フィッシュマンズの音楽は世代を超える 崎山蒼志ら3人が綴る魅力

メイン画像:『映画:フィッシュマンズ』© 2021 THE FISHMANS MOVIE

フィッシュマンズというバンドがいる。ほぼすべての楽曲における作詞作曲を手掛けたボーカルの佐藤伸治が急逝したのはいまから20年以上も前。しかし、バンドが演奏を止めることはない。フィッシュマンズの音楽は色褪せることなく、それどころかいま、あらためて熱い視線を集めている。

バンドの軌跡を振り返るドキュメンタリー『映画:フィッシュマンズ』の予告編は、映画公開の本日までで既に11万回以上の再生数を誇る。コメント欄には、日本国内はもちろん、メキシコ、アメリカ、台湾、アイルランド、ドイツ、カナダ……じつにさまざまな国から書き込まれた、熱っぽいメッセージが200件以上も並ぶ。なかには「字幕をつけてくれるなら9,999,999ユーロ(10億円以上)払う」というコメントまで。

なぜこんなにもフィッシュマンズの音楽は、現在進行形で私たちを興奮させているのか? そのヒントを探るべく、Kompassではフィッシュマンズを愛し、しかしその音楽を「リアルタイムで体験していない」3人の筆者にコラムの執筆を依頼することにした。

1人目は、過去にフィッシュマンズの楽曲をカバーし、自身も作詞作曲を行う音楽家の佐藤千亜妃。2人目は、映画『王国(あるいはその家について)』が英ガーディアン紙の「2020年ベスト映画」に選ばれるなど国内外で注目を集める映画監督の草野なつか。3人目は、佐藤伸治が亡くなった3年後、2002年に生を受けたシンガーソングライターの崎山蒼志。

3人がフィッシュマンズとどのように出会い、『映画:フィッシュマンズ』をどのように観て、その音楽の何を愛したのかを紐解くことで、フィッシュマンズをとりまく熱の正体が少しだけわかるかもしれないし、ますますわからなくなるかもしれない。

「フィッシュマンズという存在について」(佐藤千亜妃)

フィッシュマンズを初めて聴いたのは確か20歳くらいの頃だったと思う。大学時代、音楽サークルの先輩が、飲み会後にはしごした深夜のカラオケで歌っていた。なんて抒情的でミニマルで退廃的な音楽なんだろう、と思った。“ナイトクルージング”という曲だった。

そのファーストインプレッションのせいか、未だに夜のイメージが強い。夜の喧騒から明け方の静けさにかけてのグラデーションを感じる。サイケデリックなギター、硬派なビート、タイトなベース、そしてすべてを語り切ることのない佐藤氏のリリック。音楽においての「融合」や「化学反応」というワードがしっくりハマるバンドと思う。

フィッシュマンズ“ナイトクルージング”を聴く(Spotifyを開く

影響を受けているつもりはなかったのだが、ギターやリズムの在り方、歌唱法を、どんどん自分の音楽的嗜好の方向に突き詰めていった先で、自分のバンドがフィッシュマンズ的だと言われることがあった(ボーカル同士、苗字が同じだということも関係しているかもしれない)。つまり、そういった方向性の音は既に大先輩が鳴らしてきたものなんだな、と思い、そこから先へ行かなくては、という気持ちが強くなった。何かっぽい、ではなく、オリジナリティーが必要だと痛感したのだ。

フィッシュマンズは強烈なオリジナリティーを持ったバンドであり、その種であり養分は佐藤伸治氏のパーソナリティーだったのだと思う。おそらくだが制作は、身を削るような感覚だったのではないだろうか。音楽というわが分身に、栄養を分け与え続けるようなものだったのだと思う。

そう思ったのは、フィッシュマンズのドキュメンタリー映画を観たからというのも大きいかもしれない。音だけを聴いていたときは、佐藤氏に「誰からも愛される、気分屋だけど無邪気で優しいヒーロー」みたいなイメージを抱いていた。しかし同時に“エヴリデイ・エヴリナイト”の楽曲世界のような明るくも危うさを秘めている部分も感じていて、なんだか少し矛盾した像が自分のなかにはあった。それがドキュメンタリーを観て、ストンと腑に落ちた。

『映画:フィッシュマンズ』予告編

映画を観た日はちょうど雨で、精神的にかなりナーバスになってしまい、咀嚼するのに数日かかった。その後あらためて楽曲を聴いた際に、不思議と温かさを感じて悲しさは消えた。消えたというよりも、景色の一部に溶け込んだと言うほうが正しいかもしれない。

