10月9日、梅小路公園でくるり主催の『京都音楽博覧会』(以下、『音博』)が開催される。2021年に結成25周年を迎え、今年1月・2月に記念公演を大阪・東京で開催したくるり。コロナ禍で過去2回の『音博』はオンラインで開催されたが、3年ぶりに有観客で開催されるこの日は、新たなタームの始まりとなる大切な一日になるはずだ。
今年の『音博』には槇原敬之、SHISHAMO、ブラジルからのアントニオ・ロウレイロ&ハファエル・マルチニという、ジャンルも国籍も関係ない「らしい」ラインナップに加え、「2022年の顔」といっても過言ではない活躍を見せるマカロニえんぴつとVaundyが参加。岸田繁は先日若手ロックバンドKOTORIのプロデュースも手掛けるなど、下の世代との交流が活発になっているように感じられる。はたして、これが意味するものとは? 『音博』の話を入口に、岸田に音楽と世代の関係性について語ってもらった。
過渡期を迎えていた『京都音楽博覧会』。2022年は「新しい感覚でやってみよう」
―3年ぶりに梅小路公園で開催される『音博』が約3週間後(取材時)に迫りましたが、現在はどんな心境ですか?
岸田:基本なにか大きいことがあっても、前日くらいに「あー」ってなるタイプなんです(笑)。もちろん、間が空いたので、ステージに立ったら嬉しいでしょうし、いろんな気持ちのたかぶりがあるとは思うんですけど……。コロナ禍の2~3年で、自分も含めて、みなさんの価値基準とか音楽との向き合い方みたいなものが以前とは変わった感覚があるんですよね。
なので、とりあえず今年やってみて課題もいっぱい見えると思うので、そこからまたどうつくっていくのがいいのか、まずは試金石を打ち込むみたいな、そういう心持ちではあります。
―『音博』はもともと結成10周年のタイミングにイベンターさんからの話を受けてスタートしているそうですが、これまで15年続けてきたなかで、バンドにとって『音博』を開催することの意味合いはどのように変化してきましたか?
岸田:ライブの場は仕事になりやすいというか、クリエイティブな制作の場とはまた別じゃないですか? チケットを買って来てくれるお客さんがいて、なんらかのパフォーマンスでそれにお返しするっていうのを「商売」といってしまうとすごく味気ないですけど、当たり前のこととして「興業」であって、収支のバランスがある。
大きなフェスだったら、いろんなスポンサーの方々との関係みたいなことが普通にあるわけで。でも私自身もそうだし、くるりのスタッフはもうちょっとゆるいというか、まあまあノリでやってきた部分もあって、そこはもっとちゃんとしていかないといけないねっていう話はしていて。なので、ちょっと前から過渡期だなと思ってたところで、コロナ禍が起こった感じでした。
―もちろん、大きなイベントなのでビジネスとしての側面は内包しつつ、『音博』は非日常のエンタメではなく、日常のなかで音楽が鳴ることを大事にしていて、その音楽はテレビのなかだったり、いまだったらストリーミングの上位にあるものだけでなく、もっと多様なものである。そこがくるりというバンド自体とリンクしていたと思うんですね。
岸田:これまでは音楽マニアとしての私たちの趣味の延長のようなかたちでずっとやってきて、『音博』自体が私たちの作品のようなものになっていたというのはあると思います。
ただ、これから先を考えたときに……たぶん、今年の『音博』以降は次のタームに入っていくというか、これまでとは違うものをつくっていきたい気もしていて。なので、今年は「いままでの『音博』を踏襲する」というより、「新しい感覚でやってみよう」という舵取りに近いかもしれないですね。
フェスの高齢化や人口ピラミッドの逆転をどう考える? 46歳になった岸田繁が直面するテーマとは
―フェスのような大規模イベントは続けるなかで当然さまざまな変化があって、今年の夏フェスでいうと「フジロックの高齢化」みたいな話がありましたよね。もちろん、オーディエンスと一緒に年を重ねていくことはなんら悪いことではなく、むしろいいことだとも思うし、その一方で、音楽をユースカルチャーとして捉えるなら、新陳代謝はあってしかるべきだとも思う。岸田さんはそういったことについてどのようにお考えですか?
