SNSのバズがバイラルチャートに反映。ライブパフォーマンスに秀でたアーティストに期待
Spotifyが2023年に躍進を期待する次世代アーティスト『RADAR: Early Noise 2023』を1月12日に発表。選出されたアーティストを紹介するSpotify公式のMusic+Talk番組が同日配信された。出演者は前回同様、Spotifyの芦澤紀子と音楽コンシェルジュのふくりゅう。司会は名古屋にあるFMラジオ局「ZIP-FM」のナビゲーターAZUSAが務めた。
『RADAR: Early Noise』は、その年に躍進が期待されるアーティストを年初に発表。その魅力をプレイリストやライブイベントなどを通じて1年間、継続的に音楽ファンに紹介するSpotifyの新人サポートプログラムである。これまでにあいみょんやKing Gnu、ずっと真夜中でいいのに。、藤井 風、Vaundyといったアーティストをいち早く紹介。このプログラムを通じて多くの新しいリスナーを獲得した彼らはみな、次のステージへとステップアップを遂げている。
2017年に日本でスタートした『Early Noise』は、世界中の音楽リスナーに各国の新進アーティストを紹介するグローバルプログラム『RADAR』と2020年3月に連携し、『RADAR: Early Noise』へと進化。昨年はao、秋山璃月、ego apartment、CVLTE、菅原圭、tonun、Bialystocks、Bleecker Chrome、Penthouse、Wurtsの10組を選出している。
Music+Talkでは、まず芦澤とふくりゅうが2022年の音楽環境について、藤井 風の“死ぬのがいいわ”を例に出しながらこのように振り返った。
芦澤:2022年はフェスやツアー、イベントなどリアルなライブの復活が続いたことが、エンターテイメント業界にとって久しぶりに明るいニュースとなりました。
Spotifyも『Early Noise Night』を2年半ぶりに開催したり、『SUMMER SONIC』や『RADIO CRAZY』など音楽フェスとコラボしたりすることができた一方、TikTokやYouTubeなどの動画投稿サイトを起点としたバズがSpotifyのバイラルチャートに飛び火。大きなヒットにつながるケースがこれまで以上に増えており、藤井 風の“死ぬのがいいわ”のように世界規模でバイラルヒット化する事例も出てきました。
リアルなつながりが分断されていた数年間のあいだに、ネットやSNSを駆使するアーティストが増え、そうした動きがより浸透し新しい音楽の発見のされ方、広がり方が定着してきた印象はあります。
ふくりゅう:“死ぬのがいいわ”は、シングルではなくアルバム収録曲。これまでの音楽メディアでは、このような広がり方はなかったと思います。しかも、世界へスムーズに通じて広がっていくという。今後、SNSの使い方が上手なアーティストはより「世界」が近くなっていくのではないでしょうか。経験も作品数も関係なく、センス一発でオーバーグラウンドにも認知される。それって夢やロマンがあると思います。
さらに2023年のシーンの動向について、芦澤はこのように予想する。
芦澤:SNSを起点にしたバズがストリーミングに波及して大きなヒットにつながるという、2022年の傾向はおそらく今年も引き続き見られるのではないかと思っています。
その一方で、一定の制約がありながらもリアルな空間でのライブやフェスが定着していき、よりライブパフォーマンスに説得力があるアーティストや、自己演出に長けたアーティストが最終的には高く評価されていくのではないか。そんな予想というか、期待がありますね。
ネット発のアーティストに脚光。ファンベースに将来性を見出す
そんな2023年の音楽シーンの動向を踏まえ、Spotifyが選んだ今年活躍が期待される『RADAR:Early Noise 2023』は、Skaai、DURDAN、Tele、TOMOO、なとり、春ねむり、Furui Riho、ヤングスキニー、LANA、れんの10組だ(50音順)。
このセレクトについてふくりゅうは「ネット発のアーティストの活躍が当たり前になったことを象徴するような、めちゃくちゃ面白いセレクト」と太鼓判を押す。すでにファンベースを持ちつつ、まだお茶の間レベルでは広がりきっていないアーティストが多いのも特徴で、『Early Noise』でのフックアップによってさらに伸びていく可能性に「ワクワクさせられる」と話した。
