ダメな部分に光を当てる、川谷絵音の「女性目線」の詞を語り合う

ダメな部分に光を当てる、川谷絵音の「女性目線」の詞を語り合う

2021/11/10
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:西田香織 編集:金子厚武、CINRA編集部

「『みんな違ってみんなダメ』のまま愛し合えたら、世界はもっと平和になる」(REIS)

―REISさんは「新作(『ガーラ』)のなかから一曲」で“花は買わない”を挙げてくれています。

DADARAY“花は買わない”を聴く(Spotifyを開く

REIS:コロナ禍になって、みんな他人を許せなくなっている感じがすごくしてたんですよね。そんななかで“花は買わない”の歌詞をもらったとき、<あなたもダメにするから / 共に落ちるところまで落ちていこう>みたいに、自分がダメな前提で始まってるのがすごく優しいなと思ったんです。

刹那的だけど許し合ってて、「強くあろうとしなくても、そのままでいいよね」みたいな感じがこの曲からは感じられて、それがいいなと思いました。

―近年のネットやSNSからは「他人を許せなくなっている感じ」をたしかに感じます。

REIS:それぞれの意見のぶつかり合いというか、「正義」に私自身すごく疲れちゃってたんです。そういうなかで、誰かが「みんな違ってみんないい」を「みんな違ってみんなダメ」と言い換えているのを聞いて、それがめっちゃいいなと思って。

みんな完璧じゃないから、間違うこともある。不完全な状態でみんなが愛し合えたら、もっと平和になるなんだろうなって。“花は買わない”の歌詞を読んで、そういうことを感じました……深読みかもしれないけど。

REIS

―“世界に一つだけの花”が「みんな違ってみんないい」を肯定したわけですけど、いまはその次のフェーズに入ってる感じがありますよね。

REIS:個人主義になって、「みんな美しい」ってなったけど、そうした一人ひとりがどうやって交わっていくのかが今後の課題なのかなって。みんな自立していて、各々に意志があるから。

歌の意味は時代とともに変わっていくと思うけど、“花は買わない”は「花」というモチーフに対しての、この世代ならではのいい表現の曲なんじゃないかと思います。

―“グータラ節”もそうでしたけど、完璧じゃないことを許容して、弱い部分に寄り添うというか、そこも川谷さんの歌詞の特徴のひとつかもしれないですね。ジェニーハイにもDADARAYにもそこは共通点としてありつつ、それをカラッと描くか、ジメッと描くかが違うのかなって。

イッキュウ:最初に“グータラ節”の歌詞を見たときは「面白い曲」として捉えてたんですけど、いろんな方に「この曲で救われました」みたいに言っていただいて、そのあとで歌うとすごくエモい気持ちになって。

弱い部分って普段はみんな隠してるから、「自分だけ」と思ってへこんじゃうけど、こうやって歌にすることで「みんなそうなんだ」とわかって救われる人もいる。そう思うと、曲に対する見方がだいぶ変わりましたね。

「“フラれてみたんだよ”ってタイトルだけで、強がっていることが伝わる」(イッキュウ)

―「川谷さんの歌詞のなかから一曲」に対して、イッキュウさんはDADARAYの“少しでいいから殴らせて”を挙げてくれました。

DADARAY“少しでいいから殴らせて”を聴く(Spotifyを開く

イッキュウ:DADARAYの好きな曲いっぱいあるんですけど、この曲が一番気持ちいいなって。<少しでいいから殴らせて>のリズム感も気持ちいいし、それをREISちゃんが歌ってるのがすごくバランスがいいというか。

イッキュウ

イッキュウ:男性だったり、見るからに強い女性が歌うと、全然違って聴こえるけど、REISちゃんの殴らなそうな感じと、殴られても大したことなさそうな感じがよくて……殴られたいなって(笑)。

―着地点そこなんだ(笑)。でもわかります、tricotのときのイッキュウさんが歌ったら、「少し」と言いつつ思いっ切り殴られそうだし、歌う人によって歌詞の印象も変わるのが面白いですよね。

REIS:この曲も最初はどう歌っていいかホントにわからなくて。思いっきりふざける曲だったら、そういうチャンネルでやれたかもしれないけど、わりと真面目に歌う曲で……。

イッキュウ:それがいいんだと思います。

REIS:救われたのが、えっちゃん(DADARAYのえつこ)がライブでこの曲をやる前に、「さあみんな、こぶしを突き上げるんだ!」みたいなことを言ったら、みんな上げてくれたんですよ。その状態で歌ったときに、モヤモヤから卒業できたんです。

REIS

―“WOMAN WOMAN”のダンスと同じで、そこで演技のチャンネルに切り替わった?

