芸人・放送作家、佐藤満春の音楽愛と創作論「有名=正義じゃない」

芸人・放送作家、佐藤満春の音楽愛と創作論「有名=正義じゃない」

2021/11/25
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:鈴木渉 編集:金子厚武、CINRA編集部

「100人キャパでも、その100人が『明日も生きよう』と思えたらそれでいい」

―エレカシ、くるり、サニーデイ、それぞれのバンドにそれぞれの歴史があって、彼らの音楽や生きざまに救われている人はたくさんいるでしょうね。

佐藤:本来バンドってそんなに長く続くものでもないと思ってるんです。長く続くバンドのほうがレアというか。だからこそ、バンドとしての活動が終わってソロになってまた再結成して……とか一連の流れをずっと応援していたいと思うんです。

『ジャマラジ』でHermann H.&The Pacemakersの特集をしたときは、メンバーの岡本さんがDMをくれて。「いまこんな活動をしてます」って、近況を教えてくれました。こういう出会いもとても嬉しいですし、いま聴いてもヘルマンめちゃくちゃかっこいいんですよね。もちろん、彼がいまつくってる音楽だってめちゃくちゃかっこいい。

Hermann H.&The Pacemakers『Selected from The Best of Hermann H.&The Pacemakers』を聴く(Spotifyを開く)。Hermann H.&The Pacemakersは、1997年結成、2001年メジャーデビュー。2004年に活動休止したが、2012年に再開

佐藤:ぼくが大好きなバンドのひとつ、残像カフェも、2020年に一度再結成をして、いまはまたボーカルの大森元気さんが一人で活動していたりします。

ぼくが個人的にずっと考えてるのが、有名だからよくて、無名だからよくないのかっていうと、そういうことじゃないじゃないですか? 残像カフェは昔「次世代のスピッツ」みたいなラインナップに入っていて、実際そうはならなかったけど、当時の曲はいま聴いてもめちゃめちゃかっこいいんですよ。もちろんいまのソロもかっこいいですし。

残像のブーケ“boys & girls”を聴く(Spotifyを開く)。残像のブーケは元・残像カフェの大森元気のソロプロジェクト

佐藤:Hermann H.&The Pacemakersも残像カフェも世の中の全員が知ってるわけじゃないけど、ラジオでかけたときは「いい曲ですね」っていう声をたくさんもらえました。ぼくはそういう曲をかけ続けたいんですよね。残念ながら解散してしまったバンドのなかにも、いろんな人を助けてきた曲があるから、そこを見過ごさずにいたい。そして彼らのいまにもそこから注目してもらいたいんです。

芸能の世界は特に、有名であることが正義のように思われる世界じゃないですか? ある種のその物差しは確かにあるんだけど、でも必ずしもそうじゃない。知ってるか知らないかが是非の判断軸にはならないほうがいいとずっと思ってます。知らないけどいいものなんて世の中に溢れてるわけで。

メジャーなものを否定するつもりはもちろんないです。多くの人に届くということは、それだけのクオリティーと才能と実力と愛の証明であることは間違いないので。でも、無名なもののなかにもいいものはたくさんあります。

―インフルエンサービジネスしかり、数の理論が強くなりすぎてる風潮があるけど、音楽をはじめ、何かを表現することの価値は数の理論だけで決められるものではないですからね。

佐藤:ぼくがやってるトイレのバンド(サトミツ&ザ・トイレッツ)のメンバーにはGOMES THE HITMANの山田稔明さん、キンモクセイの伊藤俊吾さんと佐々木良さんがいて、いまはそれぞれインディペンデントで活動をしています。

GOMES THE HITMANは何十万枚売れるバンドじゃないけど、新しいアルバム(『memori』)はめちゃめちゃよかったし、キンモクセイは“二人のアカボシ”で2002年の『NHK紅白歌合戦』に出ましたけど、それ以降の曲も素晴らしいんですよね。

GOMES THE HITMAN『memori』を聴く(Spotifyを開く)。GOMES THE HITMANは1999年にメジャーデビュー。2019年、デビュー20周年のメモリアルイヤーに発売された『memori』は、14年ぶりの新アルバム

キンモクセイ『ジャパニーズポップス』を聴く(Spotifyを開く)。キンモクセイは2001年メジャーデビュー。2008年に活動休止したが、その後10年のときを経て活動再開

佐藤:ヒットチャートには入ってなくても、優れたミュージシャンは山ほどいるんだっていうのが体感としてあるので、そういう人たちが現役で曲をつくり続けているというのは、ぼくにとってすごく大きいことなんです。

―自身の活動に重ねる部分もある?

佐藤:そうですね。ぼく自身『劇、佐藤満春』という公演を、自分で台本を書いて、100~200人くらいの小さな劇場で数回公演を開催してます。それが将来数万人キャパでできるかっていうと、そんなことはないんです。きっとこのくらいのキャパでずっとやっていく。でもそれが無価値かというとそんなことはなくて。

佐藤満春

佐藤:ぼくにとっても、来てくれる人にとっても意味があるはずで、そこの価値みたいなものはしっかりと届けたい。全員が数千人・数万人収容する大掛かりなものを目指さなきゃいけない、目指せるわけではないというか。国民全員が知る人にならなくてもいい表現活動っていうのがあると思うんです。

ぼくがお仕事で関わる方たちのなかには、第一線で活躍するスターも多いです。才能だけではなく相当な努力を怠らない、その姿に感動させられっぱなしです。でも、そういった人はやはり特別で誰もがそうなれるものではない。だからスターだし、みんなを元気にできるのだと思います。

出演者としての自分を考えたときに、ぼくにはそういう能力もスター性もないので、大規模な作品に関わるときは精一杯裏方に回ることが多いです。なので、両方の良さがわかるというか。

100人のキャパでも、その100人が「明日も生きよう」と思えたらいいわけで、それは音楽でもお笑いでもなんだってそう。ぼく自身がそういう活動をしているからこそ、同じような活動をしている人に興味があるし、応援したいと思うんですよね。

―『ジャマラジ』はこれからも、ライフワークになっていきそうですね。

佐藤:これまでやってきて、何回かすごく大きな反響をもらった回があるのですが、特にフジファブリックの回はこれまでに1、2を争う反響でした。

“星降る夜になったら”のライブ盤をかけたんですけど、1番を志村さんのボーカルでかけて、2番を山内さんのボーカルでかけて、フジファブリックはずっと地続きなんだっていう話をしたら、その回をきっかけにラジオを聴いてくれる人が増えたりもして。

ぼくのラジオはお金がない分、自由度はあるから、好きに曲をかけることができる。細々ではあるけど、続けて行くことが大事なんじゃないかと思っています。

フジファブリック“星降る夜になったら”を聴く(Spotifyを開く)。フジファブリックは2002年にデビュー。ボーカルを務めていた志村正彦が2009年に急逝したが、残されたメンバーで活動を継続。現在は山内総一郎がボーカル・ギター

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プロフィール

佐藤満春(さとう みつはる)

1978年2月17日生まれ。東京都町田市出身・町田市在住。2001年どきどきキャンプとして活動をスタート。現在は放送作家・脚本家・トイレ博士・掃除専門家などさまざまな顔を持ちながら活動中。

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