芦澤:おっしゃる通りです。『Early Noise』の選出は、毎回何百という候補のなかから絞り込む「楽しくもつらい作業」があるのですが(笑)、その際アーティストのポテンシャルや作品の素晴らしさは欠かせない要素ですし、リリースなどコンスタントな活動状況があるかどうかも確認しています。それと同等か、それ以上に今年考慮したのがデータの分析。「オーガニックなリスナーベースをすでに持っているか?」をより精査しましたね。
さて、ここからは昨年と同じように10組のアーティストをいくつかのグループにわけて1曲ずつ紹介していく。今年は、TOMOOとFurui Riho、Teleの3組を「進化を遂げるソロアーティスト」、ヤングスキニーを「令和の新世代バンド」、なとりとれんを「SNSから発信するZ世代のシンガーソングライター」、SkaaiとLANAを「ヒップホップ発クロスオーバーアーティスト」、そしてDURDNと春ねむりを「グローバルに広がるボーダーレスアーティスト」に分類した。
非常に興味深い顔ぶれだが、なかでも筆者が注目しているのは、TOMOOとヤングスキニー、そして春ねむりの3組だ。
TOMOOについてふくりゅうは「神様に選ばれた歌声」と絶賛する。
ふくりゅう:1970年代、1980年代を彷彿とさせるエバーグリーンなポップセンスが、世代を超えてファンの心を掴むと思います。TOMOOは高校時代にヤマハのコンテスト『Music Revolution』で、ファイナリストにも選出されています。
『Music Revolution』からは、ROTH BART BARONや吉澤嘉代子も出ていますが、この時点でTOMOOはそんなにブレイクしませんでした。それがいま、こうやってストリーミングカルチャーのなかで知名度を上げ『Early Noise』に選出されるという。今後この流れがどんなふうに広がっていくのか、ワクワク感でいっぱいです。
アーティストとともに、その成長過程を垣間見られる『RADAR: Early Noise』
ヤングスキニーは、コロナ禍で結成された東京発の4ピースギターロックバンド。今回『Early Noise』に選出されたロックバンドは彼らだけである。
芦澤:コロナ禍に入ってからフェスやツアー、ライブイベントが開催できない時期が長く続き、バンドシーンがこれまでのようには立ち行かなくなって「模索の時期」が続いたように思います。
それが、2021年末くらいからマカロニえんぴつ“なんでもないよ、”や、Saucy Dog“シンデレラボーイ”など、楽曲力に引っ張られるかたちのストリーミングヒットが続くなかで、ライブやフェスの代わりにSNSやストリーミングを駆使して共感を広げるタイプのバンドシーンが活性化してきたことを去年は体感していました。その筆頭格として選出したのがヤングスキニーという経緯です。
春ねむりは、今回選出したアーティストのなかでは比較的キャリアも長いアーティストである。コロナ禍になる前から海外でのライブを積極的に取り組んでいたが、コロナ禍を経て昨年3月にはSXSWを含む北米ツアーを開催し、すべての公演がソールドアウトしている。
ふくりゅう:もともと彼女はハードコアパンクなセンスを持っているし、数年前は神聖かまってちゃんのようなロックサウンドを奏でているイメージがあったのですが、最近はヒップホップやR&B、賛美歌、アンビエント、オルタナティブロックなどいろいろな要素を「ごった煮感覚」で消化している面白さが、海外のコアな音楽ファンに刺さっています。一見大人しそうに見えてライブでシャウトするわ、客席にダイブするわ(笑)、パフォーマンスの盛り上げ方も含めてすごいアーティストだなと思います。
リリックでは結構辛辣な言葉もあるので聴く人によってはビビってしまうかもしれないのですが、谷川俊太郎の同名の詩に影響を受け、引用している“生きる”はめちゃくちゃポップ。言葉の選び方や気持ちの伝え方が秀逸ですし、アイデンティティーのあり方はRina Sawayamaにも通じるというか。こういうアーティストが日本から生まれて海外のツアーで大成功を集めていることに鳥肌が立ちます。
こうして『RADAR: Early Noise 2023』の選出アーティストを1組ずつ紹介し、今後の活躍に期待を込めながら番組の最後をこう締めくくった。
芦澤:本当に多彩なアーティストを選出しているので、これからどういう成長を1年後に遂げているのか楽しみです。年間で選出していますが、1年間限定ではなく長期的に応援していくのが『Early Noise』の良さ。最近ロングスパンで成功するアーティストも多くなってきていますし、今後も長きにわたって応援していきたいと思っています。
ふくりゅう:『Early Noise』はアーティストと一緒にその成長の過程を楽しめる、そんなチャンスをもらえるプログラムといえるでしょう。今年はぜひこの10組の成長に注目してほしいですね。