるところが浮かびました。
さらに、YUKIはこう続けていく。
YUKI:歌詞にもなっていますけど、「正解も明暗も善悪も割り切れなくて、どうしよう」と思っていた頃だと思います。いまよりもっと若い頃は、なにが善でなにが悪か、自分のなかでハッキリとあったんですけど、歳を重ねていくにつれて、それがハッキリとできなくなってくるという経験をして。それでもこの道が続くなら、自分はたくさんの自分を連れて行くしかないのだと、そういう歌になったんじゃないかと思います。
この割り切れない世界で、それでも「たくさんの自分」を引き連れながら進んで行く――このしなやかな強さは、アルバム『パレードが続くなら』全体の基調となっているといえるだろう。「自己肯定感」なんていう言葉が軽く飛び交う時代でもあるが、本当の意味で自分を肯定することは、「自分はこういう人間だ」と決め打ちをすることではなく、自分自身と何度でも出会い直す柔らかさや勇気に根づくことなのかもしれないと、YUKIの話を聞いていると思う。
この20年間、YUKIが音楽だけでなくその人間的な存在感でも、多くの人々のロールモデルで在り得てきたのは、「たくさんの自分」を受け入れながら自己を更新し続けるその姿に、多くの人が魅了されてきたからだろう。
肉体の変化も「新しい自分の発見」
“パレードが続くなら”で見事なプロローグを告げたあと、アルバムは弾けるロックサウンドに突入する。2曲目“タイムカプセル”と3曲目“My Vision”という、EP『Bump & Grind』にも収録されていた楽曲たちだ。この2曲はどちらも名越由貴夫(Gt)、沖山優司(Ba)、白根賢一(Dr)という面々でレコーディングされた、YUKIのロックサイドを力強く表現したバンドサウンドの楽曲たちである。
生のバンドサウンドに歌を乗せることについて、「リズムが人の力だと、とっても揺れるんです」と語るYUKI。この2曲はエネルギッシュなサウンドはもちろん、歌詞も秀逸である。“タイムカプセル”の歌詞についてYUKIは以下のように語っている。
YUKI:私は普段、振り返ることがほとんどなくて、自分の10年前や20年前を思い出すことはあまりしないんです。でも、この曲をつくっていたときは20周年のツアーを回っていたタイミングということもあって、自分の活動を振り返る機会が多かったから、こういう歌詞になっているのかなと思います。
よくも悪くも、私は「いまの自分」を出さずにはいられないのかなと思います。曲やメロディーが呼ぶ言葉のチョイスはありますけど、隠し切れない「いまの自分」が出てしまう。気に入っているのは、<アイ・ラブ・ユー 叫んだら 喉から手が出る>という部分ですね。「どれだけ欲しいんだ」っていう(笑)。
ここでYUKIが語っている「いまの自分を隠すことができない」というリアルさと率直さは、“My Vision”の歌詞にも言えることだろう。ヘヴィーなロックサンドに乗せて<ドラッグストアのサプリメントボトルの成分が読めない>と歌うこの曲のテーマは、もしや「老眼」……? 「老眼」を歌うロックなんて、いままで聴いたことがなかったが、きっとYUKIにとってはそうした人間の肉体的な変化も、表現の種になるものなのだろう。
多くの場合、ネガティブなイメージとともに語られがちな加齢による肉体の変化。しかし、YUKIはそうした変化も、「新しい自分の発見」として受け入れていく。「変化」それ自体が、YUKIという人間を、その命を、かたちづくっている。この“My Vision”について彼女が語った以下の言葉は、なぜ長きにわたり彼女が瑞々しい輝きを放ち続けることができるのか、その理由を表しているようだった。
YUKI:私、ずっと視力がよくて、字が見えづらいということがまったくなかったんですけど、この何年かの間に「字が読みづらいな」とか「本を読みづらいな」と思うことがでてきて、それが私にとって初めての体験だったんです。年を経るにつれていろいろな喪失があるとしても、「新しい体験がまだあるんだ」ということの面白さのほうが、私のなかでは勝ってしまったんですよね。
これは私が前から言っていることなんですけど、大切なことはどんどん少なくなっていくし、それ以外のあとのことは本当に取るに足らないことだなって。そういうふうになれていることが、嬉しくて。「まだまだこんなに面白いことがあるんだな」と思って、つくりました。
峯田和伸が楽曲提供。独特の歌い方も踏襲
アルバムはその後もさまざまな表情を見せていく。オープニングテーマを務めたアニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』の登場人物である森流鶯(るおう)を思ってつくったという“ハンサムなピルエット”、心地のいいメロディーと言葉の重なりのなかで、「俺」という主語が印象的に響く“Oh ! ベンガル・ガール”、そして、煌めくエレクトロポップ“Wild Life”について語られた言葉もまた、YUKIという表現者の本質を表すものだ。
YUKI:小さい頃から、イマジネーションが私を元気にさせます。例えばテーブルとコップがあって、「これを使ってなにかやってみてください」と言われたら、何通りもできる。お話をつくるのが好きなんです。