岸田:すごく大きなテーマだと考えています。ちょっと話が脱線するかもしれないですけど、以前京都新聞の年始対談で、松本隆さんとお話をする機会があって。初めてちゃんとお会いして、いろいろ面白い話を聞くことができたんですけど、そのときに松本さんが、「いまは若い世代に向けて音楽の仕事をすることは得策ではない」という意味合いのことをおっしゃったんですね。
要は国内の人口ピラミッドの話で、ポピュラー音楽として、「多くの人に聴いてもらう」ということを考えると、人口の多い世代をターゲットにするのは当然のことだと。実際に松本さん自身がそう考えてるかどうかはわからないんですけど、ひとつの考え方として、それが結構衝撃で。
ぼくももうこの業界長いですけど、これまではつねに若い人に目配せをして、若いファン層を掘り起こすことをやっていかなくちゃいけないっていう、そういう考えに追われていたんですよね。
―その対談はいつ行なわれたんですか?
岸田:4~5年前くらいですかね(2018年1月の京都新聞に掲載)。で、それからいろいろ考えたんですけど……私はいま46歳で、大学で教えていて(岸田は京都精華大学の特任准教授)、学生はみんな20歳くらいなので、時代が何巡かしてるわけですよね。
私が一番いろいろな音楽を聴いていたのもその年代で、血眼になっていろんな音楽をかき集めて聴いてたわけなんですけど、やっぱりそのくらいの年代の音楽との向き合い方は力があるんです。いまの自分が聴きたい音楽は、3種類くらいしかないんですけど(笑)。
―つくり手としての興味で聴くのではなく、プライベートな空間で聴く音楽ということですよね?
岸田:そうです。自分の年齢を考えると、いち音楽リスナーとしては、自分の世界にどんどん入っていくのがいいと確信してるんです。ただ、くるりの人として、たくさん人に集まっていただいたり、多くの人の前で歌うことをやっていると、やっぱり若い世代に向けてやらなければいけないことがあるなって……あんまり考えたことなかったんですけど、それを痛感するようになってきて。
ただ、どこのフェスに出てもベテランになってきた私たちが、若い人たちに迎合する感じはくそダサいと思ってるんで、そういうことではなく、世代の離れた人たちの前でどう誠意を見せるか。これはいまの自分の年齢的に美味しいテーマだなと、そういうことも考えたりします。
小田和正、細野晴臣、石川さゆり……ベテランの力が大きかった『音博』からの転換
―今年の『音博』のラインナップは、いま話していただいた考えも加味して決めているわけですか?
岸田:そうです。歴代の『音博』って、ベテランの力に頼ってきたと思うんですよ。
―小田和正さん、細野晴臣さん、石川さゆりさんなど、くるりよりも上の世代の方もたくさん出られてますよね。
岸田:そうなんです。もちろん、若手が出てなかったわけではないですけど、先輩ミュージシャンの音楽力にずいぶん助けられてきたイベントで。あの、いつとは言わないですけど、くるりのファンの方のアンケート通りのブッキングをした年があったんですよ。
それまではアンケートを見ても、「わかっとらへんな」みたいな感じで(笑)、それは「驚きを与えたい」という気持ちが強かったからなんですけど、一回アンケート通りのブッキングをしたら、すごい受けが良かったんです。そのときに……なんかね、面白くないと思ったんですよ。
―あははははは。
岸田:『音博』はいわゆるロックフェスとは違う、謎の場所にしたいっていうのがなんとなくあって、分け隔てなくなんでも聴けるけど、来て疲れる感じにはしたくない。ただ来ていただいた方には集中して音楽を楽しんでほしいし、「誰かと出会いたい」とか「なにかを見つけたい」みたいなエネルギーを欲してるというか、そこは強く目指してるところではあって。
いままではベテランの方がぼくらをかわいがってくれて、石川さんとかに「くるりちゃ~ん」とか呼ばれてたんですけど、でももう46歳やから(笑)。なので、今年は若手の人たちに囲まれるのもいいんじゃないかと思ったんです。
2022年を代表する2組、マカロニえんぴつとVaundyが出演する背景と意義
―結果的には今年も非常に『音博』らしいラインナップになったというか、長く日本のポピュラー音楽のシーンで活躍してきた槇原さんがいて、ロックフェスでも活躍してきたSHISHAMOがいて、そこにミナスからのアントニオ・ロウレイロとハファエル・マルチニがいるという、この時点で『音博』じゃないとありえない組み合わせになっていますよね。
―さらにそこにマカロニえんぴつとVaundyという、いままさに旬な2組がいるというのが、今年の『音博』を象徴しているのかなと。
岸田:その2組が最初に決まったんですよ。若い人でそんなに知り合い多くないんですけど、雑誌やラジオの対談企画(マカロニえんぴつははっとりとの対談)でお会いする機会があったので、たまたま知ってる2組に声をかけた感じなんですけど(笑)。
―それでこの2組っていうのはすごい。
岸田:なので、ぶっちゃけこの2組のことをよく知ってるわけではないんですけど、でもすごく興味はある。お話をして、お二方ともポップアーティストとして強いものをお持ちだと思いましたし。
くるりが目指してるものと、マカロニえんぴつやVaundyが目指してるものは全然違う気もするんですけど、先輩のフェスで自分たちのライブをバーンとやったときに、どういうエネルギーが出るのかを見たら、意外と目指してるものも近いかもしれない。そういうことも感じられたらうれしいです。Vaundyのドラムはboboがやってるんですよね?
