2021年の音楽シーンを変えたチェンジメーカー、それがAdoだ。ボカロ文化圏における「歌い手=ボーカリスト」の革命児、Adoの登場は衝撃的だった。17歳最後の日である2020年10月23日、メジャーデビュー曲“うっせぇわ”を発表。国民的ヒットとなった同作は、2021年の流行語大賞にも選ばれ、Adoの名前は閉ざされた「湖」から開かれた「大海原」へ向かって一人歩きしていくかのようだった。
そんなAdoが満を持して、メジャー1stアルバム『狂言』を2022年1月26日にリリースした。最近では雑誌やウェブのインタビューやテレビ、ラジオなど、顔出しはせずともメディアへ登場する機会が増え、その魅力的なキャラクターも伝わってきたが、アルバムでは高音、低音、がなり、囁きを巧みに使い分けた歌声で、あらためて「歌い手」としてのスキルフルな才能を証明している。
全14曲を収録した本作には、Ado自身がリスペクトする、まふまふ、syudou、すりぃ、DECO*27、Giga、Neru、みきとP、くじら、Kanaria、Jon-YAKITORY、柊キライ、てにをは、煮ル果実、biz、伊根など、錚々たるボカロPたちがつくり手として参加。現在Adoは、夢のようなデビューアルバムが完成した安堵感と、“うっせぇわ”以降の成功体験に対する戸惑いを同時に感じているという。
そんなAdoの本音が垣間見える、音声による楽曲解説プレイリスト「Liner Voice+」完全版と併せて、抜粋編となる本記事から、Ado自身がアルバムへ込めた想いを受け止めてみてほしい。ストーリーを知ることで、アルバムの聴き方が変わるかもしれない。
「イントロからショーが始まる感じがした」。オープニングを飾る“レディメイド”
Adoというアーティスト名は、日本の伝統芸能・狂言の用語である「アド」に由来するという。「シテ(主役)」に対する相手役、いわゆる「脇役」を指すワードだ。
「なるほど!」と、腑に落ちた。Adoが「歌い手」としてこれまで歌ってきた楽曲は、つくり手であるボカロPが提供した「脚本=作品」であり、Adoはそれを実体験ではなく物語として、「歌い手」としての類稀なるスキルで演じていたのだ。
しかも、主役は作品のつくり手と、聞き手であるあなただ。活動コンセプトをアーティスト名に込めていたことに驚かされた。そんな背景も踏まえて『狂言』と名づけられたメジャー1stアルバムは、人気ボカロP「すりぃ」の手による“レディメイド”からショーの幕が上がる。
Ado:すりぃさんは、じつは初投稿時から拝聴している方なんです。たしか“空中分解”の1分のショートバージョンで。その頃から、すごい方が現れたなあと気になってたんです。なので、“レディメイド”を書き下ろしていただいたことは感慨深いものがありました。
“レディメイド”はジャジーで大人っぽい雰囲気の曲なんですけど、サビでは高音を張りあげるような歌い方をしています。すごくリズミカルで体が動き出すグルーヴ感がたまらないですね。デモのときからテンション上がって、ノリノリでレコーディングしました。
録音したときは、まだ高校3年生だったので、<大人にだけはなりたくなんかない>のフレーズは、自分と重なる部分がありましたね。“レディメイド”をアルバムの1曲目にしたのは、イントロからショーが始まる感じがしたんですよ。なので、アルバムのオープニングにふさわしいなって。
“踊”をリリースしてからの数か月は「自分のことを陽キャだと思って胸を張って生きていました(笑)」
Adoの活動を振り返るうえで、“うっせぇわ”以降、続けざまにリリースされた“レディメイド”“ギラギラ”“踊”の存在は大きかった。
特に、本作で2曲目に収録された“踊(おど)”は、作詞にDECO*27、作曲・編曲にはボカロ文化圏で人気を誇りながらReolのトラックメーカーとしても活躍するGigaと、海外人気も高いDJ / 音楽プロデューサーのTeddyLoidというスペシャルなメンバーが参加。まさに、EDMライクでダンサブルな曲であり、文字どおり心が踊るAdoの新機軸となったナンバーだ。
Ado:“踊”を歌ってリリースした数か月は、自分のことを陽キャだと思って胸を張って生きていました(笑)。GigaさんとTeddyLoidさんのEDM感が新鮮で、ラップパートもあったので正直ちゃんと歌えるかなっていう心配もあったんです。でも実際録音すると、すごくテンション上がって歌っている自分も楽しくなりました。
作詞のDECO*27さんの言葉選びが素晴らしくって、<孤独は殺菌 満員御礼>とか。コロナ禍の時代に、この歌詞は攻めていてカッコいいなと思いました。
DECO*27さんは、いまもボカロのトレンドをつくっている方ですよね。Gigaさんの楽曲も昔から拝聴していたので、夢のように思っています。自分にとって、とても贅沢な楽曲ですね。
2019年以来のタッグが実現した“花火”。「書き下ろしていただいて熱かった」
