ROTH BART BARON×田中宗一郎 2020年代を僕らはどう生きるか?

ROTH BART BARON×田中宗一郎 2020年代を僕らはどう生きるか?

ROTH BART BARON『けものたちの名前』
インタビュー・テキスト・編集
山元翔一(CINRA.NET編集部)
撮影:木村篤史

ROTH BART BARON『けものたちの名前』を傑作たらしめているものはなにか?――11月6日、CDでのリリースに先駆けてデジタル配信された『けものたちの名前』。前作『HEX』も素晴らしい作品であったが、本作はその前作をも凌ぐ傑作だと思う。そう位置づけてしまうのは気が早すぎるかもしれないが、この『けものたちの名前』という作品がまとった特別ななにかを前にするとそうも言っていられない。

フロントマンの三船雅也と音楽評論家・田中宗一郎による対談の後編では、この『けものたちの名前』が特別なものとして、耳に、心に響く理由にとことん向き合った。ROTH BART BARONの現在地を紐解くと、私たちがどのような時代に生きているのかが見えてくる。この世界に対する解像度がグッと上がる気がする。なぜだろうか? それは『けものたちの名前』が、2020年代を作っていくであろう当事者たちのためのレコードだからなのだと思う。この作品に託されたものについて、ふたりの対話から探っていきたい。

ROTH BART BARONが特別なバンドである理由。併せて浮き彫りになる、2010年代の日本の文化的風土

左から:田中宗一郎、三船雅也(ROTH BART BARON)
左から:田中宗一郎、三船雅也(ROTH BART BARON)

ROTH BART BARON『けものたちの名前』を聴く(Spotifyを開く

―個人的な感覚として、国内で最初にROTH BART BARONを正当に評価して、大々的にプッシュしたのは『The Sign Magazine』であり、タナソウさんだと思っているのですが、そもそも彼らをどういうふうに捉えているのか教えてください。

田中:ROTH BART BARONはゼロ年代のUSインディーに刺激されて、フォークというサウンドを現代的に再定義し続けてきたバンドですね。と同時に、サウンド、ビジュアル、バンドの運営の仕方、あるいはYouTubeやソーシャルメディアの使い方ーー活動すべてのあらゆるパラメータにおいて、クリエイティビティを抜群に発揮してるんだけど、それがあまりにも報われていないバンド(笑)。

三船:そうです! ご名答(笑)。

田中:こんなに全方位的にキチッと全てのアウトプットを楽しみながら、クリエイティブに繋げて、高品質なものを作っているのにもかかわらず、それをシェアしているパイがあまりにも小さすぎる。そういう意味からすると、世界に類を見ないバンド(笑)。

―タナソウさんが音楽に対して「高品質」という言葉を使うとき、それはどういう意味を指しているんでしょうか?

田中:「高品質」であることの定義って、それぞれの時代、それぞれのコミュニティーごとに違ってくるでしょ。だからこそ、この2019年において、なにがハイクオリティーであるかということについては、なかなか答えは出ないわけです。

ただ、大方のバンドやクリエイターは、すでに多くの人々に承認された「高品質」なものを作ろうとする。だけど、ROTH BART BARONの場合は今、もしくはこれから先、ハイクオリティーと呼ばれるものはなにか? について常に考えていて、それを常にアウトプットしてる。つまり、未来の観客に向けて語りかけている。

田中宗一郎(たなか そういちろう)<br>編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。Spotifyプレイリスト『POP LIFE』の選曲、『POP LIFE: The Podcast』の制作出演。
田中宗一郎(たなか そういちろう)
編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。Spotifyプレイリスト『POP LIFE』の選曲、『POP LIFE: The Podcast』の制作出演。

田中:ポップアーティストって、ひたすら自分自身の表現を純化させていく人もいるでしょ。でも、ROTH BART BARONは、常に時代と並走することを自分に課しながらも、常に過去の自分たちを裏切るようにして、常に先を見て、それを作品に落とし込んできた。

ただ必ずしも「これだ!」という確信があるときばかりじゃなくて、彼ら自身の迷いや困惑も同時に作品にキャプチャーされてるんですね。だから、彼らの作品を聴いていると、どこか真っ暗な洞窟のなかでひたすら懸命に光を追いかけているような光景が浮かんでくる。だから、作品自体もそうした彼らの道程のドキュメントにもなっている。