そんなふうに、かっこいいだけじゃなくて、生きることの悲しみに寄り添える音楽だからこそ、フィッシュマンズは未だに聴き継がれているのだと思う。歌声のゆらぎに、すべてを許されてしまう。そんな気がするのだ。

「人生の夢を見る(MY LIFE)」(草野なつか)

風邪をひき熱で寝込んでいる日の昼間に見る夢は人生に最も近いかたちをしているなあ、とよく考える。手触りや匂いもどこかそんな感じがする。フィッシュマンズの音楽は、そんな夢の感触によく似ている。

『映画:フィッシュマンズ』は「何かについて語る」人物とその言葉たちに最も重心が置かれている映画で、そのことに強く感銘を受けた。この映画における「何か」はフィッシュマンズというバンドのことであり既に不在の佐藤伸治という圧倒的魅力を放つ人物のことであるのだが、本作ではあらかじめその内容が象られて先行するようなことはなく、あくまで語られた言葉を土台に丁寧に構築されている。

おなじ速度で歩を進めるような時間の流れ。時折挟まれる過去の映像は神格化されずそこにあって、いま・私が・観ているその映画のなかに等価に存在している。カメラのアングルも撮り方も至極シンプルでありながら、距離が保たれ誠実なそのまなざしはこちらの眼をスクリーンから離させない。

フィッシュマンズのドラム・茂木欣一。『映画:フィッシュマンズ』より © 2021 THE FISHMANS MOVIE

大学時代、当時全盛のSNSでフィッシュマンズのコミュニティーに入っていた。コミュニティーの住人にはライブに足繁く通った世代も私のような「その後」の世代もいたが、その場所の雰囲気はどこか「さとちゃん信仰」を強く感じさせるもので、私自身、佐藤伸治は大好きだったがその空気に辟易し徐々に離れて行った。

何かを盲目的に信じ愛し拠り所にする行為は、時に共感と結びつき大きな塊となってこちらへ迫って来る。数年経って再び聴き始めたフィッシュマンズは同じ音源であるにも拘らず大学時代に聴いていたそれとはまったく異なる印象を与えた。

佐藤伸治の紡ぐ言葉たちは暮らしの隣にあるような等身大の単語群でありながら日常という形容に回収されることなく(むしろ正反対)、「言葉で説明できない言葉」は確実に存在するということを思い知る。彼のノートに残された「わかりにくいことをわかりやすく」という筆跡はとても腑に落ちるものであり、いち物づくりを生業とする人間として強く背中を押される思いがした。劇中でハナレグミ・永積タカシが言う「自分の身近にある顔と同じ顔してる言葉」はすべての共感と呼ばれるものを拒んでいるようで、この映画はその孤独な闘いを包み込んでいるようにも感じた。

『LONG SEASON』のジャケット撮影地を20年ぶりに訪れたバンドメンバーの柏原譲が「フィッシュマンズ的なものとは関係なく破壊されて」いてコメントしづらいと言っていたその場所は、人工的なもの、橋やパイプが朽ちて落ちてしまっても緑や川や岩がとても美しく雨がよく似合っていた。長い時間が過ぎかたちを変えたとしても残っているものは必ずあって、それに対して抱く寂しさや記憶の脆さすらも愛おしいと思える瞬間が人生においては何度もある。

フィッシュマンズ『LONG SEASON』をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

最近殊に人生は意外なほどシンプルなものであると実感することが増えた。そのくせ、掴めそうで掴めなくてそのたびに驚かされ続けながら生きている。33歳でこの世を去った佐藤伸治は既にそのことに気がついていたのかもしれない。

「遠いあの日と今日、私とフィッシュマンズ」(崎山蒼志)

フィッシュマンズの音楽を聴くとしばらくフィッシュマンズの音楽がずっと鳴っている。例えばオーディオ再生を止めて眠りにつき、そして迎えた翌朝に流れている。電車に乗っているとき、あるフレーズがふと脳裏に浮かび上がり、それを反芻している自分がいる。佐藤さんの歌声と聴こえてくる歌詞はそうして反芻するたびに優しくて、悲しくて私は気持ちと涙が一緒に込み上げるときの熱を感じる。

フィッシュマンズの音楽は聴いていると浮遊感ある音数の少ないサウンドが目立ってくる。ギターのフレーズ、もっと音を足してしまいそうになるだろうに、「えっ!」というほどシンプルなときもあり、その反復が後に異様なほど引き立ってくる。かと思えば大胆なファズっぽい音色のギターフレーズが響き渡る。エレピの浮遊感も欠かせないサウンドだろう。ダブと低くうねるベース、ドラムが軽やかでいて力強く、紡ぎ出される一体のグルーヴ感は思わずうなってしまうほど素晴らしい。