この曲(“Wild Life”)は、分厚い眼鏡をかけているパーマがかかった短い髪の女の子が、古いタイプライターをガチャガチャとオフィスで打っていて、ちょっとうたた寝をしているあいだの歌なの……みたいな(笑)。
「この曲でミュージックビデオを撮るなら、こういうビデオを撮りたい」ということばっかりで、本当は私のなかでは、1曲ずつミュージックビデオがあるんですよ。
YUKI楽曲には初参加となるLITTLE CREATURESの鈴木正人が編曲を手がけた、YUKIいわく「普遍的な」日本語のポップス“私の瞳は黒い色”や、穏やかなサウンドに乗せて、移ろう時の流れを想う“どんどん君を好きになる”など、端正で情感豊かなサウンドに乗る歌声もやはり素晴らしい。
そして、アルバム中盤~終盤に至るこれら普遍的名曲たちの流れに位置しながらダイナミックに響くのが、本作の大きなトピックである、峯田和伸(銀杏BOYZ)が作詞作曲を務めた楽曲“Dreamin’”である。
これまで銀杏BOYZの作品にYUKIが客演することは幾度かあったが、YUKIの作品に峯田が楽曲提供するのは初めてのこと。山本幹宗(Benlou/Gt)、佐藤征史(くるり/Ba)、BOBO(Dr)といった面々のアンサンブルに加え、ホーンも軽快に響くこの楽曲が生まれた経緯を、YUKIは以下のように語っている。
YUKI:これまで、自分では書けないような歌詞を歌ってみたくて、日暮愛葉さんやCaravanくんの詞を歌ったことがありました。それからしばらくのあいだ、そういうことをやってこなかったんですけど、今回20周年ということもあって、久しぶりに「私ではない人が書いた歌詞を歌ってみるのはどうだろう」と思ったときに思い浮かんだのが、銀杏BOYZの峯田和伸さんでした。20周年イヤーの締め括りのアルバムに、峯田くん作詞作曲の曲があるのは嬉しいなと思って。
峯田くんの持つ、あの切なくてキラキラしている、青い感じの曲を私が歌うことをイメージしてつくってほしいとリクエストしました。曲ができてから峯田くんにギターを持ってきてもらって、スタジオに入ってふたりで同時に歌ってキーを合わせたんですけど、やっぱりご本人の歌がいいんですよ(笑)。「これ、私が歌うのか……頑張ろう」って思いました(笑)。もちろん、自分の歌い癖も出したいんですけど、「この峯田くん節も出したい」という気持ちもあって、非常に難しかったです。
歌詞にある<92年の流星>というフレーズは、もしかしたら、1992年に結成され、同年にアルバム『BE AMBITIOUS』でインディーズデビューを果たしたJUDY AND MARYのことを指しているのかもしれない。そう見れば、峯田のYUKIへの強い思いを感じる楽曲でもあるが、そうした眼差しも自身の表現のなかに受け止めていくYUKIの存在の大きさもまた、感じさせる1曲である。
自らの「弱さ」を知っているからこそ歌える「友愛」の尊さ
この“Dreamin’”のあとに続く“It’s 盟友”も、本作を象徴する1曲といえるだろう。20年というソロアーティストとしてのキャリアだけでなく、YUKIの人生をより深く遡りながら書かれたこの曲は、存在の奥底にチクチクと残り続ける痛みや孤独を浮き彫りにさせながら、人と人が出会い生きることの喜びをポップで力強いサウンドに乗せて歌う曲だ。
自らの「弱さ」を知る人が、だからこそ感じることができる「友愛」の尊さを歌っているようにも感じる。サウンドとは裏腹に、本作『パレードが続くなら』のなかでも、とても繊細な表情を担うこの曲について、YUKIはこのように語っている。
YUKI:「このままの私でも大丈夫」「そのままの私でいいんだよ」と言ってくれる家族や身近な友人、仕事仲間、なかなか会えないけど遠くからでも思いを寄せてくれる友人たちが私にはいて、その人たちがかけてくれた言葉や、黙って傍にいてくれたこと。20周年記念ツアー(YUKI concert tour “SOUNDS OF TWENTY” 2022)では、そういう人たちが、自分の心の支えになっていることを、とても思ったんです。感謝の気持ちが、この曲には自然と入ったんだなと思います。
私は女子高に通っていたんですけど、女子高の3年間は初めてバンドのボーカルとして、人前で歌うということを経験した時期なんです。15〜17歳のときっていろいろなことに過剰で、その過剰だった頃の自分のことをつい忘れていってしまうんですけど、でもそれはいまの私につながっているので。私にとって歌詞を書く作業は、それを思い出す作業に近いのかなと思います。
<本当の孤独を 君は知ってた>という歌詞が、自分としてはすごく好きです。寂しさを埋めるためにいろいろなことをする10代。少なくとも私はそれで、たくさんの失敗をしてきていて。その頃の友人で、「そういうことを知っていたんだな、誰かに寄りかからなくても強かったんだな」と思う人がいて。その友人とはいまでも時々会うと、すごく元気になるんです。
アルバムは、ラストにかけてさらなる盛り上がりを見せていく。YUKIいわく「これは、ダンスの有酸素運動です。80年代のジェーン・フォンダ」と語る“Naked”は、ダンサブルなサウンドに乗せて肯定と祝福のメッセージが歌われる、本作でもっともアップリフティングなメッセージソングだ。
