Spotify×レコードの日。次世代を担うアーティスト3組に聞く、サブスク時代のアナログの魅力

「アナログレコードの魅力を一人でも多くの人に知ってほしい」という思いからスタートした『レコードの日』。国内最大級のアナログレコードのイベントとして、2022年で8年目を迎える。本イベントはすでにDAY1が11月3日に開催され大きな盛り上がりを見せたが、12月3日にはいよいよDAY2が開催される。

DAY2では『レコードの日』特別企画として、Spotify全面サポートのもと、今後の活躍が期待される気鋭のアーティストを選出した「RADAR: Early Noise」から、ego apartment、カメレオン・ライム・ウーピーパイ、にしなの3組が初アナログ化となる作品をリリースすることが決定。2020年には同様の企画でVaundyが『strobo+』をリリースして、大きな反響を呼んだ。

一見真逆の価値観のようにも思われるアナログレコードの祭典とサブスクリプションサービスが、なぜ共同で企画を行なったのか? 初のアナログ作品をリリースする3組へのメールインタビューとともに、この取り組みを紹介する。

過去最多、約200タイトルのレコードがリリース

12月3日にDAY2が開催される『レコードの日』。そもそも『レコードの日』とは、日本レコード協会が1957年に制定し、「レコードは文化財」ということから文化の日(11月3日)を記念日とした。そして、世界的なレコード需要の高まりを受け、アナログレコードプレスメーカーの東洋化成が2015年よりこの日を盛り上がるお祭りとして、さまざまな企画を展開し、2021年から2日間の開催となっている。

2022年のオフィシャルアンバサダーにはtofubeatsが起用され、キービジュアルが目印のポスターが全国のレコード店で掲示されているほか、アナザーキービジュアルとして、レコードにまつわる短編漫画集『音盤紀行』で話題の毛塚了一郎書き下ろしイラストによるポスターも作成。公式パンフレットにはレコードができ上がるまでを描いた漫画『毛塚了一郎 東洋化成に行くの巻』も掲載され、レコード工場の裏側を漫画で楽しむこともできる。

2022年のリリースはDAY1・DAY2合わせて約200タイトルと過去最多。DAY1では2019年に発売されて即完した『DOWN TOWN』に続くTAHITI80の日本語カバー第二弾『風を集めて/Andy’s Car Chase』をはじめ、フジファブリック『若者のすべて/セレナーデ』や、広瀬香美『ロマンスの神様/ゲレンデがとけるほど恋したい』といった時代を超えて愛される名曲の7インチが大きな反響を呼んだ。

DAY2も話題作が目白押しで、PUNPEEの『MODERN TIMES』をはじめ、OMSBやVaVaといったSUMMIT所属のラッパー勢のリリースに、くるりの名曲『ワールズエンド・スーパーノヴァ』が12インチでリリースと、このあたりは家聴きのリスナーはもちろん、DJ人気も高いことは間違いない。また、『星野源のおんがくこうろん』シーズン2で取り上げられることが決まったrei harakmiの『lust』も即完間違いなしの人気作だ。

アナログとサブスク。両方の特徴をそれぞれ楽しむ人が増加

さらには『レコードの日』特別企画として、Spotify全面サポートのもと、今後の活躍が期待される気鋭のアーティストを選出した「RADAR; Early Noise」から、3組のアーティストが初アナログ化となる作品をリリース。2020年にはVaundyがSpotifyサポートによる初アナログ作品『strobo+』をリリースして大きな話題となったが、今回はego apartment『EGO APARTMENT』、カメレオン・ライム・ウーピーパイ『MAD DOCTOR Xtra』、にしな『1999 -Spotify Analog Edition-』の3作がアナログでリリースされる。

初アナログ化に伴い、各アーティストのLPにはスペシャルリミックスやボーナストラックが収録され、ファンには嬉しい内容に。またジャケットにはSpotifyコードが入っていて、スペシャルリミックスやボーナストラックもSpotifyで配信されるので、アナログとサブスクの両方で楽しめる仕様となっている(配信開始は12月3日以降を予定)。

アナログレコードとサブスクリプションサービスというのは一見真逆の価値観のようにも思えるが、現代ではその両方の特徴をそれぞれ楽しむ人が増えている。そもそもまず海外でアナログレコードのブームに火が点き、それが飛び火するかたちで日本でも近年アナログの需要が増したわけだが、そのタイミングは日本でサブスクが広まるタイミングとリンクしていたようにも思う。

その過程でCDの需要は減っていったかもしれないが、サブスクで好きな音楽を発見し、そのなかでも特別好きになったアーティストの作品をアナログで購入して、家でじっくり聴くことによってより音楽そのものが好きになるという、好循環が起きていると言っていいだろう。デジタルとアナログでの「音」の違いを知ることも、若いリスナーにとっては大きな体験になるはずだ。

Vaundyは2020年の『レコードの日』に伴うインタビューで、これまで自身はアナログレコードに触れてきておらず、中学生のときはYouTubeで、大学生になるとサブスクで音楽を聴くようになり、「自分の作品がCDになるとも思っていなかったので、アナログになるっていうのはわりと衝撃です」と答えている。2000年生まれで現在22才のVaundyがこの感覚なので、いまの10代にとって「アナログレコードで音楽を聴く」ということはまさに「新体験」だろう。

その一方で、「所有」の価値は未だに大きいし、部屋を彩るおしゃれなインテリアとしてのアナログ需要も大きい。コロナ禍に伴うお家時間の拡大も相まって、気軽にどこでも聴けるサブスクと、家でゆっくり楽しむアナログという価値観は背反することなく、共存しているのが現代。『レコードの日』とSpotifyのコラボレーションはそんな時代をよく表していると言える。

「RADAR: Early Noise」選出3組のアナログへの想いとは

ここからは、今年アナログをリリースする「RADAR: Early Noise」選出の3組に対するメールインタビューを紹介していこう。

ー自身の作品がアナログ化されることについて、どんな感想をお持ちですか?