“うっせぇわ”でAdoの存在を知った人は多いことだろう。しかし、2019年12月にAdoがゲストボーカルとして参加した「くじら」のヒット曲“金木犀”で、Adoの歌声に出会っていたリスナーは多いはずだ。現在へ通じる、夢物語のはじまりだ。
そんなくじらによるアルバムへの提供曲“花火”は新曲。シンセポップなリフが耳心地良い、青春を音のテクスチャーで表現したようなポップチューンとなっている。せつなさと喜びが共存する、なんともいえない感情をあらわした曲なのだ。
Ado:くじらさんの作品“金木犀”をフィーチャリングで歌わせていただいたのは大きなことでした。この曲から私を知ってくださった方が多くて。
“うっせぇわ”をリリースした際に、“金木犀”の動画のコメント欄を見返しにいったら、「これってAdoさんだったんだ!」という感想が多かったんです。私自身は特に意識して声を変えて歌っているわけではないんですけど、“うっせぇわ”とは印象が違ったみたいで。
「“うっせぇわ”の前から、知ってる知ってる!」って方が多かったのは、なんだか嬉しかったですね。
そのくらいくじらさんにはお世話になっているので、今回“花火”を書き下ろしていただいて熱かったですね。EDM、洋楽っぽい曲というか、普段の「くじら」さんのシティポップな曲とは違ったので新鮮でした。青春モノのアニメのエンディングとかで流れてほしいタイプの曲ですね。
“心という名の不可解”を提供したまふまふが「歌い手であることを大事にして『紅白歌合戦』へ出場してくれたことは嬉しかった」
10曲目の“心という名の不可解”には、特に注目すべきだ。「歌い手」の最高峰に君臨する一方、自ら詞曲、アレンジ、ミックスまで手がけるオリジナルナンバーでもヒット曲を多数抱える「まふまふ」による提供曲。せつなさと静けさとアッパーな盛り上がりで展開する、絶妙なる構成のロックチューンだ。
Ado“心という名の不可解”を聴く(Spotifyを開く)
まふまふはすでにドーム公演を成功させ、アーティストとしての人気を確立していたが、昨年末NHK『紅白歌合戦』出演の際、あえて自らのルーツである「歌い手」として出場した。このことはAdoにどんな影響を与えたのだろう。
Ado:オリジナル楽曲を歌うアーティストとしてのまふまふさんも、もちろん尊敬しています。ただ私はもともとボーカロイド曲が好きで「歌い手」さんという存在に出会って、その一人がまふまふさんだったんです。
「歌い手」としてのまふまふさんを知っていたので、「歌い手」であることを大事にして『紅白歌合戦』へ出場してくれたことは嬉しかったです。
“うっせぇわ”を聴いたときは「こんな強い楽曲で私はデビューできるのか! と興奮した」
Adoの代表作であり、2021年を代表するポップミュージックとなったアルバム11曲目“うっせぇわ”。本作はボカロPとして活躍するsyudouによる提供曲だ。
Ado“うっせぇわ”を聴く(Spotifyを開く)
同曲は国民的ヒットとなり、ボカロ文化圏を超えたリスナー層をも巻き込んだ、いわば社会現象にまで広がった。結果、歌詞のなかで若手社会人が上司へと向けた怒りの言葉、<うっせぇわ>に対する反響が一人歩きしはじめた。
Ado:変なことを言うようなんですけど、(現在の感覚としては)「そういえば“うっせぇわ”歌ったな」って感じで(苦笑)。ここだけ切り取ったら「なんやねん」って思われると思うんですけど。
もう、いろんなところで“うっせぇわ”を歌っていただいたり、使っていただいたので。「本当に自分で歌ったのかな?」って。自分の声が自分じゃないような気がしているんです。そういう戸惑いがありつつ、でも“うっせぇわ”のおかげでいまの自分がいるわけで。私を取り巻く環境がどんどん変わっていって、自分だけ置いていかれている気がしますね。
syudouさんの楽曲は昔から好きで、「歌ってみた」でカバーさせていただいたこともあるんです。どの曲もインパクトがあって耳に残りますし、syudouさんは独特の世界観を持たれていて、それを曲として表現されている方だなと思います。
それこそ初めて“うっせぇわ”を聴いたとき、すごいインパクトだと思ったんですよ。だって歌い始めから<正しさとは 愚かさとは それが何か見せつけてやる>って……姿勢が違うっていうか。歌詞も全体的にパンチがありますし、「こんな強い楽曲で私はデビューできるのか!」って興奮しましたね。
推してきたボカロPに書き下ろしてもらった“過学習”。「ボーカロイドに自分の声を寄せたかった」
こうして、Adoの名前は“うっせぇわ”を通じて、全国的に知られることとなった。そんなAdoがさまざまなボカロPたちによる提供曲を歌うことで、リスナーとボカロPとの新たな邂逅が生まれることも本作『狂言』における楽しみな要素だ。
さらに、次世代を牽引するであろう新しい才能もアルバムに参加している。ボカロP、伊根による“過学習”に注目したい。
それこそAdoは、かつてメディアで「2021年前後に見つけた『次くる』ボカロPたち」として伊根を紹介していたこともある。Adoは、自分自身を育ててくれたボカロ文化をさらに広げていこうという、恩返しのような使命感を持っているのかもしれない。