シンセや声、自然音っぽいサウンドの入れ方、選び方も独自の美学が光る。隙がなく無駄のない音像。力が抜けているようで、とんでもないほどのストイックさを感じる。一曲一曲の長さも、ここは聞かれないだろうからと変に切り取らず没入感をそのままに感じる最適な長さで、聴き手を底のない無限の音楽世界へと連れ込む。

『映画:フィッシュマンズ』© 2021 THE FISHMANS MOVIE

それにしても不思議な音楽だ。いま、私は朝部屋でフィッシュマンズの音楽を聴きながらこれを書いているのだが、靄がかった峠の神社の駐車場で、遠い夏の夕暮れ国道沿いで、冬の夜道で、ひだまりのなかで聴いている気がするし、それらの場所から聴こえてきているかのようにさえ思えてくる。積み重なった時間とともにどこまでも聴き手の想像力を掻き立て、聴き手のなかにある景色を広げてくれる。佐藤さんの遠くに投げかけるような柔らかい歌声がなんとも神秘的だ。

また、ライブ版も何て素晴らしい次の曲への導入の仕方、曲順、滑らかに不意をつかれ、楽しくもあり同時に感嘆する。ビートスイッチといえるのか音進行が突然なくなったり、サンプリングをしたりとヒップホップ的要素も感じる。音使いや歌詞からは時々パンクな一面も垣間みることができる。あらゆる音楽を感じさせながらも圧倒的にフィッシュマンズでいる。いつまでも新しく普遍的な、あらためてものすごいバランス感のバンドだ。

フィッシュマンズのライブアルバム『8月の現状』を聴く(Spotifyを開く

特有の浮遊感から夢のなかのように思える瞬間も多々あるが、時の流れていく「日常」と非常に合致している音楽だとも思う。あの日、あの場所、今日と変わらず夜は静かで昼間は陰り、青空と雲が流れている。風の質感、そういったあの日と共通する万物の動きや空気感を根源的に捉えている、またはそれ自体のような音楽だとも不意に思った。と瞬間に知らない景色がわっとなだれ込む。胸ぐらを掴まれ、一人の人間の視界が広がった。

これからも私はフィッシュマンズの音楽と時間をともにしていく。何度も考えその素晴らしさを噛みしめて。

作品情報
『映画:フィッシュマンズ』

2021年7月9日(金)から新宿バルト9、CINE QUINTOほかで公開

監督:手嶋悠貴
出演:
佐藤伸治
茂木欣一
小嶋謙介
柏原譲
HAKASE-SUN
HONZI
関口“dARTs”道生
木暮晋也
小宮山聖
ZAK
原田郁子(クラムボン)
UA
ハナレグミ
YO-KING(真心ブラザーズ)
こだま和文
上映時間:172分
配給:ACTV JAPAN、イハフィルムズ

プロフィール
佐藤千亜妃 (さとう ちあき)

1988年9月20日、岩手県出身。2007年にきのこ帝国を結成し、Vo / Gt / 作詞作曲を担当。2015年に『桜が咲く前に』でメジャーデビュー。2019年に活動休止を発表。現在はソロとして活動中。2019年にファーストソロアルバム『PLANET』をリリースし、盛岡と東京で初のワンマンライブを開催。2021年3月に約1年ぶりとなるシングル『声』をリリース。4月スタートの連続ドラマ『レンアイ漫画家』(フジテレビ系 木曜22:00~)の主題歌に新曲“カタワレ”が決定。

草野なつか (くさの なつか)

1985年生まれ、神奈川県出身。映画作家。東海大学文学部文芸創作学科卒業、映画美学校12期フィクション・コース修了。2014年『螺旋銀河』で長編映画を初監督。『第11回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』にてSKIPシティアワードと監督賞を受賞。2018年長編監督2作目となる『王国(あるいはその家について)』が英国映画協会が選ぶ「1925~2019年、それぞれの年の優れた日本映画」の2019年で選ばれるなど、期待の俊英として注目を集めている。

崎山蒼志 (さきやま そうし)

2002年生まれ、静岡県浜松市出身。2018年5月インターネット番組の出演をきっかけに世に知られることになる。現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手掛けるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。また『FUJI ROCK FESTIVAL』『SUMMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』など、大型フェスからのオファーも多い。2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャーデビュー。初のバンドスタイルでのリリースライブは即日完売。3月31日には早くも新曲“逆行”を配信リリースした。



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