Dyna(ego apartment):レコードだと再生したときに直感的にBPMやピッチを変えることができるので、自分たちでつくった曲に自分たちでまた変化を加えて聴けるのが楽しいです。

Chi-(カメレオン・ライム・ウーピーパイ):自分の曲を CDとかかたちにしたことがないので、かたちになること自体が不思議な気持ちでした。ジャケット写真のアートワークをいつもこだわってつくっているので、そのジャケット写真が大きくなって部屋に飾れるのが可愛いです。

にしな:とてもうれしいです! アナログレコードは持っていないのですが、いつか欲しいなぁと思っていた矢先、自分の作品がアナログ化されて、初めてのアナログとしてゲットできるのがなんだかとても不思議な気持ちです。

カメレオン・ライム・ウーピーパイはこれまでのリリースがすべてデジタルで、CDをリリースしたこともないため、今回のアナログが初めてのフィジカルリリース。今後はこういったアーティストも増えてくるだろう。そして、「ジャケット写真のアートワークをいつもこだわってつくっている」という言葉通り、デジタルでは青い空だったアートワークの背景が、アナログだと黄色に変わっていて、また違った印象を与えている。

デジタルとアナログ(フィジカル)だと「アルバム」という形態に対する捉え方も変化するだろう。最近だとデジタルのアルバムをプレイリスト感覚でつくるアーティストも増えていて、ego apartmentの『EGO APARTMENT』は特にそんな雰囲気がある。しかし、アナログだと曲順通りに聴くことを前提とし、さらにはA面・B面でわけるので、より作品性が強まり、つくり手の意識変化を促すことにもつながるはずだ。

ーアナログ化にあたって、オリジナルから追加される内容について教えてください。

Dyna:ZenとPeggy Dollの声ネタが収録されているので、よかったらトラックメイカーのみなさん! お手元の機材でサンプリングして遊んでください!

Chi-:“Mad Doctor (Whoopies Wa Remix)”が追加されてます。原曲の“Mad Doctor”のいかれたポップな感じをいかれたダークな感じにして少し和を混ぜました。

にしな:“ホットミルク”という11月に配信になった楽曲がボーナストラックとして収録されます。ほんのりあったかくて、ほんのり冷たい、心地よい歌です。アナログに特別感がより出て、いまから完成が楽しみです。

一曲目にリミックスを追加収録しているカメレオン・ライム・ウーピーパイと、最後にボーナストラックとして新曲を追加収録しているにしなという違いも面白いが、さらに注目なのが「声ネタ」を追加収録しているego apartment。最初の質問にも「レコードだと再生したときに直感的にBPMやピッチを変えることができる」と答えているように、Dyna自身がトラックメーカーということもあってか、DJユースな視点でレコードを捉えていることが伝わってくる。

ーサブスクリプションサービスの伸長の一方で、アナログの需要も高まっている現在の状況について、どんな印象をお持ちですか?

Dyna:すごく当たり前な話になってしまうのですが、前提として、空気の振動が耳の鼓膜に伝わり、そこで初めて音楽を認識できる。つまり、直接手に持ったり投げたりできないものが音楽であると思うんです。それを唯一手に持って触れることのできる媒体がレコードやカセットテープであると思ってます。なのでアナログの需要が高まっている現状は音楽ファンとしてとても嬉しいです。

Chi-:私はストリーミングサービスを使って曲を聴いてます。アナログ盤は部屋に飾ってます。アナログ盤は好きな曲やアートワークがかたちになって、部屋で音楽が見える感じになるのが良いです。かたちにすると作品をより深く好きになります。両方とも好きなので、良い時代だなと思います。でも正直インターネットがなかった時代が羨ましくもあります。

にしな:世の中が便利になればなるほど、その反動なのか便利過ぎないことへのロマンみたいな魅力が生まれるのだと思っています。ないものねだりではないですが、そういうもんだよなぁと感じます。

「(ストリーミングサービスもアナログ盤も)両方とも好きなので良い時代だなと思います。でも正直インターネットがなかった時代が羨ましくもあります」というChi-の言葉と、「世の中が便利になればなるほど、その反動なのか便利過ぎないことへのロマンみたいな魅力が生まれるのだと思っています」というにしなの言葉には、何とも考えさせられる。やはり、近年のアナログブームには、サブスクが多くの人に普及したことの裏返しという側面が確実にあるだろう。

だからこそ、アナログとサブスクが反目し合うのではなく、お互いの魅力を高め合う方向に作用するのはとても重要なことだ。サブスクで聴くことも、アナログで聴くこともより一般的になることで、そのどちらも内包した「音楽好き」が増えることが、何より望ましいのだから。

イベント情報
レコードの日 2022

DAY1:2022年11月3日(木・祝)
DAY2:2022年12月3日(土)


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