「バズ」が埋め尽くす世界にあらがう。ゆっきゅん×水野しずが雑誌を創刊した理由

「バズ」が埋め尽くす世界にあらがう。ゆっきゅん×水野しずが雑誌を創刊した理由

2021/12/24
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:黒田隆憲、CINRA編集部

自分の心を持ったまま生きていくにはどうしたらいいか? をみんなで考える「場」なんです(ゆっきゅん)

水野:例えば私たちがお魚を食べるとき、小骨を取り外すことや皮をめくる動作について、いちいち確認したり考えたりせず無意識にやっていると思うんですよ。そんなことまで立ち止まって考えなきゃいけないとしたら、脳がいくつあっても足りないじゃないですか(笑)。人間って、基本的に生存に必要のないことをどんどん省略していく生き物だと思うんですね。

水野しず

水野:特にいまは、いろんなものがコンパクト化、ミニマル化されて、最小限の労力や最小限の判断力、思考力でなるべく効率的に動くべきという「圧力」がものすごく強くあるじゃないですか。日常で必要とされる思考が、どんどん幅の狭い限られたものになっているんですよね。本を読むときですら、規格が統一されたデジタル媒体を使っている。それによって老若男女誰しも、自分の心や意思を持つスペースが、根本のところで限界まで削り取られている気がするんです。

ゆっきゅん:自分の頭で考えないで生きられるように世界がつくられようとしているというか。

水野:誰もが手に入れられる無料のコンテンツだけが世の中に溢れ返れば、人生の輪郭までそれによって形成され、次第にそれが自分の人生であるかのように錯覚してしまう。それとは別にあるはずの自分の意思や人生を、知らないまま死んでいく人が大半になってしまうと思うんですよね。

「でもそれっておかしくない? 変だよね」「こんな、無料の輪郭だけでつくられた人生なんて、自分のものとはとても思えない」みたいに、無音の悲鳴を上げている人も一方ではいるわけで。そういう人に届く雑誌がつくりたい。全人類を救えるなんてとても思っていないんですけど、そういう人には届いちゃうはずだよ、バレちゃうはずだよという気持ちなんです。

ゆっきゅん:自分の心を持ったまま生きていくためにはどうしたらいいか? をみんなで考える「場」なんです。

人の期待に応えないことへの恐ろしさを跳ね除けて、自分として生きたかった(水野)

水野:ゆっきゅんと以前話していてハッとしたのが、「人間は18歳くらいで精神が生きるか死ぬかの選択がある」という言葉。もちろんそれは比喩的な意味ですが、すごく心当たりがある。私は美大に行っていた頃、社会から寄せられる期待に応えるか、それとも跳ね除けるか、目に見えるかたちで選択を迫られたタイミングがあったんですよ。

水野しず

水野:そのとき、私は抑圧に負けそうだったんです。「社会的な期待に応えないと、人間としての枠組みが破滅するんじゃないか?」という恐ろしさがずっとあって。その「恐ろしさ」を跳ね除けて自分として生きたいという気持ちが強かったので、まずは大学を辞めました。そこまでしないと、自分の人生を選び取れないというくらい追い詰められていたんですよね。

ゆっきゅん:そんな私たちがつくる雑誌だから、「どれもこれも気に入らなかった人が最終的に手に取るしかないマガジン」というコンセプトなんです。

―実際に雑誌をつくっていくプロセスは大変でしたか?

水野:でも、『NANA』ナイトから1年くらいで自分たちの思いがこんなふうにかたちになるなんて、「ちょっと早いね」という感じです(笑)。

ゆっきゅん:(夢眠)ねむさんに話したら、「うち(夢眠舎)でやる?」と言ってくれて。「え!? やります!」みたいな感じで、その日のうちに話が進みました。そこからしばらく私が修士論文などで忙しかったので、本格的な準備は今年に入ってから始めたけど、準備といっても部数がどうとか、誰に何をどう伝えていくかといった具体的なことよりも、まずは内容について話していたよね?

水野:しかも内容の企画出しというよりは、精神性とかスタンスの話をずっとしていた(笑)。「何に対して『垂直』であるか」が重要で、それさえ明確にしておけば雑誌の方向性もブレれないという精神でした。

ゆっきゅん:まずはお互いの考えを知ることが重要で。実際に動き始めたのはその後でしたね。

水野:でも、私たちは『NANA』についてすでに散々語り合っていたから心配はしていなかった。『NANA』を語れば、その人の精神性もスタンスもわかるんです(笑)。

左から:ゆっきゅん、水野しず

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番組情報

水野しず×ゆっきゅん 雑誌『imaginary』祝♡創刊~誕生から裏話まで~

おふたりをゲストにお招きしたポッドキャスト番組が、SpotifyのKompassアカウントにて配信中です。雑誌の誕生話から裏話までお話しいただきました。さらに番組内では音楽とトークをひとつのコンテンツのなかで一緒に楽しめるサービス「Music+Talk」を使用して、『imaginary』を読みながら聴きたい楽曲紹介や、imaginaryなお悩み相談にも回答いただきました。

プロフィール

ゆっきゅん

1995年、岡山県生まれ。新時代の自由を体現するポップアイコン。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。「電影と少年CQ」のメンバーとしてライブ活動を続けながら、セルププロデュースによるソロ活動「DIVA Project」を始動。『キネマ旬報』『ユリイカ』などへの寄稿や、でんぱ組.incへの作詞提供など、幅広く活動中。

水野しず(みずの しず)

1988年生まれ、岐阜県多治見市出身。コンセプトクリエイター、ポップ思想家。武蔵野美術大学映像学部中退。ミスiD2015グランプリ受賞後、独自性が高いイラストや文筆で注目を集める。新しいカルチャーマガジン『imaginary』編集長。著書『きんげんだもの』。

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