ROTH BART BARON『HEX』(2018年)を聴く(Spotifyを開く

田中:そういう意味からすると、あらゆるアートに関わる人がやるべきことをやっている。でも、この日本の風土で、大方の人がそんなアートのあるべき姿なんて考えもしなくなってしまった。作り手側も受け手側も、もはや固定化されてしまった価値観にアクセスするというメカニズムが当たり前だと思ってしまっている。要するに、産業化ってことですけど(笑)。ROTH BART BARONのやってることがなかなか伝わらないのもそういうことなんだろうな、ってここ5年くらいずっと思ってる(笑)。

三船:わかる(笑)。

田中:ROTH BART BARONの活動の遍歴を見ていると、彼らを取り巻いている2010年代の日本の文化的風土がどんなものなのか、むしろそれが浮かび上がってくるんですよ。つまり、受け手の人たちはアートに対して自分自身を肯定してくれることや安心は求めてはいても、驚きや発見、あるいは、自分が昨日までの自分ではいられなくなってしまうような事故や畏怖の念といったものを求めてはいないんだな、と。

田中:ただもちろん、これだけまったく先行きが見えなくて、今も非常に不安定な日本の経済的、社会的、政治的な状況を考えると、誰もが安心に向かうのはわかるんだけど。

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リリース情報

『けものたちの名前』(CD)
ROTH BART BARON
『けものたちの名前』(CD)

2019年11月20日(水)発売
価格:2,750円(税込)
PECF-1177 / felicity cap-318

1. けもののなまえ
2. Skiffle Song
3. 屋上と花束
4. TAICO SONG
5. MΣ
6. 焔
7. HERO
8. 春の嵐
9. ウォーデンクリフのささやき
10. iki

イベント情報

ROTH BART BARON
『TOUR 2019-2020~けものたちの名前~』

2019年11月27日(水)
会場:東京都 渋谷 WWW X

2019年11月29日(金)
会場:宮城県 仙台 Darwin

2019年12月21日(土)
会場:台湾 台北 The Wall

2020年2月1日(土)
会場:富山県 高岡 飛鳥山善興寺

2020年2月2日(日)
会場:石川県 金沢 アートグミ

2020年2月7日(金)
会場:福岡県 the voodoo lounge

2020年2月8日(土)
会場:鹿児島県 SR Hall

2020年2月9日(日)
会場:熊本県 NAVARO

2020年2月10日(月)
会場:山口県 岩国 Rock Country

2020年2月11日(火)
会場:会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2020年2月22日(土)
会場:愛知県 愛知芸術文化センター 中リハーサル室

2020年2月23日(日)
会場:会場:広島県 福山 Cable

2020年2月28日(金)
会場:北海道 札幌 Sound Lab mole

『肘折国際音楽祭』

2020年3月7日(土)
会場:山形県 肘折温泉

2020年3月8日(日)
会場:青森県 八戸 Powerstation A7

2020年3月22日(日)
会場:京都府 磔磔

2020年5月30日(土)
会場:東京都 めぐろパーシモンホール 大ホール

詳細情報

ROTH BART BARON「PALACE Premium」

ROTH BART BARONによるファンコミュニティの有料版。「PALACE Premium」では、ROTH BART BARONライブの生配信や動画配信、バンドメンバーによるラジオ配信、デモ音源や写真の販売、ここでしか投稿されないトピックなど、「PALACE」では公開されない限定コンテンツをお届けします。有料版「PALACE Premium」でご支援いただいた資金は、バンドの活動資金、また新しいアルバムや Music Video の制作費に充てさせていただきます。制作のプロセスや使い方などもコミュニティの中で共有していく予定です。ROTH BART BARONをよりもっと深く楽しみたい方へ、新しいコミュニティ「PALACE Premium」をどうぞよろしくお願い致します。

プロフィール

ROTH BART BARON
ROTH BART BARON(ろっと ばると ばろん)

三船雅也(Vo,Gt)、中原鉄也(Dr)から成る2人組フォークロックバンド。2014年、米国フィラデルフィアで制作されたアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』でアルバムデビュー。2015年、2ndアルバム『ATOM』をカナダ・モントリオールにて制作。2017年、EP『dying for』英・ロンドンにて制作。2018年、3rdアルバム『HEX』を発表し、『Music Magazine』『The Sign Magazine』をはじめ多くの音楽メディアにて年間ベストにランクイン。2019年、ファンコミュニティー「PALACE」の有料版「PALACE Premium」が始動した。

田中宗一郎(たなか そういちろう)

編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。Spotifyプレイリスト『POP LIFE』の選曲、『POP LIFE: The Podcast』の制作出演。

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