テレ東ドラマP・寺原洋平に聞くこれからのメディアコンテンツ

個性的な番組が人気を集め、2020年には「学生が就職したいテレビ局」ランキングで見事1位に輝いたテレビ東京(以下、テレ東)。Spotifyとのコラボレーションから生まれ、2021年7月クールで放送されていたドラマ『お耳に合いましたら。』は、主人公・高村美園(伊藤万理華)が自身のポッドキャスト番組で「チェーン店のご飯=チェンメシ」への愛を語りつくすという親しみやすい内容もさることながら、ドラマとポッドキャスト番組が連動したコンテンツのあり方も注目を集めた。

今回話を聞いたのは、テレ東のプロデューサー・寺原洋平。『お耳に合いましたら。』のほか、サウナブームのきっかけにもなった『サ道 / サ道2021』、「絶滅してしまいそうな絶品メシ」を求めて各地を旅するサラリーマンを描いた『絶メシロード』(2020年)、ひょんなことから伊豆大島で居酒屋を手伝うことになった元裁判官の主人公を片桐はいりが演じる『東京放置食堂』(2021年)など、深夜帯ドラマで話題作を手がける。

かつてコマース事業部で通販事業にも携わっていたという寺原は、「サービスもドラマもつくり方は似ている」と語り、外部パートナー企業と手を組んだドラマづくりを得意とする。ポッドキャストと連動した『お耳に合いましたら。』の舞台裏から、寺原が考える「テレ東らしさ」まで、たっぷりと語ってもらった。

寺原洋平(てらばる ようへい)
2002年テレビ東京入社。デジタル専門の関連会社・テレビ東京ブロードバンドへの出向、編成部などを経て、通販専門の関連会社・テレビ東京ダイレクトに2度目の出向をし、クラブツーリズム株式会社との共同事業『ハーフタイムツアーズ』とを立ち上げる。2018年に、現部署である配信ビジネス局に異動し、深夜ドラマの企画やアイドル事業を担当。

サービスもドラマも、ぼくにとってつくり方はけっこう似ているんです。

―『孤独のグルメ』『きのう何食べた?』『絶メシロード』『お耳に合いましたら。』、そして現在放送中の『東京放置食堂』。テレ東の深夜ドラマといえば、「何かを食べる」ということは外せない感じがあります。

寺原:ほとんどが食に関わるものですよね。でも、ぼくの場合は、あくまでも「食」はひとつの要素にすぎないつもりです。『お耳に合いましたら。』でも、大切なのはチェンメシ自体というよりチェンメシとともにある「思い出」でした。

『東京放置食堂』は、2014年にテレ東で放送していた『逆向き列車』って番組を意識してるんですよ。駅のホームで通勤前の人に声をかけて、「今日一日休みをとって、普段会社に行くのと逆向きの電車に乗りませんか?」とお誘いし、その行程に密着する番組です。

片桐はいりさんが演じる主人公は裁判官を辞めて、ひょんなことから伊豆大島に辿り着いた人。これは、逆向きの電車に乗るだけでは飽き足らない衝動を抱えた人に向けての物語なんです。

『東京放置食堂』トレーラー
あらすじ:曲がったことが大嫌いな主人公・真野日出子は、数多くの被告人を裁き、更生させてきた元裁判官。キャリアを重ねてきた彼女だが、人を裁くことに疲れてしまい、退官を決意。あることをきっかけに向かった大島で、居酒屋を一人で営む寡黙な若い店主・小宮山渚と大島名物の「くさや」と出会い、第二の人生が動き出す

―寺原さんは、現在の部署でドラマをつくるようになる前にも、いろいろなご経験をされてきたそうですね。

寺原:映画部で『木曜洋画劇場』のプロデューサーを務めたあと、編成部では「どんなターゲットに向けてどんな番組をつくるか」という戦略をつくる仕事をしていました。それから通販事業にかかわるコマース事業部に行き、いままで予定があったのに定年によってそれがなくなった世代に向けてツアー商品を紹介する『旅スルおつかれ様~ハーフタイムツアーズ~』(2018年スタート)という番組とサービスを立ち上げたり。

ドラマの部署に異動したのはそのあとです。オールドルーキーとして遅めのスタートを切り、最初にプロデューサーとして担当したのがサウナをテーマにした『サ道』(2019年)でした。

サービスもドラマも、ぼくにとってつくり方はけっこう一緒なんですよね。解決したい課題がまずあって、それに対してどうアプローチするか。『お耳に合いましたら。』は、共同企画のSpotifyさんの「ポッドキャストをもっと広めたい、たくさんの人に活用してほしい」という課題を軸にチームで構成を考えました。

ただそれを、あまりマーケティング的に、市場やトレンドがどうとか考えるのはつまらない。例えばポッドキャストなら、それを「どういう人が聞いていて、どういうエリアで聞かれている」とかから語るのではなくて、「どういう人がどんな気持ちでつかうのか?」という主人公のエモーショナルな面から考えてみたかったんです。