―そうですね。そこも含めて楽しみです。
岸田:ぼくら『音博』では全アーティストを観てるんですよ。最初から最後までライブを観てるんです。その人がなにを考えてステージに立ってるのかが全部見えるから。これまで出ていただいた方は全員素晴らしかったので、彼らがどんなライブをしてくれるのか、ぼく自身もいまから楽しみで仕方がないです。
マカロニえんぴつは「コスプレじゃない」、Vaundyは「考え方が面白い」
―はっとりさんとの対談では、マカロニえんぴつの好きな曲として“恋人ごっこ”を挙げていたと思うんですけど、好きなポイントはありますか?
岸田:オールドスクールだと思ったかな。でもコスプレじゃないというか、ちゃんとそういう音楽が好きでやってるんだなって。音大に行ってたそうですけど、「これ絶対ちゃんとやっとらへんな」と思って(笑)、そういうところも含めていいなと思いました。
―彼らは「ロック&ポップスコース」の出身みたいですね。
岸田:そんな感じですよね。「バンドマン」っていう感じがすごく伝わってきて、「バンドをやってるコスプレ」じゃない。ちゃんとソングライティングがあって、バンドがあってっていう、そういう印象ですね。
―Vaundyに対してはどんな印象をお持ちですか?
岸田:ぼくがお会いしたのはまだ彼が出たての頃で、曲の印象は「宅録なんや」っていう感じ。それよりも「歌の人なんかな」っていう。
―Vaundyはものづくりに対する意欲が強くて、作曲歴はまだ浅いと思うんですけど、吸収するセンスがすごくあって、楽曲のクオリティーがこの一年でグッと上がった印象です。
岸田:そう、最近の曲はちょっと別人感あって、びっくりしました。お話したときに、大学でデザインを勉強してると言ってて、そういう空間や造形の考え方とか、宅録するときのメソッド的なこととか、考え方が面白い人だなと思って。だから、彼の音楽そのもののことはまだあんまりよくわかってないけど、これだけ人気出たらさらに音楽に本腰を入れるだろうし、これからすごいもん出てくるんじゃないかなって。
尊敬する遠藤賢治に言われた「若手のプロデュースは絶対にするな」。それでも岸田がKOTORIのプロデュースを手がけた理由
―『音博』の話からはちょっと外れますけど、先日プロデュースで参加したKOTORIの“こころ”がリリースされましたね。
岸田:最初にお話をいただいて、パッと音を聴いたときは、「こういうバンドですか」って感じだったんですけど、生で音を浴びたり、お会いしてお話ししたりすると、なにがやりたいのかがよくわかって、いいバンドだなと思いました。
最初の時点ではまだ曲がなくて、「どういうふうにしたいの?」って、聞き取りからはじめて。俺あんまりやらないんですけど、LINEグループとかつくって。そうしたら「こういうことがやりたいです」とか「こういうのには飽きたんです」みたいな話が出たから、「じゃあ、こうやってみたら」みたいにキャッチボールをして。そうしたら、思ってたのとはいい意味で違う感じの曲になりました。
彼らはわりとハード目な、エモとかポストコア的なものがみんな好きみたいで、まずオケをつくってから歌を乗せてたみたいなんですけど、「一回それやめよう。弾き語りでつくって、それをバンドでやりましょう」と言って。本人たちがそれを楽しんでくれて、つくり方のバリエーションが増えたならよかったなって。
―若手バンドのプロデュース自体がひさびさだと思うんですけど、これも『音博』の話と同様に、「下の世代と積極的に関わりたい」というモードの表れだといえますか?
