佐藤千亜妃×幾田りら、声にならない声に寄り添うために

佐藤千亜妃×幾田りら、声にならない声に寄り添うために

2021/09/27
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:垂水佳菜 編集:金子厚武、CINRA.NET編集部

テイラー・スウィフト、ヨンシー、アリシア・キーズ……佐藤と幾田が影響を受けた声

―お二人が影響を受けた「声」についてもおうかがいしたいです。

幾田:私はテイラー・スウィフトさんが昔からとっても大好きで。歌詞は結構赤裸々というか、いままでの恋愛をすべてさらけ出したような感じですけど、それをああやって大衆に向けて歌えることに、力強さをすごく感じる。その力強さが声にも乗ってるなと思います。

プレイリスト『This Is Taylor Swift』を聴く(Spotifyを開く

幾田:それまではわりとおしとやかに歌うような女性アーティストの曲をよく聴いていたんですけど、テイラー・スウィフトさんの曲に衝撃を受けて、私の見てる世界はまだまだ小さかったんだなと思いました。

佐藤:私はバンド活動をはじめた当時、ロックはがなって歌わないといけないイメージがあって。でも自分の声はそういう歌い方で生きる声じゃないからと、壁にぶつかったことがありました。そのときにSigur Rósのヨンシーに出会ったのですが、すごく衝撃的で。まるで子守唄みたいで、「伸びやかな声で歌うことがバンドのなかでも成立するんだ」と自由を感じさせてくれて、肩の荷が降りましたね。

プレイリスト『This Is Sigur Rós』を聴く(Spotifyを開く

―佐藤さんは、もともとR&Bシンガーがお好きだったんですよね? 声や歌い方にR&Bの要素を含んでいることがいまの時代にマッチして、下の世代からの支持につながっている部分もあるような気がします。

佐藤:兄の影響で小中学生のころにブラックミュージックをよく聴いていて、男性だとダニー・ハサウェイ、女性だとアリシア・キーズが大好きでした。女性だけど低音が響くかっこいいアリシア・キーズの声にハマって、“If I Ain’t Got You”を中学生のころはずっと歌っていましたね。

アリシア・キーズ“If I Ain’t Got You”を聴く(Spotifyを開く

佐藤:低い声をかっこよくコントロールして歌える女性への憧れはそのころからあって。最近も声が低いアーティストが出てきている印象で、yamaさんとかもいいなと思います。「低い声をかっこよく出す」というのは、最近あらためて大事にしている部分ですね。

yama『the meaning of life』を聴く(Spotifyを開く

幾田:高音は技術を鍛えることである程度出る部分もあると思うんですけど、低音はもともと持っているものも重要なので、難しいところはありますよね。

佐藤:下の響きのほうが声帯のかたちの癖が出やすいんだろうね。低くていい声が出せる人は喉が太いという話も聞いて、野生っぽくてかっこいいなと思ったりもしました(笑)。

佐藤が「声」を作品のテーマにした理由「声にならない声に寄り添う」

―新作で佐藤さんが「声」をテーマにした理由を教えてください。

佐藤:ソロの作品をつくるとなったときに、まずはバンドとの違いを意識しました。バンドでは「歌」だけに注力するのではなく、アンサンブルを俯瞰で見て、そのサウンドのなかにどう歌をはめ込むのかという考え方だったんです。

でも一人だと自分の歌をやり切らないと表現として成立しないんじゃないかと思って。じゃあ自分が一番裸で、ストロングな表現ができるのはなにかって考えると、やっぱり「声」だなと。ソロ2作目にして、やっとそのテーマをかたちにできました。

佐藤千亜妃『KOE』を聴く(Spotifyを開く

佐藤:それに加えて、コロナ禍を通じて自問自答の時間が長くなって。「なんで音楽をやってるんだろう?」「なんで歌ってるんだろう?」、もっといえば「自分はそもそも何者なんだろう?」とか、いろんなことをグルグル考えてるなかで、「声にならない声」が誰にでもあると思ったんですよね。

普段人にはいえない、心のなかにある想いを吐き出せるのが音楽だし、自分の想いをいえない人の心に寄り添えるのが音楽のいいところだと思ったので、そこも掘り下げたくて。なので、シンプルに「自分の声と向き合う」というところから「声にならない声に寄り添う作品」にテーマがより深まって、心のコアな部分に触れる作品になったんじゃないかと思っています。

佐藤千亜妃

―「声にならない声に寄り添う作品」というテーマは現代がSNSの時代であることとも関連づけられるテーマだと感じました。幾田さんは「SNS世代」と呼ばれることもあるかと思いますが、表現をするにあたって、「声にならない声」とどのように向き合っているといえますか?