テレビ局の人間が音声だけで番組をつくっているのを見て、うらやましかった。

―『お耳に合いましたら。』は、ドラマとポッドキャスト番組が連動するユニークな番組でしたが、Spotifyとのコラボレーションの話はどのようにはじまったのでしょうか。

『お耳に合いましたら。』トレーラー
あらすじ:漬物会社に勤める主人公・高村美園が、あるきっかけからポッドキャスト番組をはじめ、パーソナリティーとして成長してゆく物語。ポッドキャスト番組では、美園が愛してやまない「チェーン店グルメ=チェンメシ」への愛と、チェンメシにまつわるエピソードを語っている

寺原:2021年4月に、弊社のグループのテレビ東京コミュケーションズが、Spotifyさんと連携して「ウラトウ」という音声コンテンツレーベルをスタートさせたんです。ぼく自身、去年くらいからSpotifyさんのポッドキャストやプレイリストにハマっていたので、うらやましいと思っていました。

―「ウラトウ」では、上出遼平プロデューサーによる『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』が最初に配信されていますね。そういう局内の動きに刺激されたんですね。

寺原:ジェラシーもありましたね。テレビ局の人間が、音声だけで番組をつくるというのも、いままでのアプローチと違って面白いなと思っていました。ドラマ制作に関わるぼくたちも、Spotifyさんみたいな音楽と音声コンテンツのメガプラットフォームと一緒に何かやってみたいと考えて、私のほうから提案したんです。

「ウラトウ」の第1弾番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』は、世界中の「食の現場」を取材する人気テレビ番組の音声コンテンツ版(Spotifyを開く

「テレビはレガシーメディア」なんて揶揄されますけど、長くやってきたからこそ叶った企画。

―ドラマのなかでは、話し下手の主人公・高村美園が、チェンメシへの愛を語るポッドキャスト番組をはじめます。それが毎週Spotifyで実際に公開されるという、ドラマと現実との境目が曖昧になるようなつくりも話題になりましたね。

寺原:「ポッドキャスト番組と連動しています」ということは、ドラマのエンディングでさりげなく言う程度だったんですけど、気づいた人たちが自主的にどんどん拡散してくださって広がっていきました。

高村美園のポッドキャスト番組『お耳に合いましたら。』。第1回『わたしの松屋メモリー』では、松屋の「カレギュウ」(カレーライスの上に牛めしの具が乗ったメニュー)をテーマとし、小さい頃仕事で忙しい母親が買ってきてくれたエピソードとともにその美味しさが独特の描写力で語られた(Spotifyを開く

寺原:チェーン店って最寄り駅の駅前とかにあって、誰にとっても何かしらの思い出が結びついていると思うんです。そういったみんなにとっての共通の記憶のようなエピソードを、日記やブログのようなぬくもりを大切にしつつ、でももう少しだけ世の中にひらかれたポッドキャストのフォーマットを使って語ることで、「ポッドキャストで語ること」を身近に感じてもらえたらと思ったんです。

おかげさまで美園の番組は、ポッドキャストの国内チャートで週間1位だったこともあるんですよ。ライバル番組には『呪術廻戦 じゅじゅとーく』や『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- HPNM Hangout!After Talk Podcast』など巨大ファンダムを築いているコンテンツもあったので、すごいことだなと思います。

―美園の番組だけでなく、『お耳に合いましたら。』のドラマ内ポッドキャスト番組として登場した氷川きよしさんの『氷川きよし kiiのおかえりごはん』も、実際にSpotifyで聞くことができ、いつもチャート上位にランクインしていますよね。

寺原:氷川さんに関しては、Spotifyの担当者さんと、「何か『降臨』みたいなスペシャルな仕掛けがあるといいのでは」というブレストを一緒にしているなかで出てきたアイデアです。テレ東には昔からやっている演歌番組があるので、コネクションもあって見事実現できました。「テレビはレガシーメディア」なんて揶揄されたりしますけど、長くやってきたからこそ叶った企画だなと思います。

ASMRを取り入れた料理番組『氷川きよし kiiのおかえりごはん』。身近な材料でつくれるレシピと美味しくつくるためのコツを氷川が紹介する(Spotifyを開く

寺原:『お耳に合いましたら。』の「高村美園」って、一種のIP(知的財産)ともいえるんじゃないかと思っています。通常、IPというとアニメや漫画のキャラクターによるグッズ展開などを考えがちですが、今回のようにドラマの主人公を軸にして、映像やグッズ以外の別フォーマットでいろいろなコンテンツの制作をしてもいい。Spotifyさんと組んだからこそ、こういうかたちのIPもつくれるんだという可能性が発見できました。

テレビってどこか軽薄で偉そうにしてる感じがあって、ぼくは嫌だなと思ってきたんです。

―『お耳に合いましたら。』で原案・企画・プロデュースに入っている畑中翔太さん(博報堂ケトル)とは、『絶メシロード』や『八月は夜のバッティングセンターで。』(2021年)でもご一緒されたそうですね。おふたりでドラマづくりをするときは、どんなことを大切にしていますか。

