テレ東ドラマP・寺原洋平に聞くこれからのメディアコンテンツ

テレ東ドラマP・寺原洋平に聞くこれからのメディアコンテンツ

2021/10/15
インタビュー・テキスト
西森路代
撮影:豊島望 編集:𠮷田薫、原里実

「テレビはレガシーメディア」なんて揶揄されますけど、長くやってきたからこそ叶った企画。

―ドラマのなかでは、話し下手の主人公・高村美園が、チェンメシへの愛を語るポッドキャスト番組をはじめます。それが毎週Spotifyで実際に公開されるという、ドラマと現実との境目が曖昧になるようなつくりも話題になりましたね。

寺原:「ポッドキャスト番組と連動しています」ということは、ドラマのエンディングでさりげなく言う程度だったんですけど、気づいた人たちが自主的にどんどん拡散してくださって広がっていきました。

高村美園のポッドキャスト番組『お耳に合いましたら。』。第1回『わたしの松屋メモリー』では、松屋の「カレギュウ」(カレーライスの上に牛めしの具が乗ったメニュー)をテーマとし、小さい頃仕事で忙しい母親が買ってきてくれたエピソードとともにその美味しさが独特の描写力で語られた(Spotifyを開く

寺原:チェーン店って最寄り駅の駅前とかにあって、誰にとっても何かしらの思い出が結びついていると思うんです。そういったみんなにとっての共通の記憶のようなエピソードを、日記やブログのようなぬくもりを大切にしつつ、でももう少しだけ世の中にひらかれたポッドキャストのフォーマットを使って語ることで、「ポッドキャストで語ること」を身近に感じてもらえたらと思ったんです。

おかげさまで美園の番組は、ポッドキャストの国内チャートで週間1位だったこともあるんですよ。ライバル番組には『呪術廻戦 じゅじゅとーく』や『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- HPNM Hangout!After Talk Podcast』など巨大ファンダムを築いているコンテンツもあったので、すごいことだなと思います。

―美園の番組だけでなく、『お耳に合いましたら。』のドラマ内ポッドキャスト番組として登場した氷川きよしさんの『氷川きよし kiiのおかえりごはん』も、実際にSpotifyで聞くことができ、いつもチャート上位にランクインしていますよね。

寺原:氷川さんに関しては、Spotifyの担当者さんと、「何か『降臨』みたいなスペシャルな仕掛けがあるといいのでは」というブレストを一緒にしているなかで出てきたアイデアです。テレ東には昔からやっている演歌番組があるので、コネクションもあって見事実現できました。「テレビはレガシーメディア」なんて揶揄されたりしますけど、長くやってきたからこそ叶った企画だなと思います。

ASMRを取り入れた料理番組『氷川きよし kiiのおかえりごはん』。身近な材料でつくれるレシピと美味しくつくるためのコツを氷川が紹介する(Spotifyを開く

寺原:『お耳に合いましたら。』の「高村美園」って、一種のIP(知的財産)ともいえるんじゃないかと思っています。通常、IPというとアニメや漫画のキャラクターによるグッズ展開などを考えがちですが、今回のようにドラマの主人公を軸にして、映像やグッズ以外の別フォーマットでいろいろなコンテンツの制作をしてもいい。Spotifyさんと組んだからこそ、こういうかたちのIPもつくれるんだという可能性が発見できました。

テレビってどこか軽薄で偉そうにしてる感じがあって、ぼくは嫌だなと思ってきたんです。

―『お耳に合いましたら。』で原案・企画・プロデュースに入っている畑中翔太さん(博報堂ケトル)とは、『絶メシロード』や『八月は夜のバッティングセンターで。』(2021年)でもご一緒されたそうですね。おふたりでドラマづくりをするときは、どんなことを大切にしていますか。

寺原:畑中さんはいつも「ドラマは、見ている人たちが少しほっこりするような深夜のサプリメントになればいい」って言っているんですよ。『絶メシロード』も、サラリーマンならではの悲哀を描きつつ、最後は見ている人がふっと救われるようなコンテンツを目指しました。二人で組むときは作品の話題性やテーマの奇抜さより、「視聴者のささやかな問題解決になり得ているのか」を重視してドラマをつくっています。


『絶メシロード』トレーラー
あらすじ:日々の生活のなかでさまざまなストレスを感じていたサラリーマン・須田民生の唯一の楽しみは、「絶滅しそうな絶品メシ=絶メシ」を求めて旅に出ること。期限は金曜の帰宅後から、妻と娘が好きなアイドルグループのライブ遠征から帰ってくる土曜日の夕方まで。中年サラリーマンの週末限定1泊2日の小さな冒険を描く

―たしかに『お耳に合いましたら。』からも、観る人に寄り添ってくれるようなやさしさを感じました。

寺原:『お耳に合いましたら。』は放送時間が木曜日の深夜だったので、「あと一日頑張ろう」と思えるくらいの、働いている方々の背中をささやかに押すようなものがやりたいと思っていました。就職して3年目くらいの時期にも青春ってあると思うんですけど、そのエモさでドラマ全体の世界観を展開させていきたいなと。演出を松本壮史さんにお願いしたのも、松本さんが手がけたミュージックビデオ『青春のスピード』を見て「なんて青春を描くのがうまいんだろう」と思ったからなんですよ。


青春高校3年C組『青春のスピード』

寺原:番組づくりにおける「やさしさ」は、じつはラジオから学んだところも大きいです。TBSラジオをよく聞くのですが、特に『大沢悠里のゆうゆうワイド』(1986年~2016年に放送されていたバラエティー番組)を聞いて、聴取者であるシニア世代の目線に合わせているのがいいなと。テレ東は自分たちを「庶民的」とか言っているけど、大沢さんのラジオを聞いていたらまだまだだなと思いましたね。

テレビってどこか軽薄なところがあるし、偉そうにしている感じもあって、出向も2回経験しているぼくはそれを嫌だなと思ってきたんです。コマースの関連会社にいたときには、「人って嫌いなやつからはものを買わないな」という実感もありましたし。

―コマースだと、いかに物を買わせるかという方向にいきそうなものですが、逆に「やさしさ」を考えるようになったんですね。

寺原:最初は、かっこつけててもモノは売れるんじゃないかと思っていたんですけどね。やっているうちに、だんだん「偉そうにしちゃダメだ」と心底思うようになったんです。

寺原洋平

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プロフィール

寺原洋平(てらばる ようへい)

2002年テレビ東京入社。デジタル専門の関連会社・テレビ東京ブロードバンドへの出向、編成部などを経て、通販専門の関連会社・テレビ東京ダイレクトに2度目の出向をし、クラブツーリズム株式会社との共同事業『ハーフタイムツアーズ』とを立ち上げる。2018年に、現部署である配信ビジネス局に異動し、深夜ドラマの企画やアイドル事業を担当。

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