REIS:それもあるかもしれないけど、真剣に歌おうとしている自分と、ある意味ライトに曲を受け止めてくれてるお客さんとのギャップが、そのときに埋められたんだと思います。「救われました」という声を聞いてから“グータラ節”を歌うと違ったっていう話と一緒で、曲に対する反応を見て腑に落ちた感じでした。

―REISさんは「川谷さんの歌詞のなかから一曲」に対して、indigo la Endの“フラれてみたんだよ”を挙げてくれています。

indigo la End“フラれてみたんだよ”を聴く(Spotifyを開く

REIS:「フラれる」に「みたんだよ」っていう言葉がつく曲なんてあった? っていう、その言葉選びがとにかく印象的でした。あとは歌い出しの<遠くなり溶けてった / 見送る私を伝った / 冷たさで醒めてって欲しい>みたいな、抽象的だからこそいろんな景色が当てはめられる歌詞も好きです。これはindigo la Endならではの表現だと思うし、こういう表現も美しくできる川谷くんはすごいなって。

―具体的な描写と抽象的な描写と、アーティストや曲によって振れ幅も大きいですよね。

イッキュウ:“フラれてみたんだよ”っていうタイトルだけで、強がってる感じが伝わるのがすごいと思います。聴く前から、タイトルだけで「そういう曲なんやろうな」って。

―弱い部分があるからこそ、ちょっと強がってるキャラクターも多いですよね。“少しでいいから殴らせて”もそうだと思うし。

イッキュウ:ホントはできひんってわかってるけど、でも悔しいからいいたい、みたいな感じがしますよね。LINEかなんかでいってんのかなって(笑)。

REIS:たしかに(笑)。直接的じゃない感じがする。

左から:イッキュウ、REIS

―ちょっとした言葉の掛け合わせで一気に想像が膨らむ感じも面白いです。今日はいろんな角度から川谷さんの歌詞について語ってもらいましたが、ほかにも「ここがすごい」みたいなポイントってありますか?

REIS:毎回「これなんて読むの?」みたいな、知らない言葉が出てきて勉強になります(笑)。

イッキュウ:流行りにも敏感だし、逆にいま誰も使ってないような言葉もポンポン出てきて、どっちもありますよね。

REIS:本をいつも読んでる人のような語彙力だけど、でも川谷くんが集中して本を読んでるのってあんまり見たことなくて。

イッキュウ:見たことない。

REIS:どこからあのボキャブラリーが出てくるんだろう?

―いずれは本人に聞いてみたいですね。ちなみに、REISさんは“Ordinary days”で初めてDADARAYで作詞をしていますが、今後もDADARAYで作詞をしてみたいですか?

DADARAY“Ordinary days”を聴く(Spotifyを開く

REIS:書いてみたい気持ちもあるんですけど、あらためてアルバムの歌詞を見返すと、やっぱり自分で書いた歌詞は川谷くんの歌詞とはちょっと違う。当事者じゃない川谷くんだからこそ書けるような……「恨めしや系」の歌詞を聴きたい人が多いのかなとも思って(笑)。

イッキュウ:恨めしや系(笑)。

REIS:でも、色の違う歌詞が入ることで、中和されていいと思ってくれる人もいるかもしれないし、逆に私が恨めしや系の歌詞に挑戦してみるのも面白いかもしれないですね。

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リリース情報

ジェニーハイ『ジェニースター』
ジェニーハイ
『ジェニースター』(CD)

2021年9月1日(水)発売
価格:3,300円(税込)
WPCL-13323

DADARAY『ガーラ』
DADARAY
『ガーラ』(CD)

2021年9月22日(水)発売
価格:3,300円(税込)
WPCL-13324

プロフィール

中嶋イッキュウ(なかじま いっきゅう)

ジェニーハイではボーカル、tricotではボーカルギターを務めるアーティスト。自身のアパレルブランドSUSU by Ikkyu Nakajimaではデザイナーを務める。

REIS(れいす)

休日課長(ゲスの極み乙女。)率いる3人組ユニットDADARAYのボーカリスト。DADARAYは今年9月に2ndフルアルバム「ガーラ」を発売し、2022年2月より東名阪ワンマンツアー「東名阪一番街」を開催。

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