岸田:たまたま言うたらたまたまなんですけど……これはTwitterにも書いたんですけど、昔遠藤賢司さんに「若手のプロデュースとか絶対するなよ」って言われて(笑)。
岸田:それはいわゆる売れっ子プロデューサーみたいな感じになるなよってことだったと思うんですけど。一番くらいに尊敬している人の言葉だったんで、すごい引っかかっていて、プロデュースの話がきても遠巻きに断ったりしてたんですよ。
―2015年にプロデュースしたOKAMOTO'Sの“Dance With Me”以来ですかね?
岸田:まだ彼らがくそガキの頃ですけど、楽しい仕事でした。ただ、OKATOMO’Sのことはもともと知ってて、ぼくがファンだったのに対して、KOTORIのことは知らなかったから、「どうしよう?」とは思ったんです。で、正直スケジュールだったり、いろんな条件が重なって受けた部分もあるんですけど、でも興味はすごくあったんですよね。
さっきも言ったように、いまは週2で大学生とも会ってるんですけど、若いプロのミュージシャンがいまどんなことに期待して、どんなことを不安に思ってるのかとか、どんな金銭感覚で、どんな女の子が好きなのかとか、そういうのも含めて興味があったんです。あとは、ヒットを期待されてるというよりも、バンドとして次のレベルにいきたいっていう人たちに対して、それをサポートすることができたら、いい仕事したなと思えると思ったんですよね。
オアシスに象徴される1990年代リバイバルの機運。「私たちが若い頃に聴いてた音楽と、いまの学生たちが聴いてる音楽がだんだん被ってきてる」
―くるりの新曲の話もさせてもらうと、先日ドラマ主題歌にもなっている“八月は僕の名前”が配信されて、すごくいい曲だと思ったし、こういうUKロック感のある曲はひさびさだと思うので、個人的にうれしかったです。
岸田:“Don’t Look Back In Anger”をつくろうみたいなことになって、いまさらめっちゃ聴いて、そういう音にしてみたりして、それはそれで面白かったですね。「これこんなリヴァーブかかってるんや」とか「こういう部分は無視なんや」とか。
岸田:1990年代のこういう音楽って、リアルタイムで聴いてたから好きなんだと思ってたんですけど、根本的な構造として好きなんだなっていう気づきもありました。どこかでいまのポップスとかロックをよく思ってないというか、もちろんいいものもあるんですけど、2020年代のギターの録音とかプラグインの使い方に、自分はどこか中指を立ててる部分もあるんだなって。
―面白いなと思ったのが、マカロニえんぴつとVaundyもオアシスが好きなんですよね。それこそ“恋人ごっこ”には“Whatever”のオマージュ的な部分があったり。
岸田:ああ、そうですね。
―Vaundyは過去に“Don’t Look Back In Anger”を弾き語りでカバーしていて。
―たまたまと言えばたまたまかもしれないですけど、1990年代的なロックサウンドだったり、あるいはシンガロングできるメロディーだったり、そういうものがいま改めて求められてるのかなと思ったりもして。
岸田:ぼく、コンパクトなロックサウンドとかソングライティングがすごい好きなんですよ。たとえば、羊文学とかは曲の構造とか響き方がいいなと思う。でもそういうのって、「でかいロックで耳慣らししてないと入ってこない」みたいなことが、一般的にはあるのかなと思ってて。
そういう意味で言うと、オアシスはお茶の間の人たちにもロックサウンドをたくさん聴かせたわけですよね。ぼくらより上の世代はオアシスを「焼き直し」とか「へたくそ」と言って、聴かない人も多かったと思うんですけど、ぼくらより下の世代はオアシスをスタンダードなものとして聴いていて、みんな思ったよりあの耳になってるというか。
―なるほど。
岸田:あのギターの使い方って、エンジニアさんは嫌がるんですよ。リズムギターにリヴァーブをかけまくってるから、リズムの輪郭なくなるし、せっかくいいアンプを使ってるのに、音の芯がなくなって、しかもそれを上塗りして重ねてる。ちゃんとした教育を受けた人からすると、やったらあかんことをやってるわけで。