YUKI:私の生きる方針として、「否定」ではなく「肯定」をしていくぞと思ったときに、「どんな姿やどんな体でも美しさがある」ということを歌にできないかなと思ったんです。そういう気持ちはこれまでも、1曲まるまるではなくても、ところどころで曲に忍ばせてきてはいたんですけど、ここまでストレートに1曲にしてそれを言おうと思ったのは、初めてですね。
<どんな姿でも どんな顔しても/好きと言ってくれるの?>というのは、希望の歌ですよね。そういう人が傍にいる幸せ、「自分は自分でいいんだ」と思えることって、素晴らしいことなので。「私、飾り立てることも好きだし、いろんなお洋服を着るけど、脱いでも素敵なの」っていう(笑)。
ソロデビュー20周年を振り返り「一番嬉しかったこと」
そして、アルバムはアニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』のオープニングテーマとして書き下ろされた“鳴り響く限り”で締めくくられる。同アニメの主人公・村尾潤平に寄り添って書かれた歌詞でもあるが、同時に、エピローグとしての役割を担うYUKIの誇りと生命力が溢れる1曲である。
YUKI:20周年のお祭りの1作目としてのリリースだったので、20年間やってこられたことへの嬉しさと誇りを歌いたいなと思ったんです。この20周年のなかで私が一番嬉しかったことは、ものをつくっていくうえで溢れてくるイメージやイマジネーションが、この胸から消えていないんだ、ということです。20年やり続けてもまだ「自分の知らない自分がまだいるんだ」「自分がまだ歌っていない歌がまだあるんじゃないか?」ということを探求しようとする心も、まだ消えていないんです。
それに、20周年のツアーをやっていて気づいたことは、私は自分の過去の曲も愛していますけど、それでもやっぱり「新曲が歌いたくて仕方がない」という、自分のサガですね(笑)。「これはもうどうしようもないんだな」と、ツアー中に思いました。この欲求が消えない限りは、逃れられないんだなって(笑)。この心に気づいた20周年、よかったなと思います。さっきも言いましたけど、自分ではあまり過去を振り返ることがないので、そういうことにも気づかなかったんですよね。
こうしてYUKI自身の言葉とともに楽曲を紹介してきたので、シンプルに言い切ってしまうが、この『パレードが続くなら』というアルバムは、本当に素晴らしい作品である。『forme』や『Terminal』といった近年のフルアルバムで野心的に表現を拡張していくYUKIの姿も刺激的だったが、本作には、YUKIがYUKI自身を深く見つめながら音楽を生み出しているような質感がある。私たちを魅了してやまないYUKIという存在の魅力が、その音楽の王道が本作には溢れている。
私たちはこの先もYUKIに憧れ続けるし、きっとYUKI自身も、まだ見ぬ自分に憧れ続けるのだろう。最後は、自らの音楽の生まれる場所について語った、YUKIの言葉で締めたいと思う。
YUKI:私も日本に住んでいて、現実社会のなかで人として暮らしを営んでいると、いろんなことがあって。でも、「そんなときに流れてくる曲がこんな曲だったらいいな」とか「こういう曲があったらすごく嬉しいな」とか、そういうものが、どんどん出てくるんです。生活者として、「こういう曲があったらいいな」と思うものを、つくりたい。そういう気持ちがまだあるということが、すごく嬉しいです。
- リリース情報
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YUKI『パレードが続くなら』(通常版)
2023年2月1日(水)発売
価格:3,300円(税込)
品番:ESCL-5752
1. パレードが続くなら
2. タイムカプセル
3. My Vision
4. ハンサムなピルエット
5. Wild Life
6. Oh ! ベンガル・ガール
7. 私の瞳は黒い色
8. どんどん君を好きになる
9. Dreamin’
10. It’s 盟友
11. Naked
12. 鳴り響く限り
- プロフィール
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- YUKI (ユキ)
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1993年、JUDY AND MARYのボーカリストとしてデビュー。2001年、JUDY AND MARYを解散後、2002年2月にシングル“the end of shite”でソロ活動を開始。先鋭的なサウンドや前衛的なビジュアルで独自の世界観を確立。2012年5月、ソロ活動10周年を記念して開催した東京ドーム公演では、バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行なった女性シンガーとして「史上初」という記録をつくり、約5万人を動員。2022年2月6日、ソロデビュー20周年を迎え、新曲のリリースと全国ツアーを開催。