Ado:伊根さんを私はどれだけゴリ推ししてきたかっていう(苦笑)。まぁ勝手に紹介してきたんですけど、ついにアルバムに参加していただきました。勝手に感慨深くなっているんですけどね。
“過学習”はアルバム『狂言』のなかでも、伊根さんワールドというか、ボカロらしい楽曲なんですよ。歌い方で工夫した部分もあるんですけど、ミックスのボーカルディレクションでも指示を出しました。
全体的に無機質にしたかったんです。ボーカロイドに自分の声を寄せたかったんですよ。いわゆるケロケロなエフェクトというか機械的な声にして、ブレスを全部消してもらって。そこにブレスを3種類つくって、うまいこと差し込んでもらって、ボカロらしさを表現してみました。
アルバム『狂言』は、1枚目にしてベスト盤のような豪華な内容となった。「歌い手・Ado」のヒストリーを堪能しながら、「アーティスト・Ado」の成長を感じ取れる、プレミアムな作品集だ。
Ado:自分のリスナーさんもそうなんですけど、今回書き下ろしていただいたボカロPさんのファンの方もきっと楽しめる内容だと思いますし、ボカロソングを愛している方にとっても素敵なアルバムになったと思っています。ぜひ、聴いていただきたいですね。
Ado「Liner Voice+」を聴く(Spotifyを開く)
- リリース情報
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- Ado
『狂言』完全数量限定:フィギュア&書籍盤(CD+フィギュア+書籍+ハードカバーケース) -
2022年1月26日(水)発売
価格:9,900円(税込)
TYCT-692021. レディメイド
2. 踊
3. ドメスティックでバイオレンス
4. FREEDOM
5. 花火
6. 会いたくて
7. ラッキー・ブルート
8. ギラギラ
9. 阿修羅ちゃん
10. 心という名の不可解
11. うっせぇわ
12. マザーランド
13. 過学習
14. 夜のピエロ
- Ado
『狂言』初回限定:DVD&書籍盤(CD+DVD+書籍+ハードカバーケース) -
2022年1月26日(水)発売
価格:4,400円(税込)
TYCT-69203[CD]
1. レディメイド
2. 踊
3. ドメスティックでバイオレンス
4. FREEDOM
5. 花火
6. 会いたくて
7. ラッキー・ブルート
8. ギラギラ
9. 阿修羅ちゃん
10. 心という名の不可解
11. うっせぇわ
12. マザーランド
13. 過学習
14. 夜のピエロ[DVD]
MV集(Ado副音声入り)
1. うっせぇわ(Movie:WOOMA)
2. レディメイド(Movie:ヤスタツ)
3. ギラギラ(Movie:沼田ゾンビ)
4. 踊(Illust:かゆか、Movie:藍瀬まなみ)
5. 夜のピエロ(Illust:ケイゴイノウエ、Movie:神宮司)
6. 会いたくて(Illust:チェリ子、Movie Director:イノウエマナ)
7. 阿修羅ちゃん(Illust:寺田てら、Movie:MONO-Devoid)
- Ado
『狂言』初回限定:ゆらゆらアクリルチャーム盤(CD+ゆらゆらアクリルチャーム) -
2022年1月26日(水)発売
価格:3,300円(税込)
TYCT-692041. レディメイド
2. 踊
3. ドメスティックでバイオレンス
4. FREEDOM
5. 花火
6. 会いたくて
7. ラッキー・ブルート
8. ギラギラ
9. 阿修羅ちゃん
10. 心という名の不可解
11. うっせぇわ
12. マザーランド
13. 過学習
14. 夜のピエロ
- Ado
『狂言』通常盤(CD) -
2022年1月26日(水)発売
価格:2,750円(税込)
TYCT-692051. レディメイド
2. 踊
3. ドメスティックでバイオレンス
4. FREEDOM
5. 花火
6. 会いたくて
7. ラッキー・ブルート
8. ギラギラ
9. 阿修羅ちゃん
10. 心という名の不可解
11. うっせぇわ
12. マザーランド
13. 過学習
14. 夜のピエロ
- Ado
- プロフィール
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- Ado (あど)
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2002年10月24日、東京生まれ。2017年から歌い手として投稿を開始。その後、さまざまなボカロPの作品にボーカリストとして参加し、2020年10月に“うっせぇわ”でメジャーデビュー。MVおよびストリーミングの累計再生回数は合計4億を超え、社会現象となる。その後も“ギラギラ”“踊”がそれぞれストリーミング総再生回数1億回を突破。2022年1月26日に初のCDリリースとなるアルバム『狂言』を発表。4月4日には自身初のワンマンライブ『喜劇』を開催予定。