でも当時のぼくらはそれをかっこいい音として聴いていて、さらにVaundyとかの世代になると、親がそういうのを聴いてたりすると思うから、また時代が回って、私たちが若い頃に聴いてた音楽といまの学生たちが聴いてる音楽がだんだん被ってきてる感覚があるんですよね。
だから……これは妄想じみた夢物語かもしれないですけど、オアシスみたいなギターサウンドを鳴らしたいとか、ミッチェル・フルームとチャド・ブレイクがつくったアナログサウンドを体現したいとか、そういうことを若い人たちと一緒にできたら、超楽しいだろうなとは思いますね。
「いまはウェルメイドなポップソングをつくりたい」。結成25周年を経て、新たなタームを迎えたくるりの現在
―今年の『音博』は単純に3年ぶりの有観客開催というだけでなく、バンド結成25周年を経てまた新たなタームが始まる、そういう意味でも大事な開催になりそうですね。
岸田:すごく不思議なタームにいるとは思いますね。ぼくらより上の世代、たとえば(奥田)民生さんとか、いま50代くらいのミュージシャンって、相応に年はとってるけど、みなさん元気で、そもそものスタイルをずっとやられてるじゃないですか? ぼくらはあれができない世代だと思うんですよ。
―というと?
岸田:「音楽でなにができるか」みたいなことって、上の世代よりぼくらの世代の方が可能性があるし、ぼくらより下の世代はもっと可能性があると思うんですね。いまの10代とか20代はその可能性をすごく有効利用していて、TikTok一発で承認欲求も満たされるし、無茶なことをせずともすごいことが成し遂げられたりする。
リスニングの環境についても、いまはサブスクリプションサービスがあって、YouTubeがあって、非常に効率よく聴きたいものが聴ける。最適解にたどり着くスピードがすごく速い。じゃあ、ぼくらの世代のスペシャリティはなんだろうって考えると、ぼくらはタワレコとかいろんなレコード屋で、当たりだけじゃなくはずれもいっぱい引いて、でもそれを何度も聴いて染み込ませてきた。そうやって意図せず幅広い音楽から影響を受けた世代だと思うんです。
だから、アウトプットが変化していくのも当然で、一緒にやってきた同世代を見ても、中尾憲太郎がモジュラーシンセにハマりまくってたり、中村弘二くんは(ブライアン・)イーノみたいな不思議な音楽をつくっていて、それはすごく健全な姿だと思うんですよね。
―そんななかにあって、くるりとしてはいまどんな方向を向いていると言えますか?
岸田:ここ最近新曲をポンポンポンと出しましたけど、自分のなかではウェルメイドなものをつくろうというのを課していて、ポップソングをつくろうと思ってます。
岸田:『天才の愛』は自分のなかでは評価をされていないと思っていて、あれはちょっと早かったから、謎のアルバムになってしまったなって。
―コロナ禍だったこともあり、ライブでの再現性は意識せず、音律・チューニングにめちゃめちゃこだわって、ポストプロダクションを重用したアルバムでしたよね。いまはある意味その反動で、ウェルメイドなポップソングを意識していると。
岸田:両方とも自分にとっては壮大な実験なんですけど、『天才の愛』をつくったときは「これや!」ってなって、いま思えば、そこで凝り固まってしまった部分もあったんだなって。「これだけエビデンスをつくったんだからこうなんです」みたいな、いまはそういうのをどんどん解いていってる時期かもしれない。
そういうなかで、若い世代の人たちと会ったりして、刺激を受けたり、逆にこちらが若い人に向けてできることもあるんだったら、それはすごくうれしいですね。
- イベント情報
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京都音楽博覧会2022 in 梅小路公園
2022年10月9日(日)
- プロフィール
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- くるり
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1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にて結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。