寺原:畑中さんはいつも「ドラマは、見ている人たちが少しほっこりするような深夜のサプリメントになればいい」って言っているんですよ。『絶メシロード』も、サラリーマンならではの悲哀を描きつつ、最後は見ている人がふっと救われるようなコンテンツを目指しました。二人で組むときは作品の話題性やテーマの奇抜さより、「視聴者のささやかな問題解決になり得ているのか」を重視してドラマをつくっています。

『絶メシロード』トレーラー
あらすじ:日々の生活のなかでさまざまなストレスを感じていたサラリーマン・須田民生の唯一の楽しみは、「絶滅しそうな絶品メシ=絶メシ」を求めて旅に出ること。期限は金曜の帰宅後から、妻と娘が好きなアイドルグループのライブ遠征から帰ってくる土曜日の夕方まで。中年サラリーマンの週末限定1泊2日の小さな冒険を描く

―たしかに『お耳に合いましたら。』からも、観る人に寄り添ってくれるようなやさしさを感じました。

寺原:『お耳に合いましたら。』は放送時間が木曜日の深夜だったので、「あと一日頑張ろう」と思えるくらいの、働いている方々の背中をささやかに押すようなものがやりたいと思っていました。就職して3年目くらいの時期にも青春ってあると思うんですけど、そのエモさでドラマ全体の世界観を展開させていきたいなと。演出を松本壮史さんにお願いしたのも、松本さんが手がけたミュージックビデオ『青春のスピード』を見て「なんて青春を描くのがうまいんだろう」と思ったからなんですよ。

青春高校3年C組『青春のスピード』

寺原:番組づくりにおける「やさしさ」は、じつはラジオから学んだところも大きいです。TBSラジオをよく聞くのですが、特に『大沢悠里のゆうゆうワイド』(1986年~2016年に放送されていたバラエティー番組)を聞いて、聴取者であるシニア世代の目線に合わせているのがいいなと。テレ東は自分たちを「庶民的」とか言っているけど、大沢さんのラジオを聞いていたらまだまだだなと思いましたね。

テレビってどこか軽薄なところがあるし、偉そうにしている感じもあって、出向も2回経験しているぼくはそれを嫌だなと思ってきたんです。コマースの関連会社にいたときには、「人って嫌いなやつからはものを買わないな」という実感もありましたし。

―コマースだと、いかに物を買わせるかという方向にいきそうなものですが、逆に「やさしさ」を考えるようになったんですね。

寺原:最初は、かっこつけててもモノは売れるんじゃないかと思っていたんですけどね。やっているうちに、だんだん「偉そうにしちゃダメだ」と心底思うようになったんです。

まだ「テレ東らしい」と思われていない部分を、いかに見つけられるかに興味がある。

―冒頭で話していたような深夜のグルメものをはじめ、ここ数年で「テレ東らしさ」みたいなものもできあがってきているように思うのですが、寺原さんご自身はそういう「らしさ」についてどう思われますか?

寺原:ぼくが編成にいた頃には『Youは何しに日本へ?』(2013年スタート)とか、タイトルを見れば一発でどういう番組かわかる、なおかつ芸能人のタレント力に頼らないものがでてきました。でもそれ以降、ほかの局からも、そうした番組がたくさんつくられるようになりました。

―たしかに、テレ東っぽいコンセプト、タイトルの番組が増えて、いまはそれが一般化した感じもありますね。

寺原:ぼくはあんまり「テレ東らしさ」にはこだわってないんです。むしろ、まだ「テレ東らしい」と思われていない部分を、いかに見つけられるかのほうに興味がありますね。

だからこそ、自分がドラマをつくるときは、パートナーさまと組むことで、ライフスタイルを中心としたドラマづくりの新しい視点を得るということに貪欲になっているし、そこを楽しんでいると思います。『お耳に合いましたら。』はSpotifyさんの課題からスタートしましたし、『東京放置食堂』もゲーム会社さまからお声がけいただいて企画を考えたものです。『絶メシロード』も、博報堂ケトルさんが考えた、地方にある食堂や個人店をどう存続できるかという課題解決型のシティープロモーションがベースにあります。

企業や団体によって、それぞれ課題や問題意識が違うので、それにどう取り組むのかを考えるプロセスこそが、ドラマづくりの思考を新しく拡げてくれることにもつながるんですよね。

―外部の人の問題意識を取り入れることが寺原さんらしいドラマのつくり方であり、もしかしたらそれが今後の「テレ東らしさ」になっていくのかもしれないですね。

寺原:テレビ局の人間が内輪の感覚でやっているものは、飽きられてしまうかもしれない。だからこそ、外部と組むことで新しいものを生んでいきたいなと思います。そういったアプローチは、コマース事業で旅のサービス開発も経験してきたぼくにとってのブルーオーシャンだと思っているんです。

プロフィール
寺原洋平 (てらばる ようへい)

2002年テレビ東京入社。デジタル専門の関連会社・テレビ東京ブロードバンドへの出向、編成部などを経て、通販専門の関連会社・テレビ東京ダイレクトに2度目の出向をし、クラブツーリズム株式会社との共同事業『ハーフタイムツアーズ』とを立ち上げる。2018年に、現部署である配信ビジネス局に異動し、深夜ドラマの企画やアイドル事業を担当。



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「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。

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