「バズ」が埋め尽くす世界にあらがう。ゆっきゅん×水野しずが雑誌を創刊した理由

「バズ」が埋め尽くす世界にあらがう。ゆっきゅん×水野しずが雑誌を創刊した理由

2021/12/24
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:黒田隆憲、CINRA編集部

自分が何を好きなのかもよくわからないとき、私は「勉強」をしたらいいんじゃないかと思う(ゆっきゅん)

―創刊号の特集は、「2020年代のファッション ~オシャレと思想と磁場と未来~」です。タイトルからも、いわゆる普通のファッション特集とはまったく違うものになりそうですね。

『imaginary』の創刊号では、「パフェライクな人々」「バズり貧乏・鍵垢富豪」「実力のブーム」という3つのキーワードをもとに、2020年代ファッションを予見している
『imaginary』の創刊号では、「パフェライクな人々」「バズり貧乏・鍵垢富豪」「実力のブーム」という3つのキーワードをもとに、2020年代ファッションを予見している

水野:はい。いま話したように「自分の魂は何に対して垂直であり続けたのか?」と考えたとき、私の場合ひとつは「ファッション」であることに気づいたんです。ファッションはそれを身につける人の思想とも深く関わってくるし、もっと言えば思想や言葉、概念などに彩られる前の、すごく感覚的なものだと思うんですよ。

ゆっきゅんもそうだと思うけど、生きるために「ファッションの力」を必要としてきた私にとって、まず語るべきことはファッションだなと。「私はファッションでこうサバイブしてきました。あなたはどうサバイブしてきたのですか? どうやってサバイブしていきますか?」という話をしたかったんです。

ゆっきゅん:だからこそ、ファッション以外の話にも置き換えて考えることがきっとできる内容になっていて。例えば「個性とは何か」とか、「自分は『自分』としてどう生きていけばいいのか」とか。そういうテーマについて、いろんな人の言葉を聞きながら考えることのできる雑誌だと思います。

ゆっきゅん

水野:単刀直入に「個性とは何か?」みたいなことを掲げてしまうと、耳触りのいい観念論になってしまいがちじゃないですか。インターネットで褒められそうな話に転がっていってしまう危険性があるけど、でもファッションについて語れば私たちは嘘がつけないし、すごく具体的だし、日々考え続けていることだから、もうちょっと真剣に話し合えるかなという気がします。

ザッピングするように読める「雑誌」っぽさと、一冊の本としても読めるような統一感を両立させたくて、それを意識しながら特集を組んでいきました。

ゆっきゅん:お仕事をよくご一緒している写真家の須藤絢乃さんにメインビジュアルをお願いしたのですが、パラパラとページをめくりながら写真を見ているだけでも楽しいと思います。

―特集以外にもユニークな記事やコラムが満載ですね。

ゆっきゅん:ありがとうございます。例えば作家の柚木麻子さんに、「どの雑誌にも取り上げていないようなことについて書いてください」とお願いしたら、深キョン(深田恭子)とユン・ソナが出ていた2001年放映のドラマ、『ファイティングガール』について熱く書いてくださって(笑)。すごく好きで語りたいのに、なかなか語る機会がなかったりすることや、他の人は絶対に語らないだろうなと思うことについて、これからもいろいろな人に語ってもらいたいと思っています。

―個人的にはゆっきゅんさんが寄稿された『行こうぜ! 国会図書館』というコラムが好きです。ちょっとハードルの高そうな施設について、ポップに紹介しているところは『imaginary』ならではの視点だなと。

ゆっきゅん:誰しも多かれ少なかれ、何かしたいけど何をしていいのかわからない時期ってあるじゃないですか。自分が何者なのかも分からないし、自分が何を好きなのかもよく分からないとき、私は「勉強」をしたらいいんじゃないかと思うんです。

勉強って別に学校で学ぶことだけじゃないし、知識を得ることは決してマイナスにはならない。美大生もファッション学生も、Pinterestばかりをイメージソースにするんじゃなくて、例えば1960年代の流行通信とかパラパラ見ていた方が得るものがあるんじゃないかなと。せっかく紙の媒体だし国会図書館のハードルも下げたかったので、祈りを込めて執筆しました(笑)。

左から:ゆっきゅん、水野しず

水野:ゆっきゅんのその提案はめちゃくちゃわかるんです。いま、大学生くらいで「何者かになりたい」と思っている人のなかには、「早くバズらなきゃ」みたいなことで脳が支配されちゃっている人も多いと思うんですよ。自分と社会との接点を少しでも早くつくらなきゃという焦燥感からTikTokに夢中になったりして。でも空っぽの自分のまま、たまたまバズって社会に「発見」されて、そのあと苦しい思いをするくらいだったら、「別にバズらなくてもいいよ?」と言いたい。

ゆっきゅん:そうそう。バズらなくていいし、誰も読んでないような昔の雑誌とか読んで見るのも楽しいよ? って。

―そのことについては水野さんも、『imaginary』のなかで触れられていますね(山下陽光との往復書簡『バズり貧乏 鍵垢富豪』など)。

水野:すぐに役に立つものって、すぐに役に立たなくなるから、そこにエネルギーを注ぎ込むと納得のいく人生になりにくいんじゃないかなと思うんです。最近は大学のカリキュラムまで、すぐ役立つことばかり教えようとしていて「就職予備校」みたいになっている。

「何も考えず、即実行できるもの」って、さっき話した「無料の輪郭にかたちづくられる人生」にもつながると思うんですけど、そういうことで埋め尽くされようとしている世の中に少しでも抗いたい。だから国会図書館には是非とも行ってほしいです。

左から:ゆっきゅん、水野しず

―ぼくも高校生の頃、『POPEYE』にゴダールが紹介されていて、それで何気なく『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』を見て人生を狂わされたんですよ。

水野:ああ、なんかわかります!(笑)

―その頃の自分には、例えば『現代思想』や『ユリイカ』はハードルが高すぎて手にしていなかったから、もし『POPEYE』にゴダールが載っていなかったら、いまとはまったく違う映画の見方をしていたかもしれないとも思うんです。『imaginary』も、そういう「予期せぬ出会い」がたくさん散りばめられている雑誌に今後もなっていってほしいなと思っています。

ゆっきゅん:ありがとうございます。私もそうなってほしいです。

左から:ゆっきゅん、水野しず

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番組情報

水野しず×ゆっきゅん 雑誌『imaginary』祝♡創刊~誕生から裏話まで~

おふたりをゲストにお招きしたポッドキャスト番組が、SpotifyのKompassアカウントにて配信中です。雑誌の誕生話から裏話までお話しいただきました。さらに番組内では音楽とトークをひとつのコンテンツのなかで一緒に楽しめるサービス「Music+Talk」を使用して、『imaginary』を読みながら聴きたい楽曲紹介や、imaginaryなお悩み相談にも回答いただきました。

プロフィール

ゆっきゅん

1995年、岡山県生まれ。新時代の自由を体現するポップアイコン。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。「電影と少年CQ」のメンバーとしてライブ活動を続けながら、セルププロデュースによるソロ活動「DIVA Project」を始動。『キネマ旬報』『ユリイカ』などへの寄稿や、でんぱ組.incへの作詞提供など、幅広く活動中。

水野しず(みずの しず)

1988年生まれ、岐阜県多治見市出身。コンセプトクリエイター、ポップ思想家。武蔵野美術大学映像学部中退。ミスiD2015グランプリ受賞後、独自性が高いイラストや文筆で注目を集める。新しいカルチャーマガジン『imaginary』編集長。著書『きんげんだもの』。

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