幾田:いまはなんでも隠せてしまうというか、発信したいことだけ発信できてしまいますよね。一方で、自分の内側にある、見せたくない弱い部分って、誰しも何かしら抱えていると思うんです。表現をする人間としては、そこを自分自身がさらけ出すことによって、たとえば、心の奥に傷を負ってる人でも、自分の気持ちを乗せられるかなと思ったりして。

私ももともと自分の素直な気持ちにフィルターをかけてしまいがちな性格で、歌詞もフィルターをかけて言葉にしてしまうことが多かったんですけど、この1年くらいは……とっても難しいことではあるんですけど、自分の内側をさらけ出して、ありのままを歌に込めることで、みんなが人に見せられない内側の部分に触れることができたらいいなと思っています。

幾田りら

―今年発表した“Answer”はまさにその想いが表れた曲でしたよね。

幾田:そうですね。いままで書いてこなかったような、自分の内側の部分というか、自分のちょっとした闇の部分を初めて書くことができた曲でした。

幾田りら“Answer”を聴く(Spotifyを開く

佐藤:私は逆のタイプで、音楽のなかではもともと全部さらけ出しまくっているタイプですね。普段は人の話を聞くほうが好きで、自分の話をするのはあんまり好きじゃないんですけど、音楽になった途端に……変態なのかな?(笑)

―あははははは。

幾田りら

佐藤:音楽だと、赤裸々な歌詞でも、聴いてる人は誰のことを歌ってるのかわからないから、ちょっと曖昧になるというか、ごまかせるっていうのもあると思う。なんにしろ、私は歌や音楽のほうが、普段誰かと話してるときの自分よりも自分なんです。

幾田:私ももっと赤裸々に書けるようになりたくて、そこはちょっとコンプレックスというか。

佐藤:それこそ世代もあるかもしれないですね。自分たちの若いころはSNSがそんなに普及してなくて、「Twitterで叩かれる」みたいなこともなくて、ある種暴君になってもなにもいわれないし、むしろそれがかっこいいみたいな風潮もあったりして。でもいまはちょっとずれてたりダサかったりするとすぐ気づかれて、突っ込まれるじゃないですか? さらにはそれが拡散までされちゃったり。

そうなると、自分を守ってしまうのは理解できるというか。自分たちが高校生のころも「暗いところは見せたくない」みたいなのはあったけど、SNS世代はよりそうなっていて、SNSに書くことと自分の感情に格差が生まれているんだろうなと感じますね。

Page 2
前へ 次へ

リリース情報

佐藤千亜妃
『KOE』

2021年9月15日(水)発売

幾田りら
『ロマンスの約束』

2021年8月14日(水)配信

プロフィール

佐藤千亜妃(さとう ちあき)

1988年9月20日、岩手県出身。2007年にきのこ帝国を結成し、Vo / Gt / 作詞作曲を担当。2015年に『桜が咲く前に』でメジャーデビュー。2019年にバンドの活動休止を発表。現在はソロとして活動中。2019年にファーストソロアルバム『PLANET』をリリース。2021年4月スタートの連続ドラマ『レンアイ漫画家』(フジテレビ系 木曜22:00~)の主題歌に新曲“カタワレ”が大抜擢された。11月には最新アルバム『KOE』のリリースツアー「かたちないもの」を全国5か所で開催予定。

幾田りら(いくた りら)

2000年9月25日生まれ、東京都出身。シンガーソングライターとして活動し、2019年11月16日(土)に発売した2ndミニアルバム『Jukebox』の収録曲「ロマンスの約束」はYouTube400万回再生を突破。2020年8月にはGoogle Pixel 4aの新CMでカーペンターズ「(THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU」を歌唱するなどその歌声に注目が集まっている。2021年3月に配信リリースした「Answer」は、東京海上日動あんしん生命「あんしん就業不能保障保険」CMソングに起用。7月16日に公開となった細田守監督映画『竜とそばかすの姫』では、主人公・すずの親友役で初の声優を務めるなど、多方面で精力的に活動を続けている。

感想をお聞かせください

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Category カテゴリー

What's "Kompass" ? コンパスとは

「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。